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本シリーズは、企業の成長促進や収益性向上の中心的手法であるディール(M&A、事業売却など)と海外資本市場への参入(新規上場、国際的な資金調達など)を大きなテーマにしています。CFOをはじめとする企業の経営層が検討すべきトピックを経営戦略と財務報告のそれぞれの側面から概説し、企業の成長のためにヒントとなるような情報をシリーズを通じてお届けします。
今回は「経営戦略トピック」より、親子上場の解消について、メリット・デメリットや解消スキーム、会計・財務に関する留意事項を解説します。
2000年代半ばから、親子上場の解消が急速に進んでいます(図1)。
それ以前は資金調達やその後の営業・採用活動を進めるうえでのメリットを期待して子会社を上場するケースが多く見られましたが、2000年代に入ると子会社買収のリスクや上場維持コストなどの観点から、次第に親子上場の解消が増えてきました。
しかし、2020年3月末現在、上場親会社を有する上場子会社の数は日本市場全体で依然として200社以上あり、海外市場と比べても親子上場しているケースが多いことが日本市場の特徴の1つとなっています(図2)。ただ、近年はコーポレートガバナンス・コードの改訂に向けた議論の中で、親子上場のデメリットが明示的に指摘されたこともあり、今後も親子上場の解消のトレンドが続くと予想されます。
野村資本市場研究所, 2020.「純減が続く親子上場企業数」より集計
http://www.nicmr.com/nicmr/report/repo/2020_stn/2020sum12web.pdf
*1:各年の3月末時点
経済産業省, 2019.「第3回公正なM&Aの在り方に関する研究会」(資料3 利益相反構造のあるM&A海外法制調査(中間報告))
https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/fair_ma/pdf/003_03_00.pdf
*2:上場支配株主が50%以上を保有している上場会社が、上場会社総数に占める割合(2018年12月末時点)
コーポレートガバナンス・コードの改訂*3に向けた議論において親子上場のメリットとデメリットが取り上げられ、近年は特にそのデメリットが注目されるようになっています。
*3 経済産業省「事業再編実務指針」で指摘されている親子上場のデメリット
「上場子会社の形態は、構造的に少数株主との利益相反リスクを生じさせるものであり、従来、日本企業の一部で見られたように漫然と上場子会社を維持することは必ずしも望ましくない。こうした観点から(中略)最終的には非子会社化することを目的にしていることや、どの程度の期間で非子会社化するのか等の方針を示すことが望ましい。また、上場子会社としている間は、親会社と上場子会社の一般株主との間の利益相反リスクに対応するため厳重なガバナンス体制を整えることが求められる。」
経済産業省, 2020.「事業再編実務指針」(5.3 適切な切出し手法(スキーム)の選択)
https://www.meti.go.jp/press/2020/07/20200731003/20200731003-1.pdf
親子上場を解消するスキームの代表例として、TOBによる完全子会社化が挙げられます。
完全子会社化は、企業価値向上のための事業再編や経営改善の促進を目的とした手段の1つと考えられ、一般的に以下のような点が期待されます。
親子上場を解消するスキームの代表例としては、TOBによる売却も挙げられます。
事業ポートフォリオの最適化にあたり、親会社の事業との関連性、収益性、成長性などが低いと判断される場合には、売却という結論に至るケースがあります。
売却の際には、新たな親会社(X)となる第三者のもとでのディール後の経営統合(PMI)が重要となります。PMIが適切でない場合、新たな親会社(X)が想定していたシナジーを得られず、のれんの減損や買収した子会社(S)の売却、または一部売却といった事象が生じる可能性があります。
完全子会社化パターンと売却パターンでは、留意すべきポイントや潜在的な影響が異なります。特に売却パターンでは、現在の親会社(売却元)、将来の親会社(売却先)、子会社(売却対象)の間で利害関係が生じるため、より慎重な検討が必要となります。
親会社(売却元)の会計・財務に関する主な留意事項
親子上場のメリット・デメリットを検討する際には、親会社と子会社の事業が属する産業、顧客、サプライヤーなどの状況を検討します。一般的に親会社と子会社の間に共通項が多いほど親子上場のメリットは小さくなり、少なくなるほど相対的にメリットが大きくなると考えられます。
自動車メーカーの顧客はローンを組んで自動車を購入することが一般的であるため、多くは金融子会社を有しています。この場合、親会社である自動車メーカーと金融子会社の事業戦略は完全に一致しており、金融子会社が独自に資金調達をしたり営業活動をしたりする必要性はありません。
このように親子会社間で事業上の共通項が多い場合は子会社が上場する意義が乏しく、親子上場のメリットよりデメリットの方が相対的に大きいと想定されます。
コングロマリットの場合、それぞれの子会社が独自のマーケットや事業戦略を有しており、子会社は独自に資金を調達し、強い裁量権のもとでタイムリーに経営判断を行う必要があります。
このように子会社の自主性が重んじられ、グループ会社間での共通項が少ない経営環境下においては、他のそうではないケースに比べると親会社と子会社がそれぞれ上場するメリットは大きいと想定されます。ただし、一定のデメリットが存在する点は他のケースと変わらないため、親子上場については慎重な検討が必要です。
ドラッグストアチェーンが全国展開する場合、営業および採用活動はそれぞれの地域を統括する子会社が担うケースが想定されます。しかし、資金調達、仕入、営業目標、予定採用人数などの事業戦略を実質的に親会社がコントロールしているならば地域統括子会社の自主性は制限されます。
このようなケースでは一般に親子上場のメリットよりデメリットの方が大きいと想定されます。
親子上場の解消は、さらなる成長に向けた大きな一歩となります。CFOは会計・財務に関連するポイントに留意しながら的確な舵取りを行う必要があります。
長谷川 友美
ディレクター, PwC Japan有限責任監査法人