デジタルによる破壊的変化

AIデバイド―AI活用の勝者になるために

コロナ禍においてAI活用の二極化が加速する中、いかにして勝者となるか?

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大による顕著な影響のひとつとして、リモートワークやオンラインでの販売・購入などデジタルチャネルの利用の急増が挙げられます。一方、それほど表面化していないものの、こうした急増に乗じて増加したものがもうひとつあります。企業による先進アナリティクス(英語)、オートメーション、人工知能(AI)の導入です。企業のリーダーが不確実性の高い状況において意思決定を行う際、平常時の業務データや頼るべき経験もなく、精神的または時間的なプレッシャーにも直面する中で、そうしたテクノロジーの活用が進んだのです。 

PwCが最近実施した調査でも、AIは新しいデータを迅速に収集し、そのパターンを分析し、知見および予測ガイダンスを提供する能力を持つことから、市場において差別化を図る上でその有用さが指摘されています。実際、コロナ禍において、企業が製品のイノベーションを加速させ、非接触の販売形態や顧客サービスに向けた重要な戦略を策定し、サプライチェーンの有効性を高めていく上で、AIが力を発揮しています。その結果、AIツールの活用が進んでいる企業とそうでない企業とでは、パフォーマンス面で格差(すなわち「AIデバイド」)が拡大しつつあります1 。さらに、PwCの調査結果は、今すぐにAIの活用やAIへの投資を本格的に実施することが、アフターコロナにおいてパフォーマンスをさらに高める土台となることを示しており、結果としてAIデバイドがさらに拡大していく可能性を示唆しています。

多くの企業はAIを一部業務に導入している段階ですが、AIを完全に業務に組み込んでいる先進企業はさまざまなメリットを得ています。

「自社にAIを導入している」と答えた回答者の割合

AI活用成熟度

  • AIを導入していない20%
  • AIを広範囲の業務に組み込んでいる25%
  • AIの一部業務への導入を始めている

    55%
5本以上 AIアプリケーションを導入しており、その数は10本以上である場合も多い(試験導入段階の企業は1~4本)
29%AIをリスク管理に完全に組み込み、業務を自動化している(全体では12%)
60%モデリングにおけるアルゴリズムバイアスの発生防止に注力している(全体では36%)

インテリジェンスデバイドの拡大

PwCは、COVID-19危機を通じたAI導入の目的と影響を深く理解するために、全世界の経営層1,018人を対象に調査を実施しました。COVID-19によって事業が「マイナスの影響を受けた」という回答と、「プラスの影響を受けた」という回答はほぼ同数でしたが2 、「プラスの影響を受けた」と答えた企業には大企業(収益100億米ドル以上)が多く見られました。プラスの影響を受けた企業の多くは、コロナ禍以前からAI開発への投資を増やし、AIの試験段階から実装段階に移行しているところでした。また、そのような企業は、COVID-19対策を進めるにあたって、「それまでのAI投資が役に立った」と回答しており、「今後も自社でAIをさらに活用し、AIの新たなユースケースを模索するとともに、AI活用に向けてより多くの社員を教育していく可能性は非常に高い」としています。

これは大企業のみならず、コロナ禍以前からAIに多額の投資を行っていた中小企業にも当てはまることがわかりました。さらに、インドにおけるAI動向を詳細に調査したところ、早期にAIを導入した企業では、AIの活用により良い意思決定を下すことができ、コロナ禍においても社員や顧客の健康および安全性は向上していました。また、この調査では、AI活用ツールを適用することで、生産性の向上やデザインのイノベーションなど、他のメリットがあることも示されています(詳細は「AI: An opportunity amidst a crisis(英語)」を参照)。

全体的には、COVID-19の世界的大流行以前からAIに多額の投資を行っていた企業は好循環(virtuous cycle)に入っており、それ以外の企業とのインテリジェンスギャップが拡大する傾向にあります。AI導入で先行する企業では、コロナ禍においてAIの活用が57%増加しており(英語)、その増加率はAI導入が初期段階にある企業の2倍以上となっています 。AI先進企業は今後もAIへの投資および導入促進を計画していますが、対照的に悪循環(downward cycle)に陥っている企業は、AIへの投資を行ってきておらず、業績が伸び悩んでいるためAI導入資金の調達に苦労している状態です。この悪循環を好転させるには、AIへの取り組みがどのような影響をもたらすか、しっかりと理解することから始めるのが良いでしょう。先進的企業は、AIのROI目標値を定め、ユースケースを明確化した上でROI指標との整合性もしっかり確保することができるため、経営層から大きな賛同を得ることが可能です(英語)。 

業務オペレーションにおけるAIモデルの導入

AI導入において先行している企業が引き続きその優位性を保つためにも、逆に出遅れた企業がその差を縮めるためにも、AIの効果的な活用能力(AI活用成熟度:AI maturity)は非常に重要です。そこで、調査結果に基づいてAI活用成熟度ごとに企業を以下のように3つのレベルに分類しました:AIを広範囲の業務に組み込んでいる企業(回答者の25%)、AIを一部業務に導入し始めている企業(55%)、AIを導入しておらずまだ調査段階の企業(20%)。 

AI先行企業の実態:AI を広範囲の業務に組み込んでいる企業は、通常、事業プロセス全体に広くAIを導入しています。こうした企業の多くは、顧客関連アプリケーション(チャットボットや会話システム、需要予測、顧客ターゲティングなど)から、契約分析、請求処理、リスク管理などの事務関連アプリケーションまで、10本以上のAIアプリケーションを導入しています。その他の企業も、5本以上のAIアプリケーションを導入していました。また当然といえば当然ですが、大企業の方がAIを完全に業務に組み込んでいる割合が高いという結果になりました(約34%)。AIがもたらすメリットに関する私たちの調査結果を裏付けるように、AIを完全に業務に組み込んでいるこれらの企業は、コロナ禍において他のAIを業務に組み込んでいない企業を上回る利益を得ています。また、アフターコロナにおけるさらなる向上を見据え、AIへの投資を増やしているのです。 

規模拡大による利益獲得:全社規模ですべての機能領域に完全にAIを組み込むことは、企業にとって大きなチャレンジです。(AI基盤としての)スタンドアローンモデルを構築する段階に始まり、(AIを自社他部署・他機能への予測提供ツールとして用いる「サービスとしての予測(prediction-as-a-service)」モデルを通じて)ビジネス状況の変化をより的確に予測して価値を獲得する段階、業務の自動化およびAIモデルのトラッキングや再トレーニングによりAI能力の最大活用を模索するモデルファクトリー(英語)と呼ばれる段階へと移行していく中で、企業は以下のようなケイパビリティの開発に投資を行う必要があります。

  • ユースケースを明確化する事業ユニットの領域専門家(domain expert)

  • 情報フローを理解し、機械学習モデルを構築するデータエンジニアおよびデータサイエンティスト

  • AIアプリケーションを構築するシステムアナリストとアプリケーション開発者および、モデルを最適化して付加価値を高めることができる機械学習エンジニア

  • 業務に組み込んだAIモデルの保守管理を行うModelOps、DataOps、DevOpsの専門家

  • これらのシステムの効果的な管理責任(stewardship)を実現するためのガバナンス・倫理支援に関する取り組み

必要に応じてAIシステムを調整するアジリティに加え(英語)、人材、プロセス、モデルをまとめ上げることが規模を確保していく上で重要です。インドでのPwC調査で明らかになったように、これらのスキルにより、企業は最も有望なビジネスユースケースにターゲットを絞り、試験運用から大規模導入への移行を円滑に行うことで、AIが約束する成長とレジリエンス(英語)という戦略的恩恵を得ることが可能になります。また、この調査によれば、成功している企業は、カスタマーエクスペリエンスの効果的なカスタマイズ、ダイナミックプライシングを行うためのツールの導入、不正行為を防止する自動インテリジェンスシステムの採用、従業員の知識やスキルを活用するためのバーチャルアシスタントの採用などにより、自社の競争優位性を一層高めることが可能です。

リスク管理、信頼構築

企業がAIのモデルやシステムを大規模導入する機運が高まる中、新たな格差(デバイド)が現れ始めています。それは、「AIリスクを特定し、軽減し、管理する能力」に関する格差です。AIリスクは、採用モデルのバイアス、顧客のプライバシー、AI利用の透明性(プロセスおよび結果に対する説明責任と説明可能性の両方が必要)、データとシステムのセキュリティなど、さまざまな分野に存在します。PwCの調査によれば、AIのリスク管理と制御を完全に組み込んで、導入規模拡大に向けて十分に自動化することができた企業は全体のわずか12%(AIアプローチが深く根付いている企業の29%)にとどまりました。また、37%の回答者がAIリスクに対応するための戦略やポリシーを導入していると回答しました。 

リスク管理戦略の具体的内容について尋ねたところ、全回答者の36%近くが、モデリングにおけるアルゴリズムのバイアス(多くの場合、人種や性別関連のバイアス)を重視しており、この割合は、AIを十分に導入している企業では60%近くにのぼることがわかりました。その他、AIの導入を成功させている企業が特に熱心に取り組んでいるAIリスクとしては、モデルの信頼性と堅牢性、セキュリティ、データプライバシーなどが挙げられます。

AI全体にわたる多様なリスクを管理するには、より優れたツールが必要になります。まずは、必要な手段を評価するための責任あるAIフレームワーク(英語)と、適切なAIリスク評価(英語)を実行する能力を構築することです。これらの要素を土台としてAIアプリケーションを構築、導入、監視し、意思決定に利用していけば、将来的には先進的な取り組みやガバナンスをより円滑に組み込むことができるようになるでしょう。こうした一連の取り組みを、後回しにせずなるべく早く開始することで、リーダーは顧客の信頼を得て、来るべき規制変化にもうまく対応することができるでしょう。そして、AIから得られる競争優位性をさらに拡大できるはずです。 

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※本コンテンツは、PwCが2021年2月22日に発表した「Jumping onto the right side of the AI divide」を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。