{{item.title}}
{{item.text}}
{{item.title}}
{{item.text}}
2022-09-02
2021年9月1日から施行された中国データセキュリティ法(数据安全法。「データ安全法」とも呼ばれる)は、サイバーセキュリティ法と同じく、国家安全保障における重要な法令として位置づけられています。同法は、データセキュリティのリスクや脅威に焦点を当てており、データの分類・等級保護、データセキュリティ管理、リスク評価、国外移転への対応等を企業に義務付けています。
「重要データ」の定義等を含めた具体的な内容は、下位法令等により今後具体化されていく見通しで、例えば、自動車分野では「自動車データセキュリティ管理若干規定」が制定され、ヘルスケア分野では「人類遺伝資源管理条例実施細則」(パブリックコメント版)が公表されるなど、続々と制定され始めている状況です。
中国で事業を展開する日本企業は、ほとんどの場合、同法の適用対象となることが想定されます。本稿では、データセキュリティ法の概要、および日本企業が取り組むべき対策についてご紹介します。
中国データセキュリティ法は、中国国内で行われる全ての「データ処理」(定義は次段落を参照)に適用されます。また、データ処理活動が国外で行われる場合であっても、中国の国家の安全、公共の利益または公民・組織の利益を害する場合にも適用となります。
同法における「データ」の定義には、紙面か情報システム内かなどの記載媒体を問わず全ての情報が含まれ、規制の範囲は非常に広範囲に及びます。
データの収集、保存、使用、加工、転送、提供、公開などを含むデータのライフサイクル全体に沿って行われる処理活動が「データ処理」と呼ばれ、このデータ処理を行うものが「データ処理者」に該当します。
データ処理者(データ処理を行う企業等を指す。以下同様)は、データセキュリティに関する標準、ガイドラインなどに従って、データに対する改ざん、破壊、漏えいによって国家の安全や公共の利益、または個人や組織などに与える損害の程度によってデータを分類し、等級に応じた管理措置を講じることが求められます。現在、各地方や業界でデータ分類等級付け規範の制定が進められており、「重要データ」の具体的な内容が規定される予定です。また、国家の安全や民生、重大な公共の利益に関するデータは「中核データ」として位置づけられ、より厳格な管理措置の実行が求められます。
データ処理者は、データライフサイクル全体を通じた安全管理制度の確立、教育の実施、技術的措置、責任者の設置、リスク管理など、基本的にはISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)で要求される事項と類似の対応が求められます。ただし、同法で定義されるデータの種別に応じて、相応の管理措置を講じる必要がある点に注意が必要です。
また、インシデントの発生時の当局報告や、重要データ処理時のリスク評価の実施なども求められるため、考慮が必要です。
同法は、国外移転に関して、重要データに的を絞って規制しています。重要情報インフラ施設の運営者※1が、中国国内で収集および生成した重要データを国外に移転する場合、サイバーセキュリティ法の規定を適用することが明記されています。
また、重要情報インフラ施設の運営者以外のデータ処理者が、重要データを国外に移転する場合は、「データ国外移転安全評価弁法」(2022年9月1日に施行予定)に従い、図1に示すように当局による安全評価に関する審査を経た上で移転することが義務付けられています(この他、同法ではなく個人情報保護法やサイバーセキュリティ法を根拠として、「データ国外移転安全評価弁法」では、重要データ以外のデータを国外に移転する場合にも、データの件数や機微性等により該当するケースでは、当局による安全評価の審査を経ることを義務付けています)。
※1:重要情報インフラ施設の運営者:「重要情報インフラ施設セキュリティ条例」における公共通信、メディア、エネルギー、交通、水利、金融サービス、公共サービス、電子政府などの重要情報インフラ施設(CII)の運営者を指します。
中国政府は、事業者のデータ処理活動が国家の安全保障にかかわると判断した場合に、国家安全審査を行うことができることが規定されています。国家安全審査の結果は最終決定となり、行政不服申し立てや訴訟などにより、異議を申し立てることができない点に注意が必要です。
同法では、法人だけではなく、場合によっては法人内の管理責任者個人も罰則の対象となります。当局は、同法の違反行為に対し、是正命令や警告を行うことができ、それに応じず重大な結果をもたらした場合、企業は、最大200万元(約4,000万円)の罰金や、営業停止等の行政処分を科されるリスクがあります。
前述の通り、同法は中国国内の全てのデータ処理に対し適用されることから、中国でビジネスを行うほとんどの日系企業が適用対象となることが考えられます。同法の対象となる企業は、以下の流れで、同法への対応を進めることを推奨します。
まずは、自社内でどのような種類のデータをどのようなライフサイクルで取り扱っているか、データフローを洗い出し、現状のデータの取り扱い状況を可視化することが重要です。データマッピングを通して、重要データや中核データの有無、国外移転の状況、当該データに対し現在講じている管理措置等を事前に確認しておくことで、次ステップ以降で各データ処理に対し必要な対応を整理することが容易になります。
データマッピングと並行して、既存のセキュリティポリシーの見直しも必要です。同法では、中核データ、重要データに対し、より厳格な保護措置が求められることから、これらの区分に合わせて社内の情報の機密区分を再定義することが求められます。現時点で各区分に対し求められるセキュリティレベルは具体化されていませんが、アクセス制御や認証、ログの取得・監視、通信セキュリティ、バックアップ、物理的対策等の各種観点で、同法で定義されるデータ区分を考慮したセキュリティレベルの設定が必要だと想定されます。
セキュリティポリシーの見直しが完了すれば、データマッピングで洗い出した各データ区分に対し、当該ポリシーを適用していく流れで実装が可能です。
データマッピングの結果、重要データが含まれていることが判明した場合は、重要データを含むデータ処理に対するリスク評価を実施し、評価結果を当局へ報告することが求められます。また、これらは定期的な実施が求められるため、社内規程で定め、恒常的に実行される仕組みを整備しておくことも必要です。
日系企業の場合、多くの企業が、日中間でデータの提供・共有を行っている可能性が高いことが想定されます。データマッピングの結果、国外へ移転しているデータがあることが確認できた場合、データの種別やデータ処理の内容に応じた対応が必要となります。国外移転に関しては、同法だけではなく、サイバーセキュリティ法や個人情報保護法でも規制がなされているため、法令ごとに対応するのではなく、これらのデータ関連の法規制の内容を包括的に整理した上で、対応方針を検討することを推奨します。
同法のみに限った話ではありませんが、1)~4)で実施した事項は、一度実行すれば終わりではなく、社内外の状況に応じた定期的な見直し・改善や、従業員教育等により定着化を推進することが不可欠です。PDCAサイクルを回しながら、実施した結果を見直し、改善していくことで、恒常的に機能するガバナンスを整備することが可能です。
前述の1)~5)の各対応は、法律、情報セキュリティ、リスク管理などの多角的観点から考慮が必要です。単独で各部門が推進するのではなく、社内横断的な体制で連携して対応を進めることが重要です。
多くの日本企業が、中国のデータ関連法規制全般(同法に加えサイバーセキュリティ法などを含む)に対し、下位規程等での具体化が不十分であるなどの理由で対応を保留として、静観している様子が見受けられます。しかし、既に同法の違反が指摘され、制裁が科される事例も発生しています。中国で事業を展開する日本企業の経営層は、早急にリスクを把握した上で、社内全体を巻き込み、同法の対応を推進していくことが求められます。