AIリスクをめぐる規制動向解説、日本企業はどのようにAIリスクと向きあうべきか

  • 2024-08-07

諸外国および日本におけるAI利活用の拡大

AIの産業活用はグローバル規模で進展し、あらゆる国・業界へと広がっています。特に中国および米国におけるAI活用によるGDPへのインパクトは大きく、日本でも今後の実質GDPの押し上げ効果が期待されています。

活用の推進と同時に、AIが原因となったインシデントも世界的に増加傾向にあり、倫理違反、人種や性別などによる差別的バイアスや公平性の欠如、プライバシーやセキュリティの侵害といった、AIリスクに対する懸念も高まっています。

AIがはらむリスク

米国商務省の国立標準技術研究所(NIST)が公開した「Artificial Intelligence Risk Management Framework(AI RMF 1.0)」(以下、AIリスクマネジメントフレームワーク)では、AIにおけるリスクを7つの要素に整理し(図表1)、「信頼できるAIシステム」構築のためには、これらのリスクを軽減することが重要だとしています。

AI事業を担う主体と、留意すべきリスク

日本政府が2024年に公表した「AI事業者ガイドライン」では、AIライフサイクルにおける具体的な役割を考慮し、AIの事業活動を担う立場として、「AI開発者」「AI提供者」「AI利用者」の3つに大別して整理されています。

AIリスクをコントロールし、AIを安心安全に利用していくためには、主体別にどのようなAIリスクがあるのかを把握することが重要です。

AI開発者としてのリスク

AIを開発するにあたっては、正確性を重視するためにプライバシーや公平性が損なわれたり、プライバシーを重んじすぎて透明性が損なわれたりするなど、リスク同士や倫理観が衝突する場面が想定されます。その際には、経営リスクや社会的な影響力を踏まえ、適宜判断・修正することが求められます。

(例)

  • 学習データへ個人情報、機密情報、第三者に権利が帰属する著作物が混入し、権利侵害が発生する
  • 学習データ、モデルの学習過程において、人種差別などのバイアスが混入する
  • AIが何らかの誤判定をしたとき「なぜそのような推論をしたのか」についての根拠を示すことができない

AI提供者としてのリスク

AIを活用したシステムやサービスを、開発者の意図・想定とは異なる範囲で実装してしまうと、社会やステークホルダーに対して権利侵害や意図しない不利益などを生じさせてしまうことがあります。

(例)

  • 開発者が想定しない環境下や用途でAIを提供することで関係者に危害が発生する
  • 提供したAIが経年や環境変化によって精度劣化や挙動の変化を招き、利用者に意図せず不利益をもたらす
  • 最新の攻撃手法に対応できず、セキュリティ上の脆弱性を突かれてしまう

AI利用者としてのリスク

AIを商用利用する場合、業務外利用者からAIの能力や出力結果の説明を求められることがありますが、その要望に応えることができないと、社会やステークホルダーからの理解を得られず、事業活動に悪影響が及ぶ可能性があります。

(例)

  • AIから出力された内容や結果が他者の商標と類似し、著作権などの権利を侵害する
  • AIから出力された内容や結果に誤りがあり、それを参照した業務外利用者(エンドユーザー)から責任を問われてしまう
  • ステークホルダーからAIの能力や出力結果に関する説明を求められた際にそれが果たせず、レピュテーションの失墜を招く

今後に向けて

AIリスクに関する統一的な基準が示されたことで、今後これをもとに日本でも法令化の検討や業種ごとの基準策定など、さまざまなルールの検討が進むことが予想されます。企業においては、その流れと連動し、AIリスクマネジメントを整備することで、自社のAI利活用を加速させ、競争力を高めることが重要です。

執筆者

橋本 哲哉

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

Email

本田 怜

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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生成AIを巡る米欧中の規制動向最前線

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