デジタルを活用した経費管理の効率化とガバナンスの高度化支援

金融機関におけるペーパーレス文化浸透の必要性

昨今、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響からリモートワークの環境を整備することが多くの企業にとって必須事項となっています。金融機関でもリモートワークの導入が進められていますが、いまだ完全に移行したとは言い難い状況です。リモートワークを阻む一因として、金融業界がこれまで業務の前提としてきた紙・ハンコの社内文化があります。各金融機関は、印刷物の定量的な削減目標を部署単位で設けるなど、ペーパーレス文化を根付かせるための施策を試みていますが、紙に印刷して数値を確認するという慣れ親しんだ方法の方が業務を進めやすいといった理由により、ペーパーレス化への心理的な壁はいまだ高いと考えられます。真にペーパーレスを実現するには、実業務が削減され効率的になったことを一人一人が実感できる施策が有効です。こうした中、2020年10月に施行された電子帳簿保存法(電帳法)改正は、経費精算業務におけるデータ活用を通じてペーパーレス文化を推進する一つの契機となり得ます。

またペーパーレス化・データ化の次の段階として、データ化された経費精算の明細データや勤怠データなどの他のデータを活用したデータ分析によるガバナンスの高度化を図っていくことで、さらなる効果が期待できます。

電子帳簿保存法改正対応としての経費精算業務のペーパーレス化

2020年10月に施行された電子帳簿保存法改正により、紙の領収書の代替としてカード会社からの利用明細データを使用できるようになりました。通常、カード会社からの利用明細には日付、金額、支払先が明記されており、これらのデータを税務上の要件を充足したシステムで管理して、経費精算に活用します。

例えば営業職員がタクシーを利用し、コーポレートカードなどで精算した際、紙の領収書を受領しなくとも、データをタクシー会社からカード会社へ、カード会社から自社の経費精算システムへと連携させることで、経費精算に活用することができます。

電子帳簿保存法改正対応としての 経費精算業務のペーパーレス化

カード会社からの利用明細データを活用した経費精算

経費管理プロセスの標準化と経費データの整備

金融機関の経費管理においては、交通費や交際費などの従業員立替経費精算にとどまらず、購買業者や業務委託先への請求書払いの経費についても、ペーパーレス化による業務効率の向上が期待できます。

一般に請求書払いは、ワークフローシステムで事前に承認を得たうえで、請求書を受領した後に支払処理、会計システムへのデータ入力・データ連携が行われます。しかし、一定の割合で紙の請求書があることもあり、ワークフローシステムに入力したデータをプリントアウトし、押印した上で、請求書とともに承認に回付する業務フローを運用している金融機関があります。こちらも立替経費精算と同様に、発注や請求の自動化・ペーパーレス化による業務効率の向上を検討する余地があります。

また金融機関では、請求書払いの経費管理が各部署で行われていることが多くあります。部署ごと・費目ごとで異なるプロセスやシステムを利用している場合や、同一のシステムを利用していてもデータ入力・連携などの業務プロセスが部署ごとに個別最適化されている場合があります。こうしたケースでは、入力・管理データにバラつきがあり、全社的に業務上の非効率が生じているとともに、同一の費目であっても部門横断的な経費分析が困難となっていることがあります。さらに、同一部署・同一費目であっても、例えば例外的な緊急支払処理として、システム外で処理後に会計システムに支払結果データのみを入力して処理をすることが許容されているなど、ルールやシステム上の抜け道があることもあります。
製造業では旧来から購買機能の標準化・集約化が進んでいましたが、近年は金融機関でも集中購買管理を行う部署を設置している場合があります。購買管理部署に共通ルールの下でのオペレーションと一定額以上の承認権限を集約することにより、購買業務の全社的な効率化、共通データを用いた経費内容分析や不正検知分析などの高度化が実現できる可能性があります。

経費データを活用したガバナンスの高度化

ペーパーレス施策などのデータ化による業務効率化の次に目指すべきステップとして、経費データの分析、特にデータを活用した経費不正に関わるガバナンスの高度化が挙げられます。

従来、金融機関の経費不正対応においては、不正の発覚(損失の発生)後の事後的な調査や是正措置に多くの社内リソースが費やされてきました。一方、経費業務のデジタル化が進んだ段階でのガバナンス体制のもとでは、整備されたデータを活用することで、不正の予兆や要因となる指標データを把握・分析し、不正事象発生後の対応施策ではなく、不正が起こらないための予防的な施策や統制に社内のリソースをシフトできます。

不正検知で具体的に取り扱うデータとしては、経費の明細データに加えて、従業員の出退勤時刻・残業時間などの勤怠管理システムや、所属・業務内容・勤続年数等の人事システムなどからのデータが有効です。これらのデータの組み合わせの傾向から、各金融機関固有の不正予測モデルを構築することが可能になります。この不正予測モデルによるモニタリングやそれに基づく事前措置により、事後措置・再発防止策よりも効率的・効果的に経費不正を抑止することができます。またこうしたデータ分析に基づく不正予測モデルによる検知態勢を構築していると社内で周知すること自体が牽制となり、不正経費利用の絶対量が削減され、トータルでのコスト削減につながることが見込まれます。

経費データを活用した 不正予測・検知

経費データを活用した不正予測・検知

PwCのアプローチとサービス:ペーパーレス化からガバナンス高度化まで、段階に応じた支援が可能

ペーパーレスに向けた取り組みから最大限の成果を得るためには、足元の電子帳簿保存法の法対応のみにとどめるのか、デジタル化に伴う業務効率化の実現やデータを用いたガバナンス高度化まで見据えるのか、といった最終的な目標を設定し、自社のデータ整備状況・リソース状況に応じて現実的な実行ステップを計画・推進することが不可欠です。

PwCでは、金融機関の課題に対する理解とデータ活用・ガバナンスの専門性を兼ね備えたチームによって、各金融機関の状況に合わせた最適な提案・支援を行います。

主要メンバー

三村 知昭

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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堀田 明彦

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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