ROIC経営の落とし穴

  • 2024-08-06

近年、日本企業において資本コストや株価を意識した経営が浸透しつつあり、ROIC(Return On Invested Capital:投下資本利益率)を経営指標として積極的に用いる企業が増えてきています。ROICは資本効率性を説明するうえで有用な指標ではあるものの、適切な使い方をしないと、経営の舵取りを誤ってしまい、オペレーションの現場を疲弊させることになりかねません。

今回は、ROIC経営を実践するにあたって留意すべき点を、X-Value & Strategy(XVS)の3名が語り合いました。

(左から)栗田 亮介、土田 篤、原田 英始

(左から)栗田 亮介、土田 篤、原田 英始

登場者

土田 篤
PwCコンサルティング合同会社 パートナー

栗田 亮介
PwCコンサルティング合同会社 ディレクター

原田 英始
PwCコンサルティング合同会社 ディレクター

戦略適合性がなければ資本効率の良い事業を寄せ集めただけの企業になってしまう

土田:
先に述べたように、ROICまたはEVAスプレッドは事業ポートフォリオの評価においても用いられますが、ROICやNPV、IRRのような資本コストを加味した指標が重用される一方で、戦略適合性の視点が欠落しているケースが見られます。

栗田:
定性評価と定量評価など、さまざまな視点を組み合わせて何をすべきかを考えなければなりません。デジタル要素で全てを判断できれば経営者は苦労しませんが、そうはいかないのが経営です。企業は数字だけではなく、自社が進む方向性をステークホルダーに発信しなければなりません。それがないと、単なる個別事業の集合体になってしまいます。

土田:
当たり前の話ですが、企業にはビジョンやミッションがあり、EVAスプレッドの高い事業を集めることが、企業の目指すべき方向と一致するとは限りません。それにも関わらず、資本収益性などの定量面は白黒がはっきりするので、事業ポートフォリオの取捨選択や投資・撤退判断において、絶対的な評価軸として扱われやすい側面があります。

原田:
本来は定量面である資本収益性と定性面である戦略適合性を対にして判断すべきです。投資や撤退の意思決定を行う際に、各事業の戦略的意義や、他の事業とのシナジーなどの評価も定量評価と併せて検討する仕組みが必要です。戦略適合性は、単に注力事業に該当するかだけではありません。例えば経営環境に鑑みて、今は短期の利益獲得を求めるのか、中長期的な将来の収益の柱を創りたいと考えるのかによっても投資の優先度は変わります。昨今だと環境負荷や人員効率を考慮すべきという考えもあるでしょう。いずれにしても、その優先度を投資・撤退基準に反映させる必要があります。マネジメントとして何を優先すべきかをしっかりと言語化したうえで、戦略適合性を評価する仕組みが重要です。

土田:
戦略適合性を言語化し、評価体系に組み込むのは容易ではありませんが、マネジメントが目指す方向に企業をドライブするためには、それらは投資・撤退などの評価軸として欠かせません。定量的な評価により、客観的視点を持ち合理的な経営判断をすることは当然ながら重要ですが、中長期的かつ戦略的な観点からどうあるべきかを考え、マネジメントとしてどうしたいかという意志を持ち、経営の舵取りをしていくことも大切ではないでしょうか。

主要メンバー

土田 篤

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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栗田 亮介

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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原田 英始

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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