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PwCコンサルティングのPublic Service(官公庁・公共サービス部門)は、多様な領域に対応する専門性を持った15のInitiativeチームから構成されています。この連載(全10回)では、テーマごとにさまざまなInitiativeからメンバーが集まり、よりよい社会をつくるために、社会課題解決へのアプローチ、新たな価値創出のアイデアなどについて語り合います。
第3回のテーマは「スタートアップと社会的イノベーション」。社会課題解決のキープレイヤーとして期待されるスタートアップ。近年では、国による起業家支援の成果が表れる一方、事業規模拡大や人材確保などが喫緊の課題として指摘されています。
日本においてスタートアップが成長し、社会的なインパクトを生み出すためには何が必要なのでしょうか。今回は、中小企業支援や人材などを専門とするコンサルタント4名が語り合いました。
(左から)千賀篤史、千葉史也、石井満彩、峠雄斗
千賀篤史
PwCコンサルティング合同会社 シニアマネージャー
IT企業、日系シンクタンクを経て2017年から現職。一貫して公的機関向けの支援に携わっており、現職では官公庁、地方公共団体を中心に、スタートアップを含む中小企業政策に係る調査・研究、関連機関と連携した実証・実行支援プロジェクトに従事。
石井満彩
PwCコンサルティング合同会社 アソシエイト
2022年から現職。ビジネスを通じた社会課題解決を目指すSocial Impact Initiativeや、省庁や地方公共団体を起点とした教育ビジネスの創出を目指すEducation Initiativeに所属し、環境・社会問題に関するプロジェクトに従事。
峠雄斗
PwCコンサルティング合同会社 シニアアソシエイト
国内SIer企業を経て2019年から現職。官公庁および関連する公的機関に対し、研究開発成果の事業化および社会実装、イノベーション創出をテーマとしたプロジェクトに携わる。複数の分野にわたり、研究開発技術を軸とした新規事業開発の伴走支援や政府研究開発プロジェクトの運営支援に従事。
千葉史也
PwCコンサルティング合同会社 シニアアソシエイト
地方銀行、中小企業庁を経て2023年から現職。人材確保支援のネットワーク形成や支援側の能力向上など、人材確保・育成に関するプロジェクトに従事。
千賀:
従来の国による中小企業支援政策の文脈では、その主な目的は大企業との間の生産性や賃金などの格差の是正でしたが、近年はスタートアップを含む中小企業の成長をイノベーションにつなげていくことが重視されています。解決したい社会課題を明示しているスタートアップも多く、まさに課題解決の重要プレイヤーだと感じます。そうしたスタートアップが成長して各産業に入り込み、新しい市場を創造することで、既存企業と提携して新たな価値を生み出したり、健全な競争環境を生み出したりすることが期待されています。
石井:
私も、社会課題解決の一助になるのがスタートアップだと思います。社会課題解決のプレイヤーの1つにNPOも挙げられますが、両者は組織形態は違えど、社会課題解決という目的は共通しています。ともに、得意な領域や専門分野が明確で、社会課題に対して素早くアクションを起こせることが強みです。
峠:
私は研究開発成果の事業化や社会実装を支援する業務に従事していますが、スタートアップは大手企業が手を出しにくい、先駆的なテーマにチャレンジできる利点があると感じています。複雑性や不確実性が増している現代においては、いまだ社会で顕在化していない問題や、社会での合意形成が図られていない課題に対して価値を届けていく必要が生じており、こうしたテーマをけん引するのがスタートアップの役割だと考えています。
千葉:
そういった意味では、スタートアップがイノベーション創出という役割を果たすためには、さまざまな領域の人材が必要になります。
中小企業庁の「地域中小企業人材確保支援等事業」で実施した「中小企業人材マネジメント研究会」では、企業の成長ステージに応じて人材要件が変化することが示されました。例えば、事業創造フェーズにおいてはイノベーション人材が必要であり、スケールする段階になると管理人材や労働人材が求められる、といったことです。そのため、イノベーション創出に向けたさまざまなフェーズにおいて、スタートアップが求める人材を確保できるよう支援する仕組み作りが必要だと思います。
千賀:
スタートアップの社会課題解決への取り組みを広く世の中に浸透させるにあたって、大きくスケールアップするスタートアップが少ないことが課題の1つと考えています。国内スタートアップの資金調達金額はここ10年で約10倍に成長し、資金調達をする企業の数や、1社あたりの調達額も伸びています。
ただし、ステージ後半のスタートアップへの投資額となると、他国と比べて大きくはありません。これは、日本では欧米に比べて資金や人材を確保する環境が十分でなく、イグジット間近まで成長したスタートアップの数がまだ多くないという、時間的な要因もあると考えます。今後は、多くのスタートアップの拡大を後押しすることが国を挙げて取り組むべきテーマだと考えます。そのためには海外からも資金を取り込むことも必要です。
日本のスタートアップがスケールしにくい要因としては、先ほど述べた人材や資金調達の問題が挙げられ、これらを解決できる環境を整備するなど、海外展開も含む事業のスケールアップに向けたビジョンを掲げ、戦略的な取り組みを推進する必要があると考えます。特に後者は、スケールアップに必要なリソースを提供する投資家や大企業の判断に直結するため、早期にその戦略を定め、関係者に働きかけることが重要と感じています。
千賀篤史:PwCコンサルティング合同会社 シニアマネージャー
峠:
千賀さんのお話に関係しますが、日本では米国と比較して、特許出願数に対するスタートアップ設立数が少ない現状があります。つまり、開発された技術が社会実装に至らずに、価値として顕れないケースが多いのです。設立される大学発スタートアップの数は増加傾向にあるものの、まだ日本ではスタートアップが社会的イノベーションの中心になりきれていません。日々研究に集中している技術者が事業を立ち上げ、スタートアップの経営に携わることはかなり困難なことなのです。
この課題へのアプローチの1つに、イノベーション創出が促進されるエコシステムの構築があると考えます。例えば米国のボストンには成熟したエコシステムが成立しており、先端研究開発を行う機関から事業会社、投資家、金融機関、アクセラレーターやインキュベーターと呼ばれる事業創造を支援するプレイヤー、そしてユーザーまでが集まっています。こうしたステークホルダーがリソースを共有しながら協業し、スタートアップが次々に生まれ、ユーザーに提供してフィードバックと利益を得る循環ができているのです。日本でも、こうした先行事例に学び、ステークホルダーを集めてサポートし合うとともに、適切な人材を確保しながらスタートアップを立ち上げて成長させるのが理想だと考えます。
千賀:
エコシステムを通して、課題解決につながるサービスを展開する意識をステークホルダー全員が持てると良いですね。優秀な人材が各領域の内部に閉じている今の状況は、もったいないと感じます。
石井満彩:PwCコンサルティング合同会社 アソシエイト
石井:
現在の日本において、社会課題解決の担い手の中心にいるのは、NPOや自治体です。しかしながら、NPOは資金面で課題を抱えるケースが多く見られます。民間資金を活用し、将来社会的コストになり得る課題に対して予防的な役割を担う事業を支援するソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)の仕組みがあり、SIBにはその事業のインパクトに連動した報酬が支払われます。しかし、事業の社会的インパクトは、短期ではなく、中長期で測るものであることから、評価が難しい状況にあります。加えて、SIBを実施することによる費用対効果が見合っているのか分からず事業推進に踏み出せない行政やNPOも少なからず存在しており、行政とNPOの双方がSIBのメリットを把握しきれていないように感じます。先進的な事例を周知し、この課題を乗り越えていけると良いと思います。
並行して、SIBで事業を適切に評価できる人材と仕組み作りも必要です。短期的な数字や成果に固執せず、中長期の視点で社会課題解決につながる事業を評価することが求められています。
千葉:
事業をスケールさせるフェーズで必要となる人材を確保できないという課題を抱えるスタートアップの声をよく聞きます。現在の日本では、イノベーションを生み出す研究人材を育成する機運が高まっている一方、そうした人材は事業規模を拡大させるための知見やノウハウまでは持っていない場合があります。
成長フェーズに差し掛かったスタートアップは、必要となる人材を外部から採用する必要があります。スタートアップと人材をマッチングする取り組みも進んでいますが、スタートアップの特性を理解し、フェーズごとにどのような人材が必要になるかを理解して支援することができる支援機関も多くないのが現状です。
石井:
人材不足のため、チーム組成に悩むスタートアップやNPOが多くあります。明確な社会課題解決に向かって日々事業に集中しているがゆえに、各企業が人材不足の課題を社内だけで抱え続けてしまうというケースも少なくありません。こうした同じ悩みを抱える組織間で課題を共有し、アプローチ方法を模索し合ってもよいのではないでしょうか。
千賀:
スタートアップの新しい技術やビジネスアイデアを、ユーザーの行動変容にまでつなげるには、長い時間とリソースが必要です。また、スタートアップの製品・サービス単体で解決できることは限られますし、リソースの問題もあります。そのため、例えば草の根的に社会課題に対して活動するNPO法人や、多くのリソースを有する大企業と連携とすることなどによって、スケールアップを目指すことが有効と考えています。
また、国は2022年に「スタートアップ育成5か年計画」を掲げ、スタートアップへの投資額を5年で10倍にする方針を出したものの、その先に目指すゴールや、それを達成するための各施策とのつながりは十分に検証できていません。スタートアップ当事者とアカデミアなどがつながり、政策効果を測定・検証しながら施策を改善するEBPM(Evidence Based Policy Making)への取り組みを加速させる必要があると考えます。
峠:
千賀さんの指摘に加えて、当事者が一枚岩になることが大事ですね。スタートアップ当事者だけでなく、社会課題解決に関わるあらゆるプレイヤーが、ビジョンドリブンによる事業創造やスケールのさせ方、アジャイル的な思考など、スタートアップ特有の動き方を学ぶことも欠かせません。
峠雄斗:PwCコンサルティング合同会社 シニアアソシエイト
石井:
先ほど課題として挙げられたエコシステム構築のきっかけとして、ワークショップやフィールドスタディなど、単発の取り組みから始めることも一案です。以前、私が関与したフィールドスタディでは、参加した研究者から「社会実装の視点が足りなかった」「よい意味でカルチャーショックを受けた」という感想が挙がりました。
研究開発、事業化、スケールアップといった各フェーズの間には越えるべき壁があり、必要な人材も異なります。スタートアップに関わる各ステークホルダーが自分のコミュニティの外に出て、コレクティブインパクトを生み出すために連携する場が必要だと、私もこの経験から実感しました。
峠:
研究者であっても市場やビジネス化の視点を持つことは重要ですが、日本では研究のみに没頭する研究者が多い傾向にあるように思います。私たちコンサルタントとしては、石井さんが挙げたようなフィールドスタディなどの「場」をこれまで以上に提供し、多くの研究者が「研究テーマを社会実装することが社会課題の解決になり得る」ということに気付くきっかけを与えられれば良いですね。
もう1つ、技術からの観点でいうと、単一のコア技術と周辺技術を組み合わせないとイノベーションを生み出せない時代になりました。国や行政が複数の技術をマッチングさせる受け皿を作ることは重要なミッションだと考えます。産官学と長年にわたって良好な関係を構築しているPwCコンサルティングとしては、領域の垣根を超えた視点で政策に関われるよう動いていきたいと思います。
千葉:
スタートアップと接点があり、かつ事業内容に精通した地域金融機関やベンチャーキャピタルなどの支援機関の存在が重要と考えています。
内閣府の先導的人材マッチング事業では、スタートアップなどの人材確保を支援する取り組みを推進するとともに、企業の成長フェーズや事業戦略などを分析した上で、企業にとって必要となる人材像を定義し、適切な支援に導くことができる支援機関の育成にも取り組んでいます。
人材マッチングが自然発生的に行われることは多くないため、国がリードする形で仕組みを整え、スタートアップ支援に関わる支援機関が人材マッチングに能動的に取り組んでいくことを目指しています。
千賀:
スタートアップが成長し、社会的イノベーションを起こすためには、産官学の領域や、国・地域といった垣根を越えることが今後必要とされると思います。
私たちはコンサルティングファームという第三者の立ち位置で各ステークホルダーと関わっているからこそ、その垣根を越えるお手伝いができると考えます。PwCコンサルティングには垣根を越えることを推奨する社内風土がありますし、コラボレーションを推進するための人事制度も整っています。ステークホルダー間の垣根を越えてもらうために、社内の各分野のプロフェッショナルの垣根を越えやすい環境にあるのです。ただし、垣根を越える取り組みを進めるには深く、持続的な関与が必要なため、これまでの私たち自身のビジネスモデルも変革する必要性を感じています。
千葉:
同感です。私が所属するTXイニシアチブ(人材政策チーム)では、国や行政の人材関連事業を受託しています。その中で、企業を支援する多くの支援機関とのリレーションがあるので、こうした関係性を活用し、目指すべき未来像に向けた政策提言をしたり、ハブ的な役割を担ったりすることができると考えます。
千葉史也:PwCコンサルティング合同会社 シニアアソシエイト
千賀:
その際に意識したいのは、国内に閉じたガラパゴスでの進化に留まらないようにする点ですね。私たちが日本のスタートアップと海外の企業・機関との架け橋になるために、PwCの海外拠点や各国の企業、政府とのネットワークを一層活かしていく必要があると考えています。