脱炭素化への対応によって生じた、サプライチェーンにおけるパラダイムシフトとは

2022-06-29

近年、ESG経営という言葉が定着したように、企業活動においても気候変動や資源循環など社会課題解決への要請が高まっています。中でも気候変動については、政府による2050年カーボンニュートラルの宣言や、東京証券取引所プライム市場における上場企業の気候対策財務情報開示の実質義務化など、目標や規制を掲げて取り組む動きが強まっています。

企業活動において温室効果ガス削減が特に求められるのがサプライチェーンの分野。そんな中で、社会課題への対応を通して「価値のパラダイムシフト」が起き始めているといいます。サプライチェーンにおける社会課題対応の現状と課題、解決による新たな価値の創出について、PwCコンサルティング合同会社ビジネストランスフォーメーション・オペレーションズ パートナーの田中大海が解説します。

PwCコンサルティング合同会社パートナー 田中大海

PwCコンサルティング合同会社パートナー 田中大海

脱炭素化への対応は「総論賛成」で滞っている

――気候変動や地球資源といった社会課題に対し、日本におけるサプライチェーンの対応はどの程度進んでいるのでしょうか。

田中大海(以下、田中):事業会社は社会課題へ対応する必要性を感じているものの、実効性のある施策を掲げられておらず、そのため行動に移しきれていません。このままでは国が政策として掲げている2050年カーボンニュートラルの実現が間に合わない恐れがあります。

図1に示すように、法規制やIRでの情報開示といった外部からの要請は強まっており、間接材・サービス財も含めた全取引先に範囲を広げたサプライチェーンマネジメントの取り組みが求められています。しかし、企業によってはサプライチェーンにおける社会課題対応チームが組まれているものの、施策への落とし込みや社内啓蒙が進んでいないのが現状です。「まだ時間の猶予はあるだろう」と他人事感が抜け切らないことも否めません。

経営層は社会課題への対応に焦りがある一方、その指示が行動につながりにくい粒度の粗いものにとどまっていることが散見されます。号令レベルの社内コミュニケーションだけでは、具体的な施策に落とし込み、社内理解を深め、現場の行動が変わっていく、というステップに進むことができません。多くの企業が「総論賛成」の状態で停滞しているのです。

図1 サプライチェーンにおけるサステナビリティの潮流

図1 サプライチェーンにおけるサステナビリティの潮流

――停滞の背景をどう見ていますか?

田中:企業が感じるリスクが主に2つあると考えています。ひとつ目はコストアップへの懸念です。社会課題に対応するための施策を行うと、多くの場合で短期的にはコストが上がります。それを価格転嫁できなければ利幅が薄くなるので、業績への不安が大きいのです。

もうひとつは、長年積み重ねてきた努力や改善が損なわれることへの恐れ、変化への恐れです。日本の製造業は、これまでQCD(Quality:品質、Cost:コスト、Delivery:納期)の指標に基づいて、コストや時間など製造プロセスのあらゆるものを削減し、効率化する努力を重ねてきました。ここにサステナビリティやカーボン、水資源、人権など社会課題にまつわる別の軸を入れることで、今までと同じように効率的に業務が遂行できるのか、不安視しているのです。これらの別軸が入り、物事の優先順位が変わると「在庫は悪」、「リードタイムは短いことが正」といったサプライチェーンにおける長年の常識が覆る可能性があります。

――購買側の認識の変化はありますか。

田中:社会課題に対応していない企業からは製品を購入しないという傾向が見られ始めています。このような購買側の変化に、サプライチェーン側の対応が追いついていないのが現状だと思います。

専門性の高い知見で、社会課題対応の計画立案から実行サポートまでを担う

――事業会社のサプライチェーン改革において、PwCコンサルティングはどのような役割を担うのでしょうか。

田中:社会課題への対応における長期的な3つのD(描き・つくるという意味の「Design」、従来の概念を覆す「Disruption」、多次元から考える「Dimension」)を提示した上で、改革実現までの道のりを共創します。PwCコンサルティングの特長は、計画立案のみならず、社内への啓蒙活動、業務改革や情報システム構築のサポートまでを担う点です。方針の検討と、実行のサポートという両方の価値を提供できるのが私たちの強みです。

事業会社から私たちへ期待していただく点は、この一連の活動を推進することと、網羅性の担保があります。網羅性とは、社会課題への対策を検討する際、論点の抜け漏れを埋めることです。社内で検討を進めると、どうしても視点が偏る。そこに私たちが積み重ねてきた専門性の高い知見を入れることで、網羅性のある実行計画を立てられると考えています。サプライチェーンに関していえば、需要の読み方、流通網の敷き方、在庫の持ち方、高い品質を保ち確実な生産を行う仕組みや需給バランスの取り方などについての知見ですね。目新しくはない論点ですが、専門性の高い経験と知見が必要になる領域なのです。

――サプライチェーンの改革は一社では不可能です。企業間の連携など、個々の事業会社の枠を超えた取り組みをどのように実現していきますか。

田中:業界団体との協働や産官学連携の事例もあり、地域経済を巻き込んで社会課題解決に取り組んでいます。

サプライチェーンにおける社会課題への対応は、多くの観点から検討を積み重ね、多くのステークホルダーを巻き込んで施策を動かす大仕事です。私たちPwCコンサルティングが経営と現場、あるいは企業間、産官学のハブとなって社会課題解決と企業価値向上に寄与したいと考えています。

田中大海

ビジネストランスフォーメーション・オペレーションズ パートナー。大手家電メーカーにて購買・生産・SCM関連業務、情報システム部門を経験後、コンサルティングファーム、M&Aアドバイザリーファームなどを経て現職。主に製造業におけるプロジェクトマネジメントやコンサルティング営業、組織やソリューションの立ち上げを経験し、現在Operations Transformationをリードする。近年は社会課題を交えたサプライチェーンの再構築・再評価にも関与する。

{{filterContent.facetedTitle}}

{{contentList.dataService.numberHits}} {{contentList.dataService.numberHits == 1 ? 'result' : 'results'}}
{{contentList.loadingText}}

{{filterContent.facetedTitle}}

{{contentList.dataService.numberHits}} {{contentList.dataService.numberHits == 1 ? 'result' : 'results'}}
{{contentList.loadingText}}

主要メンバー

田中 大海

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

Email