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2021-01-12
電力の小売全面自由化に代表されるように、近年の電力業界を取り巻く環境は大きく変化しています。2020年4月1日からは「送配電の法的分離」もスタートし、さまざまな事業者が送配電網を公平に利用できるようになりました。こうした電力システム改革は電力業界にどのようなインパクトをもたらしているのでしょうか。本稿では電気事業連合会 情報通信部長の大友洋一氏を迎え、電力業界における改革の変遷や新型コロナウイルス感染症(COVID-19)がもたらしたインパクト、そして電力インフラに対するセキュリティの取り組みについて、PwCコンサルティング合同会社 テクノロジーコンサルティング パートナーの丸山満彦がお話を伺いました。(本文敬称略)
対談者
電気事業連合会 情報通信部長/電力ISAC 事務局長
大友 洋一氏
PwCコンサルティング合同会社 テクノロジーコンサルティング
パートナー 丸山 満彦
(左から)大友 洋一氏、丸山 満彦
電気事業連合会 情報通信部長/電力ISAC 事務局長 大友 洋一氏
丸山:
電力小売の全面自由化や送配電の分離など、電力業界は近年、目まぐるしい変化を遂げていますね。そもそものきっかけは何だったのでしょうか。
大友:
一番の転換点は、2011年3月11日に発生した東日本大震災です。震災をきっかけに大規模発電所停止による広域停電や都市部での計画停電が発生したため、それらの災害対策強化に向けた検討が加速し、それまで電力システムが抱えていたさまざまな課題を整理することになりました。
政府はこれらの課題解決に向けて、2013年4月、「電力システムに関する改革方針」を閣議決定しました。そして、電力システム改革として「1 広域系統運用の拡大」「2 小売及び発電の全面自由化」「3 法的分離の方式による送配電部門の中立性の一層の確保」という3本柱を打ち出し、段階的に推進してきました。
丸山:
そうして2016年4月1日、電力小売が全面自由化されたのですね。そして2020年4月1日、送配電の法的分離もスタートしました。
大友:
はい。4月のニュースは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)一色でしたが、送配電の法的分離は粛々とスタートしました。送配電の法的分離は、大手電力会社において一体化していた送配電部門を子会社として分社化したことで実現し、このことにより全ての事業者が送配電網を公平に利用できることになりました。今回の送配電の法的分離により、電力システム改革の3本柱が全て整ったという観点からも、2020年は電力業界にとって大きな変革の年だったと思っています。
丸山:
送配電を分離するためには、システム移行やオペレーションの変更など、大がかりな作業が必要だったのではないでしょうか。
大友:
そうですね。電力小売の全面自由化や送配電分離に伴い、全国の電力会社は、利用者の契約変更手続きを円滑に進める「スイッチング支援システム」や、スマートメーターからデータを収集し、託送料金を計算処理する「託送業務システム」について、大規模なシステム改変を実施しました。各社において、送配電分離に伴うシステム改変については、最も重要なシステム移行として、万が一に備えた移行体制を整備して、その日(4月1日)を迎えましたが、全社共に大きな問題もなく完了することができました。
丸山:
社会全体を見ても、2020年はCOVID-19によって大きな変革を迫られた一年だったと言えます。電力業界にはどのような影響がありましたか。
大友:
電力会社の感染対策からお話しすると、まずは給電指令所や発電所など、重要拠点における対策を最優先で取り組みました。電気事業者は新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下、特措法)で「指定公共機関」と定められ、各電力会社は特措法に則って、現場の安全を確保しながら「電力の安定供給」に万全を期さなくてはなりませんでした。発電所などの重要施設の職員がCOVID-19に感染して施設内でクラスターが発生してしまうと発電所の運転を継続することが困難になります。もちろん、万が一に備えて代替要員は確保していましたが、運転員が感染しないための対策を徹底しました。具体的には、通勤手段などへの配慮をはじめ、施設内で運転員と一般社員の通路(導線)や利用するエレベーターを分けるなど、環境面での対策について、各社で工夫して取り組まれました。
さらに、給電指令所や発電所のシステムは24時間365日稼働していますから、交替勤務となり運転員の業務引き継ぎが行われます。これまでは対面で引き継いでいたのですが、それらもオンラインに切り替えるなど、最大限の工夫と努力を実施しました。
丸山:
電気事業者が稼働を停止してしまったら多くの利用者に影響が出ますから、職員の皆さんが本当に重大な責任を担い、日々を送られていたのだと実感しました。また、一般社員の方を対象に、感染防止対策としてテレワークを導入されたそうですね。
大友:
小売販売部門や間接部門などの顧客対応を行う一般社員には、可能な限りテレワークを推奨しました。その際、緊急対応としてモバイルパソコンを利用できる環境を整備し、これまで訪問・対面で行っていた顧客への提案活動もオンラインでの実施に切り替えました。さらに、積極的に会議をオンライン化するなどし、ワークスタイル変革にもつながっています。こうした措置は「緊急対策」として短期間で準備されたケースも多かったことから、現在、セキュリティ対策も十分に考慮された恒久的なテレワーク環境の整備についても検討が進められています。
丸山:
COVID-19によるビジネスへの影響についてもお聞かせください。COVID-19は電力需要も大きく変化させたと聞いていますが、具体的には各電力会社のビジネスにどのようなインパクトを与えたのでしょうか。
大友:
緊急事態宣言期間中が特に顕著だったのですが、産業界による就業体制・営業体制見直しの影響により電力需要が激減しました。一番インパクトが大きかったのは工場の稼働停止です。ある企業では、1つの工場を1カ月間停止させたケースもありましたが、工場の電力需要はオフィスや家庭と比較してとても大きく、テレワークによる家庭の電気需要増があったものの、電力需要全体としては大きく減少し、収支にも大きな影響が出ています。産業用電力需要の落ち込みや店舗の休業などにより今年度は電力業界にとっても厳しい年となっています。
PwCコンサルティング合同会社 テクノロジーコンサルティング パートナー 丸山 満彦
丸山:
次に電力業界におけるサイバーセキュリティの取り組みについて教えてください。電力小売の完全自由化によって、電力市場には多くのプレイヤーが参入しました。また発電と送電の分離を背景として、監視すべきセキュリティポイントも増加しています。重要インフラを狙ったサイバー攻撃が増加する中、電気事業連合会ではサイバーセキュリティ対策をどのように進められていますか。
大友:
電力システム改革に伴い、大手電力会社10社では既存の業務プロセスや組織形態を大幅に見直しました。サイバーセキュリティ対策については(親会社である)持ち株会社と、(子会社の)送配電会社の両方で実施しています。具体的には両社にSIRT(Security Incident Response Team)を設置し、ITシステム、OTシステムを監視するSOC(Security Operation Center)を整備しています。
ITシステムの監視はこれまでも実施していましたが、OTシステムについては給電、送電、配電や発電など制御システムを管理する部門とIT部門が連携して、ITシステムとOTシステムのセキュリティを一体的に監視できるような体制を整備していくことが望ましいと考えています。
こうした体制の整備は、東京で開催されるはずだった国際イベントの開幕日である2020年7月をひとつの目標にしてきました。開催国に対するサイバー攻撃が急増していくと想定されていますので、現在も対応体制強化に向けた取り組みは継続しており、電力ISACにおいても特別な情報共有体制を整備していく予定です。
丸山:
特に送配電はミッションクリティカルですよね。どのようなアプローチで対策を講じられているのですか。
大友:
電力会社の最大のミッションは「できるだけ低廉に電力を安定供給すること」です。そのためには、給電指令、送電線や変電所などの需給・系統システム、配電線などの配電システム、発電所などの発電システムといった、全ての電力制御システムに対して、セキュリティ対策を講じる必要があります。具体的なアプローチとしては、安定供給の観点から守るべきシステムの重要度を定義し、中央給電指令所や、基幹送電線を監視する機関などの重要拠点の対策強化を優先的に対応しています。
また、電力を廉価で、かつ安定的に供給していくためには送配電業務を効率的に推進する必要があり、そのために、電力各社では最新のICT技術を活用した業務変革や新たなビジネス創造に向けた「デジタルトランスフォーメーション(DX)」に積極的に取り組んでいます。
DXの取り組みは主管部門が中心に短期間で進められるケースが多くありますが、安全なビジネス環境を実現するため、構想の早い段階からサイバーセキュリティ部門を参画させ「セキュリティ・バイ・デザイン」の考え方に基づいてDXに取り組むことが大切だと考えています。
丸山:
主管部門とICT部門が一体となってデジタル化を推進し、同時にセキュリティも組み込んでいくことが大切ですね。
大友:
おっしゃる通りです。小売分野では大手電力会社も新電力会社もそれぞれがライバルで、独自の新サービスなどを打ち出して他社と差別化を図る必要があります。しかし、スピードや利益を重視するあまりセキュリティを疎かにすると、サイバー攻撃のターゲットとなり、その結果、お客さま情報などの個人情報が漏えいしたり、電力のさまざまなサービスが停止するなど影響の大きな事象が発生することが懸念されます。
例えば主管部門が「こんな機能・サービスを追加したい」と言った時、サイバーセキュリティ部門が「それを実現するにはどのような実装が必要」で、「どのようなセキュリティリスクがあるのか」「どのような対策を実装すべきか」を即答できるようなチームでDXを進めていくことが理想です。
丸山:
電力業界のセキュリティエキスパートには、ITとOTを理解している人材が求められます。人材の確保は順調ですか。
大友:
それが一番の課題で、前述した通り、SIRTやSOCはある程度整備されていますが、セキュリティ人材の継続的な確保やスキルの向上は、全社共通の課題となっています。今後は、エネルギーに対して付加価値を創造できる人材と、ICT・セキュリティの技術や知識を持った人材とが協業していく体制が必要不可欠と考えます。そのためには、社内の人材育成や専門事業者との協業など、推進するヒト・体制をしっかりと検討していく必要があると感じています。