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「デジタルやテクノロジー分野でのジェンダーバランスが経済や社会に及ぼす影響の考察」をテーマに、その課題を共有し解決策を考えるセミナー「DXとダイバーシティで変える日本の未来 Design our future ―イノベーションを支えるジェンダー多様性とは?―」。
後編ではダイバーシティに取り組む企業の担当者をはじめ、女性のキャリアデザインを研究する専門家らによるパネルディスカッションの内容や、参加者を交えたリフレクショングループトークでどのような議論が交わされたのかを紹介します。
パネルディスカッションのテーマに掲げられたのは「STEAM※1若手女性企業人と考えるテクノロジー業界のダイバーシティ」です。STEAM若手女性企業人として登壇したのは、元Slackのプロダクトデザイナーで、現在はSupernormalというAIスタートアップで活躍する伊佐山美佳氏と、PwCコンサルティング合同会社のエクスペリエンスコンサルティングでマネージャーを務める坪井りん。またダイバーシティ推進企業として、アフラック生命保険株式会社(以下、アフラック)からダイバーシティ推進部の若濱靖樹氏が登壇しました。
冒頭、モデレータを務めた株式会社羽生プロ代表取締役社長で日経xwoman客員研究員の羽生祥子氏は、日本における男女の賃金格差(※生涯賃金から教育投資額を引いた額)が、世界と比較して圧倒的に大きいことを紹介し、「日本の女性は大学や大学院まで出ているのに、その知識を活かせていません。組織内で期待をかけられず、昇進の機会を与えられないから賃金が低いのです。まずはこの現状を社会全体で認識することが第一歩です」と問題提起しました。
もちろん、こうした状況に危機感を持っている企業はたくさんあります。アフラックの若濱氏は、同社がダイバーシティ推進を経営目標に組み込むとともに、日米の経営陣からダイバーシティ推進の意義を伝える機会として「Aflac Global Diversity Conference」を定期的に開催していることを紹介。アフラックの社員は男女比率が同じであり、性別が昇進や昇給の足かせになることはないと説明しました。
アフラック若濱氏(左)
こうした環境を実現するために重要なのは「経営トップのコミットメント」だと若濱氏は力説します。アフラックにおいてダイバーシティ推進が経営に与えるインパクトは多岐にわたり、中でもデジタルトランスフォーメーション(DX)やアジャイル型の働き方といった、企業の成長を担う重要な部分に影響していると若濱氏は指摘します。
テクノロジーや企業を取り巻く環境が急激に変化している中、企業が持続的に成長するには柔軟かつ迅速にチームを構成し、従業員が主体性を持って働ける環境が不可欠です。
「ダイバーシティが加速することで、多様な意見が生まれます。そうした意見はDXを推進するヒントになります。多様な視点から既存の働き方を抜本的に見直すことで、業務のトランスフォーメーションが実現できるのです」(若濱氏)。
例えば新型コロナウイルス感染症の拡大防止という観点から、リモートワークは急速に普及しました。それに伴い、これまで“何となく当たり前”の業務フローだった紙とハンコによる承認プロセスはデジタル化し、作業効率は一気に向上しました。羽生氏によると、こうした変革の旗振り役となったのは、柔軟な働き方を必要としていた女性社員だったといいます。多様な価値観と経験を持った従業員は、お客様から頂くさまざまなニーズを自分ごととして捉え、ニーズの本質を見極めて的確に対応できます。これは企業にとっても大きなメリットなのです。
一方、伊佐山氏と坪井はSTEAM若手女性企業人の立場から、自身の経験を基にテクノロジー業界のダイバーシティについて語りました。
坪井
伊佐山氏
小学生の頃からシリコンバレーで生活していた伊佐山氏は「文系よりも理系を極めるのが自然な環境でした」と振り返ります。高校時代、友人は男女問わず理系――特にコンピュータサイエンス――に興味を持ち、理系に進むのがマジョリティだったこともあり「女性は理系が苦手だろう」という意見に触れたことは一度もなかったと言います。
19歳で進学したスタンフォード大学でも男女のバランスは同等であり、性差による差別は経験したことはなかったそうです。ただし、クラスによっては圧倒的に女性の数が少ない場合もあったといいます。「こうしたケースでは、『自分はマイノリティである』ということにテンションが上がった反面、女性としてのアイデンティティも意識しました。そうしたクラスで女性が少ないことに気付くと、違和感というよりも孤独を感じて不安になりました。その時、誰か1人でも“自分の味方”がいれば不安は解消し、頑張れると思いました」(伊佐山氏)。
さらに伊佐山氏は、「テクノロジー業界で活躍している女性が身近にいることで、後に続く女学生たちも『自分も同じように活躍できる』とチャレンジするマインドを持てるようになるのではないでしょうか」と語りました。
ではマイノリティが組織で活躍するには、どのようなアプローチが有効なのでしょうか。圧倒的に白人男性が多い外資系3CAD(Computer Aided Design)のソフトウェア会社で製造業向け製品のマネージャーを担当していた坪井は、「まずは『自分は役立つ』と組織に理解してもらうことでした」と語ります。
大学の専攻は設計やコンピュータサイエンスと全く畑違いだった坪井。その会社には翻訳者・通訳担当として入社しました。そこでは「知らないことを一から学べる」と積極的に仕事に打ち込み、次第に信頼を得られるようになったといいます。同時に“白人男性だらけ”という画一的な組織が抱える課題も見えてきました。
「同じ属性で違和感のない会話ばかりだと、新たな発想は生まれません。これまでの“当たり前”に棹さすことを恐れていては、イノベーションは起こらないのです」(坪井)。
その一例がBtoBアプリケーションのUX(User eXperience)です。BtoBアプリは搭載機能が最優先で、ユーザビリティやUI(User Interface)は二の次でした。しかし、同業界でも多様性が進んだことで「企業向けアプリにもUXは重要だ」と認識が改まり、使い勝手を重視したアプリの開発が進み、ユーザーの裾野が広がったといいます。
坪井は「これまで同じ発想・同じ視点で開発されていた製品に新たな視点が加わると、イノベーションが起こりやすくなります。そうした意味においても、多様性は重要なのです」と力説しました。
続くグループトークでは、会場での参加者とオンラインでの参加者が4つのグループに分かれ、登壇者とともに自身が職場や社会で抱えている課題やその解決策について議論しました。
ゴールドマン教授のグループでは、女性がキャリアアップするうえで直面する「M字カーブ※2」問題が語られました。
妊娠・出産で離職した女性は、子育てが一段落した段階で再就職しようとしても、希望の職種に戻ることが困難であるという課題があります。これに対しゴールドマン教授は、「まずは探究心を持ち、自分が何に関心があるのかを整理することです。そして1人で悩むのではなく、共感してもらえるような仲間作りをしていくこと。職場で抜本的な活動を起こすためには、価値観を共有できる仲間の存在はとても大切です」とアドバイスしました。
とはいえ、業界全体に女性の比率が少なく、共感してもらえる人がいないケースも少なくありません。若濱氏と羽生氏のグループでは、ダイバーシティが進んでいない企業が、その環境を改善する施策について議論が交わされました。
羽生氏は「現在は女性比率の少ない企業は、男性にとっても働きづらい環境です」と指摘します。特に重厚長大産業やゼネコン企業などは、その企業でキャリアを積んだ女性管理職が少ないのが現状です。
そうした企業がダイバーシティを実現するには、新卒採用で女性の比率を上げたり、「先輩の背中を見て仕事を覚える」という教育方法からeラーニングに切り替えたりといった施策も有用だといいます。
もう1つ“やっかい”な流れもあります。それはダイバーシティを推進しようとすると「女性優遇だ、逆差別だ」と言われることです。実は当事者である女性から「女性社員限定の研修やプロジェクトは必要ない」という声が挙がることも少なくありません。
そうした主張に対しては「そもそも男性は高い下駄を履いている」ことから説明し、「ダイバーシティ推進は女性優遇ではなく、男性とスタートラインを揃えるもの」であることを理解してもらう必要があります。羽生氏は「女性の参政権が得られたのは1945年で、78年しか経っていません。日本の男女格差は世界最低クラスであることを、データで示しながら理詰めで理解してもらうことも一考です」との見解を示しました。
では、こうした施策を会社の方針として実行するには何が必要なのでしょうか。参加者から「取締役が全員男性の環境で、了承を取り付けるにはどうすればよいか」との質問が上がったグループがありました。さまざまな課題を1つずつ潰し、“土台”を創るという地道な活動から始め、周囲も巻き込みながら改革を進めていくことが現実解であり、変革まで諦めないことが重要ではないかという意見が出ました。
伊佐山氏と坪井のグループでは外国にルーツを持つ参加者から、「日本社会で働く時に感じる難しさ」について質問が上がりました。“あ・うん”の呼吸を良しとする日本社会で、人との“差異”をどのように強みとすればよいかという課題です。
これに対し伊佐山氏は「自身が人と違う経験を持っていることをアピールポイントとし、具体的なアイデアを示してアプローチすることが有用です」とアドバイスしました。坪井からも「社内政治的なことに労力を割かないで働く環境を選びつつ、仕事の中で結果を出していくことが大切」との意見が上がりました。
今回のプログラムを通じて繰り返し訴求されたのは「行動する大切さ」です。ゴールドマン教授は「米国でも“敵”はいます。『リーガルアタック』という言葉が示すように、女性の社会進出や平等な機会を妨げるために法的手段を利用し、女性の権利やチャンスを制限しようとする動きはあります」と指摘します。
日本の社会において女性は、一歩下がって男性に従うことが美徳とされてきました。しかし、世界の女性たちに目を向けると、男性中心社会に従属するのではなく、声を挙げることで自分たちが持つべき権利を勝ち取っています。
WEFのジェンダー平等で13年連続第1位のアイスランドも、現在のような男女平等社会を実現するまでには女性の粘り強い“闘争”の歴史がありました。同国では1975年、9割の女性たちが男女平等を求めてストライキを敢行しています。これを転機に2018年には男女の同一労働・同一賃金を義務化する法律を施行するなど、社会が変化していったのです。
自分が自分らしく生きるためには、時として社会の矛盾と対峙しなければならないこともあります。それは女性だけでなく男性も同様です。「男子かくあるべし」と、社会が求める男性らしさの枠に閉じ込められている人もいるでしょう。そうした枠を自らの手で取り払い、お互いがそれぞれの立場を理解し合いながら現状の課題を解決していけば、素晴らしい将来を構築できるのではないでしょうか。
大切なのは、説きたい「課題」の本質を捉えること、そして、私たち一人ひとりが自ら考えて行動することを最後に確認し、プログラムを終えました。
※1 STEAM:Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(エンジニアリング)、Arts(デザイン思考)、Math(数学)の頭文字を取った造語。
※2 M字カーブ:日本女性の生産年齢人口に対する労働力人口の割合を示す労働率の折れ線グラフ。結婚・出産期に当たる年代に一旦低下し、育児が落ち着いた時期に再び上昇するためグラフが「M字型」になる。
※所属名や肩書はイベント開催時点のものです。