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PwCコンサルティングのPublic Services(PS:官公庁・公共サービス部門)は、多様な領域に対応する専門性を有する15のInitiativeチームから構成されています。この連載(全10回)では、テーマごとにさまざまなInitiativeからメンバーが集まり、よりよい社会をつくるために、社会課題解決へのアプローチや、新たな価値創出のアイデアなどについて語り合います。
第4回のテーマは「公共政策と共創の未来」です。これまで社会課題に対しては、国や自治体が解決のための制度設計や政策実行してきました。
しかし、近年では公的機関だけでは解決が難しく、産官学などの多様なプレイヤーによる共助・共創が求められるようになってきています。では、公共政策の転換期に求められる制度設計や仕組みとはどういったものなのか。コミュニティ形成やスマートシティなどを専門とするコンサルタント4名が議論しました。
(左から)田中晋作、篠崎亮、山口智佳、鐘ヶ江靖史
篠崎亮
PwCコンサルティング合同会社 ディレクター
大手電機メーカーおよび業界団体を経て現職。イノベーション政策(科学技術・知財・新興企業育成)、成長戦略に関する政策提言などに従事。2017年より現職にて、東京大学公共政策大学院との中央省庁のガバナンスや地域のWell-being等に関する共同研究の推進、経済安全保障・対外経済政策および知的財産戦略・オープンイノベーションなどの分野における政策調査などに携わる。
山口智佳
PwCコンサルティング合同会社 シニアアソシエイト
2021年より現職。官公庁を中心とした先端技術の活用や地方創生に関する政策調査などに従事。Smart City Solutionチーム コアメンバー。
田中晋作
PwCコンサルティング合同会社 マネージャー
大手総合人材会社の海外事業責任者等を経て現職。中央省庁を中心とした雇用・人材分野、地方創生分野における政策調査・コンサルティングに従事。近年は、リカレント・リスキリング等の社会人教育推進、外国人材の受入れ・活躍推進等の分野に注力し、政策調査などに携わる。
鐘ヶ江靖史
PwCコンサルティング合同会社 シニアマネージャー
大手シンクタンク、官公庁の研究職等を経て現職。経済産業省、文部科学省、国立研究開発法人等の案件に携わるとともに、民間企業の研究開発テーマの再構築や技術の用途展開、新規研究テーマ構築に関するコンサルティング案件を複数担当。MOT(技術経営)、研究開発戦略の成果の創出・事業化支援や成果の社会実装、知的財産戦略に関する知見を豊富に持つ。
篠崎:
これまでの公共政策は、公的機関が民間主体に対して1対1で支援する「公助」(ワンウェイモデル)が主流でした。しかし、近年は産学官連携や地域における新しいコミュニティの組成を経て、官と民による1対多、あるいは多対多の共創によって社会課題解決を目指す「共助」(マルチウェイモデル)が生まれています。
こうした公共政策におけるガバナンスモデルが変化した理由としては、社会課題が複雑化し、公的機関のみでの解決が難しくなったことが挙げられます。さらに地方ほどお金も人材も不足しており、支援が限定的な場面も多々あります。その中で、産官学が手を取り合う「共助」が注目されています。
鐘ヶ江:
以前は、国や自治体が社会課題解決のための定まった手順やビジョンを持っていました。しかし、社会課題は複雑化していき、今やそれを解くためのマニュアルは存在しません。そこで重要となるのが、多種多様なプレイヤーが社会課題を自分ごととして考えて意見を出し合う「共創」という考え方です。
こうした共創や共助をしていく上で、私の担当領域である中小企業やスタートアップは、地域経済を牽引するプレイヤーとして重要な役割を果たします。そのため、共創をする上では大企業や地元の有力企業だけでなく、大学発スタートアップや中小企業の声を聞く場を作る必要があると感じています。
山口:
私は、「スーパー/スマートシティ」や「地域産業振興」領域を専門としています。現在、国が自治体主導のスマートシティ化を後押しし、各自治体が最初の一歩となるデジタル化に取り組んでいます。そのための補助金制度なども創設されているのですが、デジタルシステムを導入したにもかかわらず、数年たっても利用率が低い状況のため、さらなるサービスの充実化につながらないだけでなく、せっかく導入したサービスの継続性にも懸念があるといった課題が噴出しています。そこで議論を重ねた結果、地域においては官民連携で自走化できる地域のエコシステムの形成こそが必要であり、公共政策における大きな課題と捉えています。
現状、官民連携で地域のエコシステムの形成にまで踏み込めている自治体や取り組みは非常に少ないです。原因としては、現時点で公共政策の採算性が低く経済性を担保できないというのが1つ。2点目は、自治体側にデジタルインフラの構築や活用に関する知見・ノウハウが蓄積されていないことです。道路工事といった従来のインフラ事業であれば、自治体には長年蓄積されたノウハウがありますが、デジタルインフラに関する知見はまだ一般化しておらず、現在まさに私たちがその領域でサポートをしています。
田中:
私は人材領域を専門としていますが、どの政策においても地域社会において自走化したエコシステムを形成するためには、労働移動が不可欠と考えています。新しい変化が起こる場では、常に必要となる人材が不足するからです。
ではどういった人材が必要になるのか。まずは、産業構造を変える起爆剤・ドライブ役となり、0から1を生むエッジの効いた人材。さらに、産業構造・状況が大きく変化していく中で淘汰なども起こるため、その変化に対応できる地域の人材の支援も重要です。そういった人材を多く育むためには、人材マッチングとともに、リカレント教育・リスキリングにおける教育スキームの構築も必要となってきます。
また、産学官や金融機関といった各機関を連携するためのコーディネーター、いわゆるハブとなる人材も重要です。こうしたハブ機能は属人性が高く、特定の個人に依存しているケースが多く見られます。しかし、エコシステムを持続可能にするためには、ハブ機能を有する人材を、持続的に輩出する仕組みから考えないといけません。
田中晋作:PwCコンサルティング合同会社 マネージャー
鐘ヶ江:
中小企業やスタートアップは、そうやって育まれた人材が活躍する場、ある意味では箱としても機能します。しかし、ここで課題となるのが、公共政策や共創的エコシステムの形成を進める上で、中小企業やスタートアップをどの段階で参画させるのか、ということです。これまで中小企業やスタートアップはすでに決められた方針やビジョンを実現するためのピースとして活用されることがほとんどでした。しかし、マルチウェイモデルにおいては、中小企業やスタートアップがルールメイキングや社会の土台作りの段階から参画することが重要となってきます。
その段階から参画することで、地域における社会課題を自分ごととして今まで以上の責任や覚悟を生じさせ、プレイヤーとしての存在意義が増すことへとつながります。さらに、地域の人も巻き込んでいけば、組織体として地域連携や人材育成の方法論を次代へと継承していく仕組み作りにも寄与するはずです。
山口:
税収入や生産人口といった種々のリソースが今後加速度的に縮小していく日本において、地方自治体はもはやワンウェイモデルを維持していくことは不可能です。マルチウェイモデルの採用は避けられず、今後は自治体もまた民間と同じライン、“共創”の1つのアクターという立場でプロジェクトを進めざるを得ないでしょう。これはある意味、これまで地方自治体が守ってきた型を壊すことにもつながるため、非常にチャレンジングな取り組みではありますが、一方で、例えば、スマートシティ化や新たな公共政策を進める上で、旧来の自治体のルールでは難しかった資金調達や投資スキームへの道が拓けるなど、今後の官民連携の在り方の新たな可能性を有しています。
山口智佳:PwCコンサルティング合同会社 シニアアソシエイト
篠崎:
確かに、私が現在担当している香川県三豊市における「部活動の地域移行に向けて」では、少子化が進行する同市と都市の間で持続可能な資源循環モデルを構築するとともに、その財源確保サポートも行っています。これは地域で0から1を生むビジネスを創る試みであると同時に、共創力というコンサルティングファームとしての強みをまず地域に還元した、新たなビジネスの作り方を模索する取り組みでもあります。
こうした新たな型が生まれる一方、都市のスマート化を例に挙げると、型を破壊することで実現できる領域もあれば、伝統的価値概念が生き残る領域もあると思います。例えば、「電力効率の最適化」などのプレイヤー全員が同じゴールに向けて足並みがそろっている場合は、既存ルールを破壊するような新しいやり方を構築しやすい。しかし、特に人材や教育といった分野では伝統的な価値も重要で、「最近は創造的な学びが重要性とされるので、部活動は全部やめよう」とはなりません。多様な価値観が並存する領域では、それらを同じ土俵に載せたまま最適化するデザイン設計が求められます。
田中:
場作りやコミュニティの話にもつながりますが、それは“外から地域に来る人”のあるべき姿だけでなく、外からもたらされる変化に、受入れ地域や企業などはどう対応するのかという課題を含んでいます。変化を起こす来訪者の在り方や、地域の伝統的価値観とその変化、そしてその両者をどうつなぐのか、というのは非常に大切なテーマです。
特に最初の段階では、官民連携の礎を築くキーパーソンとなる人材について、どう発掘して、いかにその人材が動きやすい状態を作れるかが重要となります。そこがうまくいけば、続々とコミュニティの一・二期生が生まれてくることになり、すでにうまくいっている自治体などは、地域に根ざした形でそういったコミュニティや場作りをしています。
篠崎:
共助のための“すばらしい”人材を発掘する必要がありますが、地域や自治体によって“すばらしい”の要件も異なる。それをコンサルタントが押し付けるのではなく、地域や自治体の人が自発的に“すばらしい”を定義する場を設けるべきかもしれません。
田中:
地方創生の文脈でも往々にして、キーパーソンとなる人材に必要なスキル・要件などについての議論が行われますが、実は「その地域をなんとかしたい」という意志や熱量こそが本質的には重要だと思うのです。
鐘ヶ江:
確かに、いくら知識や知見が豊富でも熱量がなければ人は話を聞いてくれません。コンサルタントは、地域にとってはアウトサイダーであって、場やコミュニティ作りにあたってはそのことを理解した上で進めていかなければなりません。
田中:
最近では人材領域においても“場の形成”の取り組みは増える一方、さまざまな機関・団体が集まる場を用意するだけというケースも多々あると感じています。作って終わり、ではなく、コンサルタントがどのようにして持続的に、場やコミュニティにコミットできるようにするのか。そのためには、雇用労働やリカレント教育・リスキリングなどの領域でもSIB(ソーシャル・インパクト・ボンド)/PFS(Pay For Success)のような民間資金活用による成果報酬モデルを導入したり、PPP/PFI(官民連携)によるサービスを運用したりといった、新たな方法論の検討も必要になってくるはずです。
鐘ヶ江:
さまざまな方法論やオプションを駆使できるようにしつつ、「型」を作らないことも重要でしょう。中小企業やスタートアップは、業界や地域における既存のルールや制約などの「型」に押し込まれてきた面があります。もちろんベースとなるルールや型はあるべきですが、中小企業やスタートアップがエコシステムのステークホルダーの一員として場の制度設計や検討段階から入りやすくする配慮や工夫が必要です。
特に近年、官主導プロジェクトはEBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング)の下、今まで以上に成果やエビデンスが求められるようになっています。そのような中で、公的機関だけで実現性を伴ったビジョンを描くことは昔よりも困難になっています。状況を打開するためには、中小企業やスタートアップといった"民"がルールやビジョン・メイキングから参加して、地域の未来像を描いていく必要があると感じます。
鐘ヶ江靖史:PwCコンサルティング合同会社 シニアマネージャー
田中:
これまでも外部人材を活用した地域社会を変革するための仕掛け・仕組み作りに取り組んできていて、数多くの実績や知見があります。ほかにも、ヒトと組織人事に関するソリューションや人材マッチング、雇用労働や教育に関する場の形成に関するネットワークやアセットなどは各事業部・チームそれぞれが有しており、それらを事業横断的に活用する意識が根付いています。
共創の名の通り、省庁間や事業間をまたいでのアプローチが重要となる中で、PwCコンサルティング自体がその考えを前提とした組織体であることはひとつの強みだと考えています。
鐘ヶ江:
“やることが明確に決まっていない”のが面白さでしょうか。私たちはそれぞれ専門知を持つ一方、私が所属する中小企業・スタートアップにフォーカスしたチームは、本格的に動き始めて1年ほどです。つまり、今はPwCコンサルティングの「公共サービス」領域を作り出すフェーズと言えます。そのため、自分のチャレンジしたいことがあれば「スタートアップ×人材」や「スマートシティ×中小企業・スタートアップ」といった掛け算で領域をいくらでも作っていくことができる。公共政策という未来を作っていく上で、新たな事業領域を創造する。それができるのも、今このフェーズならではの強みだと思います。
山口:
私の役職は「スタッフ」でして、本来であればクライアントに対して粛々とプロジェクトを適切に運営することが求められる立場にあります。その上で、今でも短期的な報酬に結びつかないような内容や領域にまでコミットできています。本プロジェクトに直接的につながらなくとも、自身の興味・関心とつなげて発信することを許容してくれる環境であり、とてもありがたく感じています。
篠崎:
ここまで話してきた通り、公共政策にはさまざまな課題が山積しています。そして、PwCコンサルティングにはこれらに挑もうとするメンバーがたくさんいます。勉強会を開くと多くの参加者が集まるほど勤勉で、何よりも自分の仕事を社会起点で考えている人ばかりです。
これまでのコンサルティングファームは、各分野への造詣の深さや精度の高いソリューションを提示することが強みでした。しかし、これからの時代は共創という形でガバナンス、あるいは人やお金の流れといった制度・モデル設計に携わりながら、公共政策としての未来を作っていく必要があります。私たちはコンサルティングファームとして、公共政策における関わり方を再定義し、より良い解にたどりつきたい。そうすることが、マルチウェイモデルにおいてコンサルティングファームが目指すべき新たなビジネスモデルの発見にもつながると信じています。
篠崎亮:PwCコンサルティング合同会社 ディレクター