スマートモビリティおよびインフラ領域における中東進出支援

はじめに

中東および北アフリカ諸国(MENA:Middle East & North Africa)のGDPは過去20年間で約4倍に拡大しており、その規模は2022年には日本やASEANを超えるなど、急激に経済が成長しています。実際に、欧米企業を中心に投資が急拡大しており、中国企業の展開も目立ちつつあります。

MENAの中で巨大な経済圏を持つ中東・湾岸協力理事会(GCC)加盟国は、石油などの資源産業からの転換を、強い危機感を持って推進しています。例えばサウジアラビアでは「Saudi Vision 2030」を策定し、2030年までに日本の国家予算2年分にも匹敵する約200兆円規模の投資を計画し、実行に移しています。「Saudi Vision 2030」には「NEOM」をはじめとする最先端技術を駆使したサステナブルなスマートシティの建設プロジェクトや、国内の産業多角化に向けた外資企業誘致策など、さまざまな取り組みが含まれています。

その中で、特にBEV、ICEを含む自動車製造(部品含む)や自動運転技術などを含めたモビリティ産業や、水インフラをはじめとする基礎インフラに対する技術、知見の需要は非常に高く、これらは日本企業の得意領域です。

PwCは中東・北アフリカ諸国において23の拠点を展開し、10,000人を超えるスタッフを抱えています。私たちはこのネットワークを活用し、現地の商習慣への順応や地域でビジネスをする上でのリスク対応を含め、日本企業の現地進出に向けた支援を包括的に提供しています。

中東・GCC概況

MENAでは近年、人口の増加や市場の成長が急速に進んでおり、日本やASEANを超える市場となっています。

その中でも、中東のサウジアラビア、アラブ首長国連邦、オマーン、クウェート、カタール、バーレーンの6カ国で構成される湾岸協力理事会(GCC)は特に経済規模が大きく、GCC全体のGDPは約2.2兆米ドルとなっており、1人当たりGDPは約4万米ドルで、日本の3.4万米ドルを超えています。

GCC諸国は2010年頃より「脱石油」「経済多角化」「自国民雇用確保」を掲げ、自国の経済成長を目指す経済開発ビジョンを立案し、推進しています。

特にG20唯一の中東国家であるサウジアラビアは、「人口」「GDP」「GDPに対する国家支出比率」がGCC内で突出しており、政府主導の国家プロジェクトが複数推進されているなど、魅力的な投資先として注目されています。

図表1 MENAの人口増加・市場拡大の概況
図表2 GCC加盟国における人口動態・経済状況比較

サウジアラビアにおけるオポチュニティ

石油依存体質から脱却し、包括的発展を実現するためにサウジアラビア政府は2016年4月に成長戦略「Saudi Vision2030」を発表し、これを柱として大きな社会変革が起きています。そして以下の要因により、日本企業を含む外資系企業にとってはオポチュニティがあると言えます。

  • Politics(政治的要因):外資系企業に対する各種優遇政策や、「日・サウジ・ビジョン2030」を公開するなど、サウジアラビアと日本の政府間においても、関係強化の動きが見られます。
  • Economy(経済的要因):GCCで最大となる1兆1,081億米ドルのGDPを誇り、2030年までの年平均成長率は4%と予測されています。
  • Society(社会的要因):女性の自動車運転免許証の解禁や女性の労働参画、また一部地域でアルコール販売店が開設されるなど社会的変化が起きています。
  • Technology(技術的要因):政府のテクノロジーへの支出として約247億米ドルを見込み、国家支出の21.7%を占める(世界最高値)など、最先端技術に対する高い関心と多くの投資があります。

サウジアラビアをはじめとするGCCにおいては、特に日本企業の得意領域であるモビリティ産業において参入機会が多くあります。市場の大きさや高い成長率、日本製品に対する信頼度の高さといった販売市場としての魅力のみならず、生産拠点としての魅力もあります。モビリティ産業は政府の重点産業であり、2030年までに外資企業の誘致などに1,100億米ドルを投資し、①乗用車生産②大型商用車生産③自動車部品生産④リチウムイオン電池生産を国内にて実施することを目指しています。また、各地で建設が進められているスマートシティにおいても、自動運転をはじめとする最先端のモビリティ技術の需要が多く存在します。

また、サウジアラビアは人口増加や農業用水拡大などを背景に、水インフラ市場の急激な成長が見込まれます。制度面からの後押しも強く、国家戦略であるNational Water Strategy 2030では800億米ドルの予算のもと、各種プログラムが進行中です。近年は①「再生水再利用」、②「環境配慮型海水淡水化」、③「水処理プラントの最適運用・省エネ」が主要テーマとして上がり、当該領域における海外技術・ナレッジを誘致する動きが活発化していることから、日本企業が得意とする水処理膜・部品・機器や高品質EPCやO&Mを強みとした参入拡大が期待されます。

図表4 MENAにおける水インフラ業界のポテンシャル

進出に向けて

サウジアラビアなどの中東進出に向けては、事業化決定までに十分なフィージビリティスタディと戦略策定を実施し、事業開始に向けて事業計画の策定など、各種準備を行うことが必要となります。進出にあたっては、以下の4点が主な課題であると想定しています。

1. ビジネス構築

信頼できるパートナー企業や優秀な人材を確保するためには、信頼できる現地企業の仲介が重要となります。また、原材料や部品の確保にあたっては、関税免除などの優遇措置を利用し、周辺諸国を含めたサプライチェーンを構築することが重要となります。

2. 補助金などの優遇措置の活用

政府は産業の多角化に向けて多額の補助金や優遇措置を準備しています。政府や政府系企業と強固なリレーションを構築し、優遇措置を十分に活用することが重要となります。

3. 文化的障壁

提案依頼の際に明確な仕様書がクライアントより提示されないなど、日本とは商習慣が大きく異なる部分があります。サウジアラビアの企業は最先端の技術を好む傾向があるため、自社が強みとする技術をアピールすることが重要となります。

4. リスク管理

地政学リスクや国家プロジェクトの持続性などに関するリスクに対しては、駐在員の安全確保を含めたBCPの策定や撤退戦略の立案を事前に十分に実施しておくことが重要となります。

PwCの支援領域

PwCは中東における豊富な支援実績とグローバルネットワークを活用し、日本企業が現地に進出するにあたって必要となるエコシステム全体の構築を支援することが可能です。

  • 事業戦略・構築支援:中東におけるビジネス環境を意識した事業化を支援
    • 外部環境の基礎調査および事業化可能性の検討
    • マーケティング/アライアンス戦略の策定およびオペレーションモデルの設計 など
  • リスク管理支援:地域での不確実性への確実な対処を支援
    • 地政学情報の提供
    • BCP策定
    • 撤退戦略策定
  • 各種法規・税務・補助金対応支援:優遇措置の最大限の活用を支援
    • 税制調査および税務戦略の策定
    • 法人設立
    • 各種許認可申請 など
  • 中東進出PMO支援:フィージビリティスタディから事業化まで一貫した支援
    • 各種ステークホルダマネジメント
    • 現地企業の紹介
    • パートナー企業の選定 など

MENA、GCC、サウジアラビアにおける日本企業にとっての具体的な参入機会や課題、PwCとして提供可能なサービスの詳細については下記リンクよりPDFファイルをダウンロードしてください。

スマートモビリティおよびインフラ領域における中東進出支援

主要メンバー

矢澤 嘉治

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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藤田 裕二

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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山口 茉吏王

シニアアソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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