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PwCコンサルティング合同会社 代表執行役CEO
大竹 伸明
株式会社JERA 代表取締役社長
小野田 聡 氏
SDGsの道しるべ
パートナーシップで切り拓くサステナブルな未来
SDGs達成に向けた取り組みは、人類全体が進むべき道を探りながら歩んでいく長い旅路です。持続可能な成長を実現するためには、多くの企業や組織、個人が連携しながら変革を起こしていく必要があります。対談シリーズ「SDGsの道しるべ」では、PwC Japanのプロフェッショナルと各界の有識者やパイオニアが、SDGs17の目標それぞれの現状と課題を語り合い、ともに目指すサステナブルな未来への道のりを探っていきます。
SDGsのゴール7と13を考える本対談では、火力発電事業を主力事業とする株式会社JERA代表取締役社長の小野田聡氏とPwCコンサルティング代表執行役CEOの大竹伸明が、世界的に社会からの要請が強まっている脱炭素化をテーマに議論しました。後編では、サプライチェーンを含むエコシステム全体の変革の必要性や、再生可能エネルギーへのシフトだけではない脱炭素化への多様な取り組みについて語ります。
大竹:
前編では、クリーンな燃料としてのアンモニアの可能性についてお話しいただきましたが、その製造過程も含めて、サプライチェーン全体でのゼロエミッションを目指していく必要がありますね。
小野田氏:
その通りです。アンモニアは燃焼時にはCO2を出しませんが、現在主流の天然ガスを原料とする製造方法ではCO2が発生しますので、製造過程を含めたCO2削減を進めていかなければなりません。例えば、再生可能エネルギーで水を分解して水素を製造し、これと窒素を反応させてつくるグリーンアンモニア、化石燃料を原料に用いつつも、排出されたCO2を貯留・利用することでオフセットしたブルーアンモニアといった製造方法があります。
大竹:
製造プロセスでのゼロエミッションにも技術的な目途が付きつつあるということですね。エネルギー業界に限らず、サプライチェーン全体での環境負荷の見える化に取り組む企業は増えています。サプライチェーンマネジメントはESG投資の観点でも注目されており、投資案件の評価だけでなく投資の優先順位を決める際にもESG指標を重視しようという動きがあるなか、ますます重要になってきますね。
一方で、本格的に発電で利用していくためには、十分な量のアンモニアを確保することも課題となるのではないでしょうか。
小野田氏:
はい。現在アンモニアは主に肥料用途や工業用途などで使われており、日本国内の年間消費量は約100万トンで、うち約20万トンを輸入していますが、発電用途では桁違いに大量のアンモニアが必要になってきます。例えば、石炭火力でアンモニアを20%混焼するには、1基(100万キロワット)当たり年間約50万トンのアンモニアが必要です。2基で混焼すれば、現在の日本の年間消費量と同じ量になります。したがって、火力発電での必要量を安定的に確保するには、発電という全く新しい用途のためのアンモニア市場を形成し、新たなサプライチェーンを構築しなければなりません。
また、市場の形成という意味では、需要の多様化も必要でしょう。アンモニアは分解すると水素になるので、有望なエネルギー源としての水素を安全に扱いやすく輸送・保管するキャリアとしても活用できます。こうしたアンモニアの大きな経済圏づくりは当社の力だけで進められるものではありません。かつて仲間づくりから始めた液化天然ガス(LNG)の経験・ノウハウも生かしながら、製造から輸送、発電に至るまでCO2フリーのアンモニアのサプライチェーンを構築していきたいと考えています。
大竹:
技術開発だけでなく、供給側・需要側ともに仲間をつくっていくことが求められるのですね。エネルギーをはじめ、現在私たちが直面している社会課題は非常に複雑で、1企業・1業界で解決することが大変難しくなっています。PwCでは、このように多様なステークホルダーとともに企業や業界の取り組みを束ねて難しい社会課題に取り組むコレクティブ・インパクト・アプローチが、SDGsの達成には有効だと考えています。アンモニアのサプライチェーンの場合でも、エネルギー業界だけでなく、農業など他産業も含めた既存のステークホルダーと協調し、さらには新たに水素を活用しようとする業界とも連携することで、大きな進展が期待できますね。
大竹:
再生可能エネルギーについてはどのようなアプローチを取っていますか。
小野田氏:
欧州で再生可能エネルギーの取り組みが進んでいることもあり、脱炭素=再生可能エネルギーと考えられることが多いですが、そのまま日本に導入できるとは思っていません。ですが、洋上風力には期待しており、グローバルな大規模案件へ投資をしています。英国と台湾、それぞれ開発段階の異なるプロジェクトに同時並行で参画することで、短期間のうちに効率的にノウハウを習得しているところです。特に台湾での経験・ノウハウは地理的・気候的条件が日本と近いので、国内での開発に生かしやすいというメリットがあります。
ただ、風力発電は、天候や季節といった環境要因によって発電量が安定しにくいという課題があります。これを補完するには火力発電が必要ですが、火力発電がCO2を出しては意味がありませんから、火力のゼロエミッション化を同時に進めることになります。再生可能エネルギーとゼロエミッション火力の相互補完、これが脱炭素を経済的に実現する現実解だと考えています。
大竹:
「JERAゼロエミッション2050」のロードマップでは、再生可能エネルギーとゼロエミッション火力の組み合わせで「2030年にCO2排出源単位を20%減」「2050年にCO2排出ゼロ」という青写真を描いています。こうした長期戦略では、現在の技術と将来的な技術の進化との間に空白期間が生じますが、技術的な空白期間の適切な設定こそが、バックキャスティングで戦略を立案するうえでの重要なポイントです。将来を描く期間が短すぎると、現在の技術の延長線上にある手堅いプランになりがちで、大きなイノベーションが生まれません。長期戦略において技術的なジャンプが必要だと考えているのはどの分野でしょうか。
小野田氏:
技術的なジャンプとしてまっさきに浮かぶのは、バッテリーですね。再生可能エネルギーとバッテリーを組み合わせた供給システムを構築しようとしても、現在の技術やボリュームを考えると実現は難しく、経済性の面からも全く見合いません。高性能で採算の取れるバッテリーが開発され、系統システムを適切にコントロールできれば、もしくは従来とは異なる新たな系統システムを構築できれば、再生可能エネルギーの可能性はさらに広がるでしょう。
技術的な空白期間の適切な設定こそが、バックキャスティングで戦略を立案するうえでの重要なポイントです。
小野田氏:
欧州の取り組みが先行していることもあり、脱炭素を進める手段は再生可能エネルギーだけと思われがちです。欧州は、大陸棚が広く強い偏西風が吹くなど、洋上風力発電を設置する条件に恵まれているうえ、送電系統も国を超えてつながっており、電力の流通市場も発達しています。経済成長も安定し、電力需要が増加し続ける状況でもありませんので、再生可能エネルギーへシフトしていくというのは合理的です。一方、東南アジアの場合、大陸棚や風の条件が異なるほか、電力系統もクローズドであり、再生可能エネルギーに適しているとはいいがたい。加えて、高い経済成長が続き、電力需要の増加も予想されますから、その旺盛な電力需要を再生可能エネルギーだけで満たすことは難しいでしょう。日本と同様に再生可能エネルギーとゼロエミッション火力を組み合わせれば、経済成長と脱炭素への取り組みを両立することは可能なはずです。
大竹:
世界各国が脱炭素に取り組む必要があることは明白ですが、それぞれの国・地域の地理的特性や経済情勢が異なっているからこそ、難しい課題になっていますね。脱炭素への対応として唯一の正解があるわけではなく、それぞれの条件のなかで最適な取り組みを探っていくことで、世界全体がゼロエミッションへと近づいていけるのですね。
小野田氏:
その通りです。加えて、海外で事業を行う際には、「事業を通じて、その国の発展に貢献する」という強い思いがなければ、一緒に取り組むことはできません。日本人だけで現地に発電設備を建設して終わりではなく、技術指導や人材育成を含め、その国の人たちと一緒に持続可能な仕組みをつくり上げていくのです。
大竹:
ゼロエミッション火力発電実現のための世界的な仲間づくりと、それぞれの国・地域における最適な脱炭素の取り組みの事業化の双方において、多様なステークホルダーとの協力や協調が重要なのですね。その根底には、難しい課題に一緒に取り組み続ける原動力となる「信頼」が欠かせないのではないでしょうか。
プロフェッショナルサービスファームとしての私たちの役割は、そうした信頼の構築を支援し、コレクティブ・インパクトの創出を促進していくことです。ゼロエミッションという大きな目標に向けて前進するJERAのお話をうかがい、そうしたアプローチの意義を実感できたように思います。本日は、ありがとうございました。
火力発電を主業とする企業が具体的な施策とともにゼロエミッションを宣言された覚悟が伝わってきました。まさにこの1年で、世界そして特に日本の脱炭素化の取り組みが加速していることを実感しています。
一方、脱炭素化の取り組みは何か1つの対策を導入すれば解決するという簡単なものではなく、すぐに大きな成果につながらないことも多いと思います。そのような現実を前に、技術的なジャンプが必要な分野への投資をしながら、今すぐに対策できることを素早く実行していくアプローチは、多くの日本企業にとっても参考になるのではないかと思います。
自社の社会的責任を正面から受け止め、世界に仲間を募りながら、複雑で解決の難しい課題に取り組んでいく。困難な環境だからこそ、決意を持ってひたむきに取り組むことを改めて肝に銘じる機会となりました。(大竹)
愛知県出身。1980年慶應義塾大学大学院修了、中部電力入社。2013年同社取締役専務執行役員発電本部長、2018年4月から副社長執行役員、発電カンパニー社長、同年6月に同社代表取締役。2019年4月1日よりJERA代表取締役社長。
外資コンサルティング会社および外資IT系コンサルティング会社を経て、現職。
自動車メーカーおよび自動車部品メーカーを中心とした製造業や、総合商社を得意産業とし、戦略策定支援から業務変革(バックオフィス、フロントオフィス系業務)、IT実装(ERP導入経験を多数、クラウド導入)、PMO案件まで、さまざまなプロジェクトに従事。会計管理領域、販売管理領域、設計開発領域に強みを持ち、海外案件、クロスボーダー案件など、国際色の強いプロジェクトの経験を多く有する。
※ 法人名、役職、本文の内容などは掲載当時のものです。