サプライチェーン選定時の新基準――リスクが多様化する時代において企業価値を高めるには

2021-10-18

はじめに

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生により、従前のリスクだけでなく、予測困難な新たなリスクに対応することの重要性が顕在化しました。例えば、COVID-19パンデミックの発生によって、人やモノの移動が困難となり、サプライチェーンの分断を余儀なくされた企業も多いのではないでしょうか。サプライチェーンの分断は、サプライチェーン上で人権問題やサイバー攻撃など、COVID-19以外の問題が発生した場合にも引き起こされ、その影響は自社の事業継続にも及びます。そのため、自社の事業継続の観点からも、サプライチェーンの分断をできる限り未然に防ぐことが重要となります。

こうした背景を踏まえ、本稿ではサプライチェーンの再整備における外部委託先の新たな選定基準を提示し、その上で、今後国際社会で支持される企業になるためのポイントについてご紹介します。

サプライチェーンの選定基準

これまで、サプライチェーンを選定する際の基準としては、主にコストや品質、財務状況などが着目されてきました。これらは自社のサプライチェーンを分断させないための基本的な基準ですが、これらに加えて、時代の変化に伴い多様化したリスクに即したプラスアルファの基準が必要となります。

以下に、今後重要となる新たな基準を3つご紹介します。

ESG(特にS=社会の観点)

グローバルサプライチェーン上で差別や強制労働などの人権問題が発生した場合、消費者や取引先との関係にも影響が及び、自社のブランド棄損だけでなく、事業継続そのものが危ぶまれる恐れがあります。また、ESGの重要項目とされるダイバーシティ&インクルージョン(D&I)への取り組みも、人権問題を未然に防ぐ観点からも必須であると考えます。

このようなリスクを未然に防ぐためには、外部委託先それぞれがESG観点を持ち合わせていることが重要であり、また発注元が自ら積極的に各委託先に取り組みを呼びかける必要があります。具体的には、監査などを通した外部委託先の人権状況の把握や、ESG情報開示など、自社を起点とした積極的なサプライチェーンの情報把握と発信が、自社のレジリエンス向上につながります。

サイバーセキュリティ

近年、サイバーセキュリティの重要性は認識されていますが、一方で、多くの中小企業では十分なサイバーセキュリティ対策が整備されていないのが現状です。そのため、サプライチェーン上においては、比較的セキュリティが脆弱である中小企業を攻撃の入り口とし、そこから大手企業に侵入する「サプライチェーン攻撃」が増加しています。また、自社が攻撃を受けないとしても、外部委託先でサイバー攻撃後の事業継続計画(BCP)が策定されていなければ、サプライチェーンが分断されてしまいます。こうした背景を踏まえ、外部委託先を選定する際には、高いサイバーセキュリティ対策を実施している企業を選定すべきでしょう。

また、自社自体のセキュリティ確保も必須です。自社が十分なセキュリティ対策を実施しないことで、外部委託先から取引停止を求められる可能性もあります。

予測困難なリスクへの備え

COVID-19のように、予測が困難であり、かつリスクの高い事象に対しては、発生後の対応はもちろん、平時からの基準策定が重要です。特にCOVID-19の対応において最も困難であったのは、企業の社会的責任と従業員の安全確保の両立ではないでしょうか。これらの両立を目指してリモートワークを導入した企業、業務の都合上リモートワークが導入できない企業などさまざまであったと推察しますが、それらの対応を含め、大規模災害発生時における「最低限再開すべき業務」や「業務再開の災害レベル」の事前策定が鍵になってきます。このようなBCPの事前策定を実施している外部委託先を選定することで、サプライチェーンの長期的な分断によるリスクを低減させ、それにより災害発生後も自社が企業としての社会的責任を最低限果たすことができると考えます。

執筆者

増田 凪紗

アソシエイト, PwC Japan有限責任監査法人

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