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PwCコンサルティングのPublic Services(PS:官公庁・公共サービス)部門は、多様な領域に対応する専門性を有する15のInitiativeチームから構成されています。この連載(全10回)では、テーマごとにさまざまなInitiativeからメンバーが集まり、よりよい社会をつくるために、社会課題解決へのアプローチや、新たな価値創出のアイデアなどについて語り合います。
第8回のテーマは「スマートシティと持続可能なモビリティ」です。モビリティやデジタル、観光、移動などを専門とするコンサルタント4名が議論しました。
(左から)殿元 勇昨、下山 智央、羽場 加奈、益 直也
益 直也
PwCコンサルティング合同会社 シニアアソシエイト
金融機関および経済産業省関東経済産業局、東京都デジタルサービス局派遣を経て現職。PwCコンサルティングでは、中央省庁・自治体をクライアントとしたDXビジョン策定、地域の中核企業支援に関連する事業や、民間企業の業務構想策定などに従事。また、スマートシティに関するコラムの執筆や政策調査などに携わる。SmartCity Solutionチーム コアメンバー。
殿元 勇昨
PwCコンサルティング合同会社 マネージャー
航空系のIT会社にてSE・SIerとして基幹システムの刷新などに従事。2021年より現職。PwCコンサルティングでは運輸関連、特に鉄道を中心に担当。大手鉄道会社へのSAP導入プロジェクトのPMO等を担当。
下山 智央
PwCコンサルティング合同会社 シニアマネージャー
建設コンサル・官公庁において自治体のインフラ管理のデジタル化、通信インフラの標準化・海外展開等の事業に従事。ドローンや自動運転等のモビリティ・ロジスティクスの事業開発の経験も有する。PwCコンサルティングでは、通信インフラに関わる制度設計や普及支援、情報通信の利活用モデルの実証、地域DXの普及支援など多数の事業における業務責任者を担当している。
羽場 加奈
PwCコンサルティング合同会社 シニアアソシエイト
東京都庁にて観光産業振興計画策定や下水道事業広報等に従事し、2020年より現職。地方創生分野における政策調査・コンサルティングのほか、不動産会社における有望事業領域を導出する未来創造プロジェクトや、大手航空会社におけるシステム刷新プロジェクトのPMO等を担当。
益:
まずスマートシティという概念は、電力やインフラの維持管理を合理化する文脈から派生して登場しました。政府の施策におけるスマートシティの定義に「ICT等の新技術や官民各種のデータを有効に活用した各種分野におけるマネジメント」「より良いサービスや生活の質を提供する都市または地域」とあるように、ICTによって持続可能な街を作っていこうとする取り組みが盛んになっています。
私は、中央省庁や自治体のDX構想策定や社内のSmartCity Solutionチームで政策調査を担当しています。政府は「デジタル田園都市国家構想」を掲げ、デジタル化に取り組む自治体を支援していますが、人口減少が進む地域でオンデマンド交通による地域の交通インフラ維持、物流における「2024年問題」への対応といった、交通や物流の合理化を目指した事業が多く採択されている状況です。
PwCコンサルティング合同会社 シニアアソシエイト 益 直也
下山:
私は現在、通信に関わる制度設計、先端通信技術の実用化支援、地域DXの普及支援を担当しています。スマートシティに関しては、国内の人口と地域予算が減少していく中で、通信の領域からデータ連携・活用による地域の効率的・持続的運営をどう実現できるかを模索しています。
スマートシティが歩んできた方向性は2つあると考えています。1つは2011年の東日本大震災の復興における新たな街づくりから始まった、スマートエネルギーの流れを汲みつつ最先端のネットワーク技術や管理手法を活用した新しい街づくりを前提としたモデルです。もう1つは、人口減少でインフラ維持などが困難となった地域に対して、データによってロジスティクスや運営コストを効率化したモデルがあります。企業の立場では最先端の技術で人を集めて新しいビジネスを生む前者のモデルが注目されがちですが、実は日本が直面している課題としては後者の持続可能なモデルが求められている部分が大きいのです。ただし、後者は収益性が低いため、企業としては手を出しにくい領域でもあります。PwCコンサルティングでは両方のモデルを手がけていますが、PS部門として後者は特に取り組むべき領域です。
殿元:
下山さんがおっしゃる通り、スマートシティにおいて都心部と地方部が抱える課題は異なります。都心部であれば渋滞や混雑緩和が社会課題となる一方で、地方部では交通や物流の確保が問題となります。スマートシティが目指すところは、ヒト・モノ・コトが快適に移動できる仕組みを提供すること。私は業務では鉄道会社を担当していますが、鉄道会社の街づくりは収益性を踏まえて駅を中心とした大規模な都市開発に偏重しがちです。ただし、地方部でも駅を基点に、地元企業や自治体、住民といった周辺のステークホルダーを巻き込んだ街づくりに発展させられる可能性があります。
実際に、過疎地域ではオンデマンドバスや大量輸送システム(BRT)の実証実験が今も重ねられています。しかし、現時点では利益を生み出す仕組みや制度が整っておらず、まだ実証実験の域を出ていません。また、レベル4での自動運転サービスが開始されるも、自転車への接触事故があり問題となりました。技術改善が望まれるのは当然ですが、同時に新しい技術に対する世間の受容性を醸成する必要も出てきています。
羽場:
スマートシティを構想するに当たり、観光×モビリティという観点を考えることも重要です。観光における近年のトレンドでいうと、コロナ禍をへて、移動を伴わないVR上での観光といった「バーチャルツーリズム」という選択肢が登場しました。また、観光への価値観の変化として、価格や利便性だけではなく、「サステナブル」や「ウェルネス」といったキーワードが注目されるなど、高付加価値な体験を重視する流れがあります。
観光と移動とを必ずしもセットで捉える必要がなくなる時代の流れにおいて、移動そのものの体験価値が問われてくるのではないでしょうか。移動のプロセスを楽しめる工夫、それ自体がエンタテイメントやコンテンツになり得る役割がモビリティに期待されてくると思います。
スマートシティ化によって個人の移動や嗜好に関するデータが集積されていけば、今までは分からなかった地域の強みや魅力が浮き彫りになるはずです。こうした状況を踏まえて、今後スマートシティのあり方をどうデザインしていくのかが議論されていくでしょう。
羽場:
観光の観点でいうと、オーバーツーリズムの問題が挙げられます。観光名所と呼ばれる地域での発生が顕著ですが、今後、SNSでのインフルエンサーによる発信やオンライン上のコミュニティ等をきっかけに、これまで観光地として認知されていなかった地域が注目を集めるようになる可能性が考えられます。さまざまな地域で予測不能なオーバーツーリズムが起こり、観光需要の予測が困難となった際、誰がどのように地域の受入環境を整備するかが課題となってきます。
私は、観光のあり方やトレンドが流動的に変化する中で、住む人・訪れる人の地域へのニーズも変化していくため、アジャイル型の街づくりが必要だと実感しています。スマートシティを構築するに当たり、開発主体が完成形に近いグランドデザインを導入するのではなく、市民と対話しながらベータ版の段階から徐々に実装していく。住む人の声を聞くことはもちろん、訪れる人にとっても満足度の高い街づくりを実現するため、人流・物流や行動履歴といったデータをAIで分析・可視化することも「対話」に含まれるべきだと考えます。
PwCコンサルティング合同会社 シニアアソシエイト 羽場 加奈
益:
近年では、観光地域づくり法人(DMO)がデータドリブン経営を目指す動きも登場し始めています。観光庁によるデータを活用した観光地づくりに関する支援も出てきており、こうした動きは今後さらに加速することが予想されています。
殿元:
乗客数といった人流データをAIで分析し、その知見を活用したMaaSが実装されれば、最適な移動手段を提示することで混雑緩和に寄与できるはずです。また、データが十分に蓄積できれば、おすすめの観光地を複数の選択肢として提示するといった個人の嗜好に合わせたプッシュ型通知機能などによって、一極集中を回避できるようになるかもしれません。そのような、利用者の行動変容を起こさせるAI活用や仕組み作りが必要となってくるでしょう。
下山:
AIによる予想や判断に基づいた都市の自動化は今後も発展していくでしょう。国内の生産人口が減っていく中で、観光によって財政を担保していかなければならない地域は多くあります。そういった地域においては、観光客の数やそれに伴う収益の予測を行うことで十分なサービスを提供し続けられるモデルを確立しなければなりません。
一方で課題として、スマートシティの前提となるデータ連携が難しいという現状があります。データ連携基盤を整備しても、各企業が保有しているデータを共有したがらないケースは往々にしてあります。そのほか、個人情報保護や通信の秘密といった制度も安全や安心を守る一方、データ活用の手続きに複雑さを加えています。個人においても、都心部であればデータを提供しなくても十分に生活ができるので、わざわざ提供しようとは思いません。これは逆に言えば、データを提供しないと生活できないような状況、つまり、過疎地域でデータに基づいたドローン配送や円滑な医療といったサービスを享受できるのであれば、生活者もデータを提供するようになるということです。しかし、こうした地方におけるデータドリブンなソリューションはビジネスになりづらいため、なかなか普及しないというのが実情です。
益:
企業としてもデータを提供するインセンティブがあれば、データ提供を惜しまないはずです。そのためにも、簡単ではありませんが、そのビジネスモデルを考えることが私たちの果たすべき役割でもあります。
さらに、サステナブルな取り組みとしてスマートシティを社会実装するためには、「法規制」「技術」「社会」「経済性」の4つがバランスよく機能し続けることが重要となります。新技術が登場した際には、既存の法律でカバーできない問題が出てくるので法整備が必要となる一方、あまりにも規制が厳しすぎると普及の阻害要因となってしまいます。また、実装するに当たっては住民の理解やインフラの整備も不可欠です。その上で、最終的には民間事業者が主体となって運用していくマネタイズの仕組みなど、経済合理性が成立していなければ、持続可能なスマートシティにはなりません。
下山:
スマートシティにおけるデータ収集には2つのタイプがあります。1つはビッグテック企業が主導しているもので、すべてのデータを企業側が収集し、そのデータという資産を活用して街づくりや開発を進めていくパターンです。米国などではこういった実証も多く実施されてきました。企業にとっても、ビッグデータの集積は利益につながりやすい。もう一方で、データは個人のモノとして、一人ひとりがどのデータを提供するかを選択しながら、データ連携をして街づくりを進めていくケースがあります。日本は個人情報の扱いに関し国民性としてもセンシティブな国なので後者の方が受け入れやすい。ただし、データを提供するということに抵抗感が発生してしまう。
そのため、「データは誰のものか?」というデータ主権の考えをベースにしつつ、生活者にも広く自分が保有するデータの価値を認識してもらうことが重要だと考えています。個人のデータを提供することはサービスの高度化につながり、その分だけ便益を受けることができます。自分の提供したデータを誰がどんなことに使っているのかが明確となり、なおかつその選択権を生活者一人ひとりが持ちつつ便益を享受することができれば、スマートシティはより発展していくでしょう。
PwCコンサルティング合同会社 シニアマネージャー 下山 智央
羽場:
商業施設を運営する不動産会社の方とお話した際も、取得可能な購買データが限られていることは課題に感じていらっしゃいました。購買行動の可視化・分析やテナント間のデータ連携ができるようになれば、施設内の動線やテナント入れ替え等の検討だけでなく、他事業の展開にも生かすことができます。
一方で、1企業が自社だけでできることは限られているので、今後の課題として、どのようなデータを取得しどのように生かしていくかなど、地域の目指すグランドデザインを描いた上で、関連するステークホルダー同士が連携していかなければなりません。ただ、各ステークホルダーがwin-winの関係性となるよう設計するのは、難易度の高いプロセスになると思います。
殿元:
MaaSに関しても、現状は各企業がそれぞれでシステムを立ち上げていて、企業間の連携ができておらず、効率的な利用ができていないという課題があります。この背景には縦割りとなっている既存の産業構造があり、広域での運用が難しくなっています。そのため、近年では、鉄道会社としても地元産業と連携してエリアを盛り上げていこうとするエリアマネジメントの発想が重視されています。
スマートシティ開発はハード、ソフトともに多数の事業分野にまたがっている以上、どこかが主導して進めていく必要がある。であれば、コンサルティング企業である私たちがステークホルダー間のコラボレーションを促進させるドライバーの役割を果たすことで、スマートシティの技術革新を進められるはずです。
益:
私は現在、SmartCity Solutionチームに所属していて、チーム内にはPS部門のメンバーだけでなく、デジタルをはじめさまざまな領域の専門家がいて、困ったことがあってもすぐに該当する領域の専門家と連携できる環境があります。1つのテーマにいろいろな分野のプロフェッショナルが集まって議論するというのは、複雑な課題を解決するためには絶対に必要なことですし、できそうでなかなかできないことなので、それができる環境というのは非常に魅力です。
殿元:
産業構造が複雑化する中で、新しい社会課題が次々と登場してきています。こうした状況で、各分野のスペシャリストとタッグを組んで課題解決に取り組めるのはたいへん魅力的です。私は鉄道領域を中心としていますが、この領域はホテルや小売、不動産といった産業も大きく関わってきますので、広い視座から街づくりについて考えられることがとても面白いです。
PwCコンサルティング合同会社 マネージャー 殿元 勇昨
羽場:
私が所属しているSI(サービスインフラ)チームは、人材・運輸・物流・ホスピタリティ&レジャー・不動産といった生活インフラに関するサービス業の戦略策定から実行・実装を支援しています。これらの領域でコンサルティングを行う中で、必要に応じて社内の他部門と柔軟に連携して案件を推進しています。例えば、私が担当した不動産会社の有望事業領域を導出する未来創造プロジェクトでは、「Future Design Lab」という未来創造手法を用いたコンサルティングの部門とともにチームを組成しました。世界を取り巻くさまざまなテクノロジーや社会トレンドの兆しを踏まえ未来をデザインするチームもあれば、そうしたグランドデザインを踏まえ実行・実装を支援するチームもある。川上・川中・川下の各段階でのエキスパートが連携する体制が整備され、クライアントをサポートできるのは、PwCコンサルティングの大きな魅力だと思います。
下山:
コンサルタントには複雑な社会課題を解決するための構造化や仕組みを考える力が求められています。それはどのようなフィールド・地域を対象にしても発揮していかなければなりません。
一般的なコンサルティングファームでは、どうしてもクライアント企業の個別の課題や最先端のビジネス領域に重点を置くことが多いと思います。一方で、今日の議論にも出たように、人口減少や財政難に苦しんでいる地域は多くあり、こうした社会課題にも関われるのはPwCコンサルティングのPS部門だからこそです。もちろん私たちは最先端技術・ビジネスにも取り組んでいますので、ビジネスと公共、両方の視点を取り入れながら社会課題の解決を目指せるのが良いところだと思います。