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近年、船舶を含む海事分野(海運業、造船業、港湾など)においてもICTやIoT技術を活用したデジタルトランスフォーメーションが推進されています。一方で、これらの技術を利用するために必要となるサイバーセキュリティの確保が急務となっています。以前より海外では船舶に対するサイバー攻撃(操船システムの乗っ取り、GPS信号の改ざんなど)が確認されています。また、日本国内においても船舶ではないものの、港湾インフラのシステムを標的としたサイバー攻撃がすでに確認されており、海事分野におけるサイバーセキュリティ対応は待ったなしの状況です。
2022年4月、IACS(International Association of Classification Societies:国際船級協会連合)は船舶を対象としたサイバーセキュリティに関する2つのUR(Unified Requirement:統一規則)を発行しました。UR E26では船舶、UR E27では船上のシステムおよび機器を対象に、サイバーセキュリティを確保するために最低限のセキュリティ要件が定められています。本統一規則によって、2024年7月以降に建造契約される船舶については本規則への対応が必要となります。
UR E26では、船舶の設計、建造、引渡し後の運用といった全てのライフサイクルにおいて、OT環境とIT環境の双方を含んだ船舶全体を1つのシステムと捉えた上で、サイバーリスクに対してレジリエントな状態(≒セキュリティインシデントの発生リスクを低減するとともにインシデント発生時における影響を軽減すること)を確保することを目指しています。なお、本規則における基本方針として、船舶のサイバーリスク管理を実施する上で備えるべき5つのセキュリティ機能カテゴリーを定義しています(図表1)。
セキュリティ機能 カテゴリー |
セキュリティ機能カテゴリごとの目的 |
識別 |
船上のシステム、人、資産、データおよび機能に対するサイバーセキュリティ上のリスクを管理するために、組織的な理解を促進する |
防御 |
船舶をサイバーインシデントから保護し、船舶の運用の継続性を最大化するための、適切な防護策を開発および実行する |
検知 |
船上におけるサイバーインシデントの発生を検知および特定するための、適切な手段を開発および実行する |
対応 |
船上で検知されたサイバーインシデントに関して行動を起こすための、適切な手段および活動を開発および実行する |
復旧 |
サイバーインシデントにより障害が発生した、船舶の運用に不可欠な全ての機能またはサービスを復元するための、適切な手段および活動を開発および実行する |
一方、UR E27は、UR E26が適用される船舶に搭載される舶用機器が製品レベルでサイバーレジリエンスを確保することを目指した統一規則となります。今後、舶用機器メーカーは審査機関である船級協会に対して図表2のような文書を提出し、UR E27に関する承認を受ける必要があります。
No |
提出文書 |
記載内容 |
1 |
資産管理台帳 |
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2 |
トポロジー図 |
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3 |
セキュリティ機能の説明 |
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4 |
セキュリティ機能の試験方法 |
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5 |
セキュリティ構成指針 |
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6 |
セキュア製品開発ライフサイクル文書 |
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7 |
コンピュータシステムの保守および検証のための計画 |
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8 |
船主のインシデント対応とリカバリープランをサポートする情報 |
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9 |
計画の変更に関する管理 |
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10 |
試験結果 |
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前述したUR E26/E27の対応を実施するためには、以下に示す海事分野における事情を考慮し、関係各社で連携しながらサイバーセキュリティ対応を進めていくことが必要となります。
本審査対応に関わる関係者および審査の流れを図表4に示します。荷主から提示されるサイバーセキュリティ要件をインプットとして、海運会社、造船会社、舶用機器メーカーが連携しながら審査対応を進めていく必要があります。
UR E26/E27は2024年7月1日以降に建造契約される船舶に対して適用される強制要件となります。したがって、海運会社、造船会社、舶用機器メーカーといった関係各社が有機的に連携しながら、サイバーセキュリティが確保された船舶を設計・建造するとともに、引渡し後の運用段階においても機器のセキュリティアップデート対応に関する検討やインシデント対応計画・復旧計画を整備することが求められます。
なお、短期的な視点ではUR E26/E27審査に関する実務対応が優先的な取り組みとなるものの、中長期的な視点ではセキュリティ管理組織の構築、セキュリティ人材育成、セキュリティ業務プロセスの整備(脆弱性管理、製品セキュリティインシデントなど)といった、組織としてサイバーセキュリティ対応を推進するための仕組みを整備していくことが重要であると考えます。
PwCコンサルティングは本統一規則および審査対応についての調査を継続するとともに、船舶のサイバーセキュリティを確保するための実施事項についてより具体的に解説していきます。また、PwCグローバルネットワークを通じて収集した情報も活用し、海事分野のサイバーセキュリティ動向についていち早く紹介します。