
来たるべきSDV時代――次世代モビリティ改革に挑むHonda
Hondaのソフトウェアデファインドビークル事業開発統括部コネクテッドソリューション開発部のキーパーソンをお迎えし、来たるべきSDV時代を見据えたHondaのビジネスモデル変革について語り合いました。
生き残りをかけた企業変革が多くの業界で求められています。PwCでもBusiness Model Reinventionをキーワードに企業が10年先にも収益を上げ続けるための「ビジネスモデルの再発明」の支援に力を入れています。そして今、「100年に1度」の画期にある自動車業界にあって、ビジネスモデルの新たな潮流として注目されているのが、「SDV」(Software Defined Vehicle)です。そこで今回は、Hondaのソフトウェアデファインドビークル事業開発統括部コネクテッドソリューション開発部から、部長の野川忠文氏、主任研究員の藤代直樹氏、主幹の神田慎哉氏をお迎えし、来たるべきSDV時代を見据えたHondaのビジネスモデル変革について、PwCコンサルティングの濱田隆、阿部健太郎、河野雄三と語り合いました。
本田技研工業株式会社
ソフトウェアデファインドビークル事業開発統括部
コネクテッドソリューション開発部 部長
野川 忠文氏
本田技研工業株式会社
ソフトウェアデファインドビークル事業開発統括部
コネクテッドソリューション開発部 主任研究員
藤代 直樹氏
本田技研工業株式会社
ソフトウェアデファインドビークル事業開発統括部
コネクテッドソリューション開発部 主幹
神田 慎哉氏
PwCコンサルティング合同会社
パートナー
濱田 隆
PwCコンサルティング合同会社
ディレクター
阿部 健太郎
PwCコンサルティング合同会社
ディレクター
河野 雄三
※登場者の肩書、所属法人などは掲載当時のものです。
(左から)藤代直樹氏、神田慎哉氏、野川忠文氏、濱田隆、阿部健太郎、河野雄三
濱田:
現在、自動車業界には「100年に1度の大変革」の波が押し寄せているといわれます。どんな変化なのでしょうか。
野川:
「CASE」というキーワードがそれを表します。「Connected:接続」「Autonomous:自動運転」「Sharing、Service:シェアリング、サービス」「Electric:電動化」の4つの領域で進行する変化です。自動車づくりは今や、「クルマ」という単体のハードウェアをつくって売るビジネスではありません。「モビリティ」(移動しやすさ/可動性)という新たな価値を提供する事業へとシフトしつつあります。
CASEのなかでも特に重要な要素が、モビリティを支える基盤としての「Connected」です。Hondaでは、自動車をご購入いただいた後もお客様と「つながり続ける」ことで新たな価値を継続的にご提供する「ライフサイクルビジネス」に力を入れています。具体的には、コネクテッド技術(双方向通信機能)を用いて自動車に関わる多種多様なデータを収集・活用し、お客様にとって安心・快適なカーライフを実現すること。そのために、エアコン、ドアロック・アンロックなどのリモート操作、緊急時のサポートや、ナビゲーションマップの自動更新などを可能にする新世代コネクテッド技術を提供しています。
濱田:
自動車業界では、「Connected」のさらに先にあるクルマの未来像として、「ソフトウェアで定義されるクルマ」を意味する「SDV」という考え方も注目されていますね。HondaではSDVにどう取り組んでいるのでしょうか。
野川:
Hondaでは比較的早い時期から、双方向通信機能を活用した各種サービスをご提供してきました。ただし初期のそれは、まだクルマの付加機能と呼ぶべき段階でした。しかし今後コネクテッド技術がさらに進化すれば、双方向通信で自動車を制御するソフトウェアをアップデートすることにより、納車後に機能を拡充したり高性能化したりできる次世代自動車=SDVが視野に入ってきます。SDVが実現すれば、運転支援機能や事故防止機能の向上に加え、完全自動運転の実用化にも近づきます。また、クルマを使う個人にいっそう最適化したデジタルサービスも提供できます。
つまりSDVでは、「Connected」がクルマそのものの機能・性能を決定づける重要な要素になるのです。それに伴い、自動車づくりも従来のハードウェア先行ではなく、ハードウェアとソフトウェアを一体的に開発することが求められるようになります。自動車づくりのあり方自体が変わるわけです。この大きな変化に対応するために、「ソフトウェアデファインドビークル(SDV)事業開発統括部」では、車側ハードウェア、ソフトウェア各領域、クラウド領域の人材が連携できる組織体制を採用しています。
濱田:
「Connected」をはじめとするデジタルサービスを提供するということは、Hondaが自動車メーカーの枠を越え、「サービス提供事業者」にもなることを意味しますね。それに伴い、当然、関連する法律もこれまでとは異なってきます。新規のサービスを、日本のみならずアジアやアフリカなどの諸外国でも提供していくとなると、今までに見たことも聞いたこともない法律に準拠することが求められます。
野川 忠文氏
濱田 隆
阿部:
ハードウェア主体の自動車づくりに最適化してきたこれまでの組織を再編し、ハードウェアとソフトウェアの人材が一緒になってSDVの開発にあたる「SDV事業開発統括部」は、専門性やカルチャーを異にする人材の融合を図るという意味で大きなチャレンジですね。内部変革・部門横断ならではの難しさがありそうですが、いかがでしょうか。
藤代:
ご指摘のとおり、ハードウェア開発部門とソフトウェア開発部門にはカルチャーの違いがあります。これまでの自動車づくりでは、走行速度や燃費性能といった機能・性能を重視するプロダクトアウトの発想が主流でした。しかし、納車後もお客様とつながり続けて新たな価値をご提供する「Connected」「SDV」では、「こういうことが実現できたら楽しいだろうな」「こういう機能があればもっと喜んでいただけるはず」というマーケットイン発想の自動車づくりがより重要になります。もちろん、これまでのHondaの自動車づくりでもマーケットインの発想は大切にされてきましたが、「つながり続け、アップデートを重ね、さらなる価値を提供する」という経験をもつ人材はほとんどいませんでした。
そのため、主にハードウェア畑の人材に、「ConnectedとSDVを見据えた自動車づくり」へとマインドセットを変えてもらう必要がありました。ただし今までもこれからも、「自動車を通して素晴らしい価値をお客様に届けたい」という思いは、ハード側もソフト側も変わりません。異なっていたのは、その最終目標に至る手法やプロセスだけ。そのため今まさに取り組んでいるのが、手法・プロセスの融合と、これまでは別個に考えられてきた企画/事業/技術/サービスの統合です。
野川:
クルマのハードウェア、ソフトウェアは「In-Car」、コネクテッドは「Out-Car」と言い換えられます。SDVでは、これまでバラバラだったIn-CarとOut-Carの開発を一体的に進める必要があるわけです。藤代はもともとハードウェア開発畑の出身ですが、自ら手を挙げてコネクテッドソリューション開発部に来てくれました。藤代がチームに加わってくれたことで、私たちコネクテッド側の人間もインサイドへの理解が深まりました。
阿部:
藤代さんご自身が、組織でのカルチャー変革の重要なピースというわけですね。SDV実現に向けた内部変革・組織横断への挑戦を通して、「ここは変わってきたな」ということがあれば、ぜひ教えてください。
藤代:
徐々にではありますが、一人ひとりの意識改革が進んでいることを実感しています。例えば、あるプロジェクトに際して、ソフトウェア側が「こういった開発メンバー(In-Car領域)がチームに必要なのではないか」「アーキテクチャ(設計)はこうするべきだ」といった意見を出したり、逆にハードウェア側から「こんな(Out-Car領域の)アイデアがあるが、どうだろう?」と提案があったりするシーンを目にすることが増えました。
阿部:
機能別に部分最適化された組織を再構成して全体最適化を図り、部門横断で全体としての提供価値を高めるチャレンジの成果だと思います。
藤代 直樹氏
阿部 健太郎
河野:
SDVの実用化を加速させるには、質の面でも量の面でも、人的リソースの強化が欠かせないと考えます。いわゆるIT人材に関してはご承知のとおり、社会全体の急速なデジタル移行に伴い、人的資源としての需給バランスが崩れた結果、各企業とも人材確保に苦労しています。IT人材の採用強化に向け、Hondaとして、またはSDV事業開発統括部コネクテッドソリューション開発部として、工夫していることはありますか。
神田:
やはり「情報発信」の強化が鍵です。先ほど野川が申したように、Hondaは比較的早くから「Connected=双方向通信機能を活用した各種サービス」を手がけてきました。にもかかわらず、HondaがSDV実現を視野にとらえて「Connected」の先頭集団を走っている事実は、残念ながらまだあまり世間に浸透していません。HondaとITを結び付けてイメージなさる方は、ITエンジニアのなかでは、まだ多くないと思います。そこで、もっと多くの方に関心を持っていただけるよう、人事部門とも協力しながら、「Hondaが『Connected』でどんなサービスを提供しているか」「これからのクルマはITでこんな面白いことができる」というメッセージを、さまざまな機会と場をとらえて発信しています。
河野:
Hondaに入社されたIT人材の方に存分に能力をふるってもらうための工夫や、それを可能にする「Hondaならでは」の特徴があれば、ぜひ教えてください。
神田:
中途入社人材のための各種研修制度の充実には力を注いでいます。全社的な研修プログラムだけではなく、私たち、コネクテッドソリューション開発部でも業務特性に合わせた実践的な研修メニューを独自に整備しており、必要な知識やスキルは入社してから身に付けることができます。自動車メーカーでありますが、自動車の知見がなくても、そもそもクルマ好きでなくても活躍いただけるような環境づくりに力を入れています。
もう1点、Hondaならではの強みとして、「誰もがチャレンジできる企業風土」が挙げられます。「自分はこれをやりたい」という社員が多くいて、周囲がそれを積極的に受け入れ、チャレンジを後押しする文化が根付いています。そんなHondaのカルチャーは、他社とはひと味違うHondaならではのSDVを実現する原動力でもあります。
野川:
SDVのようなイノベーションと成長戦略の実現に取り組むためには、IT人材だけではなく、法律や税務など、さまざまな分野の専門家との協業も非常に重要です。Honda社内の体制強化だけではなく、外部との連携についても、今後は一層強化していきたいと考えています。
濱田:
本日は貴重なお話をありがとうございました。
神田 慎哉氏
河野 雄三
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