
ポストコロナの世界における事業継続戦略「2025年の崖」起点の業務変革 ――「データドリブンBPR」が切り拓く企業の未来
情報システム(ERP)の導入と表裏一体の関係にある業務変革の手法に焦点を当て、その処方箋の1つとして「データドリブンBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)」を紹介します。
2022-07-26
経済産業省は2018年9月に公表したレポートにおいて、国内企業がDXに係る諸課題を克服できなければ2025年以降、年間最大12兆円の経済損失が生じる可能性があるとの警鐘を鳴らしました。いわゆる「2025年の崖」です。それから4年近くが経過した今、日本企業の多くは「2025年の崖」で言及された
という懸念事項を念頭に、各社個別の事情を踏まえながら、対応を進めているものと思います。
しかし、これらの課題は何も「2025年の崖」に限ったものではありません。今後企業がDXを推進し、データドリブン経営への変革を急速に進めていく中で、再び同様の状態に陥らないとも限りません。
すなわち、当座の「崖」対応とあわせて、将来的に「崖」を生み出さないための施策を実行することではじめて、「2025年の崖」を乗り越えられたと言えるのです。
では、企業は「2025年の崖」をどのように乗り越えるべきなのでしょうか。
企業の置かれた状況によって最適解は異なるとは思いますが、本稿では、情報システム(ERP)の導入と表裏一体の関係にある業務変革の手法に焦点を当て、その処方箋の1つとして「データドリブンBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)」を紹介したいと思います。
「データドリブンBPR」とは何かを説明する前に、「2025年の崖」を作り出してしまった要因を、業務変革の手法という視点から考察してみたいと思います。
多くの日本企業はこれまで、業務をオペレーションの切り口から分析・整理する「プロセスドリブンBPR」という手法を用いて業務変革を推進してきたと理解しています。
事実、2000年代初頭から勃興したERP導入に際して、新たな業務プロセスを検討・構築する上で「プロセスドリブンBPR」は非常に使い勝手がよく、ERPという情報システムを“導入/Go Live”させるためのメソドロジーに組み込まれたものでした。
ただ、ERPを“導入/Go Live”したものの、同時に業務変革という果実を十分に享受できたと言えるケースが全てではないというのが実情ではないでしょうか。
というのも、「プロセスドリブンBPR」では、担当者へのヒアリングを通じて現行業務を詳らかにするため、オペレーションとそれを行う主体・人にどうしても目線が行きがちになってしまいます。そのため、既存業務を重視する部分が多くなり、手作業のIT化・自動化が優先的に進められてしまうのです。
結果として、強力なプロジェクトマネジメント機能の発揮がない限りにおいて、BPRの本来の目的が見失われ、既存業務の効率化や担当者の作業量の削減へとすり替わるケースが散見されました。さらには、ERP機能を熟知した導入ベンダーに言われるままにプロジェクトを進めてしまい、導入ベンダーのアドオン開発に対するインセンティブに歯止めが効かないという負のスパイラルが生じてきたのです。
ERP導入により、部分的には業務が最適化されたものの、過度なアドオン開発によりシステムの内部構造が複雑化したとも考えられます。これらの複合的な要素が「2025年の崖」を作り上げる要因の1つになっていると推測されます。
そのような中、各種ERPのサポート期間が今になって終了しはじめており、ERPの更改は待ったなしの状況です。今後もこれまでの「プロセスドリブンBPR」という手法を変えない場合、「2025年の崖」を乗り越えることはおろか、さらに事態を悪化させてしまう可能性もあります。
では、「2025年の崖」の処方箋としての「データドリブンBPR」とは何なのでしょうか。
ひと言でいうと業務をデータの切り口で分析・整理することで、業務変革を実現できる手法です。加えて、外部監査で検出された内部統制不備への対応、ESG開示などに代表される各種規制への対応、社会的な人材不足、不確実性への対応など、多くの企業が抱えている悩みへの解決策となる考え方・手法になると考えます。
具体的には、以下の3ステップにより業務を抜本的に見直します。
現行業務を、end to endでオペレーションフローではなく、データフローの視点で可視化
データフローを、経営意思決定に利用できる水準の「確かなデータ」を生成するまでの過程に着目し、人の介在が必要な手続と不要な手続を切り分け
人の介在が不要な手続は徹底的に自動化。一方で、人の介在が必要な手続きについては、その手続きに求められるスキルや、人が介在することに伴うリスクを整理し、あるべき業務遂行態勢を検討・再構築
このように「確かなデータ」および「確かなデータを生成するための業務」を実現・再構築することが、「データドリブンBPR」によりもたらされる業務改革なのです。
業務変革を“データドリブン”で行うことで、以下3点のメリットがあると考えます。
「プロセスドリブンBPR」では、前述のとおり手作業のIT化・自動化に終始し、「オペレーションの省力化」に留まってきました。しかしBPRとは本来、経営意思決定に資するデータを最短距離で作り、“効率的な業務”を実現・再構築することを目的に行われるべきものです。
「データドリブンBPR」は、業務をデータの視点から可視化し、見つめ直す手法であるため、現行業務・手続、所掌にとらわれることなく、あるべき“効率的な業務”をゼロベースで描き直すことを可能とする手法であると言えます。
データ分析ツールの浸透やクラウド技術の進歩・普及などに伴い、企業は大量のデータを保有できるようになりました。保存容量やデータ処理にかかる負荷など、技術的な制約が解消された今、自社の持つデータを最大限活用しない手はありませんし、むしろデータドリブン経営が叫ばれる時代にあっては必須とも言えます。
「データドリブンBPR」により「確かなデータ」が確保されるということは、そのデータを組織内で共有できるプラットフォームが確立されるということとも同義です。したがって、これまで可視化されてこなかったデータを共有できるようになれば、これまでリーチできていなかった経営分析やデータ分析が可能となり、そこから得られる示唆を経営判断に活かすという好循環の形成が期待できます。
「データドリブンBPR」では、人の介在が不要な業務については徹底的に自動化し、人の介在が必要な業務については必要なスキルなどを整理していきます。さらに、整理されたスキルと現状を比較分析することで、当該業務に潜むリスクを可視化することもできます。
このように、リスクの高い業務や領域に対して経営資源を重点的に配置したり、追加配置するための経営資源を確保したりすることで、事業リスクを低減させ、企業の競争力を高めることができます。すなわち、「データドリブンBPR」により「経営資源を、企業の持続性を考慮した上で最適に分配すること」に資する情報を突き止めることができます。また、人が介在する必要のある業務に経営資源(人材)を集中させることで、維持管理費の高騰や保守要員の不足といった、現時点で浮き彫りになっている課題の解決に向けてアプローチできます。
このように、「データドリブンBPR」により、長期的な企業価値を最大化する「本来のBPR」を実行していくことが、デジタル化の進む社会において「2025年の崖」を乗り越え、企業の競争力を高めるキーファクターになると考えます。
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