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2023-04-10
2018年3月の世界保健機関(WHO)の発表によると、高齢者人口の増大などにより聴覚障害に苦しむ人が世界的に増えており、2050年には現在の推計約4億7,000万人から9億人に達する可能性があると言われています。
また、一般社団法人日本補聴器工業会が実施している「JapanTrak 2022」によると、日本の難聴者率(自己申告に基づく)は10.0%であり、自分が難聴だと感じている人は国内で約1,260万人に上ると推計されます。
一方、厚生労働省の「平成28年生活のしづらさなどに関する調査(全国在宅障害児・者等実態調査)」の結果によると、聴覚・言語障害者数は34万人となっており、年代別にみると70歳以上が7割弱を占め、18歳未満は2%程度とごく少数であることが分かります。
しかし、難聴は早期に発見され適切な支援が行われた場合には、より有効に音声言語の発達を促すことが可能であることから、難聴児に対する早期支援の取り組みの促進が極めて重要であり、その一層の推進が求められています。また、難聴児に対する早期療育を促進するためには、難聴児やその家族に対して、都道府県・市区町村の保健、医療、福祉および教育に関する部局や医療機関など関係する機関が連携して、支援を行う必要性が指摘されています。
こうした背景を踏まえて、厚生労働省および文部科学省の副大臣を共同議長とする「難聴児の早期支援に向けた保健・医療・福祉・教育の連携プロジェクト」が立ち上げられ、2019年6月7日にプロジェクトのとりまとめ報告が公表されました。とりまとめ報告では、保健・医療・福祉・教育の連携に係る課題や保護者支援などに係る課題が示されたほか、厚生労働省や文部科学省が実施する具体的な取り組みとして、
といった内容が盛り込まれました。
また自民党は、難聴者が誰一人取り残されず、生き生きとこころ豊かに暮らすことのできる社会の実現に向けて「難聴対策推進議員連盟」を発足させ、「“Japan Hearing Vision”~ライフサイクルに応じた難聴者(児)支援を実現するために~」を2019年12月27日に取りまとめ、各年齢層における難聴者支援のあるべき姿や、ライフサイクルに応じた難聴対策を支える基盤づくりを進めています。特に、新生児期・小児期においては、難聴者がコミュニケーションの手段としての「言語」能力を獲得できる社会を実現することや、難聴児の家族らが十分な情報を入手し、適切な選択肢につなげられるような環境を整備することの重要性が指摘されています。
そのほか、2021年3月3日にはWHOから「World Report on Hearing」が発表されました。その中では、2030年までに聴覚ケアサービスの普及率を20%向上させるという目標を達成するためにとるべき行動や、今後10年間にわたり、新生児・小児・成人に関する指標をモニタリングしていく計画が示されています。
「難聴児の早期支援に向けた保健・医療・福祉・教育の連携プロジェクト」のとりまとめ報告においては、都道府県や市区町村の保健、医療、福祉および教育に関する部局や医療機関などが連携して、支援を行うことの必要性が指摘されました。これを受け、新生児聴覚検査に係る取り組みの推進、早期療育の促進のための保健、医療、福祉および教育の連携の促進、難聴児の保護者への適切な情報提供の促進などを内容とする基本方針を策定するための検討会が厚生労働省に設置され、2021年3月から検討が進められています。
その中で、当社が2020年度に実施した調査研究の結果も参照されました。本調査研究では、難聴児・ろう児を対象とした児童発達支援センター・事業所、放課後等デイサービス、人工内耳実施病院などにおける療育プログラムや評価指標に関する実態を把握し、難聴児・ろう児の言語発達のための療育の質の向上に資する多機関連携の好事例を収集しました。
調査の結果、難聴児・ろう児支援に関する多機関連携について、都道府県・市町村とも中心となる部署が定まっていないという実態が明らかになりました(図表1参照)。しかし多機関連携を積極的に進めている自治体においては、多職種・多機関が集まって情報交換をしたり、専門職連携教育(Inter Professional Education:IPE)を体現したり、多職種・多機関連携で得られた知見を実際の支援現場で活用したりしている事例が見られました。
出典:当社が2020年度に実施した調査研究より作成
そのため、今後、難聴児・ろう児支援においては、地域の社会資源を活用し、効果の高い支援につなげるために、多職種・多機関の連携を一層推進することが求められます。また、保護者に対して、
などの取り組みを行い、支援していくことが重要であると考えられます。
当社が2020年度に実施した調査研究の結果や有識者からのヒアリング、議論を踏まえて、2022年2月25日に難聴児の早期発見・早期療育推進のための基本方針が取りまとめられました。その中で、難聴児支援における基本的な考え方として、
の3点が挙げられています。
難聴児・ろう児支援を考える上で、保護者等から見ると、医療や療育に関する情報が不足しており、そういった情報を中立的に提供する専門職や専門機関が不足していることも課題です。
当社が2021年度に実施した調査研究では、ライフステージに応じて必要となる情報や、保護者向けの情報提供の仕組みを明らかにすることを目的として、保護者やコーディネーター人材、関係団体を対象にヒアリング調査を実施しました。
その結果、学校教育において特別な教育課程での教育を受けていない難聴児・ろう児がいることが明らかになりました。また、支援を受けている難聴児・ろう児については、一度関係機関とつながることができれば、支援者から十分な支援が受けられることも推察されました。
また、難聴児・ろう児の発達段階に応じて保護者が抱える課題については、以下の3つのフェーズで整理することができます(図表2参照)。保護者への情報提供については、特に新生児期から幼児期にかけて必要な情報が多く、就学期以降は、子どもの発達・成長に応じて、子ども自身への情報提供も重要になっていくと考えられます。
図表2:難聴児・ろう児の保護者が抱える主な課題
フェーズ |
保護者が抱える主な課題 |
新生児聴覚スクリーニングなどで、聴覚障害(の疑い)への気づきや確定が生じる段階 |
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聞こえの程度を踏まえて、中心とする言語の選択をする段階 |
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具体的な支援を通じて難聴児・ろう児が成長していく段階 |
|
出典:当社が2021年度に実施した調査研究より作成
また、難聴児・ろう児を支援する専門人材であるコーディネーター人材は、難聴児・ろう児のライフステージに応じた情報提供などの支援を行い、保護者からの相談対応、網羅的かつ中立的な情報提供、支援機関の紹介などを行っています。コーディネーター人材は、姿勢、知識、スキルの3つの分類で満たすべき要件があることが本調査研究で明らかになりました。しかし、そういった人材を一から養成することは難しいため、すでに活躍している支援者(言語聴覚士、保健師、相談支援専門員、ろう学校の乳幼児教育相談教員)をコーディネーター人材として養成していくことが望ましいと考えられます。
これらの既存の職種からコーディネーター人材を養成するだけではなく、地域や家庭のさまざまな実情を踏まえて、多様な可能性を検討し、難聴児・ろう児や保護者等に寄り添った支援の実施や情報発信などを行うことで、難聴児・ろう児の支援の強化につながることが期待されます。