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コロナ禍の出口が見え始め、国内外の観光客が戻りつつあります。コロナ禍を経て、観光客のニーズも観光の価値自体も変化しています。そのような中、日本政府は観光立国として2030年までに訪日旅行者数を6,000万人にする目標を掲げています。魅力ある観光地を作り、維持するためにはどのような価値を創出することが求められているのでしょうか。PwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)の「観光」を専門とするコンサルタント3人が、コロナ禍を経た日本の観光の現状や、今後の可能性についてそれぞれの視点から語り合いました。
(左から)小山彦、清水優佳、石井麻子
石井 麻子:シニアマネージャー
専門領域は、観光・ホスピタリティ。事業会社においてマーケティング・新規事業企画開発業務に従事し、コンサルティングファームを経て現職。民間企業(サービス業・小売業)、官公庁・自治体の観光・商工・交通などの関連部署に対して、事業戦略・計画策定、サービス・業務デザインや組織変革などを主軸に置いたコンサルティングサービスを提供している。福岡事務所所属。
コンサルタントの志望背景:コンサルタント歴は約15年。テーマとしては「利用者視点で戦略やサービスデザインを改革する」ようなプロジェクトおよび業界を民間・公共問わず数多く担当。ホテルや百貨店、専門店のほか、自治体の住民サービスの設計などに携わってきたことから、PwCコンサルティングでは自治体・官公庁へのコンサルティング案件も複数手掛けている。具体的には、自治体と連携してポストコロナにおける産業戦略の構築を支援したり、その地元の事業者の新たなビジネスの創出を支援したりしている。
小山 彦:マネージャー/ストラテジーコンサルティング
専門領域は観光。新卒で入社して以来、観光事業者・官公庁などのクライアントに対し、需要予測、消費者調査、市場環境調査、マーケティング戦略の立案などの支援を提供。日本語のほか、英語、中国語、韓国語に堪能であり、欧米、オーストラリア、アジア各地の現地事業者との幅広いネットワークを有する。
コンサルタントの志望背景:さまざまな業界の多種多様な課題に向き合えるという幅広さに魅力を感じ、コンサルタントを志望。上海と米国のシアトルで13年間、海外生活をしていたバックボーンがあり、現在の上長との面談の中でPwCコンサルティングの考えや仕事の領域に自分の経験がフィットすると思い、入社を決断。これまでの仕事において、約9割は観光業に従事。コロナ禍を経て「観光」は復活してきており、サステナブルな旅行の世界をつくりあげていきたいという思いを持って、MICE(国際会議)の誘致、旅館のDX、免税制度の改善などに携わっている。
清水 優佳:マネージャー
専門領域は、不動産・ホスピタリティ。日系不動産サービス会社および外資系不動産サービス会社を経て現職。ホテルオペレーター選定、マーケットスタディ、新規事業検討支援のほか、グローバルベースでの企業不動産(CRE)関連業務の効率化や組織体制の検討および業務実行支援などを行っている。
コンサルタントの志望背景:前職において不動産領域におけるさまざまな社会課題に関心を持ち、より上流の意思決定に関わることで大きなインパクトが出せると考え、コンサルタントへの転身を決断。
オペレーショナルアセットという点で、ホテルはオフィスや住宅などのアセットとは異なる面白さがあり、また個人的にも旅行好きということもあり、不動産に加えて観光・ホスピタリティ領域のプレゼンスが高いPwCコンサルティングを志望。
現在は、ホスピタリティ領域を通じて観光業界にプラスの影響を与えたいという思いで業務に従事。観光業界や不動産業界、また企業不動産に関連するプロジェクトに携わっており、観光領域の中では再開発プロジェクトに関連したマーケットスタディや、新規事業の立ち上げなどを支援。
※法人名、役職、インタビューの内容などは掲載当時のものです。
――コロナ禍を経て、観光の価値の変遷をどのように感じていますか。
小山:
観光の価値は各ステークホルダーの観点により異なると思います。旅行者視点、特に私が担当しているインバウンドの視点からその変遷を見ていくと、2014年頃のトピックとして「爆買い(モノ消費)」があり、その後、買い物から「体験(コト消費)」へと移行してきました。現在は、訪れる地域やその地域の人のファンになるといった動きが見られます。また、欧米を中心にサステナビリティに重きを置く旅行者も増えており、例えば飛行機移動で排出されるCO2のオフセットとして、地域とのふれあいや地域ボランティアに従事する動きもあります。モノからコト、そしてヒトへとシフトしつつあり、それに加わる形で「地域貢献」も観光価値として入ってきています。
住民の視点からは、インバウンドは消費をもたらす存在という従来の認識に加え、地方創生の観点で歴史や文化を旅行者に発信する場として新たな価値が創造されています。
事業者の視点からは、マスツーリズム(団体客)でのビジネスモデルから、FIT(Free Individual Traveller:個人旅行者)や富裕層への対応など多様性を持ちつつあります。いかにして高付加価値を提供していくか、受け入れる側のビジネスモデルも変容しつつあるのではないでしょうか。
石井:
価値の変容の観点からいうと、「観光×〇〇」という掛け合わせはコロナ禍以前から続く潮流です。その地の産業や農作物、歴史や文化、空気感、人との会話や交流、といった「現地に行って初めて、五感を通じて触れ合うことのできるモノやコトに出会うこと」が観光であると考えると、もちろん、それを現地で体験することで直接的な消費が発生します。一方で、訪れたタイミングだけにとどまらず、そういった交流やふれあいを維持することや、応援するといった意味での持続的な関係性が生まれることも考えられます。
「観光×教育」も古くて新しい取り組みと言えます。観光を通して教育や学びを深めていく修学旅行でも、裾野の広がりや専門性、人生を通じた学びの持続性などが着目されています。多様な人々の“人生の豊かさ”をリアルな場で体験できることが観光の価値である、として認識されてきた印象を受けています。
石井 麻子:PwCコンサルティング合同会社シニアマネージャー
清水:
コロナ禍による変化という視点から見ると、リモートワークをはじめ柔軟な働き方を推進する動きが加速したことで、私たちの暮らし方や旅行スタイルにも変化がありました。その中で「非日常の体験価値」が再認識され、コロナ禍で注目された「ホカンス」や「ブレジャー」などのニーズは、今後も定着していくと思います。また、今後さらに多様な価値観を持つ方々が増えることが想定され、宿泊施設や観光の在り方も多様な価値観・ニーズに対応していく必要があります。
――オーバーツーリズムや就業者確保、デジタル実装など観光における課題は山積しています。皆さんの担当領域から見る、観光の課題と解決アプローチについて教えてください。
小山:
アフターコロナの時代に入り、ワーケーションやブレジャーといったものがどのように定着していくかを興味深くウォッチしていますが、旅行者の受け入れは「地域にとってのパズルを埋めていくこと」と考えます。日本は、ハイシーズンとローシーズンの落差が大きい国です。外国人の訪日は桜や紅葉の時期や旧正月に偏り、国内需要もゴールデンウイークや長期休暇に集中します。そのため、ローシーズンにどんな取り組みを仕掛け、観光客を受け入れるのかなどを、国内旅行者とインバウンドの組み合わせで検討することが大事です。地域としてのストロングポイントを見つけて戦略を策定し、「需要の平準化」を目指すことが地域側に求められます。
就業者の確保、DX、インバウンド対応、高付加価値の創造といった課題は全てつながっていて、何か1つを解決すればいいという問題ではないはずです。そのため、売上げを確保して再投資をしていくポジティブなサイクルを作ることが鍵を握ると考えています。シンプルなDXからスタートさせてみることが良いかもしれません。チェックインをデジタルに移行し、プレーヤーの生産性向上に取り組み、省力化した時間で付加価値の高いサービスを作る。単価の高い旅行者が来るようになればさらなる売上げになります。そこから優秀な人材確保や次なる投資へとつながり、それぞれの事業者が洗練されていくのではないでしょうか。
石井:
さまざまな観光課題の連関性は小山さんの指摘のとおりだと感じます。これまで業界・企業は、「訪れる人にいかにサービス提供をするか」という、どちらかというと受動的な業務の在り方が強かったのではないかと認識しています。一方で、そのスタンスの負の側面として、結果としてのオーバーツーリズムや観光公害の一因にもなってしまったのではないかとも考えられます。今後、自然環境や文化・歴史といったものと、ビジネスとしての経済性・社会性の両方を持続可能な状態にしていくに際しては、関係者のみならず、旅行者までをも“育成”するシステムや気概が必要になってくるものと推察しています。
私が課題として挙げたいのは、価格設定です。原価と経費の積み上げで価格が決まる世界から脱却し、顧客視点で「その商品・サービス・体験から、どれだけの価値が得られたか」を定義づけ、それを事業者側の対価として受け取る考え方が重要になります。そのためには、価値の源泉を発掘して可視化・具体化し、マーケットインとプロダクトアウトの両面から見た価値を価格に落とし込む必要があります。「おもてなし」や「察する文化」を有する日本企業にとって、そのマインドセットはハードルが高いかもしれませんが、インバウンド顧客にミートするには、「自分たちが提供しているのはこれである。それによってお客様はこのような価値を得られる。だからこの価格なのである」ということをしっかり分析し、整理し、言語化して伝えることが求められます。
清水:
小山さんから戦略策定、石井さんから価格設定という観光業界における課題が挙がりましたが、宿泊業界でもまったく同じ課題が横たわっています。
クライアントへターゲット層について伺うと、「日本人のビジネス客も訪日外国人観光客も泊まってほしい」という要望が聞こえてくることがあります。しかし差別化を進めていくためには、ターゲットとする層を明確にし、ターゲットの「価値観」や「ニーズ」を踏まえた施設の設計および運営が重要です。
また、国内の宿泊業はおもてなしの精神を大切にしてきた歴史的および文化的背景から、レベニューマネジメントを含めた運営力強化は後手に回っていました。日本人的な美徳は素晴らしいものの、運営を支える人材への再投資という観点からも、サービスに見合った価格設定は必須だと考えます。
――日本の観光が発展していくために、また観光が持続するためにはどのような取り組みが求められていると考えますか。
石井:
人々の嗜好が多様化し、かつ、さまざまなことがオンラインで完結できる今、「肉体の移動を伴い、五感が揺さぶられる時間を通じて新しい人生の可能性を得る」といったことが“観光”と言えるのかもしれません。移動を伴う観光を通じて人生の彩りを積極的に求める人と、自宅で完結する人との二極化が進むと予想します。
前者の人々に対しては、彼らの多様な嗜好にマッチし、受容・歓迎される価値の創出から、その提供方法や伝え方までを一貫してデザインし、しっかりとコンテンツとして仕立て上げて提供できれば、ビジネスとして成立します。教育機関が提供するコンテンツや、日常での体験なども、相手や提供方法などによっては、大いに価値ある観光商材にすることができますし、それらを維持向上させられるような仕組みとすることも可能だと考えます。
一方で、後者のような人々には、まずは旅を通じた刺激や気づきを提供する取り組みが求められます。先述した修学旅行などもそれに該当しますが、そこでの学びや刺激がその後の人生においても持続していくような仕掛けが、データを駆使するなどしてできるようになると興味深いですね。
また業界全体の将来を考えると、人材不足が大きく叫ばれている中、「真に人が提供すべき業務価値は何なのか」をしっかりと見極めつつ、「おもてなし」に加えて、経営や事業といった観点からも従業者の成長を後押しするような人材の育成、産業としての収益や企業価値等の拡大、そしてそれによる業界全体での報酬アップとが連関する世界を形成することが理想です。事業の魅力を経営的な観点から確立し、企業間連携や教育機関との連携によりビジネスとしての向上サイクルを形成することで、理想とする未来図をイメージしながら実現に向けた支援を続けていきたいと思っています。
清水:
日本政府は現在、訪日外国人旅行者数を将来的に年間6,000万人まで増加させることを目指しています。ただし、先ほど小山さんからお話があったように、既にオーバーツーリズムの課題を抱えていますので、訪日外国人旅行者をさらに増加させるためには、都市部から地方部への送客が必須と考えます。海外からのリピーター客は地方部へ訪問する傾向が増加しつつありますが、地方部においては外国人対応がまだ不十分であることも多く、MaaSの普及など業界全体で取り組む必要があります。また、事業者の立場からは、業界全体で人材不足が叫ばれて久しく、コロナ禍に多くの人材が流出したことを踏まえても、今後、専門業務に携わる人材を業界全体でシェアするといった取り組みも考えられます。こうした取り組みを実装する中では、一事業者を超えた業務のマニュアル化や共通プラットフォームの活用などが必須になると考えます。
小山:
観光業の成長要因は、日本の人口減少というマクロトレンドが存在したからです。流動人口として旅行者を増加させ、外需を取り込むことで、日本経済を継続的に成長させるのが観光に期待される役割であると考えます。一方で、増加し続ける旅行者の受け入れ態勢を維持することは、観光の未来を語る上で外せない論点です。今後は「観光×サステナビリティ」が切り離せないトピックとなるでしょう。地方の観光業においては、司令塔機能を果たす人材が求められ、インフラの再整備をするにしても行政や観光地域づくり法人(DMO)などが、旅行者・地域住民と適切なコミュニケーションを図ることが必要になってきます。
小山 彦:PwCコンサルティング合同会社マネージャー/ストラテジーコンサルティング
観光業の最も重要なゴールは「観光地を経営する者(例:DMO、行政)が、観光地の消費額向上を達成すること」です。そのためには「観光地におけるデータ連携」が重要です。現状、旅行者の予約・移動・満足度に関するデータは、個々の旅行会社や宿泊施設、通信事業者などに蓄積され、統一の仕様などで観光地に蓄積されるケースは稀です。データを適切に分析して示唆の抽出を行えれば、より効果的なマーケティング活動につながるはずです。
清水:
また、データを読み解くうえで大事なのは、数字の中身を精査することだと考えます。プロジェクトの中でデータ分析をするためにクライアントからデータを提供してもらうケースもありますが、いざデータを見てみると横比較ができない場合も多々あります。必要なデータを正確に取得・分析し、経営につなげることが大切だと考えています。
加えて、宿泊施設の企画・運営においてもデータ収集・分析力が重要だと考えます。日本では「高価格帯の宿泊施設が足りない」と考えられていますが、事業者と会話する中では「地方部に需要はあるのか」「ビジネスが成立するのか」といった疑問をぶつけられることが多々あります。鶏が先か、卵が先かの議論とはなってしまいますが、高価格帯の宿泊施設がなければ、富裕層が来ない。そして、富裕層が来ないから、データが集まらず、高価格帯の宿泊施設の企画に支障が生じる、ということが発生していると思います。
データの収集・分析力を高めることで、新規開発におけるハードルは低下すると思いますし、地方部での開発が進めば、結果として都市部からの送客を後押しし、オーバーツーリズム解消の一助となるのではないでしょうか。
――観光はさまざまな領域との連関性があり、横断的な取り組みが重要との示唆がありました。その点において、PwCコンサルティングはどのような強みを持っているとお考えですか。
清水:
私が所属するチームはさまざまなバックグラウンドを持つメンバーで構成されているため、深い知見を幅広く蓄積しており、1つのテーマを「不動産」「ホテル」「観光」など多角的な視点で議論できることが強みです。加えて、PwC Japanグループ全体を見渡せばさまざまな専門性を持つプロフェッショナルが数多く所属しており、税務や法律の専門的知見やアドバイスを求められた場合でもすぐに相談が可能です。ワンチームとなって、多くの価値を提供できます。
清水 優佳:PwCコンサルティング合同会社マネージャー
石井:
グローバルを含むPwC内部だけでなく、他社・他団体との協業でプロジェクトに取り組むことも数多くあります。個別企業・団体の損得のみに留まらず、真の課題解決が叶えられた状態を定義し、「そのために必要なことは何なのか」「各者それぞれにビジネスメリットが創出されるような構造・モデルはどのように組成できるのか」を考えており、その難易度は非常に高いのですが、それらを“あるべき姿”から逆算して整理しながら体制を構築し、プロジェクトを推進しています。
当社の観光イニシアチブチームが提供価値として位置づけているのは「顧客目線」「手触り感」「エコシステム全体の最適化」です。現場で真に求められるものと、ビジネスとしての組成や持続性、その両面をバランスさせる観点でご支援ができることは強みだと考えています。
小山:
「観光」は1つの切り口であり、それ単体でプロジェクトが成立することはあまり多くはありません。当社が手がけてきた観光関連のプロジェクトの多くにおいては、大部分において他業界の深い知見や専門性が求められてきました。PwCコンサルティングには高い専門性、幅広いナレッジが集結しています。また、国や行政、民間企業などをクライアントに持つことから、どのようなクライアントに対しても「通じる言葉」で話ができる点は強みであり、より付加価値が高いソリューションでサポートすることができます。