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PwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)のPublic Services(PS:官公庁・公共サービス部門)は、多様な領域に対応する専門性を有する15のInitiativeチームから構成されています。この連載(全10回)では、テーマごとにさまざまなInitiativeからメンバーが集まり、よりよい社会をつくるために、社会課題解決へのアプローチや、新たな価値創出のアイデアなどについて語り合います。第9回のテーマは「未来の医療と健康」です。
少子高齢社会となり、医療財源やリソースのひっ迫や、都市部と地域における医療資源の偏在など、さまざまな課題が指摘されています。誰もが医療にアクセスしやすく、健康を維持できる環境を整備するためにはどういった技術や仕組みが必要なのでしょうか。医療をはじめ、デジタルや地域間連携を専門とするコンサルタント4名が議論しました。
(左から)長野俊平、野崎涼、稲葉実子、安田純子
稲葉 実子
PwCコンサルティング合同会社 シニアアソシエイト
厚生労働省において医療、保健分野に関する政策立案(医療機関の指導監督・救急医療体制構築・医療法人のガバナンス強化など)に従事。2021年よりPwCコンサルティングにて厚生労働省・文部科学省における医療提供体制・特別支援教育分野の政策調査などに携わる。
野崎 涼
PwCコンサルティング合同会社 シニアアソシエイト
2020年に大手総合コンサルティングファームに新卒で入社。官公庁や民間企業、ソーシャルセクターなど、幅広いセクターのプロジェクトに従事。2022年よりPwCコンサルティングにて主に内閣府や経済産業省向けの調査案件に従事。Public Policy Initiativeに所属し、東京大学公共政策大学院との産学連携プロジェクトにおいて、地域における持続可能な財源確保に関する共同研究に携わる。
長野 俊平
PwCコンサルティング合同会社 シニアマネージャー
大手SIerにて主として官公庁向けのシステム開発やシステム企画提案に従事。2023年よりPwCコンサルティングにてデジタル庁や総務省におけるITコンサルティングに携わる。
安田 純子
PwCコンサルティング合同会社 シニアマネージャー
新卒で日系シンクタンクに入社し、厚生労働省の外郭団体(医療経済研究機構)への2年間の出向を経験。その際構築した厚生労働省や関係領域の研究者とネットワークを活かし、介護、医療、低所得者、社会保障、居住政策などの領域の調査研究と、当該テーマに関わる民間事業者向けのコンサルティングに関わる。2018年よりPwCコンサルティングにて厚生労働省や関係団体における介護、生活保護などの社会保障領域の政策研究などに携わる。
稲葉:
医療の全体の現状としては、医療と介護の複合的なニーズのある高齢者が増加していく一方で、生産年齢人口は減少しています。つまり、医療や介護の担い手が減っていく中で、医療を必要とする人は増えていて、そのアクセスを確保していく必要がある状況です。地域ごとに人口構造も違えば必要な対応も異なるので、地域の実情に合った医療と介護のさらなる連携や医療・健康へのアクセス確保が急務となっています。
医療などへのアクセスという観点では、地域の人々が必要な医療情報にアクセスできるよう、医療情報を公開していく動きがあります。例えば、医療機関の情報を集約した「医療機能情報提供制度」は、これまで47都道府県ごとに運用されていましたが、2024年4月から1つの包括的な情報提供サービスに統合されました。ほかにも、5月に分娩取扱施設に関する情報が整理され、「出産なび」として公開されるなど、情報の集約と公開が行われているところです。
オンライン診療分野をみると、コロナ禍を契機に実用化が進んでいます。活用のための規制緩和も進んでいて、へき地でなくても郵便局などの公共施設でオンライン診療が可能になるといった動きが見られています。
PwCコンサルティング合同会社 シニアアソシエイト 稲葉実子
長野:
私が担当するデジタル領域から医療を見ると、従来、医療へのアクセスは物理的な距離に制約されていた部分が多くありました。しかし、デジタル技術の発達によって、全国医療情報プラットフォームの構築や電子カルテ情報の標準化、電子処方箋の普及拡大など、さまざまな医療問題を解決するための土壌が整いつつあります。一方で、デジタルリテラシーが高いとは言えない人々はデジタルの恩恵を受けられていないという実情もあります。こうしたデジタルデバイドをどう解消していくのか。デジタルを上手く活用するための規制・制度の改革を進めながら、次々と登場する課題をデジタル技術によってクリアしていく循環を作っていく必要があると感じています。
安田:
テクノロジーによって医療を提供する側(供給側)の問題は改善が期待できる一方で、医療を受ける側(需要側)には、開示された情報の中から必要な情報を理解・選択する能力も必要となってきています。そこで重要なのは、やはり教育です。経済力とITや健康に関する知識・スキルは相関性が高く、大きな格差が生じています。医療へのアクセスという点では、経済力や世代による階層性、格差の是正を、医療を受ける側の課題として考えていかなければなりません。
日本の医療保険制度や介護保険制度では、経済力が低い方にとっては負担が軽くなる応能型負担が適応されるなど、ある程度は経済格差への配慮がなされています。一方で、利用した医療・介護サービスの費用は受益者負担となっており、制度創設以来、議論を続けながら、応能負担と応益負担のバランスが設定されています。海外でも類のないほどのスピードで少子高齢化が進む中、今後は社会保障財政をどうデザインするのかということとともに、医療や介護を必要としないで済む健康な状態を維持するためのサービスのあり方・制度のあり方を模索することも重要です。
野崎:
安田さんより、経済格差と健康問題の話が挙がりましたが、「健康」と「お金」は切っても切れない関係にあると思います。未病や予防医療につながる健康づくりには、そこに費やす「お金」が少なからず必要になりますし、何が起こるか分からない人生において、突然体調を崩した場合に、まとまった「お金」が必要になることもあると思います。
また、最近は、「ウェルビーング」の向上において、「お金の健康(ファイナンシャルウェルビーイング)」が重要な要素であると言われています。
ライフプランを見越したお金との健全な向き合い方など、「お金の健康」の向上に資するスキルや知識を身に付ける活動は、健康そのものに対応することと同様に重要です。PwCとしても、現在進めている、東京大学公共政策大学院との共同研究などを通じて、地域レベルでこれを社会実装する活動にトライしているところです。
ただ、健康やお金といった問題を提起している人自体が少なく、いたとしても偏在していることは課題です。こうした教育の機会は、全国、特に少子化の影響で支え手となる現役世代が少ない地方部に広げることが重要です。そこで、メタバースなどのデジタル技術を活用し、離れた地域でも学びの場をシェアしていく、広域連携を通した学びのあり方も模索しているところです。
長野:
野崎さんが例に挙げた、デジタル技術による物理的距離といった障壁の排除は教育において大きなポイントです。従来であれば、特定の地域に限られた活動がネットワークをつなぐことによって、遠隔地から参加できるようになる。そうすると、地域の外部からさまざまな人が集まってきて、多様性や新しい価値が生まれて教育の質自体を上げていけるでしょう。
また、近年はヤングケアラーといった問題も取りざたされていますが、デジタルの力で広域連携を図り、子どもたちの支援の輪を広げることで、さまざまな状況に置かれた子どもたちが教育を受けられる機会を創出することも可能だと考えています。
PwCコンサルティング合同会社 シニアマネージャー 長野俊平
稲葉:
医療を受ける側が自分にとって必要な医療サービスにアクセスするためのアプローチの1つとして、「かかりつけ医機能の報告制度」の検討が始まっています。現在、厚生労働省はかかりつけ医機能として医療機関が報告する内容や患者に対して説明する内容の検討を進めていて、これが機能すれば、患者にとって必要な医療機関の選択肢が明確になるなど、より適切に医療にアクセスできる状況が生まれるはずです。
また、オンライン診療を含む遠隔医療もまた、地域医療の1つとして位置づけられており、災害時や、災害とまでは言わないまでも大雪や台風のときなどの通院の代替手段として広く普及していくでしょう。地域によって医療従事者の育成や後継といった問題もありますが、遠隔医療を医療計画の中に盛り込む自治体も増えてきています。
その上で重要なのは、オンライン診療といったシステムの普及と運用維持のサポートです。オンライン診療をめぐっては、コロナ禍における時限措置としての規制緩和が終了しており、今後は医療機関における新規導入や運用維持ができるようなサポート体制の整備が必要です。さらに普及には医療を提供する側だけでなく、誰でも使いやすいツールを開発、導入するといった、医療を受ける側の観点も考えなければいけません。
野崎:
医療サービスへの持続的なアクセスを担保するうえでは、医療サービスを提供する側である医療従事者の地域偏在や、診療科偏在によるリソースの不足への対応を併せて考える必要があると思います。地域によっては医師や看護師などの医療人材リソースが不足しているため、医療従事者を確保し、業務継続を推進していくためには、データ連携などによる業務の効率化も重要です。例えば、病院ごとに使用するシステムが異なるため、患者情報の連携がうまくできず、本来は不要な再検査が発生するなどの課題があります。それに対して、データ連携やデジタル技術により、医療サービスを提供する側と受ける側、双方の環境を整備することが必要なのではないでしょうか。
安田:
デジタル技術によって物理的距離という障壁を越えられれば、医療資源の地域偏在による課題を克服できますが、その一方で、デジタルだけでは解決しきれない課題も多々あります。例えば、介護における食事介助や排泄介助のような支援は対面で接するからこそできることもあり、医療や介護においてはこうしたヒューマンサービス機能も重要な要素です。これは時間をかけることに価値がある場合もあって、「生産性」とはなじみにくい領域でもあります。また、医薬品などの資材のデリバリーといった要素もある。テクノロジーだけではカバーできないこうした部分に対応するためには、制度や仕組みの面でももうひと工夫していく必要があります。
PwCコンサルティング合同会社 シニアマネージャー 安田純子
長野:
医療は人間を相手にしている以上、すべてのサービスを完全にデジタルへと置き換えることは難しいと言えます。遠隔でも可能なこと、地域の人が直接手がけたほうが良いこと、それらの領域を上手く仕分けることが重要です。
また、デジタル技術を担当する立場としては、マイナンバーしかり、個人のデータを国や医療機関に預けることへの心理的忌避感を覚える人もいるので、技術的な面でも不安を払拭しつつ、一方でメリットを実感できるような仕組みを生み出す必要があると感じています。現在は、AI技術の発展によってデータ解析のスピードが格段に向上し、未来予測の精度も上がっています。ですので、例えば健康診断のデータを基にしたデジタルツインを活用して自身の未来の健康状態が予測可能になるなど、デジタル技術のポジティブな恩恵を提示できるよう貢献していきたいです。
安田:
日本の医療制度では、健康保険が健康診断や人間ドックの費用を負担していたり、介護保険においても予防給付が導入されていたりと、予防が取り入れられているのが特徴です。保険事故を補償するという保険制度の考え方からすると異例ともいえる仕組みを実現しているのです。健康保険によっては、健康診断を受けないと福利厚生で使えるポイントが減らされるといったディスインセンティブを導入している場合もあります。そういった意味で、制度を活用して予防につながる行動を促す工夫はもっと重視されても良いでしょう。
医療における教育という観点では、医療を受ける側だけでなく、提供する側、つまり医療従事者の養成といった面も考えなければいけません。高齢化による社会保障給付費の増加に加え、コロナ禍の緊急対応のための支出も必要となり、安定的な社会保障財源の確保は重要な社会問題となっています。そのような中、医療供給側の教育・人材育成にも投資をしていく必要があり、“給付”と人への“投資”とのバランス戦略を、中長期的な目で見てデザインする必要性を強く感じています。財源の問題を考えても、予防医療というキーワードは重要です。
野崎:
財源の面でいえば、隣接する自治体間で医療機能をシェアするなど、複数の自治体間でリソースをシェアしていく考え方もあり、地域において医療や教育などのさまざまな公的サービスを維持する上で1つの打ち手として考えられます。公的サービスの維持は、小規模自治体の共通の課題である一方で、個別自治体が単独で課題に対峙しているケースも多いため、地域間での共創をいかに促すか、そのための場づくりを共同研究の中で実証的に取り組んでいきたいと考えています。
長野:
今回のテーマである医療や健康、教育というのは社会課題として非常に重要なものです。その課題に正面から向き合えるということは非常に魅力的です。
また、私自身は医療領域だけでなく「デジタル」というキーワードでさまざまなイニシアチブから声をかけてもらえるので、多様な仕事を経験して自分自身の見聞を大きく広げることもできます。そういった意味でも、PwCコンサルティングはとても良い環境だと思います。
野崎:
複雑な社会課題を、医療サービスを受ける側・提供する側だけでなく、行政や民間企業、ソーシャルセクターなどさまざまなステークホルダーが知恵やスキルを出し合い、インパクトを創出することで解いていく「コレクティブインパクト」を、組織として推進をしている点が素敵だと思います。ただし、立場が違うことで、問題の捉え方やその重要度も異なり、なかなか前に進まないことの方が多い。そこで、解きたい課題の視点を引き上げ、関係者が自分の課題と捉えることができる仕掛けや、課題の設定が必要になると思います。自分はまだまだこれからですが、いかに課題を設定するかがコンサルタントの腕の見せ所であると思いますし、さまざまなステークホルダーをつなぎ、課題解決を後押しすることができる人が多いのが、PwCコンサルティングの強みだと思います。
PwCコンサルティング合同会社 シニアアソシエイト 野崎涼
稲葉:
前職では安全に医療を実施していくために規制する側から考えることが多かった一方で、現在は、もちろん安全性の視点も意識しながらですが、新しい医療の施策を推進していく側に立って仕事をしています。両者の視点を経験した上で1つの興味あるテーマを突き詰めていける点にやりがいを感じています。
従来であれば、社会課題に対しては政府主導で解決策を提示するやり方が多かったと思います。しかし、コロナ禍をはじめ、社会課題の複雑さが増した現代において、政府が主導するだけで完全な解決策を実装することは難しいです。そうした中で、近年は各自治体や民間といった地域の取り組みから、解決策を見出していくこともまた求められています。PwCコンサルティングは地域関係者や専門家とのつながりを持つ人も多いので、そういった方々の知見を共有しながら、私たちがハブとなって複雑な社会課題に対するアプローチを編み出していけるはずです。
安田:
私自身、ダブルワーカーとして週3日をコンサルタント業務に、週2日は介護の現場スタッフとしての業務に携わっています。介護の現場で働きながら、その実情を理解した上で政策に反映させたいという思いから、こうした働き方を実現しています。
稲葉さんが言うように、政府としても地方自治体や民間の新しい取り組みを学ぼうとする姿勢は強くなっていて、そこに私自身が現場での経験を生かして、政策研究などにコミットできる面白さは強く感じています。私たちの提案が良ければ政策に反映され、社会の仕組みが変わっていきます。中でも医療や介護の領域は規制産業であり、国に働きかけてルールを変えることで民間のサービスが普及する、方向性が変わるといったことが多々あります。省庁内のヒエラルキーの制約を受けない部外者という特殊なポジションに立てるというのも、私たちの強みだと思います。