
これからの病院経営を考える 【事例紹介】北杜市立甲陽病院:看護業務の見直しが生んだ職員の意識改革
山梨県北杜市の市立甲陽病院では、総看護師長のリーダーシップの下、看護業務の見直しを進めています。このプロジェクトを支援したPwCコンサルティングとともに取り組みを振り返り、現場からの声や成功の秘訣について語りました。
※本稿は東洋経済オンラインに2024年5月に掲載された記事広告を転載したものです。
※法人名・役職などは掲載当時のものです。
新規事業は、企業にとって重要な成長戦略の1つだ。しかし、異業種への参入は決して簡単ではない。
成長が見込まれるヘルスケア領域も例外ではない。どんなに製品やサービスの質に自信があっても、成果につながらないケースはある。
同様の状況に直面していたのが、経済産業省「グローバルニッチトップ企業100選」にも選出された東証プライム企業、フコク。
新規参入の壁を乗り越えるために、声をかけたのがPwCコンサルティングだった。
出席者
フコク
取締役会長
小川 隆 氏
フコク
管理本部 経営戦略室 経営戦略課
ライフサイエンス・ヘルスケア企画課
マネージャー
渡邉 文章 氏
PwCコンサルティング
執行役員/パートナー
ヘルスケア・医薬ライフサイエンス事業部
曽根 貢
PwCコンサルティング
マネージャー
ヘルスケア・医薬ライフサイエンス事業部
前田 洋輔
※法人名、役職、インタビューの内容などは掲載当時のものです。本文中敬称略。
フコクは創業71年目。素材・材料開発から設計・製造までを一貫して社内で行うゴム製品メーカーだ。主力製品のワイパーブレードラバーは高い技術力で世界に顧客を持つ。ほかにもブレーキ製品や防振製品でも存在感を発揮しているが、2023年6月に発表した中期経営計画では「ライフサイエンス事業の拡大」を打ち出した。取締役会長の小川隆氏は、その理由について次のように話す。
「自動車産業が100年に一度といわれる大変革期を迎えている中、既存事業を強化したうえで、新事業を拡大し、収益力の最大化を図るべきだと判断しました」
これまでもフコクはゴム材料を中心に培ってきた多数の要素技術を生かして「非自動車分野」を開拓してきた。ライフサイエンス分野のほかにもOA領域などで事業を展開している。
「ソフトマテリアルの技術を通じて未来の産業界と人類の幸福に貢献するのがフコクの使命です。実際、創業以来『Yes, We Do !』(みんなで新しいことに挑戦しよう)という創業の精神の下、新たな価値創造に取り組んできました。『持っている技術をほかの用途に使えないだろうか』という視点をつねに持ち、挑戦してきた結果です」(小川氏)
フコク 取締役会長 小川隆 氏
フコク 管理本部 経営戦略室 経営戦略課 ライフサイエンス・ヘルスケア企画課 マネージャー 渡邉 文章 氏
「ライフサイエンス事業の拡大」を打ち出したのは、新たな製品を用意できていたからだ。「それが薬剤耐性菌検査チップです」と紹介するのは経営戦略室 ライフサイエンス・ヘルスケア企画課 マネージャーの渡邉文章氏。薬剤耐性菌とは、抗菌薬が効かない細菌のこと。医療現場で適切な抗菌薬を使用するには、どんな細菌に感染しているのか、薬剤耐性の有無はどうかを迅速に調べる必要があるといい、渡邉氏はこう続ける。
「迅速に検査結果を出し、細菌の形態変化を直接観察できることで、検査過程と結果の根拠を示すことができる私どもの製品が、医療現場の効率化に貢献できると確信し、2023年6月に発売を開始しました。ところが、事業として結果が出るまでに予想以上に時間がかかりそうな状況でした」
すでに事業拡大を見据え、次のバージョンの発売計画も決定している。早急に軌道修正を行わなくてはならない。社内で議論を重ねたが、有効な結論は出なかった。
「単にこの製品をどう売るかという話ではなく、事業全体の成算を見極めないといけません。場合によっては、早急な事業の見直しを決断する必要もあると考えていましたので、医療のみならず経営的な視点を持つプロフェッショナルの助けを借りるべく、動き出したのです」(渡邉氏)
「そんな中、最初の打ち合わせの段階で私が感じていた課題を端的にまとめてくれたのがPwCコンサルティングでした」と渡邉氏。思っていたことが明確に言語化され、2ページと簡潔にまとめられたことに驚いたという。小川氏は、経営陣にとっても大きなインパクトがあったと振り返る。
「痛いところをグッと突かれた感覚でした。課題がドンピシャでまとめられていたんです。戦略なき戦いをしていたんだと気付かされて、経営陣はみんなショックを受けたと思います」
ただでさえ難易度の高い異業種参入。ライフサイエンスという大きな枠組みでは細胞培養バッグなどを展開してきたが、細菌検査領域は環境が異なる。病院で実際に検査チップを導入した場合に影響があるのはどのオペレーションなのか、導入の決定権を持つのは誰なのかを明らかにしたことで、問題点が理解できたという。
PwCコンサルティング 執行役員の曽根貢氏は振り返る。
「まず、短期間で成果を出さなければならないと思いました。渡邉さんたちとのミーティングを重ねて事業内容について理解を深めたことで課題を共有でき、プロジェクトがスタートする理想的な『DAY1』を迎えることができました」
さらに曽根氏はこう続ける。「一般的に、マーケットの有望性と自社で培ってきた経験や技術力、アセットが重なる領域で新しい事業が生まれます。一方で、新規参入しようとするマーケットに新しい変化を見通せるか否かということが重要な視点となります。その点、ヘルスケアは人材不足や膨張する医療費などの課題が山積しており、これから大きなうねりが起こりうる領域です。そうした変化を先読みしていくことが欠かせません」。
これからの変化も見据え、都度仮説を立てながら、直面している課題の解像度を上げていく。この一連のプロセスが、PwCコンサルティングを協働パートナーとして選んだ決め手となった。
「私たちがライフサイエンスについてどう考えているのか、ライフサイエンスやヘルスケアの世界がどうなっているのか議論をさせてもらい、とにかく話していてワクワクしました。若手社員数人と参加したのですが、こういうやりとりを続ければ、プロジェクトの成功確率が上がるだけでなく、参加メンバーの成長につながるのではないかと思いました」(渡邉氏)
PwCコンサルティング 執行役員 パートナー ヘルスケア・医薬ライフサイエンス事業部 曽根 貢 氏
プロジェクトで取り組んだのは「現状把握」「医療機関の課題把握」「製品の提供価値の確認」「想定ターゲットの把握」「アクションプランの構築」の5つのステップ。実際に病院でインタビューを実施し、ニーズを把握したことで製品の価値を再確認できたと渡邉氏は話す。
「現場の声を聞いたことで、メンバー一人ひとりが戦略的な視点を持てるようになったと思います」
曽根氏とともにプロジェクトメンバーとなったPwCコンサルティング マネージャーの前田洋輔氏は「社内では、いつも②つの意味で真摯でありたいと話をしています」と語る。「まずはクライアントに対して。何よりも、自分事として取り組むことです。PwCのカルチャーでもあるのですが、クライアント以上にクライアントのことを大切にし、クライアントになりきるほどの気持ちで取り組んでいます。大切にしているキーワードの①つが『One Team』。メンバー全員が一枚岩となってマーケットを切り開いていくことが重要だと思っています」。
そして、もう①つの相手が医療従事者だという。「私たちは、医療現場に対するコンサルティングも行っています。その製品やサービスは本当に医療現場の課題解決に役立つのか、それらを求めている現場はどこなのかなど、医療に携わる方々にも真摯に向き合わなくてはなりません」(前田氏)
不退転の決意で結果を出すことに向き合うこの姿勢は、フコク取締役会長の小川氏らにもしっかりと伝わっていた。
「驚いたのは、最初から曽根さんたちが『わがチームは』『われわれの製品は』と言っていたことです。それに、会議の場でメンバーの発言一言一言にうなずきながら聞いているんですね。後で聞いたら『自然にそうなってしまうんです』とおっしゃる。そうやって、課題を自分事として捉えるチームワークをつくり上げていく姿勢には感服しました」(小川氏)
自ずとフコク側のメンバーのマインドも変化していった。わずか3カ月間で人が変わったように意欲的になり、ほかのプロジェクトでのディスカッションを効果的にファシリテートするメンバーもいる。
「もともとフコクの技術的優位性はたいへん高かったわけです。曽根が言ったように、新規事業は自社の強みをいかに課題解決につなげるかというストーリーを作ることが重要なのですが、今回のプロジェクトで、どんなニーズに対してどのように価値を提供できるのか、取るべき戦略や勝ち筋をクリアに定義することが重要であるかをご理解いただけたと思います」とPwCコンサルティングの前田氏が説明するように、フコクのメンバーが強みの生かし方を体得したことで自信を高め、社内全体の活性化につながったといえそうだ。渡邉氏も「このプロジェクトを糧に、新たなものをどんどん生み出していける組織風土をつくりたい」と意気込む。
「ウェルビーイングというキーワードに見られるように、精神的な豊かさを求めることも広義のヘルスケアに入ってきていると感じます。ニーズはどんどん広がってきている。一方、ヘルスケアに新規参入をしようとする際、それまでの経験や技術などの延長線上だけで考えていては、大きな発展は見込めません。実際、参入を検討してはいるものの、異業種だからと足を踏み出せない企業もたくさんあるのでは」と曽根氏は指摘する。そうした企業に対して、小川氏は「経営資源をどう投じるかを考えれば、一歩踏み出す勇気はなかなか出ない」と理解を示しつつ、次のように語った。
「何もしなければゼロのままです。でも、あまりにも投資が大きければ被害が大きくなりますから、最初の一歩を踏み出すときにどれだけ仲間を集めるかが重要です。同業種や社内の意見は聞けても、異業種からの意見にはなかなか素直になれないものですが、耳を傾ければ一歩が踏み出せますし、ダメなときは傷が浅いうちに撤退することもできます。PwCコンサルティングとの取り組みは、そのことに気づかせてくれました」
いかに自分事として考えてくれる「仲間」を集め、One Teamとして取り組めるか。めまぐるしく変化する時代に対応し、社会に必要とされる企業であり続けるためのヒントが、ここにありそうだ。
PwCコンサルティング マネージャー ヘルスケア・医薬ライフサイエンス事業部 前田 洋輔 氏
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