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コロナ禍やデジタル化に象徴される変化が激しく不透明な時代において、子どもたちには環境の変化に適応してたくましく生きる力が必要とされる一方で、学校教育を支える教員たちの長時間勤務が深刻な問題となっています。
2022年10月からPwCコンサルティング合同会社の伴走支援を受け始めたことをきっかけに、学校の働き方改革に大きな弾みをつけたのが、京都府北部にある京丹後市立峰山中学校です。同社のプロジェクトメンバー3人が同校を訪れ、上田隆嗣校長はじめ3人の推進委員の先生たちと、これまでの改革の過程を振り返り、今年度からの新たな展望についてお聞きしました。
対談参加者
京丹後市立峰山中学校 校長
上田隆嗣氏
京丹後市立峰山中学校 教頭
和田達次氏
京丹後市立峰山中学校 教務主任
平林稔久氏
京丹後市立峰山中学校 3年学年主任
谷口智規氏
PwCコンサルティング合同会社 シニアマネージャー
林真依
PwCコンサルティング合同会社 マネージャー
高橋洋平
PwCコンサルティング合同会社 シニアアソシエイト
前田愛美
※法人名、役職、インタビューの内容などは掲載当時のものです。
PwC 高橋:
2022年10月24日に全校で初めてのワークショップを行ってから、半年ほど経ちました。「教員の働き方改革」というプロジェクトを進めていくうえで、目指した先はどこだったのか、また最初の想いやきっかけを、それぞれお聞かせいただけますでしょうか?
平林先生:
私はコロナ禍で部活動ができなくなったとき、家にいる時間が増えて、3人目の子どもの成長を目の当たりにしました。「あっ、可愛いやん」と改めて感じた瞬間、とても大事なことを忘れていたなと気づいたんです。そんなときに、校長先生からこのプロジェクトの話がありました。「うまくいったらいいな」と思った反面、そんなに簡単にはいかない根深い問題だと感じました。それが、PwCのみなさんに支援に入っていただくこととなり、私たちだけでは理想で終わっていた議論が一気に現実味を帯びて加速していった気がします。
和田教頭:
超過勤務といわれると、その言葉だけで心苦しくなる立場でしたが、何をどうしたらいいか分からなくて……。もちろん教員のための働き方改革ではあるのですが、「子どもたちのために」という想いだけはやっぱり消せない。そのため当初はどう進めていけばいいか分からず葛藤がありましたね。
谷口先生:
私も以前、「働き方を変えていきませんか」と職員会議で言わせてもらったこともありますが、一教師の立場からはなかなか意見が通りにくいことがありました。それでも、今まで当たり前のこととして教わってきた日々の業務を、「これは本当に必要なことですか」と意見を出し合いながら半信半疑であっても議論していくことが、若い先生たちの勇気に繋がるはずだと感じていました。
上田校長:
私は本校に就任する以前は教育委員会にいました。働き方改革を進めていく立場から現場に戻ってきて、下校時刻を早めるとか、部活動の朝練習を減らしていくとか、物理的に可能な部分は削れたらといろいろ進めてきました。しかし、トップダウンでやることは楽しくない。どうすれば、まわりの先生たちが活発に意見を出し合って取り組めるか悩んでいた時に、PwCに伴走してもらえることになりました。とてもありがたい話で、すぐに支援を開始していただきました。
京丹後市立峰山中学校 教頭 和田達次氏
峰山中学校で実施したワークショップの様子
PwC コンサルティング合同会社 シニアアソシエイト 前田愛美
京丹後市立峰山中学校 校長 上田隆嗣氏
PwC 林:
校長先生が「トップダウンでの働き方改革はワクワクしない」ということをおっしゃったように、「現場の先生たちから想いやアイデアが湧き上がってくるような、そんな働き方改革の伴走がしたい」というのがまさに私たちの想いでした。私自身、これまで民間企業の働き方改革に資する支援はたくさんやってきましたが、組織が学校の場合に、その想いが真っ直ぐ伝わるか、これまで培った経験や知識を活かして皆さんのお役に立てるかが心配で、実は当初すごく緊張していたんです。しかし初回のワークショップに全校の先生たちが集まってくださり、始まる前からエネルギーをひしひしと感じたのを覚えています。
まずは、自分たちが持っているアンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)に気づこうというワークショップから始めて、では具体的にこれからどんな取組ができるだろうかという段では190ものアイデアが出ましたよね。
平林先生:
そうですね。たった2時間ほどでこれだけのものが出てきて、みんなだいぶ発散したようです。全教員のうち出張していた者を除いて約30人が参加しました。
PwC 前田:
「ドリルをなくす」「教員の増員」「給食指導ゆっくり食べさせて」など、付箋に書かれた言葉をカテゴリ別に整理して、共感したアイデアにはそれぞれ星印をつけていきましたね。それを私たちが星の数順に整理してなにができるか考えました。
上田校長:
自分の意見に星がつくことで、悦びを感じる人もいたと思います。
PwC 高橋:
この日は、先生たちの心の中にあるものをまずは全部出し切ってもらうという、ある意味狙い通りのことができたと感じます。先生たちにも学年をまたいでコミュニケーションをとっていただいたことで、お互い触発されるという体験に繋がったようです。ただ、これがうまくいったからといって、取り組み自体が成功するとは限らない。どういうふうにプロジェクトとして実現していくかが難しく、楽観視はできませんでした。
PwC 林:
このワークショップのあと、校長先生が推進委員にこの御三方を選ばれたことが、ビッグイベントだったように思うのですが、これはどういった経緯だったのでしょうか。
上田校長:
推進メンバーにここにいる3人を選んだのは、子育て世代であり、かつ仕事とプライベートの両立をリアルに考えられること、またエネルギーがあり、なおかつ若い先生たちに寄り添える人柄という観点からでした。やっぱり前に立ってくれる人に魅力がないと、他の先生たちがついていきにくいところもありますので。
PwC 林:
私たちが支援させていただく以前から、峰山中学校では働き方改革に対する取り組みを始めてらっしゃいましたよね。ただ、その感想や成果などをみなさんでシェアするきっかけがあまりなかったと聞いていたので、これまでの取り組みでよかったと感じたことをワークショップであげてもらったら、授業づくりや生徒との対話によりよい形で時間が使えるようになった話題のほか、「早く帰れて夕日が見れた」「子どもと夕飯を食べる機会が増えた」などのプライベートの充実を含む多様な声が見えました。いろんな角度から、これから始めるプロジェクトの良さを感じていただけたと思います。
PwC 高橋:
推進委員の先生たちは、プロジェクトを形にしていくという大きな宿題を校長先生からいただいたわけですがどんなご苦労がありましたか?
平林先生:
最初は勤務時間を少しでも減らすことから取り組みましたが、ふと我に帰った際に、「何のために時間を減らすんだろう?」と疑問が湧いてきました。その問いを解消していくのが難しかったですね。
和田教頭:
たしかに、「何のために」というのはプロジェクトの原点でした。他の先生しかり、生徒や保護者に対しても、教員が楽をしたいだけと思われてしまっては何も伝わらない。業務に追われると授業の教材づくりなど、本当に力を入れたい部分に時間を割けません。あるいは子どもたちに直接関わるときに余裕がなくなり、感情的になってしまうことにもつながるかもしれません。また見聞を広げ、新しい経験をしていくことも自分の力になりますから、そういう意味で「プライベートの充実」を目指すゴールの1つにしたと思います。
PwC 林:
「何のために」というお題は、たしか2~3回かけて議論しましたよね。
谷口先生:
最近もそのお題について議論しました。一番大事なことですから、常に戻ってこないと。
PwC 林:
戻ってこられることが素晴らしいです。「何のために」がないと、このプロジェクトは失敗すると思ったので、当初私もかなりしつこく問をたてました。そうしたら、ワークショップ後にキックオフをして、その次の1回目の打ち合わせで、みなさんからプロジェクトの目的とゴールのイメージを図式化した資料が「ばんっ」と投影されて。PwCメンバー一同感動したのを覚えています。
「何のために」についてはそれぞれの表現は少しずつ違いましたが、それを無理矢理ひとつにまとめることはあえてせず、大きく目指していることは一緒だから、このまま走ろうとスタートしました。ちなみに校長先生は、どのタイミングで最も苦労されましたか?
上田校長:
業務を減らすとなると、個人でできる部分と、チームでやらなければならない部分があって、いわゆる「声の連携」が大事です。そこが難しいなと感じました。担任の様子をうかがいながら声をかけるタイミングを見計らったり、私が早く帰ってもまだ残って仕事をしている教員もいるので、何に対して困っているのか気を配ったりしていました。働き方改革は、単純に仕事を効率化すれば良いということではないですから。
PwC 高橋:
おっしゃるとおり、誰かが孤立しないことがきわめて大事なポイントだと思います。そういう意味でも、3人の先生たちがチームで取り組んでこられたのはとてもよかったですね。先生たちの原動力は何だったのでしょうか?
上田校長:
私が感じたのは……都会の風。
(一同笑)
平林先生:
毎回PwCのメンバーが東京からオンラインで来てくださって、すごく励ましてくれるんですよね。励まされると、子どもたちががんばって勉強する気持ちがわかりました。それに「この人たちなら安心だ」という気持ちと期待がありました。
谷口先生:
私はまわりの教員から期待されている部分も大きかったので、勢いよくスタートできた感じがします。
和田教頭:
もともと私たちが課題意識を持っていたところに、ちょうど良いタイミングで支援をいただけたことが大きかったと思います。どの教員もどこかで持っている意識ですが、それをいかに具現化していくか。答えが見えていないなか、PwCメンバーと協力しながらそこへ向かっていくことができました。まさに「探究的な学び」でしたね。
PwC 前田:
毎回の打ち合わせで、先生たちから必ずアウトプットが出てきたので、私たちもとても勉強になりました。
PwC コンサルティング合同会社 シニアマネージャー 林真依
PwC コンサルティング合同会社 マネージャー 高橋洋平
京丹後市立峰山中学校 教務主任 平林稔久氏
PwC 高橋:
今回のプロジェクトは私たちにとっても特別で、高度な仕事でした。コンサルティング会社はいわゆる「答え」を提供することも多いですが、それは教育現場には馴染まない。こちらも答えを持たないなか、私たちがやったことは「問い」だったんです。
子どもたちの探究的な学びに伴走する先生たちと同じように、こちらから発問して、先生たちが頭を悩ませプロジェクトを主体的に前に進めていく取り組みに伴走させていただきました。先生方の姿勢に救われながら、新しい課題解決に繋げていきました。特に具体的に助けになったことはありますか?
上田校長:
冬の間の部活動の指導は安全確保をしながら一人の教員で行うというアイデアや、職員室前にホワイトボードをおいて告知するなど、みんなに分かる方法で進めてもらえたのは、ありがたかったですね。費用対効果を考えても、こういった取り組みが他の学校にも広がるといいなと思います。教員たちに気持ちの面で働きやすいと心から思ってもらえること、そして究極的には生徒たちが「先生たちの笑顔が増えたな」と感じてくれることが一番の願いです。
PwC 高橋:
そういう議論はまさに今行っていまして、今後は生徒とのワークショップにもチャンレジしてみたいと考えています。子どもたちと一緒に先生たちの働き方を考えてみると、生徒からの願いも出てくるでしょう。そこを整理していくと、働き方改革を進める理由が洗練されていくのではないかと思います。
谷口先生:
少し時間に余裕があったときに、3年生の生徒と修学旅行に関する会議をしてみたんです。時間があると互いに心の余裕が生まれて、良いアイデアが出てくるなと痛感しました。
平林先生:
私は陸上部の顧問をしているのですが、思い切って土日の部活動をなくしました。子どもたちだけでも取り組めるツールをつくって、それを活用することで自立にも繋がると信じてみることにしたんです。ちょうど今朝、一人の生徒に「ごめんな、先生らも働き方が大変で、みんなには申し訳なかったんだけど」と理由とともに伝えたら、「私たちでも十分できますから気にしないでください」って言葉が返ってきたんですよ。少し後ろめたい気持ちがありましたが、そう思ってくれる生徒もいると思うととても励みになりました。
PwC 林:
働き方改革の取組の成果を、在校時間のほか幸福度の変容という観点からも見える化する、ということにも挑戦し始めましたね。私たちのチームでは共有できている実感値でも、生徒や保護者、PTA、他校には伝わりにくい側面もあるでしょう。将来的な取組の波及も視野に入れて、共通言語になるような情報として活用できるよう準備しておきたいと思ったからです。
和田教頭:
私もまさにこのプロジェクトを「持続可能」なものにする必要があると常々考えていました。コロナ禍でさまざまな制限がかかって抑えられていたところ、ようやく世の中が大きく動いていくなかで、何が本当に必要なのか、見極める力が我々教員には求められていると思います。上位の目標に達するため、どこに着手すればいいのか、そのヒントをこの半年間にいただいたと感じますね。
PwC 高橋:
新年度がスタートして、新しく赴任してこられる若い先生たちも多いと思います。今年度はこういうことをさらにやりたいなど、今後の展望についてお聞かせください。
和田教頭:
自分自身、時間の使い方を考えるのがすごく下手で……プロジェクトを通して自分をうまくマネジメントする手法を体得して、他の先生たちにもうまく発信して引き継いでいきたいと思います。
平林先生:
校内だけでなく、他校にも発信したいですね。私たちが共通して思っているのは、働く時間を減らすことで「やりがい」まで減ってしまうのは本末転倒だということ。PwCに伴走してもらうことで一番大事な部分に気づけたので、まずはそれを口頭でまわりにしっかり伝えて議論を進めていきたいですね。教員を目指す大学生や教え子には、「先生という職業はめっちゃ楽しいぞ!まぁちょっと大変だけどな」という順番で伝えられる日が早く来たらいいなと心から思います。
谷口先生:
私は、できることからまずはやってみて、できると思ったら続けていく、という働き方を継続していきたいと思います。子どもたちにとってなくしたほうがよいことで、なおかつ先生にとって要らないものがあれば、どんどん変えていってスリムにする。そして互いに余裕が生まれたら、授業や他のことももっと楽しくできるのではないかと期待しています。
上田校長:
私は推進メンバーの3人がすごく楽しそうに一生懸命やってくれているこの姿を、まずは職員室で広げられたらと思っています。新年度で新しい先生もたくさん入ってきますが、峰山中学校の働き方改革への関心の高さを、他のエリアに広げていくという意識を持っていきたいですね。それに何度も言いますが、PwCに伴走してもらえたからできたことであり、費用対効果があるということは訴えたいです。
PwC 林:
学校や教育のことに何か貢献したいがどう動いて良いかわからないという大人はたくさんいて、当社内でもこのプロジェクトは高く評価されています。PwCの中でも、こういった取組を担える人材を増やしていきたいです。
PwC 前田:
峰山中学校の先生方は特に仲が良いですよね。職員室の雰囲気が良い学校が良い学校だと聞いたことがあって、みなさんにはそもそも何かをするための力が備わっていると感じました。これからまた働き方のワークショップや、幸福度の効果など一緒に見ていけるのがとても楽しみです。
PwC 高橋:
相手の立場になって考えて、対話と決断をしていく。こうした話し合いの本質的な役割ではないでしょうか。私たちもこの輪を広げていって、教育分野を目指す若い世代が増えることを願っています。本日も素敵な話し合いの時間をいただきありがとうございました。
京丹後市立峰山中学校 3年学年主任 谷口智規氏