
自動車を取り巻く環境が大きな変化を迎えている現在、自動車関連の企業は環境対策の強化やバッテリー式電気自動車(BEV)化の推進、自動運転の実現などに向けた取り組みが求められますが、一つの企業、一つの業界だけでは対応が難しい複雑さを伴っています。これらの変革に取り組むためには、多様なステークホルダーが協力し、一丸となって課題解決を推進する新しいアプローチが必要とされています。
今回は、PwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)のNew business CoEが提供する「戦略策定から実行までをワンストップで支援する伴走型ソリューション」がもたらす価値とその具体的な内容について、3名のコンサルタントが語り合いました。
※法人名、役職、インタビューの内容などは掲載当時のものです。
左から中村 拓人、小河 絵里香、飯嶋 洸貴
飯嶋:
現在、自動車業界はテクノロジーの進化や、気候変動への対応要請などの観点から、大きな変革期を迎えています。特に、カーボンニュートラル達成に向けて、EV化やサーキュラーエコノミー(循環型経済)の推進が強く求められていますが、このような状況下で自動車関連の企業は具体的にどのような課題に取り組む必要があるのでしょうか。
中村:
日本政府は2050年のカーボンニュートラル達成や、2035年までにハイブリッド自動車(HEV)を含めた新車販売100%電動化という目標を掲げています。また、走行時だけでなく製品製造時のCO2排出量も削減する必要があり、これらを規制する法規・ルールの制定が各国で進められ、製造業各社は対応に迫られています。こうした環境面での社会課題解決に取り組むのと同時に、企業としては競争力を維持し続けるため、消費者ニーズを満たす革新的なプロダクト開発や、新たなビジネス領域の探索も求められており、競争環境が大きく変化しつつあります。
小河:
CO2削減という視点では、自動車メーカー単体では解決できない課題も存在します。例えば、New business CoEでは、EVバッテリーの2次利用促進のための支援を行っています。
BEVは走行中のCO2排出量は0ですが、リチウムイオンバッテリー(LiB)の製造段階では多くのCO2が排出されます。そのようなLiBを可能な限り長期利用することは社会全体のCO2排出量削減の観点では非常に重要であり、これを実現するには自動車業界のみならず、LiBの製造事業者や2次利用者となる企業との連携、加えて安全かつ公平にLiBを流通させるための仕組み作りのため国とも連携する必要があります。まさに社会が一致団結して取り組まなければならない課題です。
中村:
そうですね。特に環境に関する課題は、一企業、一業界だけで解決できるものばかりではありません。例えば、LiBの2次利用や資源としての価値は世界的にも強く認められており、極力国内企業で循環させ、海外への流出を防ぐための仕組みを早急に構築する必要があります。他方、こうした取り組みの中、自社の強みを活かし新規事業としてLiBの2次利用ビジネスに参画を望む企業も多く存在しており、目線を変えると新たなビジネスチャンスとも言えます。
しかし現状では、各企業がそれぞれの判断でビジネス展開を模索しており、競争の比重が高く、社会全体から見て非効率な投資を行っているケースや、消費者にとって不公平な部分も見受けられます。そのため、企業同士が協力して業界標準を整備する「協調領域」と差別化を図る「競争領域」、この2つのバランスをしっかり取りながら、社会全体で課題解決に取り組む必要があると考えています。
飯嶋:
なるほど。社会に関わる課題に対応しながらも、市場としての成長も考えないといけないのですね。LiBの2次利用を目指す取り組みでも、先行している企業がある一方で、国内の法規制が整っていないこともあり、難しい課題も多いと感じます。効率的にアプローチするにはどのような方法が良いのでしょうか。
小河:
私たちのような、利害関係に直接関与しない「中立的な立場」が協調と競争のバランスを見ながら、取りまとめ役となることがアプローチとして有効だと考えています。このアプローチにおけるファーストステップとしては、「企業の取り組み」と「社会課題」を紐づけることだと考えています。
飯嶋:
「企業の取り組み」と「社会課題」を紐付け、そこから官民連携で課題解決を実現していくということですが、具体的にはどのようなソリューションを提供しているのでしょうか。
小河:
私たちは、企業が戦略を策定するところから実際に実行に移し成果を出すところまでを伴走してご支援する「ソリューション」を提供しています。具体的な支援内容としては、企業の事業戦略の立案から国が社会課題解決のために公募する実証事業への応札支援、実行段階の伴走までをワンストップで行います。
例えば、企業の事業戦略を立案した後、その戦略やビジョンと合致した公募事業の選定や、申請書類の作成をサポートします。また、実行に向けた伴走として、調査・分析や計画の策定、事業の進捗管理を行うと同時に、課題解決に向けて、他業界も含めて必要な連携企業を巻き込むための協議会設立支援なども行っています。
飯嶋:
戦略策定から実行まで支援するには、さまざまな難しさがあると思います。このソリューションを可能にしているNew business CoE、そしてPwCコンサルティングの強みは、どのような点にあるとお考えですか。
中村:
まず、New business CoEの強みはモビリティを中心とした多種多様な業界における豊富な知見とリレーションです。私たちはライフサイクルアセスメント(LCA)やライフタイムビジネス、エネルギービジネスなど、BEVシフトによる業界変革に直結するテーマに深い知見を持っています。これに加え、業界内外のステークホルダーをつなげるハブとして機能し、社会課題解決に貢献できる点が強みだと自負しています。
さらに、PwCコンサルティング全体の強みとしては、モビリティ領域に限らず、幅広い専門チームが連携できる点が挙げられます。特に官民連携でプロジェクトを立ち上げる際には、官公庁のプロジェクトをけん引する官公庁チームとの連携が非常に強力です。関連省庁の方針や活動状況に関する最新情報を活用することで、プロジェクトを効率よく進めることができます。また、公募申請プロセスや実行段階での複雑な精算業務など、専門的な業務を一任できるため、私たちは本質的な課題に集中して取り組むことが可能になっています。
小河:
私たちのもう一つの大きな強みは、常に俯瞰的な視点を持ちつつ、先を見ながら方向性や戦略を立案し、それを実行までつなげる力があることです。戦略を立てるだけでなく、それをもとに各プレイヤーを調整し巻き込む経験を積んでいるからこそ、現実的で実行可能な戦略を描くことができるのだと自負しています。
飯嶋:
どこと連携すべきか、どのようにアプローチすべきかをクライアントと議論していますが、実現性を見据えた提案の重要性を感じています。経験豊富なPwCコンサルティングのメンバーは、それぞれの強みやコネクションを活かし、さまざまな価値を提供しています。
中村:
今回取り上げている伴走型ソリューションは、今後、テーマを拡充することを大きな目標として掲げています。日本のモビリティ産業が競争力を維持しつつ、サステナブルな社会を実現していくためには、官民連携が必要な課題が多く残されています。そうした種々の社会課題解決に貢献できるよう、取り組むテーマを広げていくことが必要不可欠だと考えています。
また、昨今のビジネスや社会課題解決にはデータの活用は非常に重要で、New business CoEではデータやAI活用に関するテーマの支援にも注力しています。イネーブラーとしてのデータ流通基盤についても、関連する省庁や業界団体とともに議論・検討し、よりよい社会の実現に貢献したいと思います。
中村:
最後に少し視点を変えてお聞きしたいのですが、飯嶋さんは実際にこの「戦略策定から実行までをワンストップで支援する伴走型ソリューション」に携わる中で、どのような魅力ややりがいを感じていますか。
飯嶋:
まず、LCAやエネルギービジネスといった業界変革に直結するビジネスに対して、個人としても戦略から実行まで幅広く携わることができる点は非常に魅力的です。さらに、変革期の最前線でその変化を肌で感じながら、一企業の課題解決にとどまらず、社会課題の解決を目指すスケールの大きいプロジェクトを推進できることは、戦略から実行までを伴走させていただくからこそのやりがいです。また、社内外のプロフェッショナルと協業することで、日々刺激を受けながら新しい知識や発見を吸収できることも、自分にとって大きな成長の糧になっていると実感しています。
中村:
モビリティ産業の変化を実感しながら、多種多様な方々と関わり、さまざまな挑戦ができることは、本当に貴重な経験ですね。では、そのような経験を通して飯嶋さんが描く将来のビジョンはありますか。
飯嶋:
これまで私個人としては主に戦略とデジタルの2つの領域を中心にさまざまなプロジェクトを経験してきました。従って、この2つを掛け合わせた領域をコアに専門性を深め、データやAI活用といったテーマに取り組んでいきたいと考えています。専門性豊かな同僚とともに、さまざまな経験が積めるこの組織であれば、将来のビジョンをより具体化し、自分のコア領域をしっかりと育てていくことができるという確信があります。
中村:
自分自身のコアやビジョンを具体化していくことは重要ですね。みなさん、自分のコアとなる専門性を武器にコネクションや領域を広げていますから、専門性を磨いていくことは非常に大切なことだと思います。PwCコンサルティングには手本となる多くのプロフェッショナルが在籍していますので、そのリソースを最大限活用して頑張ってください。
PwCコンサルティング合同会社 ET-ISマネージャー 中村 拓人
日系大手自動車メーカーでの生産管理、新モデル車両量産準備業務などを経て現職。製造業における現場マネジメント全般に強み。クラウド活用によるアジャイル開発でのデジタル化業務変革を得意とし、BIツールやIoTデバイス、データベース開発経験も有する。直近はEVバリューチェーン変革におけるLCA/カーボンニュートラル対応支援を中心に従事し、LCA対応のためのデータプラットフォーム構築戦略やデータ流通基盤の領域に専門性を有する。
PwCコンサルティング合同会社 ET-ISマネージャー 小河 絵里香
日系コンサルティング・シンクタンク会社にて、自動車業界を中心に、民間企業や業界団体などの戦略策定や市場分析に携わり、2024年より現職。現在は特に自動車業界のカーボンニュートラル・電動化に関するテーマでのコンサルティングを行う。
PwCコンサルティング合同会社 ET-ISシニアアソシエイト 飯嶋 洸貴
新卒でPwCコンサルティング合同会社に入社。自動車産業において、モビリティ×エネルギー領域を中心とした新規事業戦略策定から、デジタル化業務変革の実行支援まで幅広いプロジェクトに従事。
官公庁の公募事業の伴走支援やBIツール・IoTデータ収集の基盤開発、データ活用のPoC支援等の経験も有する。