インシデントの発生を前提とする時代 サイバーセキュリティプレイブックの整備

サイバーセキュリティの施策や投資と言えば、セキュリティインシデントの発生に対する「予防」策や「検知」策を中心とする企業が多く、発生し得るインシデントへの「対処」を改善するための施策や投資は、まだ一部のセキュリティ先進企業に留まってしまっているのが現実です。サイバーセキュリティ対策の考え方の主流は、「インシデントを予防する」ではなく、「インシデント発生を前提として対策する」にシフトしており、インシデントへの「対処」についてあらためて検討を行うべき時期に来ていると言えます。今回は、インシデントへの「対処」を強化するためのツールである「サイバーセキュリティプレイブック」を整備するポイントについて解説します。

3.SOARによる手順の自動化

インシデント対応においては最近、SOAR(Security Orchestration Automation and Response)と呼ばれるソリューションが注目されています。SOARでは、プレイブックに定めた手順をツール上に登録することで、その処理を自動で実行することができます。例えば、「悪性サイトへのアクセス」が疑われるイベントが発生した場合、そのURLについて、脅威インテリジェンスに関する情報を記した外部サイトなどで影響を確認し、脅威があると判断した場合、当該URLへのアクセスをURLフィルターなどと連携してブロックすることや、マルウェアをダウンロードした可能性がある場合は、当該端末の切り離しを自動で行うことができます。SOARツールの多くはあらかじめ、多くのセキュリティインシデントに対する対応手順をテンプレートとしてまとめており、当該テンプレートを自社向けにカスタマイズすれば、容易に導入することが可能です。

しかしながら、SOARは自社で発生し得る脅威を検知でき、かつその対処手順が定まっていることを前提としたソリューションです。導入したからといって即座に全てのインシデント対応を自動化できるわけではありません。そのため、プレイブック整備のポイントに記載したように、リスクアセスメントなどを通じて自社で発生し得る脅威を特定し、それらを検知・調査する手順を整備した上で導入することが重要です。

4.最後に

プレイブックの整備は、一度手順を定めたら終わりではありません。レッドチーム演習に代表されるセキュリティ診断や、実際のインシデントに対処した場合の経験や知見などに基づいて都度アップデートを行うことが必要です。そうしてプレイブックの実用性・実効性を高めていくことで、より強靭かつ属人的な対応が発生しないインシデント対応体制を築くことができるでしょう。

執筆者

辻 大輔

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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松原 翔太

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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