UNECE WP29 GRVA―自動車線維持システム(ALKS)法規基準への対応

2021-11-29

はじめに

2020年6月に開催された国連欧州経済委員会(United Nations Economic Commission for Europe:UNECE)の自動車基準調和世界フォーラム(WP29)*1第181回会議において、「自動車線維持システム(ALKS*2)法規基準」(UNR157)が成立しました。これにより、国内や欧州で2022年7月以降に販売されるALKS機能(SAE*3自動運転レベル3)を有する新型車は、UNR157への対応が必要となります。

また、UNR157はALKSに関する技術要件の実装のみならず、車両開発から市場監視における車両ライフサイクルを見据えた安全管理システムの構築および、その運用方法の確立が必要となるため、各国の自動車各社は順次対応に迫られています。

UNR157の概要

UNR157(ALKS法規基準)では、歩行者や自転車が禁止されている道路、および対向車線が物理的に分離された高速道路などにおいて、運行時に車両を車線内に保持する機能が求められています。本法規基準の第1ステップとして、動作速度は最大60km/h、対象車両は乗用車(M1 車両)に制限されています。また、UNR157には型式認可、技術要件、監査、報告、およびテストに関する管理規定が含まれています。加えて、UNR155(CS/CSMS*4)およびUNR156(SU/SUMS*5)の適用も前提として求められています。

法規基準の章立て

UNR157の文書(ECE/TRANS/WP.29/2020/81)は図表1の通り、別添含め全63ページで構成されています。

図表1  UNR157法規基準の構成

主な要件としては、5章の「システムの安全とフェールセーフ応答」、6章の「HMI/オペレーター情報」、7章の「OEDR」、8章の「DSSAD」、9章の「サイバーセキュリティとソフトウェア更新」に集約されています。また、別添には、技術的な要件だけではなく、安全管理システムと呼ばれる管理・運用に関する要件やテスト要件などが記載されています。

主な要件

UNR157では主に図表2で示すような要件が定義されています。これらの要件を実現するためには、図表3で示すような車両電子システムの実装が必要であると想定されます。これはあくまで一例であり、複数の電子システムが機能統合される場合もあることも含め、さまざまな実現手段があると考えられます。いずれの実現手段においても、電子システムごとの開発のみならず、ALKSシステム全体、ひいては車両システムとして機能実現するために、組織立った全体統合的な開発が必要であると考えられます。

図表2  主な要件
図表3  ALKSで想定される電子システム全体像

安全管理システム

UNR157では技術的な要件のみならず、開発から市場における車両ライフサイクルを見据えた安全管理システムの構築(図表4)が求められています。開発プロセスにおいては、安全管理システム、要件管理、要件の実装、テスト、問題追跡、修正、およびリリースの確立が求められており、Automotive SPICE®やISO 26262(機能安全)への準拠を前提としていることが想定されます。また、さまざまな関連する部門間での効果的なコミュニケーションの仕組みを確立し、組織的に活動を推進できる必要があります。販売後、車両に対しては市場での事故や衝突を監視するプロセス、ならびに潜在的な安全関連のギャップを管理し、車両を安全な状態に更新するプロセスを備える必要があります。加えて、監視過程で発見した重大事故を認可当局へ報告することも求められています。さらに、UNR157として確立したプロセスが一貫して実施されていることを、内部プロセス監査にて実証する必要もあります。最後に、本法規に対応するには自動車メーカーに加え、関連するサプライヤーも適切に法規に対応する必要があるため、契約などでサプライヤーと合意した上で、管理する必要があります。

図表4 安全管理システム概要

UNR157に対応するためには、点ではなく面で捉え、企業全体として組織的な取り組みが必要

前述の通り、UNR157はUNR155(CS/CSMS)やUNR156(SU/SUMS)、機能安全やSOTIFへの対応が必要となります。それら以外にも図表5に示すように、さまざまな関連標準類を考慮した上で、UNR157へ対応する必要があると考えられるため、本法規一点で捉えるのではなく、複数の関連法規および標準を含めた面として捉えて対応する必要があると考えられます。加えて、安全管理システムの構築および運用を考えると、ALKSの機能設計部門だけではなく、品質保証、製造、法規認証、購買、アフターサービス、情報システムなど、さまざまな関連分野を担当する部門が一丸となり、役割分担を明確にした上で、企業全体として活動を進めることが肝要となります。また、安全管理システムを下支えする情報管理システムの構築および運用も重要な課題となります。

図表5  関連する代表的な法規および標準文書

*1UNECE WP29: 国連欧州経済委員会(United Nations Economic Commission for Europe)自動車基準調和世界フォーラム(WP29)
*2ALKS: Automated Lane Keeping Systems
*3SAE: Society of Automotive Engineers
*4CS/CSMS: Cyber Security and Cyber Security Management System
*5SU/SUMS: Software Update and Software Update Management System
*62021年11月時点のISOステータス

執筆者

渡邉 伸一郎

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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糸田 周平

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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