毎年「変化の年」が続いていますが、監査業界でも例外ではありません。1年前の常識は、翌年には非常識となっていることも多くあります。
特に、テクノロジーの活用においては、生成AIをはじめとして、新しいテクノロジーが次々と生まれているだけでなく、従来から存在していたテクノロジーについても、データ基盤の整備などにより、これまでよりも適用範囲が広く、深くなりつつあります。
社会に適合する(Relevance)方法で監査を提供することも高品質の一環であると考えると、これらのテクノロジーの活用の動きを傍観したり、あるいは利用を禁じているのでは、社会の期待値から大きく外れることになります。
PwC Japan有限責任監査法人(以下、PwC Japan監査法人)では、このような観点から、テクノロジーを単に道具ではなく、監査とそれに関わるプロセスのデジタル化、自動化で活用するためにデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めてきました。パートナー、職員のデジタルアップスキリングはすでに5年間取り組み、大規模データを加工するツールなどは、すでに一般的に使われるようになっており、数年前に比べて、テクノロジーの活用による効率化は大きく進展しました。さらに、AIを活用した不正リスク分析なども利用されており、テクノロジー、そしてその基盤であるデータに基づいた品質管理、業務運営は当たり前になりつつあります。
一方で冒頭のとおり、テクノロジーの進化は止まりません。さらに、監査対象の変化も起こり始めています。従来から監査法人における監査の対象は、財務情報や内部統制であり、それ以外のオペレーション領域には直接かかわりませんでした。ところが、非財務情報、特にサステナビリティ関連情報に対する投資家、社会の関心の高まりに合わせて、それらの信頼性についても疑念が生じた結果として、非財務情報についても第三者保証を行うことが世界各国で議論されています。
以上から、監査法人は、従来のやり方で従来の範囲での監査を行っていたのでは、社会のニーズに応えることができず、デジタルを含む新しいやり方で、財務を超えたより広い対象に対してサービス提供を拡げていくことが求められているといえます。
PwC Japan監査法人では、そのような将来を見据えて、Assurance Vision 2030を策定し、信頼の空白域を、統合されたアシュアランスで埋めていく未来を掲げました。テクノロジーは、それを実現するために欠かせない要素です。本当の意味で、テクノロジーを使いこなし、社会の変革をリードする人財を輩出し、社会に貢献する法人を作っていきます。
PwC Japan有限責任監査法人
代表執行役
久保田 正崇
被監査会社の将来予測に資する非財務情報を財務情報と一体的に開示する流れは、被監査会社、情報利用者、監査人の対話を促進し、コミュニケーションの拡充をもたらすと考えます。
建設的な対話を実現し、経済発展と社会課題の解決を両立させていくためには、経済活動や意思決定の基礎となるデータおよび情報が信頼し得るものである必要があります。情報利用者が被監査会社に説明責任を求める領域は拡大していくと考えます。その情報の信頼性を確保するために私たち監査法人が存在しています。
私たちは、長年にわたり財務諸表監査・内部統制監査を通して情報の信頼性を確保するために必要な知識と技術を磨いてきました。これらはテクノロジーを活用して監査の高度化と効率化を両立させ、人は判断業務と被監査会社とのコミュニケーションに注力できるようにします。
会計監査を起点としていたアシュアランス業務の領域は、財務情報から非財務情報へ拡大を続けています。これまで「Tomorrow」のことと考えていた非財務情報の開示やデータの在り方が今日に見られるようになり、監査で求められる知識と技術の領域が大きく広がっていきます。そのため、私たちはまだ制度上の監査領域にない情報に対してもブローダー・アシュアランス・サービス(BAS)としてサービスを提供し、企業が社会からの信頼を得るための支援へと発展させていきます。
そして、アシュアランス業務で培った「多様な専門性」「実務家としての知見」「客観性」の強みを活かし、信頼基盤となるさまざまなテーマに関する基準やガイダンスに積極的に参画し、不確実性の高い時代においても安心できる社会の実現に貢献していきます。
従来の監査は、被監査会社の担当者から提供されるデータや証憑書類をもとに、四半期や年次で行われてきました。これからの監査は、被監査会社および監査法人のデジタル化により大きく変化すると考えています。
被監査会社のデジタル化は、自動で連携されたデータを標準的な形式で監査データプラットフォームに格納し、蓄積されたデータをAIなどのテクノロジーがリアルタイムに分析することを可能にします。AIの活用が進むと、全ての取引や項目に対して監査を実施する精度を採用できるだけでなく、人間特有のバイアスを排除して異常か否かを検証できるようになります。
こうしたリアルタイム監査の実現には、現在PwCが開発を進めている次世代監査プラットフォームの存在が前提となります。次世代監査プラットフォームは、PwCグローバルネットワークが世界共通で利用するさまざまな監査ツールを統合し、データの自動連携から監査調書の作成までを一貫して行います。次世代監査プラットフォームは被監査会社の会計システムから取得したデータを標準化して取り込むことで、プラットフォーム上にあるさまざまな監査ツールとシームレスに連携し、データを最大限活用しながらインサイトを引き出します。
リアルタイム監査が実現されることにより、監査人は、異常と判断されたデータに対して迅速に詳細な検討を行い、適時に被監査会社との深いコミュニケーションを取れるようになります。そして、任意のタイミングで監査が行われるようになり、投資家の判断に有用な情報の開示が促進され、投資家との対話が活性化されることで重要な社会課題の解決に貢献していくことでしょう。
リアルタイム監査の実現に向けた一歩として、私たちは監査業務変革の取り組みを進めています。監査業務変革の取り組みが有機的一体として機能するようになったとき、リアルタイム監査が実現され、監査はより高品質化かつ効率化されると考えています。
デジタル技術が急速に進化する時代において、テクノロジーへの投資を成功させるには、企業の軸となるVisionが重要であり、当法人では「人」がリードし「テクノロジー」が支える未来を目指しています。
テクノロジーを用いた監査の高度化はあくまで手段であり、目的ではありません。被監査会社はもちろんのこと、監査人、資本市場参加者など、全ての監査に関連するステークホルダーの監査体験(Audit Experience)を持続可能な方法で最高なものにすることが目的であると考えます。そのために、監査現場の声・課題、一人一人のウェルビーイングを意識した、人を中心とした変革を推進しています。
下図「監査テクノロジーマップ」のように、監査手続を5つに分類し、Audit Experienceを変革するテクノロジーを業務にマッピングさせ、監査の適時性、品質や効果、効率性を向上させるツールを多く導入しています。