貧困の連鎖を断ち切る解決策の模索に向けて

  • 2024-05-15

PwC Japanグループには、個人の関心を起点に多様な専門性を有する仲間とともに社会課題について学び、体験し、その課題の解決策を実践的に模索する「Collective Impact Base」という場があります。

「貧困の連鎖」という社会課題に対する解決策を模索するため、5名の有志によるチームが立ち上がりました。

「貧困の連鎖」を取り上げた背景

チーム立ち上げメンバーの1人であるPwCコンサルティング合同会社の和泉綾弓は、母子家庭3人姉弟という環境で育ちました。その経験から、チーム立ち上げに至る想いを以下のように語ります。

「金銭的には余裕のない生活の中で育ちましたが、母からの愛情を感じていたため、家族で支え合い、生活をよりよくするためにアルバイトに励んだり、将来役に立つスキルを調べて進路を考えたりと、自立する心が十分に養えたことを感じます。しかし、同様に貧困な状態にありながらも親からの愛情が欠如しているように見えた友人は、日々の生活を送る中で気力を失い、将来を考える余裕もないようでした。就職もうまくいかず、社会人になっても貧困状態である様子を見ているうちに、そのような人をどうにか救えないか、貧困の連鎖を断ち切ることはできないかと考えるようになりました。また、学生であるうちは子ども食堂、母子家庭支援、奨学金など国や自治体による支援がありますが、社会人になってからは、より自身の力で生きていくことを求められるため、土台がもともと盤石ではない若者は貧困から抜け出すきっかけを失っているようにも見えました。昨今のインフレや実質賃金の下落も相まって、今はより過酷な現状となっていることと想定されます。そこで、国の支援の手が届きづらい若者の貧困に焦点を当て、何かできないかと考える場として活動を始めました」

活動を始めるにあたり、まずは若者の貧困の実態を把握すべくウェブや文献を中心に調査を行いました。そこから見えてきたのは、日本において貧困が広がっており、このまま放置することが問題のさらなる悪化を招く可能性があるということでした。

日本の景気が低迷し、バブル経済崩壊後の「失われた30年」と言われる期間において、消費税・社会保険料の負担は増加。物価は高騰し、平均給料は横ばいという環境で育つ子どもたちの大学進学率は過去最高であり、奨学金を借りることが当たり前ともいえる現代において、社会人になった瞬間から経済的に厳しい状況におかれる若者が多いことは想像に難くありません。

NPO支援を通じたフィールドワークへ

当初は文献などによる机上での貧困の理解に努めましたが、やはり現場も見るべきとの議論があり、そのタイミングで、若者の支援に取り組む東京都の特定非営利活動法人サンカクシャに出合いました。そして、サンカクシャへのヒアリングから、事業計画の策定や、新規事業の説明資料作成など、プロボノ活動を通じたフィールドワークを実施しました。サンカクシャと活動をともにする中で、複合的な要素が複雑に絡み合う若者の貧困の実態を目の当たりにします。

「メディアなど色々な媒体で若者の貧困問題は目にしてきたところですが、実際に活動されている方々と接してみて初めて分かることが非常に多く、色々認識を改めなければならない必要性を強く感じました」(PwC Japan有限責任監査法人 林 健一)

サンカクシャは、親や身近な大人を頼れない15歳から25歳くらいまでの若者が孤立せず、自立に向かえるよう、若者の社会参画を応援する団体であり、「居場所」「住まい」「仕事」の3つの側面からサポートを行なっています。生きていく意欲、何かに取り組もうとする意欲を失ってしまった若者が社会とのつながりを得て、安定した生活を送り、自分らしく生きていくことができるよう、伴走しながらサポートをしています。

15歳未満は就学していることから行政・民間含めて、児童相談所や子ども食堂、学習支援があり、25歳以上であれば就労支援系の支援があるのに対し、サンカクシャが支援対象とする15歳から24歳までの若者は公的支援・民間支援が手薄になっています。

政府の統計調査結果などによると、この年齢帯の若者が総人口に占める割合で算出した簡易的な計算では、「相談できる人がいない若者は145万人」「どこにも居場所がない若者は約22万人」も存在していることになります。

文献からだけでは得られない学び

公表されている調査や報道からは、「相談窓口があれば来るのではないか」「若いのだから体力もあり就労機会があれば働いて、収入を得られるので簡単に生活を立て直せるのではないか」というイメージを持たれる方もいるかもしれません。しかし、サンカクシャが支援対象としている若者は、DVやネグレクトによって大人を信用できなくなっており、一度は公的支援を受けようと思って窓口に行っても手続が多く結局諦めてしまう、あるいはそもそも公的相談窓口や支援制度があってもそれを自分から利用しないという問題があります。悩みを話してもらうところにまず高いハードルがあり、それを解消するためには何らかの信頼関係が必要になるのです。そこでサンカクシャでは、支援担当として元お笑い芸人を採用したり、オンラインゲームで友達になったりと、まず相談してもらえる関係をつくるためにさまざまな工夫をしていました。

実際に相談・支援をできる関係性ができあがっても、親から社会常識や健全な生活習慣を教えられていない、DVやネグレクトの後遺症で意欲や目標を持てない、人と関わるのが怖いといった状態で、すぐに社会生活が送れる状態ではないことも多いようです。簡単な就労体験などを通じて少しずつ人と関わることで信頼関係を構築し、自信を蓄積していきながら、就業するまでには生活相談、住居の提供、就労支援といった総合的な伴走支援が概ね3年程度必要となるというお話でした。

「1度支援とつながっても、生活保護をもらったとたんに蒸発してしまうケースなどもあると聞きました。ビジネスや大人の常識はいったん脇に置いて考えないといけない世界もあると感じました」(PwC Japan有限責任監査法人 三橋 敏)

「物質的な貧しさがあるだけではなく、心の豊かさを持てないなど、精神的な貧困も合わせて支援する必要性があるという新しい視点をもつことができました」(PwC Japan有限責任監査法人 財茂宙)

「貧困は親から子へと受け継がれていくという負の連鎖があることを改めて認識しました。生活保護の在り方など、若者を貧困から救うための仕組み自体を根本的に見直す必要性があるのではないかと感じました」(PwCコンサルティング合同会社 和泉 綾弓)

PwCメンバーは活動を通じて得た視点について、以上のように語りました。

振り返りと今後の展望

今回のプロボノ活動を通じて、サンカクシャからさまざまなフィードバックをいただき、私たちのビジネススキルを使ってNPOを支援することも社会課題の解決に役に立てるという実感を得ることができました。

「今後の事業計画を考えるにあたり、直接支援するだけでなく、サンカクシャのノウハウを他の団体に広げていくべきという発想に転換できました」(サンカクシャ 代表理事 荒井祐介さん)

「『やりたい』と漠然と考えていたことを資料で可視化でき、企業と連携するための武器を貰えました」(サンカクシャ企業連携担当 采見達也さん/社会サンカク事業マネージャー 宮本緑さん)

「ずっと自分の頭だけにあったことを、居場所支援のマニュアルという形にできました」(サンカクシャ居場所事業マネージャー 早川智大さん)

これまで社会課題とビジネスにおける課題の解決アプローチは異なるように考えていたと語るPwCコンサルティング合同会社の山本彩加は、「私たちが普段扱うビジネスイシューに対する考え方や解決策が、社会課題の解決にも役立つと気付きました。今後も社会課題の解決に貢献していきたいです」と話しました。

事業計画やマニュアルをNPOとともに考えることで、一方通行のインタビューよりも深い学びを得ることができました。NPOが今後やっていきたいことや、優れたノウハウを言語化・可視化して伝わり安くすることで、事業計画への協力者を増やしたり、他のNPOの支援の質を向上させ、より多くの人を支援できたりする可能性があるのではないかと考えています。今後もさまざまなNPOに対して支援の輪を広げ、共助社会の実現に向けたお手伝いをしていきたいと考えています。

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