製品サイバーセキュリティ実態調査~サプライチェーン上流と下流で異なる課題:企業を跨いだ業界全体でのPSIRT活動が重要

2022-09-26

PwCコンサルティング合同会社は2022年5月、製品サイバーセキュリティを推進している企業を対象に、セキュリティ対策状況に関する調査を実施しました。

本稿では調査結果を基に、製品サイバーセキュリティの現状と今後求められる製品サイバーセキュリティ施策について解説します。

目的

日本の製造業における製品サイバーセキュリティ対応の状況を明らかにする

製品サイバーセキュリティ業務に携わる方へ有益な参考情報を提供する

調査方法

ウェブによるアンケート

調査対象

日本で製造業関連企業において、以下の部門に所属する方々

  • 研究開発
  • 製品企画・設計
  • 製品技術企画
  • 製品品質管理
  • 生産・製造
  • 情報システム
  • セキュリティ

調査期間

2022年5月

調査数

549名

サプライチェーンセキュリティ

サプライチェーンの上流と下流で異なる課題意識。製品サイバーセキュリティ強化に向けては企業間連携が不可欠。

サプライチェーンの上流※1に関して35.2%の回答者が「セキュリティ管理体制の整備」にセキュリティ課題があると回答しました(図表9)。一方でサプライチェーンの下流※2に関しては、回答者の38.4%が「サプライヤーが実施するセキュリティ対策の確認、確保」、30.8%が「供給品の脆弱性管理」に課題があると回答しています(図表10)。

図表9 製品開発に関してサプライチェーン上流におけるセキュリティ課題
図表10 製品開発に関してサプライチェーン下流におけるセキュリティ課題

サプライチェーンの上流では、多くの回答者が製品サイバーセキュリティガバナンスの要諦である、体制の整備が課題であることを認識しています。一方で、サプライチェーンの下流では、脆弱性管理を含む具体的な対策に課題があると認識しており、上流と下流に対して、異なる課題意識を持っています。

複数のガイドラインが、サプライチェーンセキュリティの重要性に言及する中、多くの企業がサプライチェーンセキュリティの重要性と上流下流の役割を理解し、対策を模索していることが伺えます。引き続き企業間で連携し、課題を解消していくことが求められます。

企業は製品サイバーセキュリティガバナンスを機能させるためセキュリティ管理体制を整備した上で、サプライチェーンの上流および下流の双方で具体的な責任分担や連携方法を整備する必要があります。特に、ソフトウェアサプライチェーンに由来するリスクが顕在化する事例が近年は目立っており、深刻な事態に発展することが懸念されています。企業間でソフトウェアに含まれるコンポーネントの情報をデータベース化し、適切に連携すること(ソフトウェア部品表:SBOM)が求められていますが、それらの情報を脆弱性情報と紐付け、迅速かつきめ細やかな脆弱性管理を実現することは、セキュリティリスクへの有効な手段と考えられます。

SBOM(ソフトウェア部品表)への対応

※1 サプライチェーン上流 製品やSWを納める企業との関係。
例)自動車部品サプライヤー → 自動車製造OEMの関係

※2 サプライチェーン下流 製品やSWを集め、最終製品を製造する企業との関係。
例)自動車製造OEM → 自動車部品サプライヤーの関係

製品サイバーセキュリティ施策の自動化の必要性

製品サイバーセキュリティに積極的な企業ほど、各工程(特に開発工程)でDevSecOps施策を導入。製品サイバーセキュリティ全般の課題である人材不足を踏まえると、セキュリティ施策の自動化および機械化は必須と言える。

製品サイバーセキュリティに関する人材不足を解決する手段として、前述した社員教育活動は必要かつ有効ではあるものの、製造業全体で人材不足が叫ばれる現状を踏まえると、人材育成のみでこの課題の解決を目指すという判断は不十分と考えられます。

ここで注目したいのは、製品サイバーセキュリティ領域におけるDevSecOps活動についてのデータです。

製品サイバーセキュリティ領域のDevSecOps活動は、工程によって差があるものの、実際に全体の回答者のうち、設計工程では21.1%、実装工程では19.1%、テスト工程では19.1%の割合で既に実施されていることが分かりました(図表11)。また、セキュリティ予算が10億円以上の企業では、さらに導入率が上がる傾向にあり(図表12)、製品サイバーセキュリティ施策の自動化が積極的に進められています。

図表11 DevSecOpsが導入されている工程
図表12 DevSecOpsが導入されている工程(セキュリティ予算10億円超)

IT領域で広まっているDevSecOpsは、セキュリティ施策を自動化することがポイントの1つとなります。人材不足に加え、労働人口の減少が予測される日本企業においては、自動化によってセキュリティ品質の担保を人の量や質に頼らないようにすることが重要になるでしょう。

総括

調査結果を通じ、日本の製造業企業は製品サイバーセキュリティに対し、多様な課題を認識しながらも真摯に向き合い、対応を進めている現状が明らかになりました。

製品サイバーセキュリティは従来のITセキュリティと異なり、製造者のコントロール下でない、エンドユーザーの手元で利用されていることから、従来のセキュリティ施策・手法では対応できないケースが多く、製品サイバーセキュリティ特有の活動が求められる分野です。これまでにない新しい取り組みを進めるにあたっては、どこまでコストと時間をかけて対応すべきなのか、判断に迷う部分もあるでしょう。その線引きに明確な答えは無く、各社さまざまなガイドラインや業界動向を参考にしながら対応しているのが実情です。

一方で、Web3.0に代表される最新テクノロジーの波は、製品そのものの機能の多様性を加速させ、製品サイバーセキュリティ対策が必要な範囲を拡大させています。もはや、各社が自社のみで対応することは現実的ではなくなってきていると言えるでしょう。日本の製造業関連企業は、製造業全体、製品ごと、サプライチェーンのそれぞれにおいて適切な協力関係を構築することで、企業間連携のためのルール作成、最先端の施策の導入および評価など、効果的な製品サイバーセキュリティ対策を実現することが求められています。

本稿が製品サイバーセキュリティの対応を推進する皆様にとって、現状を理解する一助になれば幸いです。

執筆者

村上 純一

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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奥山 謙

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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安井 智広

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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山口 直幹

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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山口 和樹

シニアアソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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