ブロックチェーン:ビジネスにおける重点検討事項

ブロックチェーンは、多くの業界を破壊(ディスラプション)にも改善にも導きうる、革新的な最新テクノロジーです。期待される効果として、コスト削減、二重取引の防止、取引速度の向上、レジリエンス(耐障害性)の強化などが挙げられます。

潜在的な影響が広範囲に及ぶことを考えると、経営戦略とテクノロジー戦略の両面でブロックチェーンにアプローチすべきです。

ブロックチェーンを取り巻く状況が急速に変化する中、今こそが重点項目の検討にとりかかる好機といえます。

重要検討事項

ブロックチェーン戦略を成功に導くには、以下三つの要点を考慮する必要があります。

  • 後悔する投資支出の回避
  • Go-Live Assurance(確実な立ち上げ)
  • レガシーシステムとの統合

ブロックチェーンの導入を検討するか、せずに後で悔やむか

ブロックチェーンの導入はますます勢いを増し、加速しています。しかしその盛り上がりと同時に、通常業務において「仕事を中断しない」ことが決定的に重要であることを忘れてはなりません。最新技術がいかに急速に市場に導入されようと、その後もずっと旧来型のIT環境を使い続ける企業が多いはずです。そこでCIOの皆さんに是非お考えいただきたいことが、「現在の環境を維持しつつ将来の計画を立てる方法」です。

導入時期の判断

ブロックチェーンが、多くの業界に革新的な影響をもたらすであろうことに疑いの余地はありません。問題は、それがいつかということです。

慎重派のCIOの皆さんであれば、ブロックチェーン導入のイニシアティブが十分に理解されるまでは、ブロックチェーンへの投資は控えようという結論に至るかもしれません。しかし、新たなアイディアと投資の波が毎週のように出てくる現状を考えると、状況が安定するのを待っている間に、極めて重要なチャンスと競争優位を逃すリスクに直面してしまうかもしれません。

CIO/CTOのとるべきアクション

  1. レーダーの配備
    ブロックチェーンに係るイニシアティブが現時点で最も集中し、最も急速に進行している分野を把握すること。
  2. 逃したチャンスの確認
    事業全体を俯瞰し、高いポテンシャルを持つにもかかわらずこれまで見逃されてきたエリアについて検討すること。これは現在のレーダーの範囲のさらに遠くまでを見通し、「次の大ブーム」を見つけるために役立つ。
  3. 新技術採用の複雑度の分類
    新技術採用の複雑さはスケジュールを左右する主な要因の一つである。協業すべき関係者の数と、関係者間の利害を調整する能力は、技術面の検討よりもはるかに大きな役割を果たす。
  4. 現在の環境の位置づけ
    現在の技術環境を上記三項目と照らし合わせ、短中期的に最も影響を受けると考えられるアプリケーションを特定する。
  5. アーキテクチャの選択肢の策定
    社内向け、社外向け各機能別に分けてアーキテクチャの選択肢を策定することで、設計ミスによる後悔を最小限にとどめることができるだろう。これを達成するには、従来のレガシービジネスの技術チームとブロックチェーン開発者やアーキテクトとの連携が欠かせない。

上記は、いずれも簡単なことでありません。しかし、いま真剣に取り組み、2017年以降の予算使途を決めるIT予算サイクルにこれらを組み込むことが、「後悔する投資支出」、すなわちシステムに資金を投じてしまった後でブロックチェーンが牽引する市場の変化に対応するための手直しが必要になる、という事態を避けるための唯一の方法なのです。

ブロックチェーンのGo-Live Assurance(確実な運用開始)に向けて

PwCが実施したグローバルフィンテックレポートに回答を寄せてくださったシニアFSリーダーのほとんどの方がブロックチェーン技術の重要性を認識されていましたが、よく知っている、または習熟している、という回答はわずか17%にとどまっています。

最新技術を採用しようとする際、不慣れや知識不足が原因で採用が遅れることがあります。しかし、導入とGo-Live Assuranceに向けた正しいプランニングを実施すれば、ブロックチェーン技術のリスクに対する心配が原因で遅れが生じるという事態を避けることができます。

リスクの特定と軽減

アジャイル開発、概念実証、パイロット試験を通じ、自社におけるブロックチェーン技術の運用方法について繰り返しテストを行うことにより、技術開発プロセス全体を通じてリスクを特定し、それらを除去、または軽減することができます。

技術のストレステスト

技術チームは機能面の検証に加え、レジリエンスについて確信を持てるレベルまで、ブロックチェーン技術、およびブロックチェーンと統合/併存するシステムのストレステストを実施しましょう。

システム復旧プランの策定

エラー発生時に備えて復旧プランを準備し、予期せぬ事態に備えましょう。適切な復旧プランがあれば、エラーの度合いに応じて柔軟に対応でき、システムを迅速に復旧させて再稼働し、中断を最低限に抑えることができます。

技術面以外の検討事項

技術のことだけ考えてもいけません。関連する税金、規制、法律などに関する事項の検討も忘れずに行いましょう。事前に対処できることもありますが、技術とその用途、ユーザーの発展につれて変化するものがほとんどです。しかし、適切な専門家の助言を仰ぎ、技術とビジネスの選択肢に適度な柔軟性を取り入れることにより、この点についても事前の計画が可能になります。

スキルの伝承とトレーニング

日々の業務に携わる多くのスタッフ、フロントエンドの担当者は影響を感じないかもしれません。しかし、バックエンドを担当するスタッフにはトレーニングが必要になることがあります。スキルの向上、持続、継承を見据えた中長期計画を検討すべき時は今です。人事上のリスクを抑えるためにも、変化に対応する時間を計算に入れておきましょう。

ブロックチェーンとレガシーシステムの統合

多くのビジネスにおいて、ブロックチェーンはトランザクションやデータ共有などの重要なプロセスを改善する可能性を秘めています。ここでCIOやCTOの皆さんに是非お考えいただきたいのは、ブロックチェーンがレガシーシステムにどのような影響を与えるか、ということです。

レガシーシステムは現時点では日々のビジネスに不可欠なため、ビジネスにおけるテクノロジーとプロセス全体を踏まえた広い視野からブロックチェーン導入の影響を検討し、最新技術と既存の技術を上手く、スムーズに統合する必要があります。

ビジネス全体への影響

  • ビジネスの拡大に与える影響について検討
  • ビジネスプロセスの定義(社内と関係者間の両面)
  • ポリシー、ガバナンス、コントロールの改定または新規策定

ブロックチェーンとレガシー環境との相互作用の評価

  • ブロックチェーンが既存システムの一要素になる可能性
  • ブロックチェーンが既存システムの一部または全部を更改する可能性
  • ブロックチェーンが既存システムと併存する別個のシステムになる可能性

ブロックチェーン技術の選択

ブロックチェーン技術の選択にあたっては、現在のアーキテクチャとどのように統合するかを考慮し、それに伴う適切な製品の選択と設計が重要。

ブロックチェーンの導入と統合

  • ブロックチェーン技術の導入は、変貌を遂げるための変化過程の一部にすぎない
  • 他の技術の場合と同様に、段階的に導入を検討
  • 現在と将来のビジネスにどのような影響を与えうるかを検討

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主要メンバー

鈴木 智佳子

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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