セキュリティサービスプロバイダーを取り巻くグローバル規制動向―欧州における状況

  • 2024-07-03

セキュリティサービスプロバイダーに関する規制動向

セキュリティ脅威や、それに関連するコンプライアンスリスクが増大している昨今、セキュリティ管理をアウトソースする企業が増加しています。このような状況下において、多数のクライアント企業のシステムやデータにアクセスする可能性があるマネージドセキュリティサービスプロバイダー(MSSP)は、サイバー攻撃者にとって格好のターゲットになっています。

こうした脅威動向を踏まえ、世界各国はサプライチェーンリスク管理の一環としてセキュリティサービスプロバイダーに対するセキュリティ上の規制の制定に取り組んでいます。本稿では、他のデジタル分野の規制でもグローバルをリードしている欧州におけるセキュリティサービスプロバイダー規制について解説します。

サプライチェーン上の事業者としてのMSSPに対する認証制度概要

欧州において成立に向けて調整が進むCSA改正案はMSSPを認証対象として定義するもので、MSSPに対する認証規格は今後制定される予定です3。しかし、CSA改正案は認証規格が満たすべきセキュリティ目標を定めているため、今後MSSPに求められる要件を理解する上でのヒントとなります(図表4参照)。CSAが求めるセキュリティ目標としては、サービス従事者が適切な能力を有すること、品質維持に必要な内部統制を実施すること、サービス提供におけるデータの完全性を維持すること、インシデント発生時のレジリエンスを確保すること、アクセスを管理すること、サービス提供のログを保持すること、使用する機器やプロセスなどがデフォルトでセキュアであることなどが挙げられています。

図表4 MSSP向け認証規格が保証すべきセキュリティ目標概要

認証を取得する上で目指すべきセキュリティ目標は共通ですが、認証の保証レベルはMSSPに想定されるリスクと対応したBasic、Substantial、Highの3段階に区分されています。保証レベルによって審査内容が異なり、例えば重要なスキルとリソースを持つ攻撃者による攻撃リスクを想定する場合は、ペネトレーションテストによるレジリエンス評価が要求されます。MSSPは、クライアントの要求を踏まえて保証レベルを検討する必要があります。

また、NIS2では欧州加盟国が自国の規制対象となる事業者に対し、CSAの下で運用される認証を受けた事業者からICTサービスやプロセスを調達することを要求できると定められています。NIS2の規制対象に対してサービスを提供するMSSPは、サービス提供先の地域において認証の取得が要求されていないか確認する必要があります。

また、NIS2の個別法として金融機関の安定的な操業を確保するために制定された欧州デジタルオペレーションレジリエンス法(DORA)4についても注意する必要があります。同法では金融機関に対して情報通信技術(ICT)を通じてデジタルおよびデータサービスを提供するプロバイダーへの規制を定めています。具体的には、ICTリスク管理、インシデント報告、ICTシステムのレジリエンステスト、サードパーティリスクの管理、脅威情報の共有などが求められます。日本企業であってもEU内に拠点を置く金融機関、EUの金融機関にサービスを提供するMSSPを含むICTサービスプロバイダーは対象となるため、2025年初頭までに準拠する必要があります。

図表5 欧州サイバーセキュリティ認証スキームにおける認証の保証レベル概要

まとめ

欧州におけるセキュリティサービスプロバイダーに対する規制に対応する上では、第1に自社事業がNIS2などにおけるMSSPに該当するか否かを特定する必要があります。その上で、MSSPの2つの側面を理解し、それぞれに求められる義務に対応する必要があります。今後MSSPは社会のレジリエンスに責任を持つ重要インフラとして直接セキュリティ上の義務が課されるでしょう。それに加えて第2に、他の重要インフラを支えるサプライチェーンの一部となる場合はCSAの下で適切な認証を受け、自社のセキュリティ水準の高さを証明することが求められます。

欧州でビジネスを行うセキュリティサービスプロバイダーは、2024年10月に向けた各国のNIS2施行状況やCSA改正案の施行に向けた動向を注視しつつ、自社ビジネスに適用される規制への適合に必要なセキュリティ上の要件と現状のギャップを把握し、対応していく必要があります。特に、MSSP向けの認証規格成立後に速やかに認証を取得することは、自社の十分なセキュリティ水準の証明を通じたブランディングの観点からも有益と考えられます。

1 NIS2 Directive (Directive (EU) 2022/2555), 2024年5月30日閲覧,
https://eur-lex.europa.eu/eli/dir/2022/2555

2 Briefing EU Legislation in Progress Managed security services, 2024年5月30日閲覧,
https://www.europarl.europa.eu/RegData/etudes/BRIE/2023/754556/EPRS_BRI(2023)754556_EN.pdf

3 Proposal for a REGULATION OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL amending Regulation (EU) 2019/881 as regards managed security services, 2024年5月30日閲覧,
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A52023PC0208

4 Digital Operation Resilience Act, 2024年5月30日閲覧,
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX:32022R2554&from=FR

執筆者

丸山 満彦

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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上杉 謙二

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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エレドン ビリゲ

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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山崎 潤一

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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上野 浩

シニアアソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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