食の信頼に関する新たな教訓・学び(冷凍肉の密輸問題より)

2015-08-18

2015年6月に発覚した、中国での冷凍肉の密輸問題。食品サプライチェーンのグローバル化を進めている日本の食品会社にとって、対岸の火事ではありません。本件を教訓とした取り組みを取り上げます。

新たなスキャンダル

日本のスーパーマーケットなどには、さまざまな冷凍加工食品が陳列・販売されています。調理が楽で価格もリーズナブルなこともあり、多くの消費者がそれら商品を購入し食卓や弁当のおかずとして美味しく食べていることでしょう。
そんな中、またひとつ食の安全・信頼にかかわるスキャンダルが発生しました。
中国で横行している冷凍肉の密輸において、その中には30~40年前のものが含まれていたという内容です。

各ニュースサイトに掲載されているので説明は割愛しますが、消費者だけでなく日本の多くの食品会社はショックを受けたことでしょう。
しかしながら、今さら原材料の肉を全て国産にするといったことは難しく、冷静にリスクを受け止め対処する必要があります。

古くなった冷凍肉を原材料として使用するリスクをいかにして防ぐか

日本の食品会社は、直接的な影響の有無として、該当する冷凍肉を原材料としていたか否かの調査を行っていることでしょう。それ以外にも重要なことがあります。
食の安全・信頼を確保・維持するために、発見的措置から予防的措置、受動的な対応から能動的な対応が重要視されつつあります。例えば今回の件でいえば、古くなった冷凍肉を原材料として使用するというリスクについて、そのリスクをいかにして予防しているか、同様の事象はないかなどを再確認し、見直すことが重要となってきています。

日本では当たり前のように実施している検査は、海外では必ずしも当たり前ではありません。ある国では、その国のマーケットリーダーとなる食品会社であれば最先端の機器で検査をしていますが、それ以外の食品会社は検査をしていたとしても測定機器が不十分な場合が多いです。またHACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point)などの認証も、日本の大手食品会社の約9割が対応しているものの、日本以外では、その国のマーケットリーダーとなる食品会社でさえ半数程度しか対応していません。
加えて本件のように、消費期限などの切れた長期保存された原材料の流通状況の海外における実態は見えづらく、かといって必要以上の加熱処理を行うと、食品のおいしさなど、品質が損なわれてしまいます。これらは、食肉に限った話ではありません。
予防的措置、能動的な対応が重要視されているのは、そのような背景もあってです。

今回の件でいえば、食品会社がとるべき予防的措置としてどのようなことを再確認することとなるのでしょうか。
例えば、以下のようなことを原材料調達プロセスにさかのぼって検証することが考えられます。

検証のポイント

  • 原材料として利用する牛・豚・鶏は、契約・認定した農家のみから購入することになっているか
  • サプライヤーから受領したトレーサビリティに関する情報の再調査
  • 加工の工程で、契約内容と異なる牛・豚・鶏が混入することはないか
  • そもそもとして、肉以外に問題となりうる原材料はあるか、工場自体問題を抱えていないか

また、予防措置さえ十分にできていればいいわけではありません。予防措置で十分にリスクを低減したのちに行われる、原材料を受入時の検査といった発見的措置、HACCPに基づく加熱処理といった修正的措置は当然のことながら大前提となります。
これらの措置がバランスよく目的に沿ってとられていることの再確認も重要だと考えます。

言うは易し、行うは難し

このような再確認は、やり方によって難易度は変わりますし、効果も変わります。単に海外の委託工場・サプライヤーに調査シートのようなものを送付・質問するだけなら、全て「Yes」の回答のみとなる場合があります。
また、日本から海外の委託工場・サプライヤーに赴き実地で再確認を行ったとしても、表面的なところのみの再確認となってしまえば、労力の割には十分な効果は得られない可能性があります。
では、効果的な再確認をするにはどうすればいいのでしょうか。再確認を行う際、懐疑心を持つこと、利害関係のない第三者に再確認をしてもらう、または再確認結果のレビューをしてもらうなどといったことがポイントとなると考えます。

PwCは、本分野に関するノウハウを持った専門家で構成されるグローバルチームを有しています。このチームにより、食品に関するグローバルレベルのリスク管理態勢の再整備や、トレーサビリティの再調査・見直し、海外委託工場・サプライヤーに対する立入調査、第三者視点での客観的な評価など、グローバル化・複雑化した食品サプライチェーン全体における食の安心・安全を確保できるよう、さまざまな支援を行っています。
自社だけの取り組みでは限界がありますので、私どもの様な専門家に一度ご相談頂ければと思います。
食品会社の皆様との協同作業を通じ、食の安全・信頼をより高いものにしていければと考えます。

米山 喜章

ディレクター, PwC Japan有限責任監査法人

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