
医彩―Leader's insight 第4回 小田原市立病院の経営改善活動が地域医療にもたらしたインパクトとは
地域の基幹病院である小田原市立病院の経営改善によって地域医療がどのように変わっていったのか、小田原医師会会長で医師の渡邊清治氏と小田原市立病院経営管理課長の武井章哲氏にお話を伺いました。
AgeTech(エイジテック)とは一般に高齢者の健康や生活を改善するテクノロジーと考えられていますが、PwCコンサルティングでは高齢者を含む全世代のウェルビーイングを実現する考え方と捉えています。連載第1回目では、その背景や理由と私たちPwCが考えるエイジテックについて詳しく紹介します。
多くの先進諸国では医療の発展による長寿命化と健康寿命の延伸にともなって、少子高齢化の進展・人口減少が生じています。特に日本は、少子・高齢化が加速した、世界で最も高齢化率の高い超高齢化社会と言われており、2050年には国民の約3人に1人が65歳以上の高齢者となることが予測されています(図表1)。
高齢化の進展は社会保障費の増大を招きかねない「社会課題」としてとらえられがちですが、見方を変えれば、高齢者を取り巻くマーケットの成長と捉えることもできます。
例えばグローバルに目を向けると、日本以外の先進国においても少子高齢化の進行は顕著ですが、世界最大の高齢者団体であるAmerican Association of Retired Persons(米国退職者協会:AARP)は、(高齢者は)「奉仕される側でなく、奉仕する側に(to serve, not to be served)」を基本理念として掲げています。同団体は、2050年には50歳以上の層が世界経済に与える影響がGDP比で4割(約118兆米ドル)に達するとも提唱しています(出展:AARP Report Finds that Older Population Makes Significant and Growing Contributions to Global Economy)。高齢者マーケットの拡大は、国全体の経済に少なからぬ影響を及ぼすといえます。
このような世界規模で拡大する高齢者マーケットに対する、テクノロジーを活用したサービスや製品を「エイジテック」といいます。「エイジテック」は経済に占める規模の大きさから、また経済活動全体を活性化させる可能性を秘めていることから注目されています。さらにエイジテックは、テクノロジー弱者とされる高齢者を第一のターゲットに据えるため、全世代に有用なサービスや製品を生み出す可能性も高いです。
しかしながら現状のエイジテックソリューションは、ウェアラブルデバイスやモバイルアプリを利用した高齢者向けの健康管理サービス、IoT(Internet of Things)技術を活用した高齢者向けのスマートホーム、電動車椅子や歩行補助ロボットなどの高齢者の移動をサポートするサービスなど、高齢者個人の健康や生活を支援するための“モノ”を通じたサービスに偏重しており、日本を含む少子・高齢化を課題とする先進諸国の経済活動を活発化する規模には至っていません。
そこでPwCは、「高齢者の生活を支えるためのモノに限定せず、幅広い年齢層を対象にしたソリューションの実現」を「エイジテックの理想」として掲げます。
例えば街づくりでは、まず高齢者の住みやすさに配慮した「仕組み」を第一に考えます(図表2)。具体的には、一つの大規模総合ビル内に、住宅やクリニック、薬局、デイケアセンター/スポーツジム、リカレント教育文化施設/大学分校、介護施設/社会福祉施設、商業施設などを整備し、同一建物内で基本的な生活が完結するように設計します。また住宅はスマートフォンやタブレット端末で電化製品のコントロールが可能なスマートレジデンスを採用し、居住空間でのリアルなコミュニケーションに加え、離れて暮らす家族や友人と居住者である高齢者をバーチャル空間でつなげることでコミュニケーションの選択肢を広げ孤立を防ぎます。こうした設備は高齢者だけでなく、若年層を含む全世代にも魅力があり、暮らしやすい住居といえます。
高齢者が住みやすい街の仕組みができ上がっている。一つの大規模総合ビル内の住居(=スマートレジデンス)に、高齢者も若者も暮らしやすく設計された住宅、クリニック、薬局、通所リハビリステーション/ジム、大学分校/リカレント教育文化施設、社会福祉施設、介護施設、商業施設等が内設されている。また、屋外には公園、グラウンド、テニスコートなども併設されており、基本的な生活は大規模総合ビル内と隣接する屋外施設で完結できる。
スマートレジデンス内居住者間でのリアルなコミュニケーションが取れる。さらに、遠方の知人・友人・家族とはそれぞれの居住スペースに内蔵されたバーチャル空間専用ルームで、互いの顔やアバターを見ながら会話を楽しめる。居住者は高齢者のみならず、高齢化した家族の近くに住みたい若者にとっても住みやすいように、全てのサービスをデジタルを介して売買・利用でき、かつサイバー空間やメタバース空間で他都市に住む同世代の仲間とつながる。
居住スペースのドアの開閉はスマートフォン一つで操作できる。寝たきりの生活になった際には、車椅子に自動で変形するベッドの活用が可能である。このような車椅子や歩行器での移動の際にスマートフォンでドアを開閉することで、負担なくドアの開閉ができ、身体能力が低下した場合でもより自立した生活ができるよう考慮されている。
また、あらゆる世代はもちろん、特に高齢化した世代の心身ともに健康で幸福な状態(=ウェルビーイング)を考慮し、気分や体調に合わせて自由自在に明るさや色を調整できる照明器具、トイレやふろ場の長期滞在をセンサーで感知して通報するシステムの内蔵、登録された人物以外の不審者が潜入した際のアラート通報など、安全・安心に日々を過ごせる機能が住宅に付属されている。人生の終盤に差し掛かった際には、自分が亡くなった後の家族の生活シミュレーションを介して、残された家族が安心・安定した生活が送れるように準備を支援するサービスを受けることができる。これにより、ご本人も安心して旅立つことができる。希望に応じて、本人の生前のデータ(音声・動画・画像・嗜好・口癖など)がデータとして保存され、ご本人の死後も本人のアバターとして残したり、メタバース上では生き続けたりするデータ保管サービスの提供も開始されている。
このような包括的なサービスを実現するには、高齢者を取り巻く全ての産業が参画する「融合的産業エコシステムの構築」が必要不可欠です(図表3)。産業の裾野を広げるソフトウェア/サービスプレーヤーだけでなく、ハードウェアプレーヤーや、ファイナンスプレーヤーなど、多様な産業が手を組み、エイジテックソリューションをグローバル展開していくことで、高齢者だけでなく、また若者だけでもなく、社会に生活する全ての人々のウェルビーイングを実現することが可能になるはずです。
融合的産業エコシステムを推進する3つの要素が普及している日本において、このような融合的産業エコシステムを推進し、エイジテック経済圏を活性化するためには、3つの要素が必要であると考えられます。1点目はエイジテックの価値概念を再定義するビジネスユースケースの創出です。そしてユースケースの創出に不可欠なデータの利活用を促進するセキュアな情報管理システムの堅持と計算結果に対する適切な説明が2点目としてあげられます。さらに3点目が投資対効果を可視化する“尺度”の確立です。
まず高齢者を含む全年代の人々を対象としたものへとエイジテックの価値概念を再定義するビジネスユースケースを数多く創出していくことが重要です。高齢者マーケットに対する意識変革を促進することを考えると、社会のデータを基軸にしたユースケースであることが求められます。
その例として、PwCコンサルティングは、Brain Healthcare Quotient(BHQ)と呼ばれる脳の健康指標を用いてさまざまなソリューションの開発を支援しています(図表4左)。BHQは内閣府ImPACTプログラムで開発された国際標準指標で、MRI計測で得られる脳画像情報から、脳の健康状態を数値で示すことができます。これにより、認知症発症前の健康なうちから自分の脳の健康状態を把握し、未病状態を管理して、予防策を講じることが可能となります。またBHQは、幸福感や好奇心、ワークエンゲージメントなどの心理指標とも関係することが示されていることから、認知症の高い有病率を示す高齢者はもちろんのこと、全世代のウェルビーイングを向上することに貢献できます。
またデジタルツインを活用して(図表4右)、現実世界(フィジカル)と仮想空間(サイバー)で収集した様々なデータや情報をもとに、仮想空間(サイバー)で解像度の高い都市活動データを用いた魅力的なビジュアライゼーションを構築し、フィジカルに実装する取り組みも行いました。これにより、全世代を対象として、エリアマネジメント活動への共感ある参加を促すとともに、効果的なシティプロモーションに寄与することを可能としました。
図表4 AgeTechの価値概念を再定義する新たなアプリケーション
さらに介護ロボットの領域では、基盤の整備から、自治体と連携したユースケースの蓄積、それをもとにした研究開発や情報発信を行いました。具体的には、介護の現場で使用する高齢者の身体を支えるロボット、排尿のモニタリングを行うロボットの実証研究を経て、介護機器によるセンシングやテクノロジーの社会実装構築を支援しました。また並行して、介護サービス関連企業や事業者にインタビューを行い、新たなサービス開発を行うと共に、研究で得た知見と併せて学会や展示会等で情報発信を行いました。これらの活動を通じて、介護される側だけでなく、介護する側の視点も含めたエイジテックソリューションの展開を行いました。
前項で述べたように、データを基軸とした製品やサービスが中心となるのであれば、エイジテックを軸とした産業の裾野を広げていくためには、データの利活用の促進に向けセキュアな情報管理システムの堅持と計算結果の説明性が求められるはずです。例えば、ブロックチェーン技術によって、管理者の信用保証が不要で、改竄されない、コピーできないといった特性を実現した、個々人がデータを所有・管理し、一極集中管理の巨大プラットフォーマーを介さずに自由につながり、交流・取引を行う、多極化されたWeb3.0によるセキュアな社会データの情報管理システムを構築することが求められます(図表5左)。また、米国国防高等研究計画局(DARPA)が推進する研究プロジェクトのように、説明可能な計算モデルと解説インターフェースを搭載したExplainable AI(XAI)によって、AI駆動型の意思決定における信頼と信用を担保することも重要です(図表5右)。
図表5 データ利活用の促進に求められるセキュアな情報管理システムと計算結果の説明性
さらに、投資対効果を測る“尺度”の確立も重要です。医療や介護に代表されるように、シニア向けの製品やサービスは一般にマネタイズが難しいとされているため、実際には投資対効果が高いマーケットであることを改めて明示することが望まれます。エイジテック経済圏の成長効果を判断するためには、従来のようなGDP成長率などの価値交換を起点とした評価方法では不十分です。2021年に開催された世界経済フォーラムにおいて、クラウス・シュワブ会長が「世界の経済システムを人々の幸せ(ウェルビーイング)を中心に考え直すべきだ」と唱えたとおり、健康尺度や、幸福感などの心理指標を反映した新たな尺度の確立が求められています。
こうした取り組みを通じ、PwCコンサルティングは、まずはグローバルにおけるエイジテックの先行市場といえる超高齢化社会の日本において、融合的産業エコシステムの推進を介したエイジテック経済圏を活性化するグローバルモデルの構築を目指したいと考えています。その理由は3点あります。1点目の理由は、融合的な産業エコシステムの形成には、社会課題の解決と経済の活性化を同時に達成するエイジテックが必要であると認識しているからです。ただしその実現には、上述してきたような構成要素が未だ不十分であることは否めず、グローバルネットワークとさまざまな知見を有するPwCコンサルティングのメンバーによるビジョンやアーキテクチャの提示が不可欠であると考えます。これが取り組みたい理由の2点目です。3点目は、高齢化の進行や労働力人口の減少、デジタル化の遅れなどが指摘される日本のなかで、私たちがもつケイパビリティを活かして社会課題を解決し経済を活性化できるこの分野に貢献したいという思いを痛切に感じるからです。
今後もテクノロジーをビジネスとして社会に還元していくことを視野に、本エコシステムを通じて、日本から世界に、すべての年代のウェルビーイングを実現するエイジテックを発信していきたいと考えます。
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