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日本のエンタテイメント&メディア(E&M)業界は良質なコンテンツを長年にわたって生み出し続け、国内外で注目を集めてきました。政府も主要な産業へと育てるべく、20年以上かけて「クールジャパン戦略」などに取り組み、産業界を後押ししています。
この間、EC(電子商取引)やSNS、SVOD(サブスクリプション・ビデオ・オン・デマンド)といった新サービスが急速に普及。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による巣ごもり需要も掛け合わさり、世界におけるコンテンツ市場は急速に拡大しました。今後は勢いが減速しつつも2027年にかけて3.6%の年平均成長率を維持し、業界全体の収益は2兆8,000億米ドルまで増加する見通しです。
これに対し、日本市場の年平均成長率は2.1%と振るいません。市場規模は依然として米国と中国に次ぐ3位を維持する見通しですが、相対的に存在感を下げていくことが確実視されています。急速な少子高齢化や人口減少に見舞われる日本市場の宿命と言えるかもしれません。しかし、米国や英国、そして急伸する韓国のようにE&M産業の国際競争力を高め、グローバル市場でコンテンツを流通させることによって経済としての成長を遂げる道筋もあります。
E&Mを含む多くの日本の産業は現在、人口増加と高い経済成長が前提だった時代の競争環境を温存し続け、全体が低成長、あるいは縮小する中で互いにシェアを奪い合う消耗戦に明け暮れています。この状況を打破するには、どのような戦略を打ち立てるべきでしょうか。
過去を振り返れば、国内市場で切磋琢磨して生み出された日本の工業製品の多くは、高い品質と充実した性能を備えましたが、やがて過剰品質や単なるモノ売りに終始するといったあい路に入り込みました。結果、新たなデジタルテクノロジーやファイナンス手法を活用した新興国企業が、政府の支援も得つつグローバル市場向けに大量生産した製品を投入すると、日本企業は太刀打ちできず市場と事業から撤退するケースが相次ぎます。
逆説的になりますが、E&M産業においては、日本特有の過剰品質が製品(コンテンツ)の高い評価につながり、世界で注目を集めることとなりました。工業製品とは異なり、高度な技能を持つ人材による労働集約的なアプローチが依然として主流であることや、知的財産という性質を活用したマルチメディア展開のほか、グッズやイベントなど多様な形態でコンテンツを波及させる手法の発達などが背景にあります。熱狂的なファンによって全世界的に勃興する「ファンダム」や「推し活」といった新たな消費スタイルと呼応するビジネスモデルは、モノ売りに終始したかつての製造業とは対極の位置にあり、世界の各地で新たな需要を次々と生み出しています。
もっとも、これらのコンテンツを本格的に世界に広げたのは、残念ながら日本の事業者ではなく、SVODやSNSなどを提供するグローバルプレーヤーでした。これらの事業者は映像配信料や会話の合間に挟み込まれる広告から収益を得るビジネスモデルのため、会員獲得や利用拡大に向けたオリジナルコンテンツ制作への巨額な投資を惜しみません。その一方で、周辺の製品やサービスを網羅的に集中投下する日本特有のビジネスモデルであるメディアミックスには手を出さずにいます。日本の作品だけが独り歩きして世界中に広まっており、関連コンテンツの展開では日本企業が果実を得にくい状態だと言えるでしょう。
こうした状況を解消して海外市場に成長の活路を見いだすには、日本のE&M産業とそのサポーターが足並みをそろえ、コンテンツ以外の領域で繰り広げている消耗戦から脱却する必要があります。ただ、加速するテクノロジーの進化によって世界におけるエンタテイメントのあり方は急速に変化しており、悠長に取り組んでいる余裕はありません。ハードローやソフトロー、ファイナンスなど業界外からの働きかけや支援が不可欠です。
日本のE&M産業のうち、コンテンツ産業に焦点を当てて解説します。
日本国内では、コンテンツへ投資し(資本:Capital)、コンテンツを創り(創作:Creator)、配る(配給:Channel)ことを通じて、生活者による所有(Commerce)・体験(Community)として消費され、再び新たなコンテンツの創出へ還るという循環が、メディア生態系の一部として複数の企業の有機的な連携によって実現しています。
私たちPwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)のエンタテイメント&メディア・インダストリー・イニシアチブは、このコンテンツを巡る生態系に注目し、このモデルごと国外に輸出(あるいは、現地で再構築)することが重要であると考えています。
※PwCコンサルティングはコンテンツの生態系モデルとして、コンテンツ(Content)を取り巻くCapital/Creator/Channel/Commerce/Community を図表のとおり整理しました。PwCコンサルティングはコンテンツと、それを取り巻く5つのC(5C)として本モデルを略記します。
PwCコンサルティングはコンテンツの生態系モデル(コンテンツと5C)や全世界151カ国のPwCグローバルネットワークなどを活用し、コンテンツを取り巻くあらゆる企業の成長を促進し、国内市場のみならず海外市場における事業拡大をサポートします。
コンテンツの生態系モデル(コンテンツと5C)の活用に加えて、私たちは「国内市場・海外市場」と「川上(企画・製作)・川中(制作・流通)・川下(接触・消費)」の2つの観点から、以下の4つのテーマで活動し、E&M業界内外からの働きかけ・支援を予定しています。
国内の多様なコンテンツを海外市場で展開し、十分な収益を獲得するための要諦を明らかにしていきます
現在主流である製作委員会方式の課題を洗い出すほか、制度や資金調達の手法などを高度化するための施策を提言します
既存のメディアに加えて、SVODなど新たなネットサービスが勃興したことで複雑化したメディア環境下における最適な流通と評価方法を検討します
能動的な消費者たちが形成するファンダムの成立と連携がヒットの要件となる中、データを活用したマネジメントのあるべき姿を模索します
これらのテーマごとに各種調査レポートを発信するほか、産官学での有志が討議する研究会を設けることで、さまざまな提言やコンサルティング活動につなげます。
日本のE&M産業が持つ長所を温存したまま、成長する海外市場の開拓に踏み出すための業界の態勢を整え、それを後押しする環境や制度を構築する――。これこそが、PwCコンサルティングが新たに立ち上げた「エンタテイメント&メディア・インダストリー・イニシアチブ」の掲げる目標です。PwCがグローバルで培った知見やグループ横断のケイパビリティを活用するだけでなく、学術界や業界団体、官公庁を含めた幅広いステークホルダーと協働し、E&M産業が新たな成長ステージに進むための一翼を担いたいと考えています。