欧州機械規則におけるデジタル要件への対応

  • 2024-08-27

機械指令から機械規則へ―何が変わったのか

欧州で機械製品類を提供する製造者は、これまで機械指令(Directive 2006/42/EC)*1に基づいた欧州各国の規制への対応を求められていました。しかし、2023年6月29日に機械規則(Regulation〈EU〉2023/1230)*2が欧州連合(EU)の官報に掲載され、2027年1月14日に機械指令は廃止されることが決まりました。これにより、製造者は2027年の完全施行に向けて機械規則への対応が求められます。

従来の機械指令と同様に、機械規則は欧州市場で流通する機械製品類が、人間やその他生物の安全や健康、環境の保護を保証することを目的としています。製造者が機械製品類を上市する際、機械規則で定められた健康と安全性に関する要件への適合性を証明し、当局から製品類に対するCE(欧州適合性)マークの付与を受ける必要があります。

このように、基本的な目的は機械指令から変わっていませんが、機械規則への切り替えに伴って製造者が押さえるべき2つのポイントがあります。第1に、指令から規則への変更です。欧州法において、指令はEU加盟各国が自国の裁量で対応する国内法を制定して運用するものです。一方で、規則は加盟国の企業や個人などの主体に直接適用されます。つまり、従来に比べてより統一的な法適用が行われることとなります。

第2に、機械製品のデジタル要素への言及です。近年は多くの機械製品にデジタル要素が含まれており、増大するサイバー脅威や人工知能(AI)に関連したリスクへの対応が製造者にとって急務となっています。従来の機械指令では十分に考慮されていなかったこれらの内容が、機械規則では明示的に扱われています。本稿では、関連する法令に言及しながらこれらのトピックについて解説します。

機械規則と関連した標準整備動向

これまでの説明に関連した動向として、CRAやAI規制法との関連性を踏まえながら機械規則に関する標準の整備を進めることを欧州標準化機構(ESOs)に要請するドラフトが欧州委員会によって2024年7月4日に公開されました*5。本稿で紹介した機械規則のデジタル要素に関連した要件に対応する上では、関連する標準の策定動向を注視する必要があります。

図表2:機械規則に関連した標準整備の対象ドラフト

No. 標準の内容 標準当局による1次採択期限
1

機械および関連製品のリスク軽減と安全性の水平的な問題に関する規格および成果物で、特に以下のもの

  • 一般原則の標準化
  • 新興技術の関連リスクを網羅する用語と方法論の規定
  • 既存または潜在的な調和規格でカバーされていない新しい革新的な製品カテゴリ
  • 健康安全性確保と適合性評価手順の正しい実行に必要なスキルと能力の特定と情報提供
2026年1月20日
2

以下の対象に関する規定を導入する水平的および垂直的な標準および成果物

  • さまざまなレベルの自律性で動作するように設計された、完全にまたは部分的に自己進化する動作またはロジックを備えたもの
  • 機械学習アプローチを使用して、完全にまたは部分的に自己進化する動作を備えた安全性コンポーネントまたはシステムによって安全機能が制御されているもの
3 製品ライフサイクル全体に関して、外部接続、ソフトウェア、またはデータに関する安全機能を偶発的または意図的なイベントよる破損から保護することに関する水平的および垂直的な標準および成果物
4 監視機能の有無にかかわらず、自律移動機械および関連製品に関する特定の規定を導入する水平的および垂直的な標準および成果物
5 既存の統一規格ではまだ取り上げられていない特定の規定を導入する規格および成果物 標準ごとに決定

*「水平」は製品種類に関係ない全般的な標準、「垂直」は特定の製品種類に関する標準を指します。
*No.5に該当する分野については、ドラフトの附属書Iの図表2にまとめられています。

まとめ

機械製品のデジタル化が進む中で、製造者は従来どおりの安全性対応だけではなく、デジタルの文脈で生じる安全性に対するリスクを意識する必要があります。特に、機械規則で言及されている製品の安全性コンポーネントを保護するためのセキュリティ対策は重要であり、これまで以上に企業の品質管理部門とサイバーセキュリティ部門が連携することが求められます。

機械規則のデジタル関連の要件に対応する上では、本稿で解説したようにCRAやAI規制法といった関連分野の規制と関連付ける形で進めるのが効果的です。関連する標準の整備動向などにも注意しながら、組織内の関係コンプライアンス対応部門間で連携することが有用です。

*1 欧州機械指令、2024年7月25日閲覧、
https://eur-lex.europa.eu/eli/dir/2006/42/oj

*2 欧州機械規則、2024年7月25日閲覧、
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A02023R1230-20230629

*3 欧州サイバーレジリエンス法、2024年7月25日閲覧、
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=celex:52022PC0454

*4 欧州AI法、2024年7月25日閲覧、
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:32024R1689

*5 Draft standardisation request to the European Committee for Standardization and to the European Committee for Electrotechnical Standardization as regards machinery and related products in support of Regulation (EU) 2023/1230、2024年7月25日閲覧、
https://ec.europa.eu/docsroom/documents/60695?locale=nl

執筆者

丸山 満彦

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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上杉 謙二

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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エレドン ビリゲ

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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山崎 潤一

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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上野 浩

シニアアソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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