IACS UR E26/E27 概説~海運業界・造船業界への影響と押さえるべき要点

  • 2024-04-19

海事分野におけるサイバーセキュリティ対応の必要性

近年、船舶を含む海事分野(海運業、造船業、港湾など)においてもICTやIoT技術を活用したデジタルトランスフォーメーションが推進されています。一方で、これらの技術を利用するために必要となるサイバーセキュリティの確保が急務となっています。以前より海外では船舶に対するサイバー攻撃(操船システムの乗っ取り、GPS信号の改ざんなど)が確認されています。また、日本国内においても船舶ではないものの、港湾インフラのシステムを標的としたサイバー攻撃がすでに確認されており、海事分野におけるサイバーセキュリティ対応は待ったなしの状況です。

IACS UR E27とは

一方、UR E27は、UR E26が適用される船舶に搭載される舶用機器が製品レベルでサイバーレジリエンスを確保することを目指した統一規則となります。今後、舶用機器メーカーは審査機関である船級協会に対して図表2のような文書を提出し、UR E27に関する承認を受ける必要があります。

図表2:IACS UR E27で提出が求められる文書

No

提出文書

記載内容

1

資産管理台帳

  • ハードウェア情報(ホスト機器、組込機器、ネットワーク機器など)
  • ソフトウェア情報(OS、ミドルウェア、アプリケーションなど)

2

トポロジー図

  • 物理トポロジー図(システムの物理的な構成を示すもの)
  • 論理トポロジー図(システムの論理的な構成やデータフローを示すもの)

3

セキュリティ機能の説明

  • セキュリティ機能に関する設計資料または説明資料(UR E27で提示されているセキュリティ要件をどのように満たしているかを示すもの)

4

セキュリティ機能の試験方法

  • セキュリティ機能試験計画書(試験条件、試験方法、合格基準を示すもの)

5

セキュリティ構成指針

  • セキュリティ機能の設定パラメータ(セキュリティ機能の推奨設定を示すもの)

6

セキュア製品開発ライフサイクル文書

  • セキュア製品開発標準(セキュアソフトウェア開発、ソフトウェアの更新およびパッチ適用に関する方針を定めたもの)

7

コンピュータシステムの保守および検証のための計画

  • システムの保守手順書(セキュリティ機能が正常に動作しているかをシステム利用者が確認する手順を示すもの)

8

船主のインシデント対応とリカバリープランをサポートする情報

  • インシデント対応手順書(ローカル独立制御、ネットワーク分離、監査記録によるフォレンジック、バックアップ、復旧などに関する手順を示すもの)

9

計画の変更に関する管理

  • システムの各種変更に関する管理文書(システムの構成変更、セキュリティアップデート方針などの変更を管理するもの)

10

試験結果

  • セキュリティ機能試験結果報告書(上記計画に基づき試験結果を追記したもの)

IACS UR E26/E27対応における関係各社の役割

前述したUR E26/E27の対応を実施するためには、以下に示す海事分野における事情を考慮し、関係各社で連携しながらサイバーセキュリティ対応を進めていくことが必要となります。

  • 船舶全体の設計・建造は造船会社が担う一方で、船舶に搭載されるシステムは多数の舶用機器および船上システムを複合的に組み合わせて構成されています。したがって、サイバーセキュリティ対応についても舶用機器メーカーおよび船上システムのインテグレーターといった関係者との連携が必要不可欠となります。
  • 船舶は製品のライフサイクルに応じて所有者が変わります。具体的には、船舶の所有者は船舶の設計・建造段階は造船会社となりますが、引渡し以降の運用段階においては海運会社となります。これらの事情を加味した上で、製品のライフサイクルにおいて各社がどの領域に対してどこまでの責任を負うかといった点についても今後業界の中で議論していく必要があると思われます(図表3)。
図表3 製品のライフサイクルにおける各社の役割

IACS UR E26/E27対応における審査の流れ

本審査対応に関わる関係者および審査の流れを図表4に示します。荷主から提示されるサイバーセキュリティ要件をインプットとして、海運会社、造船会社、舶用機器メーカーが連携しながら審査対応を進めていく必要があります。

図表4 IACS UR E26/E27対応における審査の流れ

まとめ

UR E26/E27は2024年7月1日以降に建造契約される船舶に対して適用される強制要件となります。したがって、海運会社、造船会社、舶用機器メーカーといった関係各社が有機的に連携しながら、サイバーセキュリティが確保された船舶を設計・建造するとともに、引渡し後の運用段階においても機器のセキュリティアップデート対応に関する検討やインシデント対応計画・復旧計画を整備することが求められます。

なお、短期的な視点ではUR E26/E27審査に関する実務対応が優先的な取り組みとなるものの、中長期的な視点ではセキュリティ管理組織の構築、セキュリティ人材育成、セキュリティ業務プロセスの整備(脆弱性管理、製品セキュリティインシデントなど)といった、組織としてサイバーセキュリティ対応を推進するための仕組みを整備していくことが重要であると考えます。

PwCコンサルティングは本統一規則および審査対応についての調査を継続するとともに、船舶のサイバーセキュリティを確保するための実施事項についてより具体的に解説していきます。また、PwCグローバルネットワークを通じて収集した情報も活用し、海事分野のサイバーセキュリティ動向についていち早く紹介します。

執筆者

藤田 恭史

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

Email

浦上 昌己

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

Email

羽奈 洋介

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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