Our alumni stories:新たな道を切り拓くPwC卒業生に迫る ~Vol.7 岡本拓也氏編~

建設業×社会課題解決型スタートアップで事業性と社会性を両立したモデルを切り拓く

人を機能として見ない。PwCで学んだカルチャーの重要性

井野:
岡本さんには公益財団法人PwC財団の理事を務めていただいており、PwC Japanグループと今でも深い関係があります。そもそも入社のきっかけは何だったのでしょうか。

岡本:
私は2003年に会計士試験に合格し、当時PwCのメンバーファームだった中央青山監査法人の名古屋事務所に入所しました。他の大手会計事務所やベンチャー企業からも内定はいただいていたのですが、会計士になったからには意義のある仕事がしたい、またフィーリングが合いそうな方々と働きたいと考え、PwCの一員となりました。

当初、東京事務所に行くことも考えました。ただ採用規模が200名ととても多く、一方の名古屋は20名でした。まだ何がやりたいか明確に定まっていなかったこともあり、幅広い領域の経験や知見が得たくて、早くから裁量を持って仕事ができそうだった名古屋事務所を選びました。

中央青山監査法人には3年ほど在籍し、現場を経験したいという思いから東京のベンチャー企業に転職しました。結果は1年半で離れることとなり、大失敗でした。その時、あらためて会計士として社会に貢献できる仕事は何かと考えた時、企業再生の仕事が魅力的に感じられました。その後、PwCが企業再生の分野でパイオニアであることを知り、もう一度門を叩いて受け入れていただくことに。PwCアドバイザリーには4年間いましたので、監査法人と合わせると7年の在籍になります。

井野:
岡本さんが企業再生に携わっていた時期は、景気的にどのようなタイミングだったのでしょうか。

岡本:
バルクセール(債権売却)など切った張ったの事業再生の時代が終わり、そこから経営改善や再生チームを中心に未来を見据えようとしていたステージですね。シナジーが出る方向で組み合わせを考え、何かをつなげていく企業再生の仕事は今の私のベースになっています。

特に大きな学びとなったのは、うまくいかない企業には制度はたくさんあるが、運用ができてないケースが多いという教訓です。私があるクライアントに新しい提案をしようとすると、当時の上司の方に「制度がたくさんあるけど運用がうまくいってない企業に、新しい制度を提案しても駄目だ。それよりも、今ある制度を減らして運用を改善する提案をする方が、経営にとっては意味がある仕事だ」とたしなめられました。コンサルタント的な視点ではついつい新しいものに飛びついてしまいがちですが、目から鱗が落ちる指摘でした。

その学びからさらに進んで、最近では人を機能として見ないことが重要だと気付きました。人と人とのコミュニケーションや対話を大事にすることで、だんだんとビジョンが伝わり、やがて余計な仕組みを入れなくてもカルチャーが機能していく。PwC時代の経験があったからこそ得ることができた気付きです。

井野:
PwCのアルムナイネットワークでは、卒業した方々とどのように良い関係を維持し続けるか模索しています。また卒業後に関係を維持したり、昔ながらの人脈の延長線上で物事を進めたりするだけでなく、卒業生の皆さんからアルムナイネットワークに何か提案して反応が生まれる、もしくはPwCとインタラクションがある世界があると、もっともっと岡本さんのような卒業生のバックグラウンドとして役に立てるのではないかと考えています。

今後のご活躍が楽しみですが、最後に未来への展望や目標について教えてください。

岡本:
まずはLivEQuality大家さんを通じてインパクト投資やアフォーダブルハウジングの考え方を日本に広げながら、事業性と社会性を両立した事業を確立していくこと。またコミュニティを形作っていくLivEQuality HUBのNPOとしての在り方とネットワークを全国に広げていく方法を模索していくこと。この2つの軸でチャレンジしていきたいです。

そしてゆくゆくは、事業性に加えて社会性も同時に追求することがビジネスの世界でスタンダードになり、社会課題解決型スタートアップやソーシャルビジネスという在り方そのものが当たり前になる、そんな未来展望を描いています。

私はたまたま父の急逝がきっかけで地方の建設会社を承継しましたが、今となってみればそれはギフトだったと思うようになりました。事業承継は今、世の中全体の課題となっていますが、承継した担い手が“その人らしい挑戦”をすることで、過去と未来がつながる側面があります。中小企業とソーシャル事業の親和性は高いと確信していますし、千年建設の取り組みを通じて事業承継のモデルの1つを提示していきたいです。

井野:
教育やコミュニティの創生にもつながる意義のあるお仕事となりそうですね。人間は肩書など「自分が何であるか」がどうしても気になりますが、そうした「Being」より、「自分が何をするのか」、言い換えれば「Doing」に力点を置いている人の周りには、志や質の高い人が集まる傾向がありますし、そこでの関係性は長く続くだろうと感じています。岡本さんはまさに「Doing」を大切に実践されている方ですよね。このような卒業生の存在がPwCにさらに新しい仲間を呼び込んでくれるでしょうし、現役のPwCメンバーにも大きな勇気を与えてくれると思いました。これからも私たちに良い影響を与え続けてください。

岡本:
PwCと会計士業界には、育ててくれた恩をどう返していくか考え続けてきました。何かあればいつでもお力添えさえていただきたいです。

井野:
本日は熱く、とても貴重なお話を聞かせていただきまして、どうもありがとうございました。

プロフィール

岡本拓也

千年建設株式会社 代表取締役社長
株式会社LivEQuality大家さん 代表取締役社長
NPO法人LivEQuality HUB 代表理事

中央青山監査法人に入所後、ベンチャー企業を経て PwCアドバイザリー株式会社(現 PwCアドバイザリー合同会社)に入社し、企業再生アドバイザリー業務に従事。2011年に独立し、東日本大震災直後からSVP東京の代表理事と認定NPOカタリバの常務理事兼事務局長に就任。ソーシャルベンチャーの支援と経営に携わりつつ、内閣府や経産省の審議会委員を務める。

2018年に父の急逝を機に家業の千年建設株式会社を承継。2021年に生活困窮者向けサービス「LivEQuality」を開始する。2022年にはNPO法人LivEQuality HUB、株式会社LivEQuality大家さんを設立し、代表に就任。

その他PwC財団の理事や、多数のソーシャルベンチャー、中間支援団体で社外役員を務める。グロービス経営大学院でソーシャルベンチャーに関する教鞭も取っている。

井野 貴章

PwCあらた有限責任監査法人 代表執行役

1991年に中央新光監査法人に入所。1997年から2000年まで、クーパース&ライブランドの米国ニューヨーク事務所に出向。2007年にあらた監査法人(現PwCあらた有限責任監査法人)の代表社員に就任。執行役品質管理担当、執行役人事担当を経て2020年に代表執行役に就任。

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