セキュリティ業界1では、国内外問わず人材不足が長らく指摘されており、その解決策として女性の活躍を促す海外政府の動きも活発になっています2。セキュリティ業界における業務は、主にパソコンを使用するものであり、身体能力が問われないことから性差が影響しづらいと言えます。女性が活躍しやすい業界の1つと言えそうですが、残念ながら国内セキュリティ業界で働く女性の数は客観的にみて多いとは言えません。
セキュリティ業界は他業界と比べて歴史が浅く、働く人も(なかでも女性が)少ないことから、「どのような業務があるのか」「どのような人が働いているのか」「どのようなキャリアパスを築いているのか」が見えづらいのが現状です。このため、この業界を知らない学生や転職活動者にとって「働く自分」を想像しづらく、関心を示せないのではないかと推察します。
そこで、PwCコンサルティング合同会社は、国内セキュリティ業界で働く女性の実態を明らかにすることで、a)将来のセキュリティ業界の人材候補者である学生や転職活動者へ「仕事の不透明さ」を解消し、さらにはb)この業界で働く女性に対しキャリアパス設計時に参考となるベンチマークを提供することを目的に、国内セキュリティ業界で働く女性150名、男性150名の計300名を対象にアンケート調査を実施しました。
今回の調査では、国内セキュリティ業界で働く女性の10の傾向を確認することができました。各項目および回答者の属性情報、セキュリティ業界で働く女性の割合などの詳細情報はPDFを参照ください。
「過去」の傾向:
1. セキュリティ業界で働く女性のうち「文系」出身が約7割
2. 転職経験がある女性の前職での所属は「非IT部門」が半数以上
「現在」の傾向:
3. 女性はいわゆる「ガバナンス」業務に携わる傾向にある
4. 女性の資格保有率は男性より高い
5. 働いた印象としては、「専門性やスキルが身に付いた」「長く働けそう」が上位
6. ロールモデルを持つ女性は、仕事や組織への「満足度」が全体的に高い
7. 女性にとっての「活躍」の定義は「業界の専門家として認められること」
「将来」への意向:
8. セキュリティ業界で「長く働きたい」女性は6割超
9. 昇進意欲のある女性は半数以上、女性が描くキャリアパスは多様化
10. 売り手市場であることを実感する女性たち
本調査において特に注目したいのは、セキュリティ業界で働く男女の最終学歴や前職の所属部門についてです。
最終学歴の専攻を見ると、女性回答者の約7割が「文系」であり、男性回答者においても半数が「文系」でした(図表2)。このことから、セキュリティ業界は最終学歴の専攻において、理系・文系出身を問わず活躍できる業界であると言えます。さらに、転職経験者に対して前職での所属部門について質問したところ、女性回答者の半数以上、男性回答者の4割が「非IT部門」であると回答しており、転職に際して決して少なくない割合で、非IT部門出身者が受け入れられている業界であることが分かりました(図表3)。
これらのことから、セキュリティ業界は、文系出身者や非IT部門出身者にも広く開かれた業界であると言えます。
国内で活躍するセキュリティ業界団体の女性WGリーダーから、今後セキュリティ業界で働くことを検討される読者の皆様へメッセージをいただきました。PwCのインクルージョン&ダイバーシティ(I&D)のセキュリティリーダーである林恵子からのメッセージと併せ、ぜひご覧ください。
「業界内で助け合おうという考え方がある。もしも会社で孤独に感じたらセキュリティ業界団体へ」
セキュリティ業界、特にサイバーセキュリティを担当されている方は、「戦う相手」は基本的に「犯罪者」です。今話題となっている脆弱性を突いた攻撃やランサムウェアで苦しむ方など、同じような攻撃により皆、被害者となりえます。そのため、共通の敵への対抗策をどうするか、皆で助け合おうという考え方があり、非常にユニークな業界だと思います。もしも、着任されて会社で孤独を感じたとしても、私どものようなセキュリティ業界団体に入ってもらえれば仲間がいます。困ったときは気軽にセキュリティ業界団体へご相談ください。
「実は、あなたも既にセキュリティ業務に携わっているかも」
セキュリティ業界は奥が深く、幅広い業界です。「自分の担当エリア(分野)とは関係ないな」と思っていても実は既に携わっていることも多く、実際に、例えばセキュリティ監査を受け、業務内容を知って興味を持ち他部門からこの業界へ転身されている方や、営業でセキュリティ製品を取り扱って興味を持ち、セキュリティの知見を深めている方もいらっしゃいます。このため、構え過ぎずに、ちょっとやってみると奥が深いので面白くなるのかもしれません。また、既にセキュリティ業務に関与されている方も、ぜひさらに深く関わってもらいたいと思います。今後システムが発展していく上で「セキュリティ」は不可欠であり、社会の歯車の1つであると言えます。そのため、仕事がなくなることはなく、安定した雇用が確保できるでしょう。
さらに、社会の変化に伴いセキュリティ業界も速いスピードで変化していくことから、新しいもの好きの方には刺激的な業界となるでしょう。また自分の仕事を通じて、社会へ貢献することでやりがいを感じられる業種と言えます。
今後注目されるテクノロジーエリアとして「クラウドセキュリティ」があげられます。リモート環境も拡大しており、クラウドの重要性は増す一方です。今後セキュリティ業界を志望される方は、クラウドセキュリティの分野も視野に検討されると良いかもしれません。
「未成熟な新しい分野だからこそのチャンス」
セキュリティ業界はまだまだ未成熟な新しい分野です。その分、より多くの人々の多様なバックグラウンドに基づく知見や、デジタル社会の発展に貢献したいという想いが必要とされている分野でもあります。また、セキュリティに求められる知識・技能はITに関するもののみではなく、プライバシー保護や物理的なセキュリティなど多岐にわたります。つまり、セキュリティ業界は、業界自体の成長に乗り、幅広い知識・技能を身に着け、どこでも貢献できる人材となって、あなた自身が主役となるキャリアや働き方を得るチャンスのある業界だと思います。
女性のみなさんにはぜひ自分自身が思い描くキャリアをセキュリティ業界で構築していただきたいです。
セキュリティ業界で働く女性は、自身の勤務する組織内だけでなく、外部団体への所属などを通じ女性独自のコミュニティを形成し、同業界で働く女性とのネットワーキングや勉強会、相談などの活動をおこなっております。もしも職場に女性が少なく悩みなどがありましたら気軽にセキュリティ業界団体へ相談してみるとそこに答えがあるかもしれません。
今回の調査で、国内セキュリティ業界で働く女性の多くは「この業界で長く働きたい」と感じており、将来についてさまざまなキャリアパスを描けていることが明らかになりました。とりわけロールモデルのいる女性の7割以上が仕事に満足しており、セキュリティ業界は女性が働く上で「魅力的な業界である」と言えそうです。
セキュリティ業界では理系出身だけでなく文系出身の女性も多く活躍しています。文系の学部を専攻される学生の皆様にもぜひ一度、就職先の1つとしてセキュリティ業界をご検討いただければ幸いです。私どもPwCにおいても、語学(外国語)、国際関係、法学などの学部出身者を中心に、多くの文系出身の女性が活躍しています。セキュリティ業界は国を超えるサイバー攻撃や、データに関する国をまたいだ法規制など、目まぐるしく変化する動向に対応することが求められます。そのため、グローバルに活躍できる仕事や、グローバルな犯罪者から人や社会を「守る」仕事が数多くあります。調査結果からも分かるように、「グローバルに活躍したい」方、「社会貢献したい」方、「専門性やスキルを身に着けたい」という方は、その希望をセキュリティ業界でも叶えられることができます。あなたのやりたいことを「セキュリティ専門家」として叶えていきませんか。
セキュリティ業界自体の歴史が浅く、頑張り次第では「あなた」が、国内セキュリティ業界で活躍する専門家の第一人者となれるかもしれません。
セキュリティ業界は女性の正規雇用率が約9割4と高く、女性にとって「長く働きたい」「専門スキルを得られた」「売り手市場である」と実感できる、転職先として魅力のある業界の1つです。
今回の調査で、セキュリティ業界で働く女性の約半数が「非IT部門」であり、営業や総務、事務などからの転身者であることが明らかになりました。実際、PwCにおいても「Talents in Cyber Security and Privacy5」で一部紹介されているとおり、営業やマーケティングなど非IT部門出身の女性が数多く活躍しています。
現在「IT部門」で活躍されている方はもちろん、「非IT部門」に所属されている皆様もご活躍いただける業界と言えます。特にセキュリティ業界の経験がなくても、「製造業には詳しい」「金融業には詳しい」といったスペシャルティがあるのであれば、それに「セキュリティ」をかけ合わせることで、セキュリティ業界における「X製造業」や「X金融業」のスペシャリストとして、他者にはない自分だけの専門領域を築くことができます。
「自分だけの専門領域」を持つということは手に職をつけることと同義であり、国内における先駆者、ひいては世界的な先駆者として活躍できる未来が切り開けるかもしれません。皆様のご活躍を心より期待しております。
セキュリティ業界は、業界自体の歴史が浅く、またITシステムの有り方や法規制が目まぐるしく変動しており、求められるセキュリティ業務の有り方も変化し続けています。このため、セキュリティとはどのような業務であり、どのようなスキルが求められるのかといった実情が見えにくく、「セキュリティ業界で働く自分」や「将来のキャリアパス」を想像し難く、就職先として考えづらいと感じる方もいらっしゃるかもしれません。一方で、逆に言えば、業界の先達たちが築いてきた一般的な「キャリアパス」だけではなく、自由に自身のキャリアパスを「カスタマイズ」できるおもしろさのある業界であるとも言えます。
また、グローバルで最も評価されたCISO6を選出する海外報告書「The Global CISO 100 20227」によると、100名のうち女性が49名選出されるなど海外大手企業では経営層として女性も活躍されています。日本国内ではまだまだ、CISOという役職自体を取り入れる組織が少ないですが、今後ビジネスのIT依存化が高まるため、十数年後にはセキュリティ知識が必要となるCISOやCPO8、CDO9、CRO10、CAE11などの経営層クラスの役職を採用する国内組織も多くなります。このため、、経営層を目指す女性にとっても、セキュリティ知見を有することは自身の可能性を広げる1つの手段と言えるでしょう。
セキュリティ専門家は、事業者(セキュリティ部門やIT部門、監査部門など)、IT企業、SIer、セキュリティベンダー、コンサルティング、法律事務所、認証機関、政府機関、大学などさまざまな組織で活躍でき、その業務は今後組織や社会がITシステムに依存することがなくならない限り、その「価値」が認められ、求め続けられるでしょう。
調査名 |
サイバーセキュリティおよびプライバシー業界で働く女性の実態調査2022 |
調査対象 |
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調査期間 |
2021年12月3日(金)~2021年12月6日(月) |
調査方法 |
インターネットにおけるアンケート調査 |
回答者数 |
300名(男性150名、女性150名) |
1 本レポートでは、「サイバーセキュリティやプライバシーに係るツールやサービスなどを他社へ提供する組織」および「組織のサイバーセキュリティやプライバシー関連業務を担う担当部門」を「セキュリティ業界」と定義しました。
2 米国CISA, “CISA AND GIRLS WHO CODE ANNOUNCE PARTNERSHIP TO CREATE CAREER PATHWAYS FOR YOUNG WOMEN IN CYBERSECURITY AND TECHNOLOGY” (2021/9/31)
https://www.cisa.gov/news/2021/09/30/cisa-and-girls-who-code-announce-partnership-create-career-pathways-young-women
欧州ENISA, “ECSC - Cyber-Girls”
https://www.enisa.europa.eu/events/cyber-girls
英国NCSC, “CyberFirst Girls Competition"
https://www.ncsc.gov.uk/cyberfirst/girls-competition
3 本メッセージにはセキュリティ団体WGメンバーの意見も含みます。
4 「図表29:回答者の属性⑤現在の職業」参照
5 PwC「Talents in Cyber Security and Privacy~PwC Japanグループのサイバーセキュリティ&プライバシー領域で活躍するコンサルタントをご紹介します。」
6 Chief Information Security Officer(最高情報セキュリティ責任者)
7 HotTopics.ht、Menlo Security「the Global CISO 100 2022」https://hottopics.ht/40151/discover-the-global-ciso-100-2022-now/
8 Chief Privacy Officer(最高個人情報保護責任者)
9 Chief Data Officer(最高データ責任者)
10 Chief Risk Officer(最高リスク責任者)
11 Chief Audit Executive(最高内部監査部門長)
2022年8月5日 | 「サイバーセキュリティおよびプライバシー業界で働く女性の実態調査2022」の誤記修正 |