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PwC Japanグループで働くさまざまな人物の経験や肉声を通じ、インクルージョン&ダイバーシティ(I&D)に関する取り組みの現在地や未来図を示す「I&Dは問いかける」。第3回では、障害と向き合いながら自身のキャリアを切り開こうとする職員と、彼を支えるチームメンバーが前向きなキャリア形成をサポートするために取り組んできた仕組みづくりなどを紹介する。
※文中敬称略。登場人物の所属名や肩書は公開時点のものです。
「本日もよろしくお願いします」。PwC Japan合同会社で事務作業などを担うオフィスサポートチーム(OST)に所属する松本雄太は、オンライン会議のメンバーに向かってゆっくり話しかけた。手元には使い古したノート。この日の会議内容を想定して、事前に用意した「シナリオ」だ。話し合うべき議題は何か、どういった順番で誰に質問を振っていくのか、などが細かく書き込んである。
会議の進行に合わせ、丁寧にノートを見返しながら会話を進める。会議の途中で気になったことを書き込んでいくのも忘れない。松本にとってこのシナリオは、彼の持つ障害と向き合うために必要不可欠なものだ。
生き辛さはずっと感じてきた。例えば、家族や友達とのたわいのない雑談。日常生活にありふれたその会話のテンポについていけず、どうしてもちぐはぐなコミュニケーションになることが多かった。文字として眼で捉えれば分かるのに、耳から入ってくる言葉になるとどうしても注意力が落ち、理解や対応に時間がかかってしまう。
そんな状態で周囲となじめず、孤立することも少なくなかった。大学卒業後に正式に診断を受け、自分の症状が障害に起因するものだと知った。「これまでのうまくいかなかった経験がすとんと腑に落ちた気がしました」。一方、就職などを含めてこれからの人生に待ち受けているハードルへの不安も強かったという。
就労移行支援事業所に入り、7カ月間の訓練を受けた。自分の特性について学び、それとどう向き合うのか対策する日々。そんな中、同じ訓練を受けていた知り合いを通じてPwC Japan合同会社の募集内容を知った。「自分と同じ障害を持った人が入社していたことで興味を持った」のをきっかけに、2018年に有期契約社員として入社した。
現在はリモートワークが中心で、出社は月に1回程度。主にメールやチャットでやり取りする就労環境は松本の特性に合っていると感じているが、それでも、オンライン会議などで同僚と会話をする機会は定期的に生じる。そんな時、松本は事前にシナリオを書き出し、それを携えて会議に臨む。さまざまな障害を抱えているチームメンバーとのコミュニケーションはシナリオ通りに話が進まないこともある。「終わった後で反省することも少なくないです」。そう振り返る松本だが、それでも前向きな姿勢が失われたことはない。
松本にとって働く上での支えになっているのが「丁寧なフィードバックがあること」だという。PwCでは健常者か障害者かによって区分を設けず、あくまで本人の生み出した成果や成長度合いを同じ基準に沿って評価している。PwC Professionalと呼ぶその枠組みは、「Whole leadership」や「Relationships」など5つの項目について熟達度を可視化し、職員一人ひとりに付くキャリアコーチが、それに基づいた丁寧なフィードバックを行うことで成長を促す。
入社時は契約社員からスタートした松本も、成長を重ねて正社員のアソシエイトとなり、2023年からはシニアアソシエイトに昇格している。入社直後は福利厚生に関するデータ入力などの事務作業や郵便物の仕分けがメインだったが、着実に仕事をこなして成果を積み上げることで周囲からの信頼を築き、業務の幅を広げてきた。いま手掛けている仕事は障害者雇用に関する説明会資料の作成や、受け入れたインターンの評価など多岐にわたり、さらにはチームリーダーとしてメンバーを引っ張る立場にもある。
障害を認識した時に抱いた将来への不安。それを乗り越え、自分の力でキャリアを切り開いている。「障害当事者であり、支援者でもある。その両方の立場が分かる人間として、さらに連携を深める役割を担っていきたいですし、それが自分の市場価値になると考えています」。将来の展望についてそう話す松本の顔は明るい。
PwC Japan合同会社にOSTが立ち上がったのは2016年。障害者雇用の義務化を見据えて発足した同チームを、初期の頃から中心メンバーとして牽引するのが桐野陽子と鈴木慎一郎だ。
最初は他チームからのリクエストに応じて社内で発生するさまざまな事務作業を都度、引き受けていた。ただ、それではどうしても作業が受け身になってしまい、チーム内に経験やノウハウを蓄積しづらい。それ以上に、桐野と鈴木の中には、OSTによる障害者雇用を通じて実現していきたい理想があった。
「障害があっても、仕事を通じて将来を掴み取っていく力を身に着けてほしい」。そう二人は口を揃える。
チームの間口を広げるため、まず人事部門が手掛けていた特定の事務作業を丸ごと引き取った。さまざまな障害を持つ職員でも無理なく作業を進められるよう、業務の内容を可能な限り分解し、その一つ一つを定型化していった。そうやってチームで対応できる仕事の幅を広げ続け、OSTが手掛ける業務は今では200種類以上にのぼる。
桐野の姿勢は「配慮は十分します。だけど無意味な遠慮はしません」という言葉に集約される。障害を持った職員に対して無意識にしてしまう周囲の遠慮が、彼・彼女らの仕事に対する前向きさを阻む壁になっている面があるのではないかと考えているからだ。
松本の入社後の成長を、桐野も鈴木も頼もしく感じている。桐野は松本について「ミスや改善点があっても正面から受け止め、いつもそれに真摯に対応してくれます。人として全面的に信頼しているので、仕事も同じく信頼してお任せしています」と話す。勿論、松本と会話する際には話す速度や、リアクションを待つ時間を十分に配慮する。それ以外で、業務に関して遠慮するようなことは一切ない。そしてそれが、逆に松本から見れば前向きに働きやすい環境につながっているという。
桐野はライフワークとして取り組んできた障害者雇用の世界に、働く側の選択肢がまだまだ少ないのではないかと感じている。障害の度合いに応じて業務内容に適切な配慮をすることについては、そうあることが必須だと思う。ただ、健常者と分け隔てなく仕事に取り組み、失敗と成功、そして成長を繰り返しながら自身のキャリアを築き上げていく、そんな前向きさを後押しする選択肢も同時にあってよいはずだ。「もっとI&Dが当たり前になって、最終的に私の仕事が社会から不要になること。それが夢ですね」と桐野は語る。
入社前から障害者を支援する立場で仕事をしてきた鈴木もこう口をそろえる。「仕事をして成長し、その収入で家族を養ったり家を買ったり。障害があっても、そんな人生プランを描きたいと考える『一人の人間』をどうやったら支えられるのか。それを考え続けたいです」。
障害者の雇用とどう向き合うのかという企業の姿勢は、そのまま健常者も含めた全ステークホルダーに対する姿勢と共通する。I&Dの実現に向けた努力を通じて、企業は自らと関係する人々とどう向き合っているのかを常に問いかけられている。
障がいのあるメンバーが個性を発揮し、プロフェッショナルとして活躍できる場づくりに取り組んでいます。
多岐にわたる分野の多様なプロフェッショナルがスクラムを組み、持続的な成長と信頼構築を支援します。