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2021-02-26
PwCコンサルティング合同会社(以下、PwC)は、2018年の一般社団法人グラミン日本(以下、グラミン日本)発足直後より、コーポレートサポーターとして同法人の事業運営に参画し、コンサルタントの専門スキルをプロボノで提供、生活困窮者の自立を支援するグラミン日本の活動の認知拡大に取り組んできました。2019年には、PwCのエクスペリエンスセンターにおいて「テクノロジーを活用して貧困層を救うサステナブルなビジネスアイデアを考える」というテーマのアイディエーションワークショップを開催。さまざまな業種からなる参加者が集まって活発な議論が繰り広げられ、さらにはそこで生まれたアイデアが実際の事業化につながるという、実りの多いワークショップとなりました。
今回は、グラミン日本理事長/CEOの百野公裕氏と、同ワークショップでのアイデアを事業化に導いたSAPジャパン株式会社の太田智氏、そしてPwCの間世田豪、荒井叙哉がオンラインでディスカッションを実施。ワークショップの様子を振り返りながら、今後の展望などについても語り合いました(本文中敬称略)。
一般社団法人グラミン日本
理事長/CEO
百野 公裕 氏
SAPジャパン株式会社
インテリジェントスペンド事業本部
バリューアドバイザリーディレクター
太田 智 氏
PwCコンサルティング合同会社
ディレクター 荒井 叙哉
PwCコンサルティング合同会社
シニアマネージャー 間世田 豪
※法人名・役職などは掲載当時のものです。
収録日:2021年1月21日
間世田:
グラミン日本は、生活困窮状態にある方々に低利・無担保で小口融資を行い、起業や就業によって困難な状況から脱却し、自立するのを支援するマイクロファイナンス機関です。入り口は経済的側面での支援となりますが、ただそれだけでは自立や継続的なQOL(Quality of Life)改善にはならないため、グラミン日本としては、利用者のスキルアップから就業、起業といったところまで伴走できる支援体制を同時に整えようとされています。そのためには多くの企業の協力が不可欠で、PwCはグラミン日本発足直後より、グラミン日本の認知拡大や賛助していただける企業を増やす取り組みを続けてきました。
最近は、持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)やESG(環境・社会・ガバナンス)投資への関心も高まり、グラミン日本が目指す「貧困のない、誰もが活き活きと生きられる社会へ」という目標に対する理解は進みつつあると感じています。しかし一方で、生活保護などセーフティネットが完備されていると思われがちな日本において、貧困問題はリアルにイメージしづらいところもあって、総論では賛成だけど具体的にどんなアクションを取るべきかが分からないという反応も少なくありません。
そこで今回のアイディエーションワークショップでは「サステナブルな社会の実現に向けた新規事業創出ワークショップ」と題し、貧困問題に対する共感的な理解を促し、参加企業各社が有する強みを持ち寄って、社会課題解決とビジネスを両立するアイデアを創発し、事業化する成功事例を作りたいと考えていました。
百野:
おっしゃるとおりで、ソーシャルビジネスを成功させるには3つのアプローチが必要です。1つ目が支援者の共感的理解を得られるかどうか、2つ目がマネタイズモデルを作れるかどうかです。今回、PwCの協力で、まさにその2つをスキームに織り込んだワークショップを開催することができました。
今回のワークショップで私がさらに期待したのは、アプローチの3つ目であるコレクティブインパクトの実践と、その先行事例の創出です。グラミン日本はこれまでも多くの企業からご支援をいただいてきましたが、まだ企業間の横のつながりを促すところまでは至っておらず、私自身、これだけの企業に支援をいただいているのに「もったいない」と感じる機会が少なくありませんでした。影響力の大きい企業の皆さんに参画していただくことで、「社会課題に取り組むのは行政の役割である」と考えられている方々にも興味を持っていただくきっかけにしたい。そして、セクターもインダストリーも超えたパートナーシップを推進することで、これまで以上に大きなインパクトを生み出したいと考えていました。
荒井:
私はエクスペリエンスセンターという部門でデザインシンキングに基づく人間中心型のコンサルティングサービスを業界横断的に提供しており、アイディエーションワークショップもよく行っています。個人としては、PwCが取り組む東日本大震災の復興支援に関わるプロジェクトにも参加するなど、社会貢献への関与機会にはいつもアンテナを立てています。
今回、間世田から声が掛かった時も、ワークショップの全体設計や当日のファシリテーションを二つ返事で引き受けました。今でも印象に残っているのが、事前ミーティングの際に百野さんが「生活困窮者がたくさんいる状態を1つのマーケットだと考える」とおっしゃったことです。自分もこれまでの経験の中で、社会課題の解決にはサステナブルな支援が不可欠で、だからこそ持ち出しによる支援ではなく、支援自体をビジネスにして健全にキャッシュを回すことが大事だと考えていたので、なるほどと大きくうなずいたことを覚えています。
エクスペリエンスセンター
荒井:
今回のワークショップは、PwC独自のBXT(Business × Experience × Technology)というアプローチで設計・推進しました。従来型のコンサルティングモデルでは、まずビジネスの観点でビジョンや戦略を策定、業務を設計し、その後でテクノロジーの設計・実装につなげていくというアプローチをとっていました。それに対してPwCは社会やクライアントのビジネスに関わるステークホルダー(広義のエンドユーザー)をまず中心に置きます。そして、エンドユーザーの理想のエクスペリエンス、ビジネスインパクト、ソリューションを具現化・加速化するテクノロジーの3つすべての観点から、社会およびクライアントの課題を再定義し、解決策をアジャイルに実装していくアプローチでプロジェクトを推進しています。今回のワークショップには生活困窮者はもちろん、それを取り巻くステークホルダーの視点が必須であること、ビジネス化を明確に目指していたこと、そしてスケールさせるためにはテクノロジーの活用が不可欠だという前提から、この手法は最適だと考えました。ワークショップのデザインにおける留意点の1つに、できるだけ多様な属性の人たちに参加してもらうことがありました。というのも課題の先には必ず、理解しなければいけない人間がいます。人間はいつも多様で複雑だからこそ、ディスカッションも多様性をもって行うことが大切だと考えました。
百野:
私も、どんな人たちを巻き込むかはとても重要だと思っていました。間世田さんや荒井さんと相談しながら、参加企業の業種、業態、部署などもできるだけバラバラになるよう心掛けました。ただ一方で、キャリアやポジションがあまりに違いすぎると議論が活性化しない恐れがあります。そこで今回は、社内である程度の権限が与えられていて、かつ現場への理解もあるミドルマネジメント層を中心に参加していただくことにしました。
荒井:
もう1つの留意点は、参加者が生活困窮者への共感を深めて「サポートしたい」という思いを強固にするところから始めることでした。今回は百野さんからソーシャルセクターの方々にお声掛けいただき、一般社団法人日本シングルマザー支援協会の高橋歌織さんと、株式会社アルコバレーノ代表取締役でグラミン日本コーポレートサポーターでもある東出忠昌さんに、それぞれ個人情報を伏せる形で、実在するシングルマザーとワーキングプアの方々に関するインタビューを事前に行いました。その内容をビデオ撮影し、映像にまとめて参加者全員に見てもらい、深く共感を持ったところから、生活困窮者のペルソナや、彼らが貧困から脱出するまでのリカバリージャーニーを作成し、議論に進むという方法を取りました。
ただ、いくら手法を構築しても、ワークショップで大事なのは「出口」です。「いろいろなアイデアが出て楽しかったね」で終わってしまっては価値も半減します。そういう意味では、ワークショップ終了後も引き続きオーナーシップを持って課題に向き合われた太田さんの存在は本当に大きくて、具体的な事業創出というゴールにたどり着くという、実りのあるワークショップにすることができました。
太田:
私は元々、グラミン日本の活動をボランティアの立場で手伝っていて、今回のワークショップにも個人の経験やスキルを生かして何かできればよいなという考えで参加しました。自社が提供する製品やサービスとマイクロファイナンスをつなげて考えたことはなかったのです。
当日は、目の前に用意されたプログラムにただ取り組んだだけでしたが、そこで創出されたアイデアを自社のサービスで事業化できる可能性があることに気付きました。ワークショップの設計が素晴らしかったのだなと、振り返ってみて実感します。
荒井:
ファシリテーターの立場からすると、調達購買のスマート化を専門とされる太田さんには、ワークショップの最中もいろいろと助けていただきました。先ほども触れたように、今回のワークショップのテーマは「テクノロジーを活用して貧困層を救うサステナブルなビジネスアイデアを考える」というものでした。どれだけテクノロジーでレバレッジするかを考えることを必須にしたのです。なぜテクノロジーが必須かというと、大きな投資をし続ける必要がある支援だと、いくらアイデアがよくてもその後スケールしないことは明白で、そもそもそんな資金があるのならマイクロファイナンスに使うべき、という前提があったからです。けれど参加者の中にはテクノロジーに明るくない方も当然いらっしゃいますから、そんな時にスペシャリストである太田さんが「チャットボットがあれば、こんなことを実現できるのでは?」などと具体的な話題を振ってくれたことで、議論がすごく活性化していました。
荒井:
ワークショップではいろいろなアイデアが出てきました。中でもテクノロジーと相性がよさそうなものとして印象に残っているのは、貧困から脱却した方の属性や経歴を可視化することで、現在生活に困窮している方が自分によく似たロールモデルを見つけられる仕組みを作るというアイデアです。これは、アイデアが具体化する過程も印象的でした。当初、「自分たちの会社の事業で貧困問題の解決に役立つものはない」と話していた方が、このアイデアが出た後に「それなら当社だといろいろな境遇にある女性が働いているから、アイデアを検証するためのサンプルデータを出せるかも」と手を挙げてくれたのです。この企業は、女性が多く活躍する企業だったのです。
間世田:
私もディスカッションに参加させてもらいましたが、各社の強みや技術に関連付けたアイデアに留まらず、複数企業でそれが掛け合わさっていく様子を目の当たりにして、とても手応えを感じました。
太田:
グラミン日本が支援する求職者のスキルや教育・研修実績を一元管理し、企業とのジョブマッチングを後押しするというアイデアも、まさにそうした流れで出てきましたね。これを実現するなら、当社が提供している外部人財管理ソリューションであるSAP Fieldglassを活用できると考えました。現在、当社で事業化に向けた計画を進めています。求職者には各々の立場に寄り添ったジョブマッチングを、企業には今後一層求められていく人材多様性の確保やジョブ型雇用のような新しい働き方を実現するためのソリューションを、グラミン日本にはビジョン達成を加速させ、かつ収入源にもなるプラットフォームの提供を、そして当社もプラットフォームの利用料をいただくことで、継続的な支援を実現する。関わった全ての人がWin-Winになれるモデル構築を目指しています。
百野:
グラミン日本のマイクロファイナンスは、クレジットヒストリーがない方にまずは少額融資をするという取り組みですが、今回のアイデアは、そうした方々がさらにワークヒストリーやスキルヒストリーを積み上げていけるというのが大きなポイントです。困窮状態にある場合、自身のスキルやキャリアに自信を失っていることがあります。これをFieldglassによってきちんと可視化し、ジョブマッチングを実現できれば、企業側から評価される仕組みができ、賃金も徐々に上がっていくことが見込まれます。よりサステナブルな自立支援につながると期待しています。
太田:
情報の収集や蓄積を容易に行い、自動化によってスケールさせるというのはまさにデジタルテクノロジーの強みですからね。今回のようにテクノロジーを活用することによって、人の役割をカウンセリングやスキルアップ支援といった人間にしかできない活動により当てることができるようになります。結果、これまでよりも付加価値の高い支援が可能になるのではないでしょうか
間世田:
ワークショップを終えた後も太田さんがオーナーシップを持って取り組みを続けてくださったおかげで、まさに私たちが期待していたような先行事例が創出されつつあり、とてもうれしく思っています。
同時に今後の課題も見えてきました。というのも、ワークショップの場は確かに熱量があり、よいアイデアもたくさん出ていたわけですが、全参加者が自社に戻ってからも熱量をキープしながら動けるかというと、今のままでは難しいとも感じました。では何が必要か。私は、ビジネスとしてメリットがあることを、具体的な事例を示しながら繰り返し伝えていくことが大事なんだと思います。
例えば、今回の事例のようにアイデアを実現した結果、こんな新たなマーケットが生まれた、新しいビジネスにつながった、サステナビリティにこれだけ寄与したといった話が聞こえてくると、わくわくしますよね。これを他の企業の皆さんとも共有できないかと考えています。そうすることで、利益を上げて、仕事としての熱量も保ちながら社会課題の解決に取り組むというところまで昇華できるのではないかと思っています。
百野:
今回、間世田さんと荒井さんには、プログラムの企画やワークショップのデザイン、ファシリテーションの方法といったところで、かなり定型化したものを作っていただきました。それをベースにして、今後はグラミン日本でも継続的に企業への呼びかけを続け、さらなるコレクティブインパクトを創出していきたいと考えています。今、貧困の問題は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で深刻度が増しています。日本のソーシャルセクターには社会課題で儲けてはいけないといった考え方が残っているのは確かですが、マーケットとして考えると、これはかなりの規模になっていると言えます。これまで社会課題への取り組み方にとまどいのあった人たちも、「顧客」「ニーズの把握」という言葉に置き換えれば、ビジネスの話として自然に考えられるはずです。こうした感覚がもっと多くの人たちに共有され、当たり前のものになっていくことを期待しています。