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2023-05-08
地方都市にとって、少子高齢化の進展や生産年齢人口の流出は深刻な課題です。一方、都市部では人口が集中し、環境汚染や交通インフラの限界、エネルギー消費量の増大などが問題となっています。そのような状況下、注目されているのがスマートシティです。国土交通省ではスマートシティの定義を「都市の抱える諸課題に対して、ICT等の新技術を活用しつつ、マネジメント(計画、整備、管理・運営等)が行われ、全体最適化が図られる持続可能な都市または地区」としています。日本政府は日本が目指すべき未来社会の姿と掲げる「Society 5.0」の実現に向け、多くの企業や自治体とともにスマートシティの取り組みを進めています。ただし、その際に留意すべきはパーソナルデータの扱いです。市民の利便性を考慮しつつ、セキュリティ・プライバシーを保護するにはどのようなことが求められるのでしょうか。三菱商事のDX部門にて地域創生に携わる小野航氏と、一般社団法人コード・フォー・ジャパンの代表理事を務める関治之氏に、PwCコンサルティング合同会社ディレクターの小林公樹がお話を伺いました。
登壇者
三菱商事株式会社
産業DX部門 電力・地域コミュニティDX部
デジタルプラットフォームチーム リーダー
小野 航氏
一般社団法人コード・フォー・ジャパン
代表理事
関 治之氏
PwCコンサルティング合同会社
ディレクター
小林 公樹
(左から)小林 公樹、小野 航氏、関 治之氏
小林:
最初に、スマートシティに関してどのような取り組みをされているのかを教えてください。
小野:
三菱商事は事業の観点からスマートシティの取り組みを推進しています。2022年に発表した中期経営計画では、地域創生を謳っており、その進め方は2つの軸で捉えています。
1つはエネルギートランスフォーメーション(以下、EX)です。これは三菱商事の造語ですが、カーボンニュートラル社会の実現に向け、どのようにエネルギーを変革していくかという軸です。もう1つはデジタルトランスフォーメーション(DX)です。
現在、三菱商事ではモビリティやリテール、情報提供、観光といった分野で、さまざまなサービスを提供し始めています。ただし、個々のサービスがそれぞれ独立しているという課題があります。これらのサービスを融合して、住民サイドから見たときに一貫したシームレスなサービスになるよう考えています。
関:
私たちコード・フォー・ジャパンのミッションは、「テクノロジー活用によって、市民が主体的に行政に参加する」です。市民の主体的な関与を促すには3つの要素があります。
1つ目は「その町に暮らす人が、自分たちの町に対して何かやってみたいなと思うこと」です。新たなテクノロジーやサービスが登場したとき、主体的に使いこなしたうえで、地域の課題を解決していくというスタンスです。自治体の職員も含め、探索型の主体的な関与が重要だと思っています。
2つ目は「暮らしの質を捉えること」です。効率性や経済性だけではなく、サステナビリティなどを含めた長期的な視点で、その町の「幸せの状況」がわかるような指標を作りたいと考えています。
3つ目は「暮らし作りの基盤整備」です。データ連携基盤やソフトウェアなどのインフラ基盤を、自治体ごとに構築することは非効率です。データ活用基盤はオープンソースを活用し、さまざまな企業や組織と連携しながら構築しています。
三菱商事株式会社 産業DX部門 電力・地域コミュニティDX部 デジタルプラットフォームチーム リーダー 小野 航氏
一般社団法人コード・フォー・ジャパン 代表理事 関 治之氏
小林:
お二人はスマートシティの目指すべき将来像をどのように描いていますか。その実現に向けた具体的な取り組みを教えてください。
小野:
先述のとおり、三菱商事ではEXとDXの両輪でスマートシティを推進しています。EXの観点では、水力、太陽光、風力などの再生可能エネルギーで電気を作っていく従来からの取り組みに加え、スマートシティ側のサービスとしても、すでにいくつかのサービスがスタートしています。
例えば、地域交通は地方にとって大きな課題です。鉄道は維持できず、市営バスも補助金に頼りながら運用している状況です。また高齢ドライバーが免許を返納する中で、どのように地域内を移動するかという課題もあります。
地方交通の課題に対する1つのソリューションとして提案しているのが、オンデマンドバスです。移動したい時に市民が呼ぶと、目的地まで行けるサービスです。また、現行のタクシーについても、コストを抑えた利便性の高い交通手段として提供できるよう、運行システムなどの提案をしています。
スマートシティでは初期段階から会津若松市の取り組みに参画しています。具体的には地域デジタルクーポンや観光にかかわるデジタルサービスを提供し、地域内の行動の活性化を支援しています。さらに重要なスマートシティのトピックとして、ヘルスケアにも取り組んでいます。地域医療はなかなか難しいところもあるのですが、「移動」と「医療」を組み合わせて解決に取り組んでいます。
三菱商事では目指したい町の姿として、「地域コミュニティ創生構想」を掲げています。これは、地域に根ざしたサービスの提供により町の魅力を向上させ、各自治体と連携しながら地域の困りごとを解決していく取り組みです。
関:
私たちがスマートシティに携わって感じているのは、「ボトルネックになるのはテクノロジー以前の問題」であることです。具体的には「何をどう使うか」「何を実装していくか」という意思決定の部分です。また、市民側の変化への受容度も、スマートシティがうまくいかない原因になっています。
最近は日本国内でもスマートシティの先行事例が出てきています。優れた技術を活用することは成功要素の1つではあります。しかしそれより重要なのは、地域住民や地元企業が参加して、「これをやっていくんだ」という意思決定ができるかどうかです。
コード・フォー・ジャパンではその意思決定を推進していくために「Decidim(デシデム)」という市民エンゲージメントツールを提供しています。これはオンライン上で意見交換や地域の中でのさまざまな政策立案、決定のプロセスを行えるツールです。現在は、西会津市、加古川市などの自治体で使用されています。
また、データの連携基盤は浜松市をはじめ、複数の自治体に「Make our City(MoC)」を実現する都市OSを提供しています。MoCは市民主体のまちづくりを通してウェルビーイングを実現する取り組みで、都市OSはMoCを具現化するための基盤です。この都市OSはコード・フォー・ジャパンだけではなく、さまざまな企業と連携しながら、複数の自治体で共通したインタフェースを介して連携できるプラットフォームとして構築しています。
小林:
次にパーソナルデータ活用時の課題について伺います。今後、スマートシティを推進するうえで重要となるのがパーソナルデータの利活用であり、セキュリティやプライバシー対応が論点になります。パーソナルデータを活用したサービスを提供するには、パーソナルデータの取得に際して、住民のプライバシーを守るためにも同意管理や認証認可といった機能が必要になりますよね。
小野:
パーソナルデータを扱う際に重要なのは、利用者が「自分の情報を誰(どの組織)が扱っているのか/どのように活用されているのか」をきちんと理解していることです。説明が不十分で、利用者が理解をしないままパーソナルデータを活用したサービスを提供すると、利用者は(なぜサービス提供者は自分のことを知っているのかという)気持ち悪さを感じてしまいます。ですからこの部分は、時間をかけて丁寧に説明することが重要です。
関:
ユーザービリティの面では、接点がオンラインだけではないという点があります。例えば、カメラに映ったデータの活用は同意を得ることが難しいですよね。こうしたユーザーエクスペリエンス上の課題があると思っています。
データ連携基盤上でデータを取り扱う場合の同意管理は、ウェブサービス間などの一般的な同意管理と比較して非常に複雑です。一度提供したデータがデータ連携基盤上で他の会社に交換され、そこで加工されたデータがまた別の会社で使用されるといったフローを考えてみてください。この場合、ユーザーには「どこまでを説明して同意管理すべきなのか」「どこまで包括的に同意として見なせるのか」といった設計は難しいですよね。この部分はユースケースを基にしっかり議論をしていかなくてはいけません。
コード・フォー・ジャパンとしては、データ連携に関する同意管理は、業界標準化する必要があると考えています。パーソナルデータの利活用やプライバシー・セキュリティに取り組んでいるメンバー間でユースケースを持ち寄り、インタフェースや同意管理の方法、トラッキング、監査について話し合い、すり合わせをしながら標準化を目指す必要があると考えています。
小林:
PwCも同意管理や認証認可は共通化した標準が必要であると考えています。具体的には、プライバシーに関する同意管理や認証認可は各社が個別に実施するのではなく、特定の組織が共通のモジュールとして提供し、それを基に改善していくといったアプローチです。小野さんはサービス参入側の立場ですが、同意管理の業界標準化についてはどのようにお考えですか。
小野:
同意管理や認証認可は、丁寧に取り組まなければなりません。ただし、現在はパーソナルデータ利活用の過渡期であり、きちんとした“形”になっているものがありませんよね。ですから「ある程度幅を持たせた運用」という形があってもよいと思うことはあります。とはいえ、ある程度の枠組みは必要ですので、これは国がイニシアチブをとって作る必要があると感じています。
関:
難しいのはプライバシーの捉え方が個人によって違うことです。例えば、地方と都会ではその感覚が違いますし、地域によっても異なります。しかしデジタル上でのプライバシーは、そうした違いがありません。
地方におけるプライバシーは、場所にもよりますがある意味すごくオープンだったりします。そこに対して、デジタルの世界観である同意管理を当てはめようとすると、急にクローズドな個人の話になります。しかも、「プライバシーをどこまで公開するか」といった管理を、全て個人でしなければなりません。これには相当なリテラシーが求められます。例えば、地方の高齢者に対して、「パーソナルデータの利活用範囲について全て理解し、同意してください」というのは、無理な相談です。
こうした課題の解決策の1つとして、同意を委託できるような仕組み、例えば自治体側に委任するようなオプションをつけるなどの仕組みがあるとよいと考えます。または、情報信託銀行のように「これだけは受け入れられない」といった、分かりやすいオプションだけ選択して、「あとはよしなに」というサービスも考えられます。
さらに、信用のおける第三者が定期的に高齢者のスマートフォンを確認し、変なサービスを使っていないか点検する方法も考えられます。高齢の両親に代わって子どもがスマートフォンやパソコンを操作するということは、多くの家庭で行われていますよね。また、将来的には人工知能(AI)が複雑な利用規約を分かりやすく要約してくれるサービスが登場するかもしれません。そういったソリューションをうまく活用して、同意を誰かに任せられる仕組みを考えていく必要があるでしょう。
小野:
“仕組み”という枠組みで言えば、「サービスと利用者」だけではなく、「地域コミュニティ」をデジタル上に作成し、コミュニティ独自のプライバシーポリシーをその中で決定できるような仕組みがあればよいと考えています。
データには色が着いていません。ですから、流出した時にどこまで拡散したのかを突き止められないのが難しいところです。とはいえ、例えば金融であれば、お金の流れはかなり可視化されており、追跡したり管理したりすることはできますよね。同様に、データに関してもAIなどを活用しながらデータの流出を検知できれば、データ流通の仕組みを構築できると考えています。
もちろん、今は過渡期なので、ある程度は厳密に管理しないと誤った方向に向かう懸念もあります。丁寧に取り組みながら「利便性の高い形でプライバシーを確保しながらも、きちんと機能する仕組み」ができれば、その仕組みがブレイクスルーになるのではないでしょうか。
小林:
現状のご説明に加え、課題解決に向けた具体的なアイデアも頂戴しました。スマートシティは一企業や一組織だけで実現するものではありません。市民・企業・そして行政が「みんなの暮らしをよくする」という視点に立脚しながら協力していくことが大切だと感じました。本日はありがとうございました。
PwCコンサルティング合同会社 ディレクター 小林 公樹