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新型コロナウイルス感染症の拡大やウクライナ危機など世界情勢が激しく変化する中で、ヒトやモノ、サービスにおける「移動」の価値が変容しています。
PwCコンサルティング合同会社では2022年に、「移動」にかかわる運輸・物流・ホテル・人材・不動産といった生活インフラに関わるサービス業に対して、クロスインダストリーで総合コンサルティングサービスを提供する「Service Infrastructureチーム」が発足しました。各インダストリーにおける「移動」の捉え方の変化と課題、他のインダストリーと共創することで生まれる新たな価値について、Service Infrastructureに所属する4人のコンサルタントが語りました。
(左から)河合れいな、物部昴、藤井克彦、片山裕康
――コロナ禍では感染拡大防止のために個人の移動に制限がかかったほか、ウクライナ危機では交通や物流ルートの変更を余儀なくされるなど、「移動」において大きな混乱が続いています。それぞれの担当領域において、「移動」の価値はどのように変わってきたのでしょうか。
片山裕康(以下、片山):
私が担当している運輸業界では、人が持つ「鉄道や航空などの交通手段を使い、新たな体験を得たい」という根源的欲求はなくなることはないと捉えています。ただし、消費者はコロナ禍を経て、移動手段や移動時間にはどのような価値があるのかを厳しく見るようになりました。
コロナ禍以前は、特に仕事の場面において、移動は「しなければならないこと」と捉えられており、そこに価値を見出すことはあまりなかったように感じます。ところがコロナ禍を経て、移動する必要性を見極め、移動すべきならその時間に何ができるのかを考えて移動手段を選ぶという傾向が見られます。
CAP/PwCコンサルティング合同会社シニアマネージャー・片山裕康
河合れいな(以下、河合):
片山さんが担当されている運輸業界同様、コロナ禍で国内外の観光客が減少しました。しかし、未曾有の危機を迎えたホテル業界においても、人々の旅行、すなわち移動することへの欲求は失われていません。
コロナ禍を挟んでの変化としては、旅行に対する概念が多様化したことが挙げられます。移動の制限により、感染リスクを避ける形、あるいは日常生活に旅行を組み込む形で、マイクロツーリズムやワーケーションといった旅行スタイルが普及しました。あるいは滞在そのものを目的とした新たなコンセプトのホテルなど、個々のニーズに応えた旅行の形が増えていくものと考えています。
藤井克彦(以下、藤井):
物流業界では、脱炭素への対応や「2024年問題」といわれる労働力確保の問題、コロナ禍やウクライナ危機による物流ルートの変更などによって、物流の安定性を保つことがより一層難しくなっています。
こうした状況下では、「いかに、どのように運ぶか」だけでなく、「運ばないという選択肢」も考える必要があることに気付かされました。特に廃棄や過剰流通が社会課題となっている食品やアパレルにおいては移動させる価値があるものだけを移動させられるよう、地産地消を促進したり、サーキュラーエコノミーを後押ししたりして、その地域で資源を循環させる重要性が増しています。
物部昴(以下、物部):
人材業界では、働くうえで当然とされていた出社や顧客訪問といった移動の価値が、コロナ禍を機に見直されています。リモートワークが浸透したことで、働き手が働きやすい場所へ移動して働いたり、河合さんが例に挙げたように、ワーケーションを導入したりする企業も見られるようになりました。
逆に、出社することで同僚と偶発的に出会い、対面でのコミュニケーションを通じて新たなアイデアが生まれるなど、出社ならではの価値を感じるようにもなりました。働く場面においては、移動が何らかのイベントのような、「ハレのできごと」と位置付けられつつあります。
――「移動」の価値が変わる中、それぞれの業界における新たな課題やチャレンジには、どのようなことが挙げられますか。
藤井:
物流業界はさまざまな課題を抱えつつも、コロナ禍でもモノの移動が完全に止まることはありませんでした。私たちはコロナ禍を通して、物流の担い手であるエッセンシャルワーカーのありがたさを肌で感じてきたと思います。
また、フードデリバリーサービスのような即配市場ができ、ギグワーカーの働き方が普及してきています。これは物流の持続性や新たなニーズへの対応という観点において、良いことだと捉えています。
今後は、労働力人口が減少する中でも物流を維持するために、自動運転などの技術を導入したとしても、物流を担う人材は必要です。物流を担う人材を維持していくうえでは現場を支えるエッセンシャルワーカーの社会的地位や報酬が改善されるべきだと考えます。
CAP/PwCコンサルティング合同会社シニアマネージャー・藤井克彦
物部:
働き手の価値観は多様化しています。ギグワーカーとして働きたいと思う人も、その1つかもしれません。
企業は、こうした価値観の変化に寄り添っていかなければ、優秀な人材の採用が難しくなるでしょう。最近のビジネスパーソンは、「仕事のために家族と過ごす時間を減らす」といった、何かを選ぶために他の要素を犠牲にすることを避ける傾向にあります。仕事はあくまで生活を構成する要素の1つであり、家族との時間や趣味、遊びといったものを等しく大切にする価値観が浸透してきています。さらには、旅行をしながら仕事をしたいと考える人も出てきました。
そう考えると、これから働き手に選ばれるのは「自分が望む生活を叶えられる企業」だと思います。移動の観点からは、働く場所の柔軟性があり、かつ兼業や副業ができる制度が整っている会社が注目されていくと考えます。各社、あるいは業界全体が、「移動して働く」環境をつくっていくことが必要になります。
河合:
ホテル業界においては、コロナ禍で経営を保つことを最優先にせざるを得ない企業が多かったこともあり、変化する旅行ニーズに応える体制をこれから整えていかなければなりません。
そして、観光客の増加に伴い、東京や大阪、京都などの人気観光地におけるオーバーツーリズムという新たな課題が生じています。今後インバウンド需要が本格的に回復していくに伴い、観光需要を地方に分散させ、観光客の利便性や回遊性を向上させる取り組みが求められています。
片山:
河合さんが指摘された「人の回遊性」の話を受けて言いますと、運輸各社は移動そのものの体験価値を高めるために非運輸事業を強化し、街づくりにつなげる動きを見せています。多くの人に「この街に行きたい」と思ってもらえるよう、運輸事業者が街づくりの中核を担い、移動する目的を自ら生み出すチャレンジです。
運輸事業者は、駅や空港、バスターミナルといった「交通結節点」を基盤として持っているため、街の中核としての価値を提供してきたことが、街づくりにおける強みになっています。このリソースを活かして、さらなる価値を創出する動きが活発です。
街づくりに加え、消費者の新たな移動のニーズに応える必要も生じています。これまで、移動は通勤や通学といった画一的な価値で捉えられていましたが、ワーケーションや多拠点居住など、見出される価値が多面的になってきました。1つの事業者だけでは対応が難しいテーマに向き合っていることを感じています。
――これまでにない課題やチャレンジに向き合うにあたり、1つの産業では解決しきれない事案が頻出すると推測します。他のインダストリーと共創することによる価値創出としては、どのようなことが考えられそうでしょうか。
片山:
業界の歴史が長く、縦割りの志向があった運輸業界ですが、最近では地域の事業者や自治体と提携したり、コンソーシアムなどを立ち上げたりして、さまざまな「ヒト・モノ・コト」を横串で掛け合わせた活動を進めています。
また、IT業界とも協働して、デジタルとリアルのつながりを生み出していく必要もありますね。街づくりには欠かせないコミュニティづくりにSNSを活用することも考えられます。
物部:
これからの働き手が求めるような、自由に移動しながら働く環境を実現するためには、運輸やホテル業界などとの協業が必要になると考えます。
例えば、働き手が他業種の仕事を経験するなどして異業種交流ができると、新たな気づきが得られたり、個人の価値観が広がったりして、新たなサービスや付加価値を生み出せるようになるのではないでしょうか。これも、人材業界における移動の一種ですね。働き手が多様な経験を積むことで、自己実現を後押しするという価値も提供できると思います。
CAP/PwCコンサルティング合同会社マネージャー・物部昴
藤井:
業界の垣根を越えた連携は、労働力不足に直面する物流業界においても必要だと考えています。例えば、鉄道・バスなどの移動体とドライバー、駅・ホテル・商業施設といった生活者接点とそのスタッフなど、移動を支えるあらゆるリソースを活用して、各地域のヒト・モノ・サービスの移動を最適化していくことが重要です。
河合:
ホテル業界も物流業界と同じく、慢性的な人材不足が課題です。働き方に柔軟性を持たせることで、既存の枠にとらわれずに人材が移動し、新たなサービスの創出につなげていければよいと思います。
そして新たな消費者ニーズに応えるために、交通事業者と一緒に域内観光を充実させる取り組みは不可欠です。例えば地方観光を活性化させるなら、「観光型MaaS」「ホテル開発」「サステナビリティ」を掛け合わせたサービスの提供が考えられるでしょう。
これからはインバウンドの需要も戻ることが予想されますので、こうした、他のインダストリーと組んだ新たなチャレンジは加速するものと思います。
また、これだけホテルが飽和する中では、異業種と連携するなどして他社との差別化を図りながら集客しないと、生き残りは難しいかもしれません。尖ったコンセプトのホテルが人気を集めているのは、この表れではないでしょうか。コンセプトが明確だと、熱狂的なファンが付きやすいはず。「ターゲット顧客以外から嫌われることを恐れないホテル」をつくり、リピーターを獲得していくことも今後求められていくと思います。
片山:
河合さんの言うように、運輸業界とホテル業界とは密接な関係にあります。移動して、滞在して、また移動して戻る、というカスタマージャーニー全体で体験価値をつくる必要があると思います。
例えば、豪華なクルーズトレインで移動の価値を味わいながら旅をするなら、列車を降りた駅にも相応のホテルがなければ、体験価値の一貫性が損なわれてしまいます。今後、移動と滞在をセットで考える発想が多くなっていくでしょう。
――人々の生活に欠かせない「移動」に携わるインダストリーが集まったService Infrastructureでどのような価値を生み出せるかを聞かせてください。
河合:
世界情勢の変化によって社会課題の深刻さが増し、業界の課題を業界内で解決することが難しくなっています。生活インフラに関わるサービス業同士がインダストリーを超えて相互連携することで、こうした課題を解決し、新たな価値を提供していきたいですね。私たちがその連携を加速させる存在になりたいと考えています。
CAP/PwCコンサルティング合同会社シニアアソシエイト・河合 れいな
片山:
「移動」という共通のテーマを持つ複数の領域が1つのチームになったので、これまでにない、社会課題の新たな解決法の提案に挑戦しています。運輸業界では、街づくりをテーマにした他業種とのコラボレーションが進んでいますが、これまで以上に専門性が高まり、提案力が上がっていることを実感しています。
藤井:
持続可能な社会の実現に向けて、既存の物流の在り方を変えていくためにも、他業種を巻き込むことは重要で、以前にも増して業界の垣根を超えた連携に関わる議論がPwC内でも活発になっています。物流の社会課題を乗り越え、新たな価値を生み出していけるよう、私たちが社会をリードできるレベルで各業界をつなぎ、変革を進めたいと思います。
物部:
他のインダストリーと「移動」をテーマに議論を重ねることで、より豊かな生活の実現に寄与していきたいと思います。人々がよりよく働き、よりよく暮らすためには、各業界が個々に提供価値を考えるのではなく、一体となって総合的に満足度を高めていく必要があります。そうした社会づくりに、私たちService Infrastructureチームが寄与していきます。