ダイバーシティ&インクルージョン

政府はより良い明日に向けて何をすべきか

各国のリーダーたちは、相互に関連する6つの重要課題に直面しています。アプローチや解決策は国ごとに異なっても、欠くことのできない重要なアクションが存在します

2020年、世界のリーダーは多くの課題に直面しました。あらゆる国が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックやそれに伴う経済、教育、国家安全保障上の危機に見舞われました。さらに、大規模火災やハリケーン、干ばつなど、記録的な数の自然災害が発生し、気候変動問題はこれまで以上に深刻なものとなりました。国内外の地政学的不安定さに伴う問題を多くの人々が経験し、長年ぜい弱な状態にあった国のみならず、これまで民主主義と安定性の手本とされていたような国々にも影響がおよびました。これらの課題は2021年を迎えた現在もなお続いています。 

 市民や企業は、政府に対し、これらの大規模かつ複雑な問題を解決へと導き、自分たちがそこからより強く立ち上がれるよう支援することを期待しています。ほとんどのステークホルダーは、2019年の状況に戻るという選択肢はあり得ない、ましてや目標でもないと考えています。2022年を見据え、2020年と2021年に得た教訓を生かした「より良い」未来を望んでいるのです。

各国政府が直面する課題はほぼ共通していますが、それぞれのリーダーがどのようにその課題に取り組むかは、政府の体制やイデオロギーによって大きく異なります。社会全体の幸福にかかわる問題であることから、全ての人が恩恵を受けられるような解決策が求められます。 

6つの緊急課題

国内外における不平等の拡大は、COVID-19による危機をさらに深刻化させ、地政学的にも大きな不安要素となっています。経済および社会のシステムは、しばしば不平等を助長し、社会格差を悪化させ、国家の安全保障を毀損します。未来をより持続可能なものへと再構築するために、各国政府は、そうした不平等を是正し、繁栄の共有を促進することに重点を置き、以下に挙げる6つの重要課題に取り組まなければなりません。それぞれの課題は個別のものですが、互いに関連するものであり、どれか1つの課題に対応できなければ、他の課題にも悪影響が生じる可能性があります。そのため、成功を収めるためには、省庁や機関の枠を超えたトップレベルでの計画が必須です。 

1. 経済:2020年には4億9,300万人以上の正規雇用が失われましたが、その大半は女性と若年層でした。また、世界のGDPは4.3%減少しました。国際通貨基金(IMF)は、政府の積極的な介入がなければさらに悲惨な結果となったかもしれない、と指摘しています(英語)。政府は、直接融資、投資、減税、的を絞った物資の配給などを通じて、企業や市民にかつてないレベルの支援を行ってきましたが、一方で、こうした支援により、政府の負債は膨れ上がってしまいました。

世界銀行は、新型コロナワクチンの接種が大規模な成功を収め、政府が民間部門の成長を促進するとともに公共部門の負債を削減する政策やプログラムを打ち出すことができれば、2021年には世界全体での生産量は4%増加し、経済は緩やかに回復を遂げる、と予測しています(英語)

2. 医療:あまりピンとこないかもしれませんが、2020年の医療費はグローバルで1.1%減少すると予想されています(英語)。COVID-19とは関係のない疾患や治療が先送りになったりキャンセルとなったりしたためです。患者が自らキャンセルを申し出たケースもありますが、医療提供側のキャパシティ上の制約も大きな要因となっています。こうした治療の先送りによって、2021年と2022年は医療関連の課題が深刻化すると予想されます。COVID-19はサプライチェーン、予防医療、プライマリーケア、入院治療施設など、医療関連のバリューチェーンのほぼ全てにおいて難題を浮き彫りにしたのです。

今後数カ月間にわたり、保健衛生当局は、急増する治療患者への対応と新型コロナワクチン配布の両面に注力していく必要があります。中長期的には、政府は、将来の保健衛生上の危機の影響を軽減するために、医療体制のレジリエンスを高める方法を検討する必要があります。

3. 教育:パンデミック発生前、多くの国では教育改革が課題となっていました。低所得国では90%、中所得国では50%、高所得国では30%の生徒が、仕事や生活に必要なスキルを身につけることなく中等教育を途中で断念している、と推定されています(英語)。COVID-19のパンデミックの影響により、180カ国以上で学校が一時休校となったこともこうした問題を悪化させました(英語)。推定16億人もの生徒が学校に通えない状態が続いたのです。多くの教育者が生徒に遠隔教育を提供すべく懸命に取り組んでいるものの、リソース上の制約もあって結果はまちまちです。国連児童基金(UNICEF)の推計によると(英語)、休校措置により2,400万人の児童が退学の危機に陥り、学校給食に頼っている3億7,000万人の児童の多くが栄養失調に陥る可能性があるとされています。

政府は、全ての生徒により良いサービスを提供できるよう、既存の教育プログラムを変革することに加えて、成人に対する教育を通じてより明るい未来への道を切り拓く方法を定めていく必要があります。失業問題の改善を図り、経済の回復を促進するには、デジタルアップスキリング(英語)など大人に対する再教育プログラムが重要になります。また、バーチャルラーニングへの移行が進む中で、高等教育の財源をどのように確保すべきか、という点についても、政府の判断が求められます。

また、あらゆるレベルでの教育改革について、テクノロジーの活用、カリキュラムの改訂、新たな学習方法の導入、教師のスキルアップ、体制の再設計などを組み合わせていく必要があります。 

4. 国家の安全保障:国防・治安部隊の任務は拡大しており(英語)、その重要性は今後も変わらないでしょう。パンデミック発生以降、世界の人口の91%以上が、ロックダウンや国境封鎖など、何らかの行動制限を経験しています(英語)。こうした制限の監視と実施には、警察・治安当局はもちろん、テクノロジー企業をはじめとする民間業者も動員されています。さらに、ウイルスやワクチンに関する最新データに基づき、国境管理の方針も変わり続けています。 

また、コロナ禍において、多くの国で家庭内暴力や強盗、略奪などの犯罪が増加しています。同様に集会や抗議活動などの政治活動も増加しています。研究者は、ロックダウンや失業、市民の間で広がる絶望感などが、こうした犯罪や政治活動の過激化の一因になっていると推測しています。また、一部の集会や抗議活動は、多くの人への感染拡大を引き起こす「スーパースプレッダー」になったと見られています。ソーシャルディスタンスを保つことなく、マスクを着用しない参加者が多かったため、こうしたイベントがCOVID-19感染拡大の温床となってしまったのです。 

デジタルセキュリティは、物理的なセキュリティと同等、あるいはそれ以上のリスクとして注目されています。政府や企業がデジタル化を推進する中、サイバー犯罪も大幅に増加しています。ロックダウン後の環境下において、政府は移民、国境管理、政治イベントに関連する安全保障と安定化という課題に加えて、デジタルアジェンダに伴うリスクに対処していく必要があるでしょう。

5. 気候問題:世界がCOVID-19と苦闘している間も、気候変動に対する戦いは続いています。米航空宇宙局(NASA)は2020年について、観測史上最も暑かった年に匹敵するレベルであったこと、また過去7年間の気温の高さが歴代上位を独占していることを公式に発表しました(英語)。2020年はハリケーン、山林火災、洪水、熱波などの異常気象が多発した年でもありました。 

各国政府は、野心的な気候アジェンダを設定し、脱炭素化を加速するための政策、規制、インセンティブの創出を掲げています。しかし、パリ協定の目標を現段階で達成しているのはわずか2カ国にすぎません(英語)。多くの国では、「グリーンリカバリー」プログラムやその他の関連施策を通じて、クリーンエネルギー事業、持続可能な生産、グリーンインフラを推進する直接投資を行うことによって、ポジティブなインパクトをもたらすことが可能かもしれません。また、クリーンエネルギー政策を標榜していない各国政府も、災害への備えや気候変動への適応策を検討する必要があるでしょう。

6. 政府への信頼:世界各地に広がる偽情報(デマやフェイクニュースなど)により、社会的な影響を抜きにしても、年間780億米ドルの損失が発生していると推定されています(英語)。多くの国で、こうした偽情報により政府指導者に対する信頼が損なわれ、選挙の行方にも影響が生じています。また、市民の喫緊の懸念事項やニーズに対して、政府が明確な体制や役割、効率的な対応を示すことができていないことも、信頼の喪失に拍車をかけています。「2021 Edelman Trust Barometer(英語)」によると、パンデミック初期は政府に対する信頼が高まったものの、以後の対応の過程で、政府は極めて倫理観に欠け、非常に能力に乏しいステークホルダーであると見なされるようになってしまいました。 

相互に関連して急速に進化する現代の課題に対して、各国政府は迅速かつ一丸となったアプローチを採ることが求められますが、ほとんどの政府は、従来の運営モデルから脱却することはありませんでした。各省庁や関連機関は互いに協力する必要があります。今回の危機では、国と地方政府それぞれの役割と責任が明確でない点に対して、国民が脆弱性を感じていることが浮き彫りになりました。

パンデミック以降政府への信頼は低下しているものの、人々は根本的課題の解決に政府が貢献する必要性を感じています。

根本的課題に対して政府の対応を求める声が高まっている1

昨年と比較した
重要度の純変化2
Degree of importance
回答者の割合(%)
重要度が 重要度が
医療制度の改善
62%
70%
8%
国内貧困問題への対応
53%
62%
9%
教育制度の改善
53%
62%
9%
気候変動への対応
51%
61%
10%
フェイクニュース対策
50%
60%
10%
個人の自由保護
50%
59%
9%
経済・社会格差の是正
48%
58%
10%
差別・レイシズムへの対応
42%
53%
11%

各国政府は、透明性を高め、信頼を回復するためにどのような規制、政策、組織体制、スキルを組み合わせて対応するか、早急に決断する必要があります。

3つのアクセラレーター

課題は困難なものばかりですが、いずれもチャンスとなり得ます。かつて、ある世界的に有名なリーダーは、「せっかくの危機を無駄にしてはならない」と訴えました。2021年、多くの政府がこうした姿勢で取り組んでいます。上に述べた6つの課題に対応するために、3つの重要なアクセラレーターを活用することで、政府は市民のために、より強く、よりレジリエントで、より包摂的な社会を実現することが可能です。

1. デジタル:各国政府は、市民サービス、教育、医療、社会セーフティネットへのアクセスを向上させるために、デジタル化を推進しています。デジタルプラットフォームを戦略的に活用することでさまざまな格差を改善することができます。例えば、教育分野において、欧州有数の優れた学校制度を有するエストニアは(英語)、COVID-19の流行以前からすでに成熟したデジタルコンポーネントを備えており、遠隔学習環境への移行をシームレスに行うことができました。他の国々は、全ての人に教育へのアクセスを提供するこのモデルの成功を、自国でどのように適用できるか検討しています。同様の事例は、ほぼ全ての市民向けサービスについても言えることです。 

2. パートナーシップ:官民パートナーシップ(PPP)は、大規模インフラ分野における標準的な資金調達メカニズムとなっていますが、その多くは、受注者と発注者の取引という性質を帯びています。しかし今、官民やその他のさまざまな関係者を巻き込む新たなパートナーシップの形が生まれつつあります。これには、画期的なプログラムの設計、開発、融資における深い相互協力関係が含まれます。このような長期的パートナーシップは復興、イノベーション、成長を大きく促進させることができます。例えば、米国国立衛生研究所(NIH)が2020年4月に設立したAccelerating COVID-19 Therapeutic Interventions and Vaccines(ACTIV)パートナーシップには、10社以上の大手バイオ医薬品企業と各国の保健当局が参加しており、記録的な速さでのワクチン開発に貢献しています。 

3. グリーンプログラム:多くの政府が、景気刺激策の一つとしてインフラ整備を盛り込んでいますが(英語)、これは理にかなっていると言えます。Economic Policy Instituteの報告書によれば(英語)、このような投資は経済に複層的な効果をもたらすものであり、インフラに1,000億米ドルを投資するごとに、インフラ自体が生み出す利益に加えて、100万人もの正規雇用が創出されると推定されています。先見の明のある国々は、パリ協定のネットゼロ目標の達成に貢献するだけでなく、成長と将来の雇用を生み出すような持続可能なプログラムを目標に定めています。

今後の道のり

国によって6つの課題の現状、そして解決に向けたアプローチはそれぞれ異なるでしょう。しかし、そうした違いがあるにせよ、すべての政府は持続的な成功のために以下の5つの重要なアクションを検討することが不可欠です。

1. 主要なステークホルダーの声に耳を傾け、協力する:政府は、全ての市民、企業、同盟国、グローバルコミュニティなど、あらゆるステークホルダーの思いをしっかり評価しなければなりません。選択肢を検討する上で、そのどれもがユニークかつ重要な視点をもたらしてくれるはずです。

2. 明確な分析を行う:政府は、データに基づく総合的な分析を行うことで、全ての市民に情報を提供し、正当な判断を下すことができます。状況分析には、国ごとの質的・量的データだけでなく、グローバルなデータを含める必要もあります。また、さまざまなシナリオに基づき、過去の情報および予想される情報を検討する必要があります。

3. 優先順位を明示的に管理する:今後も危機的状況の下、復興を進める過程で、突然、優先順位の変更を余儀なくされる場合もあるでしょう。政府はそうした変更に対応できるように、体系的かつ確固たる意志に基づいて、アジャイルな計画策定を行っていかなければなりません。

4. 平等を促進する解決策を優先する:不平等は、上述した6つの課題の原因であり、結果でもあります。政府は、社会やコミュニティを包摂的に修復し、不平等やその根底にあるぜい弱性を改善するよう努めなければなりません。

5. 喫緊のニーズと長期的なニーズのバランスをとる:困難な時代にあって、長期的な目的や目標を犠牲にしてでも市民の喫緊のニーズに応えたい、と考える政府もあるでしょう。しかし、可能であれば、今日のためだけでなく将来の世代のことも考えた決断を下すべきです。

各国政府は、上記のような課題に対する潜在的解決策を模索しています。危機に直面した時点での社会制度や経済の強靭さ、経済の多様性、文化、政治体制、現政府に対する国民の意見や信頼など、さまざまな要因が各国の選択肢や決定に影響を及ぼします。

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※本コンテンツは、PwCが2021年3月8日に発表した「How governments can push towards a better tomorrow」を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。