ヘルスケアサプライチェーンを脅かすセキュリティリスクへの対応

2021-04-26

組織横断的な管理体制の構築が必要

一般的な「セキュリティ」のイメージからサプライチェーンのセキュリティ対策を考えると、その対象は、情報システムの開発・運用業務を担うサプライヤーが中心になりがちです。しかし、本稿で紹介した事例にも見られるように、サプライチェーン全体を見渡せばさまざまな箇所にセキュリティリスクが潜んでいることが分かります。攻撃者は組織のシステム環境に対する偵察行為をとおして、侵入できるポイントを常に探しています。ヘルスケア企業は、サプライチェーン全体に視野を広げた時に、各ステークホルダーがセキュリティへの正しい理解のもと、適切な対策を講じているという状態を確実にすることが求められます。

上述した代表的な3つの取り組みには、ビジネス上の意思決定も含まれることから、IT部門をはじめ、セキュリティ対策を司る部門のみで完結できるものではありません。例えば、アセスメントの結果からセキュリティリスクが高いサプライヤーの存在が明らかになったとします。一方で、当該サプライヤーが有するアセットが自社のビジネスに重要な意味を持つ場合、セキュリティリスク対応方針の決定には、ビジネス上の意思決定を行うことができる人物の関与が必要となります。また、いずれの取り組みも各サプライヤーとのコミュニケーションを要するため、調達部門との連携も想定されます。セキュリティの知識を有するIT・セキュリティスタッフと各部門の適切なコラボレーションのもと、ビジネスとセキュリティの両面から、競争力の強化に必要なサプライチェーンをセキュアに構築することが求められます。

以上、ヘルスケアサプライチェーンにおけるセキュリティリスクについて説明しました。多数かつ多様なサプライヤーに対して一斉に管理を開始することは困難であることから、ビジネスの視点とセキュリティリスクの視点から重み付けをした上で、リスクが高い箇所から取り組みを開始することが推奨されます。

*1:IBM, 2020年12月. ‘IBM Raises Alert for COVID-19 Cold Chain Security’ https://newsroom.ibm.com/IBM-Raises-Alert-for-COVID-19-Cold-Chain-Security

主要メンバー

小濱 奈美

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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