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2022-09-07
虐待による子どもの死亡事例は、毎年70件前後表面化しています(図表1参照)。2019年4月1日から2020年3月31日までの1年間に発生した死亡事例は72件(78人)で、毎週1人か2人の子どもが日本のどこかで虐待により命を落としていることになります。2019年度の死亡事例の内訳をみると、心中以外の虐待死が56件(57人)、心中による虐待死が16件(21人)となっています。
出典:「子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第17次報告)」をもとに当社作成
厚生労働省が2021年8月に公表した「子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第17次報告)」によると、
といった傾向が見られました。
また、心中以外の虐待死に限れば、
といった傾向も見られました。
死亡を含む子ども虐待に係る重大事例に対しては、「児童虐待の防止等に関する法律第4条第5項」において、国および地方公共団体の責務として、児童虐待防止のために必要な事項について調査および検証を行うことが明確にされました。こうした状況を踏まえて、厚生労働省社会保障審議会児童部会の下に「児童虐待等要保護事例の検証に関する専門委員会」が設置され、全国の児童虐待による死亡事例などを継続的かつ定期的に分析および検証し、その結果を公表しています。
当社が2018年度に実施した調査研究では、厚生労働省の「子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について」の第5次報告から第14次報告の計946件(集計対象期間:2007年1月1日~2017年3月31日)の死亡事例を対象に、「虐待を発見できなかった」「虐待を発見したのに重篤化を防げなかった」の2点に着目し、要因を分析しました。
その結果、「虐待を発見できなかった」理由としては、「接点がない」または「虐待に気付けていない」ケースが多いことが明らかになりました。特に後者は、虐待対応が主たる業務ではない関係機関が虐待の事実に気付けていないケースが多く見られました。
「虐待を発見したのに重篤化を防げなかった」理由としては、
であることが明らかになりました。
第5次報告から第14次報告の分析結果を踏まえると、虐待による子どもの死亡事故を防ぐには、子どもの支援に携わる人や機関には特に以下の3点が求められると考えられます。
その他、しつけとしての暴力が許されないことを徹底すると同時に、若年出産、DV家庭では虐待のリスクが高いこと、養父・継父・内縁の夫の育児に対する支援が必要なこと、転居後に上記の要因が存在する場合には特に注意が必要であることが考えられます。
現在、第15次報告以降の検証結果は経年で比較されていませんが、過去の事例から得られた教訓をきちんと生かすためには、経年で比較検証を行い、共通因子を見つけ、優先度をつけて対策を進めていくことが重要と考えられます。また、他の地方公共団体の事例を参照することで、単独では得られなかった課題へのアプローチ方法が見つかる可能性も考えられます。
そのため、今後は、個別の地方公共団体・児童相談所だけで検証するのではなく、共有できる範囲で情報を共有し合いながら、互いに対策やアプローチ方法の精度を高めていくことが望ましいでしょう。
起きてしまった事例を貴重な教訓とし、再発防止に向けた取り組みに生かすためには、「検証」のみならず、検証から得られた課題を福祉の現場に還元する「研修」が重要です。国は、検証結果などが十分生かされるよう、「児童虐待防止対策の抜本的強化について」(2019年3月19日児童虐待防止対策に関する関係閣僚会議決定)において、検証結果などを活用した実践的な研修をきめ細かく実施することを示しています。
しかしながら、虐待による子どもの死亡事例件数を考えると、地方公共団体の中には、該当事例が少なく、各地域の独力では検証やそれを活かした実践的な研修ノウハウの蓄積が難しい場合もあると考えられます。
そこで、当社が2020年度に実施した調査研究では、死亡事故の検証結果を各地域が十分に活用できるよう、調査フィールドとなる地方公共団体の協力のもと、死亡事例検証報告書を教材にしながら、日々のソーシャルワークで心がけるべきことや改善すべきことを考える研修コンテンツを作成し、モデル研修会を開催しました。その結果、受講者の7割以上が、自分や同僚が行っている日ごろのソーシャルワークの強みや改善点に関する気付きを得ることができました。
研修企画から当日までのフロー(図表2参照)の中で、以下の5点に留意することで、より効果的な研修になると考えられます。
出典:「子ども虐待による死亡事例検証結果を用いた研修に関する調査研究事業報告書」(2021年、PwCコンサルティング)
ここまで述べてきたような方法で研修を企画・実施した後は、いかに研修結果を実践に生かしていくかが重要となります。そのための方策としては、
といったことが考えられます。
これらの方策を中心に、研修受講者が、「自分がどう変わるか、何を変えるか」「組織がどう変わるか」といったミクロとマクロの両方の視点で考えながら、日々の業務に取り組んでくことが重要になっていくでしょう。