本当に必要なセキュリティ施策の導き方 ― リスクスコアの算出フレームワーク活用術

1.はじめに

限りある予算・人的リソースを踏まえて、次の一手として何をすべきか――。CSIRTの現場の多くでは、優先すべき施策について意見が割れているのが実情です。

セキュリティ対策が不十分という認識を持つ企業や組織は、各種法令やガイドラインを頼りに基本的なセキュリティ機能の整備を行っていることでしょう。一方、各種法令やガイドラインで求められる基本的なセキュリティ機能を具備した企業には、次の一手を導く万能な教科書はないため、自社のビジネスや組織、保有資産や施策導入状況などに鑑み、講じるべき施策を自ら選択する必要があります。この選択の際に重要なことは、サイバー攻撃への対処、セキュリティガバナンスの強化、あるいはセキュリティ業務負荷の解消といった性質の異なる課題であっても、その課題が持つ「リスク」を見極め、優先順位を設定することです。リスクを見極める「目」がなければ、費用対効果の小さい施策を講じてしまう、あるいは、施策の必要性を経営層に訴求できず導入が進まないなどといった課題に直面することでしょう。

今回は、上記の解決策として「リスクスコアの算出フレームワーク」の構築・活用を紹介すると共に、次に実施すべき施策を導く方法について記載します。

4.リスクスコアの算出フレームワークの活用

リスクスコアの算出フレームワークの活用によって、前述のような講じるべき施策の優先度の決定だけでなく、CSIRTに寄せられる検討課題にも、解を見出すことが可能になるでしょう。以下に例を記し、本コラムを締めくくりたいと思います(図表2)。

(1)新規ソリューションを導入すべきか?

リスクスコアの算出フレームワークを用いることで、新規ソリューションがもたらす効果、つまりソリューション自体がリスクをどの程度低減させるか、その大きさを評価することが可能になります。新規ソリューション導入の際に毎回リスク評価を行い、導入費用に鑑みながらデータとして蓄積することで、自社としての費用対効果の指標を構築することができ、施策の導入の是非を検討することができるようになります。

(2)セキュリティ要件を規程から廃止可能か?

セキュリティ規程の中には、外部のガイドラインや他社事例が引用元となり、自社に鑑みるとその効果が疑わしい要件が存在している場合があります。リスクスコアの算出フレームワークで、該当する要件を廃止した場合のリスクの大きさを算出できるため、要件の持つ効果が薄いことを客観的に証明できれば、スムーズに廃止へと導くことができます。

また、規定に要件を追加する場合も同様です。例えば、外部のガイドラインが求めるセキュリティ要件が、既に自社では技術的安全管理措置によってリスク低減済みであるなど、要件を追加しない場合のリスクを明らかにすることで、自社の規程に採用すべきかを判断することができます。

(3)セキュリティ監査や教育などのコンテンツの軽量化は可能か?

監査項目や教育コンテンツなどは年を追うごとに肥大化する傾向があり、対象者の業務負担を軽減するために、その分量の削減に迫られるケースがあります。リスクスコアの算出フレームワークを用いることで、各コンテンツの効果を横並びに評価することができ、効果の高いコンテンツに絞り込むことで、一定の水準を保ちつつ、対象者の業務負担を軽減することが可能になります。

執筆者

辻 大輔

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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渕 遼亮

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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CSIRTを進化させる次の一手

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「CSIRTを進化させる次の一手」本当に必要なセキュリティ施策の導き方 ― リスクスコアの算出フレームワーク活用術

企業は自社のビジネスや組織、保有資産や施策導入状況などに鑑み、講じるべきセキュリティ施策を自ら選択する必要があります。この選択の際には、解決するべき課題が持つリスクを見極め、優先順位を設定することです。今回は「リスクスコアの算出フレームワーク」の構築・活用を紹介すると共に、次に実施すべき施策を導く方法について記します。

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