PwC Japanグループは2022年から、株式会社K-BALLET(代表:熊川哲也)の新プロジェクトK-BALLET Opto(オプト)に特別協賛*しています。
*PwC Japanグループ、K-BALLET Optoに特別協賛(2022年9月21日ニュースリリース)
K-BALLET Optoは「芸術を通じた現代社会への問題提起」を掲げ、社会課題をテーマにしたオリジナル作品づくり、他ジャンルとのコラボレーション、日本発のグローバルコンテンツ創造、若き才能の発掘など、バレエの新境地に挑戦しています。
こうした活動が、当グループのPurpose(存在意義)「社会における信頼を構築し、重要な課題を解決する」に通じることから、本協賛に至りました。
2023年1月、K-BALLET Optoは、環境問題・SDGsを「プラスチック供養」というテーマで鮮烈に描き出した「プラスチック」を上演しました。今回は、同公演を鑑賞したPwC Japan監査法人のスタッフがその模様と感想をレポートします。
「プラスチック」と聞くと、大半の人はまず、ペットボトルなどの合成樹脂の製品を思い浮かべるのではないでしょうか。実は、元の英語「Plastic」には、このような意味もあります。
Plastic:artificial or false(偽物の、作り物の、人工的な)
産地偽装、コピー品、作り笑い…私たちは「偽物」に強い嫌悪感を抱きます。
社会では近年、生活を便利にするために生み出したはずの人工物「プラスチック製品」も「悪」とみなされるようになってきました。国連環境計画の報告書「SINGLE-USE PLASTICS」(2018年6月)によると、日本人1人あたりの使い捨てプラスチックの廃棄量は年間約32kgで、世界2位。レジ袋やストローなどの「脱プラスチック」の動きは、年々加速しています。
しかし、プラスチックには「軽くて丈夫」「腐食しない」「加工に優れ、安く提供できる」「高い電気絶縁性」など多くの利点があります。だからこそ、生活の中で多用されてきました。
プラスチック自体は「悪」ではなく、本当の問題は「正しく使用・処理しない人間」にあります。人間の勝手で生産し、不都合になると「悪」として排除する――環境問題は「善悪二元論」で捉えられやすいですが、私たちはこうした考え方で、より良い未来を構築できるでしょうか?
本公演は「ペットボトル」と「ビニール傘」を題材に「プラスチックの哀しい境遇」を描きつつ、趣向を凝らした演出や舞台美術、音楽、そして演者の優美かつダイナミックなパフォーマンスが「言葉以上の力」を伴い、私たち一人ひとりに「何ができるか」を考えさせるものでした。
「天地が赤く染まる浜辺に打ち上げられた、無数のペットボトルに閉じ込められた男女。その残酷無比な姿を見た若き僧が鎮魂の舞を奉納すると、ビニールの球体に包まれた女が現れるやペットボトルの膜が剥がれ、人々は解放される。女に冥界と思しき場所に導かれ、巨大なペットボトルの精の群舞に見舞われる僧と人々。ペットボトル迷宮の悪夢から覚醒を願い、再び僧は舞うー。」(同公演パンフレットより)
日本におけるペットボトルのリサイクル率は86%と高い反面、化石由来資源やCO2削減に大きく寄与する「ボトルtoボトル(使用済みペットボトルを、再びペットボトルに循環させる手法)」は再資源化のコストが高いことなどから、僅か20.3%にとどまっているのが現状です*。
*PETボトルリサイクル推進協議会「PETボトルリサイクル年次報告書2022」
本幕は、こうした「循環できず、無限に増え続けるペットボトル」の悲哀と、それらへの供養を美しくも力強い舞で演じた作品でした。
特筆すべきは、舞台美術に「ボトルtoボトル」された1万本ものペットボトルが使われたこと。演者の動きを阻み、時に対峙するペットボトルたちの「壁」。そして、躍動感あふれる舞に息を吹き込まれたかのごとく、演者の手足に絡むペットボトルが発する音は、演者に呼応する「声」を思わせ、まばゆいライトに照らされた個々のペットボトルの輝きは、徐々に「生命のきらめき」のようにも見えてきました。
この「きらめき」が印象に残った筆者は、鑑賞後、私たち消費者がボトルtoボトル推進のためにできることを調べたところ、まずは「きれいなペットボトル回収への協力」が不可欠と知りました。たとえば、飲み終わったペットボトルに紙屑やタバコの吸い殻といった異物を入れない、キャップ・ラベルを外す、洗って捨てる*…これなら、私たちも今日からすぐできますね!
ペットボトルを「生命を宿す存在」のようにも思わせた本幕。最後に登場したペットボトルから成るメッセージ「PEOPLE?」には、ペットボトルたちから「君たち人間はどう行動するのか?」と問いかけられたようにも感じました。
「プラスチックの廃品が捨てられた、都会の小さな公園。襤褸をまとった老婆が、押していた乳母車の中のビニール傘を一本ずつ開き、置いていく。この「儀式」のごとき行為で、ポリ袋に身を包む神々と、遠い昔に亡くなった想い人が現れる。かつて「小町」と呼ばれていた美女に戻り、彼と踊る老婆。しかしー全ては妄想の世界。妄想が解けた老婆は再び、あてもなく歩き出す…」(同公演パンフレットより)
日本では毎年約1.2億本の傘が消費され*、その約8,000万本がビニール傘と言われています**。ビニール傘は金属やプラスチックなどの多様な素材で作られ、強い接着剤も使われていることから分解しにくく、リサイクル分別が困難。よって、多くが埋め立て・焼却処理されています。
*日本洋傘振興協議会「よくある質問」
**2023 K-BALLET Opto「プラスチック」パンフレット
本幕の原案は、三島由紀夫の戯曲「卒塔婆小町」などです。三島作では、絶世の美女・小町は自身に想いを寄せる男性に「百日通い」を求めるも、男性は九十九日目に病死。男性の無念の魂が小町を輪廻から外れさせ、小町はどれだけ老い、狂えども、死ねない存在として描かれました。
そして、本幕は「使い捨てられるビニール傘への供養」がテーマ。廃材などを活用し、迫力ある舞台演出・美術、表現豊かな身体表現で、老婆の張り詰めた狂気・孤独と、小町の華やかな夢の世界を鮮やかに対比するだけでなく、土に還れず朽ち続けるビニール傘の「宿命」と小町の「運命」を重ねつつ、役目を終えたビニール傘と醜く老いた小町、ともに「社会から打ち捨てられた存在」を通じて「存在価値とは何か」をも考えさせる、まさにドラマチック・バレエでした。
現実社会では、傘のシェアリングサービスなど、使い捨て傘の「宿命」を断ち切る新たな取り組みが始まっています。使い捨て傘がゼロになれば、生産や廃棄に伴うCO2排出量が削減でき、日本政府が掲げるカーボンニュートラル実現にも大きく貢献します。
大量生産・大量消費時代の「消耗的な生」の象徴であるビニール傘。日本では古来、長く使った道具には「付喪神=九十九神」の魂が宿ると伝えられてきました。私たちは今一度、生活を長く支えてくれているプラスチックへの感謝と畏怖を思い起こす時なのかもしれません。