e-fuel(合成燃料)普及の可能性と商用化に向けた支援

世界各国でカーボンニュートラルを目指す動きが加速する中、自動車業界においても取り組みの推進が急務となっています。

自動車のカーボンニュートラル化を目指すうえでは、BEV(電気自動車)やFCEV(水素燃料電池車)は走行時のCO2排出量ゼロを可能にしますが、製造から廃棄に至るまでのLCA(ライフサイクルアセスメント)の観点でカーボンニュートラルを目指すためのソリューションはBEV/FCEV(新車)一辺倒ではなく、内燃機関を搭載する車両(新車・既販車)も考慮した対応が求められます。

PwCは、内燃機関を搭載する車両におけるカーボンニュートラル化のソリューションの1つである「e-fuel(合成燃料)」の商用化を、戦略策定から個別事情に基づいた課題抽出、実証事業の推進まで一貫して支援します。

カーボンニュートラルに向けた日本の動き

日本では2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」を目指し、2020年10月に菅政権(当時)が「2050年カーボンニュートラル宣言」を表明しました。また、経済産業省が中心となり、関係省庁と連携して「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」(以下、グリーン成長戦略)が策定されました。グリーン成長戦略では実行計画として14分野が定義され、自動車分野も含まれています。目標は、「2040年までに電動車と合成燃料等の脱炭素燃料の利用に適した車両で合わせて100%とすること」で、エネルギー密度が高く、可搬性があり既存インフラを活用できる、という点でe-fuelの利活用に関する言及がなされています。

NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)は2022年度より2030年度(予定)にて技術開発プロジェクトとして1,200億円規模で合成燃料等の燃料技術開発の支援を行うことを明らかにしています。燃料生成・利活用に関わる技術開発への支援事業が行われています。

2023年には6年ぶりに「水素基本戦略」が改定され、水素のサプライチェーン構築・強化、水素を原料として生成されるe-fuelの研究開発の推進、供給の強化、需要創出に関する言及がなされています。

2023年の内閣府による「経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針)」においては、2030年代前半までにe-fuelを含む合成燃料の商用化を目指すことが明らかにされています。

運輸部門におけるカーボンニュートラルを実現する手段として、e-fuel(合成燃料)の活用は政府・関連団体の主要な柱となっていることが分かります。

欧州の動き

2021年7月に欧州委員会では、2035年以降の新車登録をゼロエミッション車に限定する方針を示しました。しかし、ドイツ、イタリアなどの複数国からの反対を受け、2023年3月には再生エネルギー由来の原料を使用するe-fuelを使用する場合に限り、2035年以降も内燃機関を搭載する車両の販売を容認する方針へと転換を図りました。

e-fuelとは?

合成燃料とは、二酸化炭素(CO₂)と水素(H₂)を合成して人工的に生成される燃料のことです。そのなかでも、再生可能エネルギーにより生成された水素を材料とする合成燃料を「e-fuel」と呼びます。

現在、CO₂は工場などから排出されるものを回収(CCU*¹:二酸化炭素回収利用)、H₂は化石燃料から生成されています。しかし、カーボンニュートラルを実現し、「e-fuel」を生成するためには、CO₂を大気中から回収し(DAC*²)、H₂は再生可能エネルギーを使用して水から生成(水電解)して調達することが求められます。

e-fuelの商用化に向けた課題

e-fuelの商品化に向けては、以下の6点が主な課題であるといえます。

1 原料調達

現在のe-fuelの生成コストは700円/L程度と推計されますが、そのうち約90%がH₂の調達コストです。H₂を大量かつ安価に調達することがe-fuelの精製コスト低減に直結します。

また、再生可能エネルギー由来のH₂を材料としなければe-fuelと定義されないため、再エネを活用した国内H₂製造基盤の確立や装置コストの一層の削減が求められます。

2供給量の確保と生産性の向上

e-fuelを大量かつ安定的に供給するには、原料であるH₂、CO₂の安定調達と併せて、ムダなく効率的に合成燃料を生成することが重要となります。経済産業省では2040年までに収率*³=80%を目標としています。

3 品質担保

市場に流通するe-fuelの品質を担保するためのルール・規格は定められていません。現在、ガソリン等には「揮発油等の品質の確保等に関する法律」(品質確保法)、JIS規格(JIS K2202)において品質が規定されています。e-fuelでも同様に対応していくことが求められます。

4 物流・貯蔵

e-fuelを運搬・貯蔵する際、既存のガソリンスタンド等のインフラを活用することが見込まれますが、従来の自動車用燃料(ガソリン、軽油)との管理方法の棲み分けに関わるルールの策定が求められます。

5 販売・使用を促す施策

将来的に既存燃料が併売されていくことやBEVの価格低減が進むことを想定すると、現状の推計価格ではe-fuelの普及には限界があることが考えられます。政府による補助金や税制優遇等の施策により販売者、使用者双方に販売・使用を促すインセンティブの導入が求められます。

6 車両への対応

e-fuelの燃料性状(熱容量、オクタン価等)が既存の燃料と異なるため、e-fuelを使用した際に運転性(動力、始動性、振動等)、環境性能(燃費・排ガス等)への影響度合いや適合性を検証する必要があります。また、既販車への使用も想定する場合には、市場に流通する車両の劣化度合いも考慮した検証も求められます。

既存燃料と混合して使用する場合は、車両部品への影響の検証が求められます。特にエタノールが含まれる場合、エンジン本体・燃料供給系部品に使用される金属の腐食、ゴムの劣化を引き起こす可能性があります。

バイオエタノールが先行事例として参考となります。南米や欧州の一部地域では混合比10%以上の燃料(E10)が販売されていますが、搭載部品に対策を施した車両の使用が推奨されています。一方、日本では車両部品への影響を及ぼさないよう、比較的低混合比の最大3%のエタノールを混合(E3)したものが一般的に使用されています。

e-fuelの将来展望(生産量)

日本ではe-fuelの商用化に向けたロードマップとして、2025年にベンチプラントによる実証(年産0.06千kL)、2028年にパイロットプラントによる実証(年産20千kL)、2030年代半ばに商品化・生産量の拡大(年産600千kL)を目標として設定しています。

自動車用燃料としては、日本自動車工業会は2050年時点で2020年の自動車用燃料総量の約20%が合成燃料に置き換わるというシナリオを描きます。

現状の石油利用における自動車用途比率で推移すると仮定した場合、2050年時点で自工会の想定するe-fuel需要は充足できると想定できます。

e-fuelの将来展望(コスト)

上述した通り、現在のe-fuelの生成コストは700円/L程度と推計され、その約90%がH₂の調達コストです。将来的にはH₂が大量かつ安価に供給される見通しであり、2050年には現在のレギュラーガソリンと同等の価格である170円/Lになると推計できます。ただ、生成時の収率が向上しない場合、価格が上振れる可能性があります。

e-fuel商用化のためのソリューション

PwCは、業界動向の変化により生じる日本特有の課題やニーズに対する深い理解に基づく独自のアプローチとソリューションにより、e-fuelの商用化に向けた戦略策定から個別事情に基づいた課題抽出、実証事業の推進に至る幅広い分野を一貫してサポートします。

PwCの支援領域

戦略策定から実証事業の推進に至る幅広い分野・フェーズにて支援が可能です。

  • 研究・開発PMO支援、実証推進PMO推進
    • 研究開発・実証事業の目的・目標に沿った取り組みの工程管理(プロジェクト管理、課題・リスク管理等のアドバイザリー支援)など
    • 海外動向等の調査 など
  • サプライチェーン横断トランジション方針策定支援
    • 原料調達~製造~販売までのサプライチェーンにおける「ありたい姿」の定義支援
    • 天然・e-fuelの販売棲み分けに向けた価格施策検討支援 など
  • e-fuelの普及拡大方針の策定支援
    • 既存ガソリンと比較した際のユーザー目線での優位性の整理
    • 差異化方針策定支援 など

将来的なロードマップやe-fuelの需給のバランスに係る情報、PwCの支援領域の詳細については下記リンクよりPDFファイルをダウンロードしてください。

*1:Carbon dioxide Capture and Utilization

*2:Direct Air Capture

*3:化学合成において、理論上得ることが可能なその物質の最大量に対する実際量の比率

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主要メンバー

矢澤 嘉治

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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藤田 裕二

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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村松 哲郎

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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石河 雄太

シニアアソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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