コラム「子どもの権利」シリーズ第8回:きこえない、きこえにくい子どもたちへの支援

2023-04-10

2. 難聴児の早期発見・早期療育推進のための基本方針の策定

「難聴児の早期支援に向けた保健・医療・福祉・教育の連携プロジェクト」のとりまとめ報告においては、都道府県や市区町村の保健、医療、福祉および教育に関する部局や医療機関などが連携して、支援を行うことの必要性が指摘されました。これを受け、新生児聴覚検査に係る取り組みの推進、早期療育の促進のための保健、医療、福祉および教育の連携の促進、難聴児の保護者への適切な情報提供の促進などを内容とする基本方針を策定するための検討会が厚生労働省に設置され、2021年3月から検討が進められています。

その中で、当社が2020年度に実施した調査研究の結果も参照されました。本調査研究では、難聴児・ろう児を対象とした児童発達支援センター・事業所、放課後等デイサービス、人工内耳実施病院などにおける療育プログラムや評価指標に関する実態を把握し、難聴児・ろう児の言語発達のための療育の質の向上に資する多機関連携の好事例を収集しました。
調査の結果、難聴児・ろう児支援に関する多機関連携について、都道府県・市町村とも中心となる部署が定まっていないという実態が明らかになりました(図表1参照)。しかし多機関連携を積極的に進めている自治体においては、多職種・多機関が集まって情報交換をしたり、専門職連携教育(Inter Professional Education:IPE)を体現したり、多職種・多機関連携で得られた知見を実際の支援現場で活用したりしている事例が見られました。

図表1 難聴児・ろう児支援に関する多機関連携の実態

出典:当社が2020年度に実施した調査研究より作成

そのため、今後、難聴児・ろう児支援においては、地域の社会資源を活用し、効果の高い支援につなげるために、多職種・多機関の連携を一層推進することが求められます。また、保護者に対して、

  • 子どもを適切な支援につなげるための情報提供
  • 保護者向けの相談窓口の設置
  • 適切な支援を提案するコーディネーターの配置
  • 保護者や当事者を含めた情報交流の場の設置

などの取り組みを行い、支援していくことが重要であると考えられます。

当社が2020年度に実施した調査研究の結果や有識者からのヒアリング、議論を踏まえて、2022年2月25日に難聴児の早期発見・早期療育推進のための基本方針が取りまとめられました。その中で、難聴児支援における基本的な考え方として、

  • 地方公共団体の保健、医療、福祉および教育に関する部局や医療機関など関係する機関が連携し、難聴児の保護者等を支援することが重要である
  • 難聴児支援においては、早期から不安を抱える保護者等を支援し、本人またはその家族らが意思決定できるよう、関係者で寄り添った支援をすることが重要である
  • 言語・コミュニケーション手段(音声、手話、文字による筆談などを含む)の選択肢が保障・尊重されることが望ましい

の3点が挙げられています。

3. 難聴児の支援における情報発信や専門人材養成の必要性

難聴児・ろう児支援を考える上で、保護者等から見ると、医療や療育に関する情報が不足しており、そういった情報を中立的に提供する専門職や専門機関が不足していることも課題です。

当社が2021年度に実施した調査研究では、ライフステージに応じて必要となる情報や、保護者向けの情報提供の仕組みを明らかにすることを目的として、保護者やコーディネーター人材、関係団体を対象にヒアリング調査を実施しました。
その結果、学校教育において特別な教育課程での教育を受けていない難聴児・ろう児がいることが明らかになりました。また、支援を受けている難聴児・ろう児については、一度関係機関とつながることができれば、支援者から十分な支援が受けられることも推察されました。

また、難聴児・ろう児の発達段階に応じて保護者が抱える課題については、以下の3つのフェーズで整理することができます(図表2参照)。保護者への情報提供については、特に新生児期から幼児期にかけて必要な情報が多く、就学期以降は、子どもの発達・成長に応じて、子ども自身への情報提供も重要になっていくと考えられます。

図表2:難聴児・ろう児の保護者が抱える主な課題

フェーズ

保護者が抱える主な課題

新生児聴覚スクリーニングなどで、聴覚障害(の疑い)への気づきや確定が生じる段階

  • 新生児聴覚スクリーニングで聴覚障害が発見されない場合、その後はなかなか発見されず、支援が遅れる
  • 難聴確定後、保護者が何をすればよいか分からない(プッシュ型情報提供の不足)
  • 難聴確定後、保護者への心理的配慮や精神的サポートがない

聞こえの程度を踏まえて、中心とする言語の選択をする段階

  • 初期段階の支援に関して得られる情報が偏っている

具体的な支援を通じて難聴児・ろう児が成長していく段階

  • 手話言語を学ぶ場所が少ない、手話言語を教える専門人材が少ない
  • 難聴児・ろう児が音声言語を学ぶ場所が少ない、音声言語を教える専門人材が少ない
  • ワーキングペアレンツを想定したサポートが少ない(送迎や放課後等デイサービス、学童保育など)
  • 軽度難聴の場合、補聴器の補助や支援の必要性の認識が特に不十分で、言語が未発達に陥りやすい

出典:当社が2021年度に実施した調査研究より作成

また、難聴児・ろう児を支援する専門人材であるコーディネーター人材は、難聴児・ろう児のライフステージに応じた情報提供などの支援を行い、保護者からの相談対応、網羅的かつ中立的な情報提供、支援機関の紹介などを行っています。コーディネーター人材は、姿勢、知識、スキルの3つの分類で満たすべき要件があることが本調査研究で明らかになりました。しかし、そういった人材を一から養成することは難しいため、すでに活躍している支援者(言語聴覚士、保健師、相談支援専門員、ろう学校の乳幼児教育相談教員)をコーディネーター人材として養成していくことが望ましいと考えられます。

これらの既存の職種からコーディネーター人材を養成するだけではなく、地域や家庭のさまざまな実情を踏まえて、多様な可能性を検討し、難聴児・ろう児や保護者等に寄り添った支援の実施や情報発信などを行うことで、難聴児・ろう児の支援の強化につながることが期待されます。

執筆者

東海林 崇

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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古屋 智子

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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大瀬 千紗

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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