プライバシー法規制のトレンドと企業に求められる対応

グローバルでの個人データの移転、集約および共有に伴う越境移転リスクへの対応―越境移転が発生する事例とAPEC CBPR認証―

  • 2023-07-31

近年、企業が海外向けに新たなサービスを展開するにあたり、海外に居住するユーザーや従業員の個人データを収集、管理する機会が増えています。国境を跨いだ個人データの移転(越境移転)に伴うリスクについて、クラウドサービスの利用により越境移転が発生する事例を題材に紹介します。

越境移転規制をクリアする手段としてのCBPR認証

前述の事例においては、移転元国のデータ保護法令で課せられる越境移転規制への対応が求められ、データ主体への必要事項の通知、本人同意の取得、越境移転契約の締結などの措置が必要になります。どのような措置を講じる必要があるかは各国の法令要件に準じる必要がありますが、国際認証の取得により越境移転規制をクリアする方法もあります。本稿では、その一例としてCBPR認証を紹介します。CBPRは2011年に合意された、APEC域内での越境プライバシールールです。2023年5月末時点では日本、米国を含む9カ国・地域がCBPRに参加しており、個人データの越境移転についてAPECプライバシー原則に適合しているかを認証する仕組みとしてCBPR認証が存在します。

※:2023年5月末時点で日本、米国、メキシコ、カナダ、シンガポール、韓国、オーストラリア、台湾、フィリピンが参加。

図2 越境移転規制をクリアする手段としてのCBPR認証

CBPR認証を取得した企業は、CBPR参加国間であれば個人データの越境移転が認められます。CBPR参加国間において前章のような個人データの越境移転が発生し、同意取得やデータ主体への情報提供等の措置が必要となる場合には、代替手段として認証取得による越境移転規制への対応も可能です。その他、企業にとっての取得メリットとしては、自社の企業運営においてCBPRの仕組みに適合した個人データを取り扱っていることを対外的にアピールできること、APEC域内からの苦情・相談について、CBPRの認証機関(アカウンタビリティエージェント:AA)より対応・調整の支援が受けられることなどが挙げられます。

認証の取得に向けては、企業はAAによる審査を受ける必要があり、日本であれば一般社団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)が2023年5月末時点では唯一のAAとなっています。審査項目は通知、個人情報の取得、セキュリティ対策等の項目が設定されており、企業における対応状況を質問票に対し回答する必要があります。

図3 越境移転規制をクリアする手段としてのCBPR認証

CBPR運営組織(CBPRフォーラム)としては新たな参加国を歓迎する姿勢を示しており、2023年4月には新たに英国が参加意向を表明しました。また、CBPRの枠組みをよりグローバルに拡大していくため、グローバルCBPRフォーラムの設立も同月に発表されています。CBPRの枠組みに参加する国が増えることにより、認証取得によって越境移転が可能となる対象国が増えること、他国企業においては認証の取得を調達要件に組み込むケースが増えてくることなどが予測され、企業にとっての認証取得メリットも大きくなると考えられます。

執筆者

藤田 恭史

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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門脇 一史

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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藤田 和也

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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プライバシー法規制のトレンドと企業に求められる対応

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