再注目されるMBD―モデルベース開発で企業価値を高める―

2023-02-20

はじめに

自動車業界において各社が従来取り組んできたモデルベース開発(Model-Based-Development : MBD)が、昨今、再注目されています。背景には、自動車市場の要求がCASE(Connected, Automated/Autonomous, Shared & Service, Electric)やMaaS(Mobility as a Service)、環境対応へと遷移し、各社単独ではカバーしえない、より複雑で高機能かつ高品質な性能が求められる時代に入ったことで、MBDに対して新たなニーズが加わったことがあげられます。本稿では、完成車メーカーや部品メーカーの役割を問わず、R&D領域において、今後、避けては通れないDXの1つであるMBDへの理解を整理し、組織としてどのように取り組むべきかを解説します。

MBDとは

MBDの2つの意味

「MBD」と聞いたとき、制御系や、またソフトウェアの領域を専門とする方であれば、組込ソフトの開発において制御システムのふるまいを検証する技術手法を指す言葉として認識されるはずです。また、「モデルベース開発」という言葉からは、3Dモデリングを用いてバーチャルに実車データを組み立てる試作レス開発への取り組みを思い出す場合もあるでしょう。近年、MBDという言葉には、元来より取り組まれてきた制御モデルやCAD・CAM・CAEを用いた自組織完結型のバーチャルエンジニアリングの手法や取り組みから更に発展し、構想段階よりモデルを用いて、業界全体で協働するアプローチ、開発思想を広く指す用途が新たに加わりつつあります。

MBDという言葉が持つ1つ目の意味としては、CADを手段としながら、MBSE(Model Based Systems Engineering)と並ぶ技術手法として説明することが可能です。また、2つ目の意味として、業界や産官学レベルでの企業間開発への取り組みとしても示されます。いずれにおいても、従来の多階層V字開発を維持しながら、開発上流で作成したモデルを仕様書/試作品同等に一貫して扱うMBDの特徴を切り取る視点の違いであり、特に2つ目の意味、開発への取り組みを示す文脈においてはCADやMBSE、技術手法としてのMBDを包括、総称して用いられる場合があることも、理解のためには重要な観点となります。本インサイトでは、この新たな上位視点ともいえる開発への取り組みを示すMBDに関して記述していきます。

MBDが今、再注目されている理由

個社単位では、これまでも開発負担の増加を解決するために、より効果的なデジタル技術の取り込みを模索し続けてきました。一方で、エンジニアリングチェーン全体で各社が知見を共有してデジタル開発に取り組むことができれば、高効率化が図れ、ここで生まれた余裕から各社の個性や競争力を発揮することも可能であると言えます。一方で、MBD手法はCASEやMaaSの複雑な要求に対応するため、最先端開発の場で技術的に発展し続けてきた結果、開発中のどの段階においてもデジタルモデルを使用することを可能にしつつあります。この協調開発の機運の高まりと、技術的に成熟しつつあるモデルベース開発手法の特性がマッチしたことで、自動車業界全体がMBDの実現に向けて大きく動き出しました。

また、経産省主導の活動をきっかけとし、自動車業界において産官学の連携の中MBDの普及、推進を目的とした業界団体も2021年に設立されています。企業においては規模の大小を問われず取り組みへの参画が可能になったことで、より一層、自動車業界におけるMBDコミュニティの実現と普及が加速していくと期待されています。

企業がMBDへ取り組む上での現状課題

マネジメントシステムの進化

業界連携を含めた各企業の努力によって、徐々にモデリングデータの統一が進み、上述のように産官学が連携するネットワークが構築されていくことが期待できます。各企業においては、これらをベースにしながら、MBDの実行力を積み上げていくために、以下の3つの観点を持った具体的な取り組みが必要です。

  • これまで培った自社の技術力を踏襲しバーチャル変換を進めること

  • 人材を育成し社内の定着啓蒙を図ること

  • 連携推進に必要なデータプラットフォームの構築を進めること

これら3点を個々に解決するだけではなく、バランスよく推進できるマネジメントシステムに自社を進化させていくことが、自動車業界変革の波に乗り遅れることなく、より企業価値を高めるための鍵となります。以下にこの3つの観点を説明していきます。

技術力のバーチャル変換――自社技術の強みの把握とモデル化

モデル化においては、自社でこれまで培ってきた技術の分解(見える化)が必要不可欠です。自社技術の強みや解明できていない特性を明確にすることで、モデルというバーチャルへ変換するためのベースが構築されます。これを踏まえてチェンジマネジメントの意思入れを行うことで、現場での1D-CAE/3D-CAEの知識と実践、MATLAB/Simulinkなどのツール操作スキルの習得、MILS/SILS/HILSのモデル環境の導入が進み、自社技術を維持した高精度なモデルの具現化に繋がります。

人材育成と定着啓蒙――モデル開発スキルを生かす

DX人材の活躍によってMBDは組織に定着させることができます。これにはDigital人材の育成のみならず、Transformation人材を育成することの両者が重要です。モデリングのスキルを持つ人材が活躍するだけでは、MBDは特定の開発に一時的に適用された取り組みとして終わることも考えられます。バランスの取れた双方を育成し、組織として継続的に評価することでMBDの効果や恩恵が正しく組織内に浸透し、実行力が定着していきます。

データプラットフォームの構築――社内外のモデル管理・共有を速やかに行う

MBDのプロセスは、社内の構成管理システムと、社外との協働環境の上で実行されます。社内外データの履歴追跡をしながら、頻繁に実行されるシミュレーション結果をオンタイムで保存するデータプラットフォームの構築が欠かせません。

MBDが見据える将来

10年、20年後と将来を見据えた際、難局となるメガトレンドへ立ち向かうためには、バーチャルエンジニアリングへの移行は不可欠です。R&D領域におけるDX戦略の起点として、現時点より組織的にMBDに取り組み始めることが、自動車業界の変革期の中で、企業価値をより高めていくことへと繋がります。

執筆者

寺島 克也

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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渡邉 伸一郎

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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城 江美子

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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