サイバーセキュリティ・プライバシー法規制のトレンドと企業に求められる対応

MITRE Threat-Informed Defenseを活用した新フレームワークM3TID

  • 2024-05-30

はじめに

組織の情報セキュリティ担当者は情報資産を守るために、大量かつ広範囲のセキュリティ業務を抱えており、日々高度化する攻撃に対応する必要に迫られています。そのような状況の中では、優先順位を見極めて自組織にとって本当に必要なセキュリティ対応から取り組んでいかなければ、対策が後手に回ってしまいます。

米国の非営利組織The MITRE Corporationの子会社が発表した「Threat-Informed Defense」は、その優先順位を決めるための参考になり、NIST(米国国立標準技術研究所)が策定したサイバーセキュリティフレームワーク(CSF)などと組み合わせることで大きな効果を発揮します。本稿では、Threat-Informed Defenseの概念や重要性について解説します。

アセスメントツール

アセスメントのメリット

実際に、現在の自組織がM3TIDの観点からどの程度成熟しており、将来どの程度の成熟度を目指すべきかを可視化するためには成熟度の判定が必要になります。M3TIDではその成熟度を判定するため、上記15キーコンポーネント別に成熟度スコアをつけて判定するためのアセスメントシートを提供しています*4

図表3:キーコンポーネントのレベル例

ディメンション キーコンポーネント 概要(日本語参考訳) レベル(日本語参考訳)
Cyber Threat Intelligence I.3- Relevance of Threat Data 脅威情報はどこから来ているのか、どの程度タイムリーなのか

レベル1. なし
レベル2. 一般的なレポートまたは無料で利用できるレポート

レベル3. 内部レポート

レベル4. 最近の詳細なレポート(多くの場合、サブスクリプションが必要)

レベル5. カスタマイズされたブリーフィング

Defensive Measures D.5- Deception Operations 防御目標と新しい脅威インテリジェンスの収集を可能にするためのDeception技術の運用は、どの程度広範囲かつ効果的か

レベル1. なし

レベル2. 疑わしい実行可能ファイルのサンドボックス化(例:電子メールの添付ファイルを配信前に処理する)

レベル3. 1個、あるいは数個のハニー(ポット、トークン、ドキュメントなど)が展開および監視され、悪意のある使用の検出と早期警告を可能にする

レベル4. ハニーネットワークの展開と監視

レベル5. 現実的なハニーネットワークにおける意図的で長期的なDeception活動

Test &  Evaluation T.2- Frequency of Testing テストは変化する攻撃者や防御されたテクノロジーに対応しているか

レベル1. なし

レベル2. 年次または臨時

レベル3. 半年ごと

レベル4. 毎月

レベル5. 継続的

出典:M3TIDをもとにPwC作成

各キーコンポーネントのスコアを記入すると、全体スコア結果と詳細スコアがレーダーチャートで表示されます。全体スコアは「Defensive Measures>Cyber Threat Intelligence>Test & Evaluation」の順番で重み付けされて計算されています。これは防御策を実装することが最も重要というCenterの考え方によるものです。

図表4 M3TIDの時系列アセスメントスコアの例

まずは自社の現在の成熟度をこのアセスメントシートで判定するのが望ましいと考えられます。ただし、より客観性を担保し、関連するフレームワークでどのように適用すべきかを検討する上では、第三者によるアセスメントシートの評価と、フレームワークとの整合性に関するアドバイスを得るのが望ましいと考えられます。

優先項目の推奨事項

Centerではまずアセスメントシートで現状評価を行い、スコアがゼロのものから優先的に着手し、その後スコアの重み付けに従い「Defensive Measures>Cyber Threat Intelligence>Test & Evaluation」の順でスコアを上げる項目を決めることを推奨しています*6

まとめ

これまでは脅威インテリジェンスをベースに成熟度を判断するM3TIDのような指標は未定義でした。しかし、新たに発表されたM3TIDを使うことで、攻撃者の技術や技術に対する深い理解を体系的に応用して防御力を向上させる方法へ発展的に移行することができます。

今後、M3TIDを活用する動きがグローバルで拡大することが想定されます。NIST CSFやPSIのようなフレームワークを採用している組織は、そのフレームワークとM3TIDを組合わせることで、セキュリティ対応の優先順位を見極めるという大きな効果を期待できます。

*1 Center for Threat-Informed Defense, ‘Measure, Maximize, and Mature Threat-Informed Defense v1.0.0,’
https://center-for-threat-informed-defense.github.io/m3tid/

*2 Center for Threat-Informed Defense, ‘Three Dimensions of Threat-Informed Defense,’
https://center-for-threat-informed-defense.github.io/m3tid/dimensions/

*3 Center for Threat-Informed Defense, ‘Getting Started with Threat-Informed Defense,’
https://center-for-threat-informed-defense.github.io/m3tid/getting-started/

*4 Center for Threat-Informed Defense, ‘Appendix B - Scoring Spreadsheet,’
https://center-for-threat-informed-defense.github.io/m3tid/spreadsheet/

*5 Center for Threat-Informed Defense, ‘Appendix B - Scoring Spreadsheet,’
https://center-for-threat-informed-defense.github.io/m3tid/spreadsheet/を使用してPwCが作成

*6 Center for Threat-Informed Defense, ‘Maximize & Mature Threat-Informed Defense,’
https://center-for-threat-informed-defense.github.io/m3tid/maxmature/

執筆者

村上 純一

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

Email

上杉 謙二

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

Email

山崎 潤一

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

Email

サイバーセキュリティ・プライバシー法規制のトレンドと企業に求められる対応

47 results
Loading...

パーソナルデータの利活用におけるデジタル先進企業のプライバシーガバナンスの取組状況

プライバシーガバナンスは、プライバシー問題に関するリスクを適切に管理し、消費者やステークホルダーに対して責任を果たすことを指します。この見直しは、社会からの信頼を得るとともに企業価値の向上に寄与します。企業のプライバシーガバナンスへの取り組み状況として2社の事例をご紹介します。

脆弱性開示ポリシーと報奨金制度 ―脆弱性報告窓口運用におけるリスクと企業がとるべき戦略―

昨今の製品セキュリティを取り巻く規制や制度への対応に伴い、企業では脆弱性開示ポリシーの整備が進んでいます。脆弱性を迅速かつ効果的に修正し運用するための、脆弱性を発見した報告者と企業との協力関係の構築と、報告者に対して企業が支払う報奨金制度の活用について解説します。

Loading...

インサイト/ニュース

40 results
Loading...

パーソナルデータの利活用におけるデジタル先進企業のプライバシーガバナンスの取組状況

プライバシーガバナンスは、プライバシー問題に関するリスクを適切に管理し、消費者やステークホルダーに対して責任を果たすことを指します。この見直しは、社会からの信頼を得るとともに企業価値の向上に寄与します。企業のプライバシーガバナンスへの取り組み状況として2社の事例をご紹介します。

脆弱性開示ポリシーと報奨金制度 ―脆弱性報告窓口運用におけるリスクと企業がとるべき戦略―

昨今の製品セキュリティを取り巻く規制や制度への対応に伴い、企業では脆弱性開示ポリシーの整備が進んでいます。脆弱性を迅速かつ効果的に修正し運用するための、脆弱性を発見した報告者と企業との協力関係の構築と、報告者に対して企業が支払う報奨金制度の活用について解説します。

Loading...

本ページに関するお問い合わせ